脳性麻痺(CP) – 脳・神経疾患

脳性麻痺(CP)(cerebral palsy)とは、胎児期から生後間もない時期に発生する脳の発達障害のことです。

主に運動機能や姿勢の異常として現れ、生涯を通じて継続します。

脳性麻痺の症状は、脳の運動制御を担う部位に損傷が生じることで起こる、筋肉の緊張異常や協調運動の困難、バランスを保つことの難しさなどです。

脳性麻痺は進行性ではありませんが、患者さんの年齢や身体の成長に伴い、症状が変化することもあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

脳性麻痺(CP)の主な症状

脳性麻痺(CP)の症状は、運動機能の障害、筋緊張の異常、姿勢・バランスの問題、そして言語や感覚の障害など、多様な身体機能の変化です。

運動機能の障害

脳性麻痺において最もよく見られる症状は、運動機能の障害です。

脳の運動制御領域の損傷により、随意運動(意図的に行う動き)の制御が困難になることから生じます。

患者さんの多くは、歩行や手足の動きに問題を抱え、運動障害の程度は軽度から重度まで幅広いです。

運動障害の種類特徴影響
痙性型筋肉が硬直し、動きが制限される歩行困難、姿勢の維持が難しい
アテトーゼ型不随意運動が見られる物を掴むことや細かい作業が困難
失調型バランスと協調運動に障害がある歩行時のふらつき、動作の不安定さ
混合型上記の複数の特徴が現れる複合的な運動障害により日常生活全般に影響

筋緊張の異常

脳性麻痺を持つ患者さんの多くは、筋緊張の異常を経験します。

筋肉が過度に緊張したり(痙縮)、必要以上に弛緩したりする状態で、身体の動きに大きな影響を与えます。

筋緊張の異常は、姿勢の維持や円滑な動作の実行を困難にするだけでなく、長期的には関節の変形や拘縮(関節の動きが制限される状態)につながる重要な問題です。

姿勢とバランスの問題

脳性麻痺は、患者さんの姿勢の維持とバランスの取り方にも影響を及ぼし、立っている状態(立位)や座っている状態(座位)を安定して保つことに苦労します。

これは、体幹の筋力低下や筋緊張の異常が原因です。

言語と嚥下の障害

脳性麻痺は、患者さんの言語機能にも影響を及ぼすことがあります。

言葉を発する際の困難さ(構音障害)や、思い通りに話すことができない状況を経験し、口腔や顔面の筋肉のコントロールが難しいことに起因しています。

また、嚥下障害(飲み込みの障害)も見られることがある症状です。

言語障害の主な症状

  • •発語の不明瞭さ(聞き取りにくい発音)
  • •声量のコントロールの困難さ(大きな声や小さな声を出すことが難しい)
  • •話すスピードの調整が難しい(早口になったり、ゆっくりになったりする)
  • •言葉の理解や表現の問題(適切な言葉を選ぶことや、複雑な文章を理解することが難しい)

感覚障害と知覚の問題

脳性麻痺を持つ患者さんの中には、感覚や知覚に関する問題を抱える方もいます。

視覚や聴覚の障害が併存したり、痛覚や触覚の異常を経験します。

感覚障害の種類影響日常生活での課題
視覚障害物の認識や空間把握に影響読書や移動時の困難
聴覚障害コミュニケーションや言語発達に影響会話の理解や音への反応に支障
触覚異常物の質感や温度の認識に影響物の扱いや危険の察知に困難
痛覚鈍麻怪我のリスクが高まる熱傷や外傷に気づきにくい

脳性麻痺(CP)の原因

脳性麻痺(CP)の原因は、胎児期から乳児期初期にかけての脳の発達過程における損傷や異常です。

発症時期による分類

脳性麻痺の原因は、発症時期に応じて大きく三つのカテゴリーに分類されます。

発症時期原因
出生前遺伝子異常、感染症
出生時低酸素状態、外傷
出生後感染症、事故

各時期で脳の発達に影響を与える要因があり、それぞれが脳性麻痺の発症リスクを高める可能性があります。

出生前の原因

胎児期における脳性麻痺の原因は、遺伝子異常や母体の感染症です。

遺伝子異常は、脳の正常な発達に不可欠な遺伝情報の欠損や変異によって起こされることがあります。

母体の感染症は、胎盤を介して胎児に影響を与え、脳の発達を阻害する恐れがあります。

特に、風疹やサイトメガロウイルスなどの感染症は、胎児の脳に深刻かつ不可逆的な障害を起こす危険性が高いです。

出生時の原因

出産の過程における低酸素状態や物理的な外傷も、脳性麻痺の原因です。

出生時に起こりうる問題

  • 低酸素状態:臍帯(さいたい)の圧迫や早期剥離などによる酸素供給の著しい不足
  • 出産時の外傷:難産による頭部への過度な圧迫や脳内出血
  • 早産:未熟な状態での出生による脳の損傷リスクの顕著な増加

