Charcot-Marie-Tooth病(Charcot-Marie-Tooth disease)とは、遺伝子の変異に起因する進行性の末梢神経疾患です。
運動神経と感覚神経の両方が徐々に障害されることで、様々な神経症状を引き起こす遺伝性ニューロパチーの代表的な疾患群に位置づけられています。
小児期から若年期にかけて発症し、四肢末端から始まる筋力低下や感覚障害、手足の変形などの特徴的な症状が緩やかに進行します。
Charcot-Marie-Tooth病の主な症状
シャルコー・マリー・トゥース病は、運動神経と感覚神経の両方に障害が生じ、四肢末端から徐々に進行する筋力低下と感覚障害を主症状とします。
進行性の筋力低下と変形
筋力低下の様相は、下肢から始まることが多く、特に下腿の前面に位置する前脛骨筋という筋肉の萎縮が顕著に起ることから、下肢の変形という特徴的な症状へと進展します。
10歳前後から20歳までの間に症状が現れ、足関節の背屈(つま先を上げる動作)が徐々に困難になっていき、歩行時のつまずきや転倒のリスクが増大。
上肢における症状の進行については、通常下肢よりも遅れて生じ、手指の筋肉が徐々に萎縮していくことにより、物をつかむ力が段階的に低下していき、手先の細かい作業に支障をきたすようになります。
年齢層 | 一般的な症状の進行 |
小児期(5-10歳) | 足の変形が始まり、歩行の不安定さが出現 |
思春期(10-15歳) | 下腿の筋萎縮が目立ち始め、つまずきやすくなる |
青年期(15-20歳) | 手指の筋力低下が現れ、器用さが低下する |
さらに、筋力低下の進行に伴って、姿勢の変化や歩行パターンの異常も徐々に顕在化していきます。
特徴的な足部の変形
足部の変形については、シャルコー・マリー・トゥース病において重要な症状の一つで、凹足(足のアーチが著しく高くなる状態)が特徴的な所見です。
凹足という状態に加えて、槌趾(足の指が曲がった状態)や鷲趾(足の指が反り返った状態)などの足趾の変形も併発することが多く、変形が複合的に生じることによって、より著明な機能障害をもたらします。
足部における変形は、歩行時の安定性に大きく影響を及ぼすので、歩行パターンの変化や姿勢の補正が必要となっていくという経過をたどることが多いです。
感覚障害
感覚障害は、四肢末端から始まり手袋靴下型と呼ばれる分布を示すことが診断における不可欠なポイントで、特徴的な分布パターンは診断において極めて有用な情報です。
- 振動覚の低下
- 温度感覚の鈍化
- 痛覚の