これらの要因により、脳の細胞が十分な酸素や栄養を得られず、不可逆的な脳損傷を起こし、脳性麻痺の発症につながります。

出生後の原因

生後間もない時期の脳損傷も、脳性麻痺の原因になります。

この時期は脳が急速に発達し、外部からの影響を受けやすい状態にあるため、特に注意が必要です。

原因
感染症髄膜炎、脳炎
事故頭部外傷、溺水
代謝異常高ビリルビン血症

診察(検査)と診断

脳性麻痺(CP)の診断は、病歴聴取、身体診察、神経学的評価、画像検査などを通じて行います。

初期評価と病歴聴取

脳性麻痺の診断では、患者さんの出生前後の状況、発達の経過、ご家族の病歴などの情報を収集していきます。

早産や低出生体重、周産期の問題(低酸素症や感染症)といった脳性麻痺のリスク因子に注目して聞き取りを行います。

身体診察と神経学的評価

次に、身体診察と神経学的評価を実施し、患者さんの状態を詳しく観察します。

この評価観察するのは、筋肉の緊張度、反射の状態、姿勢の特徴、運動のパターンです。

原始反射(新生児期に見られる反射で、通常は成長とともに消失する)の残存や姿勢反射(体の位置や動きを調整する反射)の発達遅延に注意を払います。

また、運動発達のマイルストーン(首のすわり、寝返り、お座り、はいはいなど、成長段階で到達すべき運動機能の目安)の達成状況も、脳性麻痺の診断において重要な評価項目です。

評価項目観察ポイント診断上の意義
筋緊張過緊張または低緊張中枢神経系の異常を示唆
反射原始反射の残存、腱反射の亢進脳の成熟度や損傷を反映
姿勢非対称性、異常パターン運動制御の問題を示唆
運動協調運動の困難さ、不随意運動の有無運動野や小脳の機能異常を示唆

補助的検査

画像検査は脳の構造的異常を評価する上で欠かせない検査方法です。

MRIは脳の詳細な構造を描出でき、小さな病変の特定にも役立つため、脳性麻痺の原因となる脳の損傷や異常を見つけるのに使われます。

CT(コンピュータ断層撮影)は急性期の出血や石灰化の検出に優れており、緊急時や新生児期の評価に用いられます。

脳波検査(EEG)は、てんかんの合併の有無を評価でき、脳性麻痺患者さんの約30-40%がてんかんを合併するため、重要な検査の一つです。

さらに、筋電図(EMG)や神経伝導検査は、神経と筋肉の接合部の機能を評価するために行われます。

発達評価と機能検査

脳性麻痺の診断と重症度の評価には、標準化された発達評価スケールの使用が有用です。

スケールは、運動機能、認知機能、言語能力などの多岐にわたる領域を客観的に評価し、患者さんの全体的な発達状況を把握するのに役立ちます。

代表的なものとして、Gross Motor Function Classification System (GMFCS)があり、脳性麻痺児の粗大運動機能(座る、立つ、歩くなどの大きな体の動き)を5段階で分類し、重症度の評価に広く使われています。

発達評価で使用されるスケール

  • Bayley発達検査(乳幼児の運動、認知、言語発達を総合的に評価)
  • Denver発達スクリーニング検査(乳幼児の発達スクリーニングに使用)
  • Peabody発達運動尺度(粗大運動と微細運動の発達を評価)
  • Movement Assessment Battery for Children (MABC)(3~16歳の運動能力を評価)

鑑別診断

脳性麻痺の確定診断を行う上で、進行性の神経疾患、代謝性疾患、遺伝性疾患などとの鑑別が大切です。

必要に応じて、代謝スクリーニング検査や遺伝子検査などの追加検査が実施され、検査結果は鑑別診断の重要な材料となります。

鑑別疾患特徴脳性麻痺との違い
筋ジストロフィー進行性の筋力低下進行性であり、筋生検で特徴的な所見がある
脊髄性筋萎縮症近位筋優位の筋力低下進行性で、遺伝子検査で診断可能
代謝性脳症進行性の神経症状、代謝異常血液・尿検査で代謝異常が検出される
遺伝性痙性対麻痺進行性の下肢痙性家族歴があり、遺伝子検査で診断可能

脳性麻痺(CP)の治療法と処方薬、治療期間

脳性麻痺(CP)の治療は、症状の緩和と機能改善を目指し、薬物療法、リハビリテーション、および補助器具の使用を組み合わせて行われます。

薬物療法

脳性麻痺の薬物療法は、筋緊張の緩和と随伴症状の管理が目的です。

代表的な薬剤としては、バクロフェンやジアゼパムなどの筋弛緩薬が挙げられ、過度の筋緊張を和らげ、患者の運動機能を改善する効果があります。

薬剤名効果
バクロフェン痙縮(けいしゅく:筋肉が異常に緊張した状態)の緩和
ジアゼパム筋弛緩作用
ボツリヌス毒素局所的な筋緊張緩和

また、てんかんを伴う場合には、抗てんかん薬の処方も考慮されます。

リハビリテーションの重要性

脳性麻痺の治療では、理学療法、作業療法、言語療法を組み合わせたリハビリテーションが実施されます。

リハビリテーションの内容

  • ストレッチング運動による関節可動域の維持・改善
  • バランス訓練による姿勢制御の向上
  • 筋力トレーニングによる運動機能の強化
  • 言語療法によるコミュニケーション能力の向上

補助器具と装具の活用

脳性麻痺患者の日常生活をサポートするため、様々な補助器具や装具が使用されます。

補助器具・装具目的
車椅子移動支援
歩行器歩行補助
装具関節サポート

治療期間と長期的展望

脳性麻痺の治療は診断後すぐに開始され、生涯にわたって継続されます。

早期介入が機能改善の鍵となるため、できるだけ早い段階から治療を開始することが必須です。

年齢層治療の焦点
乳幼児期早期介入、基本的運動機能の発達
学童期学習支援、社会性の発達
成人期機能維持、就労支援

脳性麻痺(CP)の治療における副作用やリスク

脳性麻痺(CP)の治療には、薬物療法、手術、リハビリテーションがあり、各治療法には特有の副作用やリスクが伴います。

薬物療法に関連する副作用とリスク

脳性麻痺の治療で使用される薬剤の多くは、筋肉の緊張を和らげ、痙縮(筋肉が硬直して柔軟性を失った状態)を軽減できますが、さまざまな副作用があります。

バクロフェンやジアゼパムといった筋弛緩薬は、眠気や筋力低下を起こすことがあります。

また、ボツリヌス毒素注射療法は局所的な筋弛緩効果が高く広く用いられていますが、周辺の筋肉への拡散や、長期使用による抗体形成のリスクがあるため、定期的な効果の確認と投与量の調整が必要です。

薬剤副作用注意点
バクロフェン眠気、めまい、筋力低下急な中止は危険、徐々に減量
ジアゼパム依存性、認知機能低下長期使用に注意、定期的な評価が必要
ボツリヌス毒素局所痛、周辺筋への拡散投与間隔や量の調整が重要
抗てんかん薬眠気、肝機能障害、血液異常定期的な血液検査が必要

手術療法に伴うリスクと合併症

手術療法は、重度の拘縮(関節の動きが制限された状態)や変形に対して効果的ですが、体に大きな負担をかける治療法であるため、さまざまなリスクが伴います。

  • 整形外科的手術(腱延長術、骨切り術など) 感染症、出血、神経損傷といった一般的な手術リスクに加え、過度の矯正や手術後に再び拘縮が起こるリスク。
  • 選択的脊髄後根切断術(SDR) 下肢の痙性(筋肉の異常な緊張)を軽減する効果がある一方で、膀胱機能の障害や感覚障害が生じるリスク。
  • バクロフェン髄腔内投与療法 薬剤を脊髄に直接投与するポンプを体内に埋め込みますが、このポンプの機械的なトラブルや、埋め込み部位の感染のリスク。

栄養サポートと関連リスク

脳性麻痺の患者さんの多くは、嚥下障害(飲み込みの困難)や消化器系の問題を抱えており、栄養サポートが治療において重要な役割を果たします。

経管栄養や胃瘻造設術(腹部に小さな穴を開けて直接栄養を摂取する方法)は栄養状態の改善に有効ですが、感染症や誤嚥性肺炎(食べ物や飲み物が気管に入ることで起こる肺炎)のリスクがあります。

また、不適切な栄養管理は、骨粗鬆症や褥瘡(床ずれ)の発生リスクを高めるため、細心の注意が必要です。

栄養サポート方法関連リスク管理のポイント
経管栄養誤嚥、チューブトラブル定期的なチューブの位置確認、洗浄
胃瘻造設術局所感染、内容物の漏れ周囲の皮膚ケア、定期的な交換
経口摂取支援誤嚥、窒息食事形態の選択、摂食姿勢の工夫

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

入院治療費

入院治療が必要な場合、費用は症状の重症度や入院期間によって変動します。

治療内容概算費用(月額)
一般病棟30万円~50万円
集中治療室100万円~150万円

外来リハビリテーション費用

定期的なリハビリテーションは脳性麻痺患者の機能改善に不可欠です。

  • 理学療法:1回あたり5,000円~10,000円
  • 作業療法:1回あたり4,000円~8,000円
  • 言語療法:1回あたり3,000円~7,000円

装具・補助具の費用

患者さんの日常生活をサポートするための装具や補助具も重要な治療の一環です。

装具・補助具概算費用
下肢装具10万円~30万円
車椅子15万円~50万円

薬物療法の費用

筋緊張を緩和するための薬物療法も、継続的に必要となることがあります。

月額の薬剤費は、5,000円から30,000円程度です。

以上

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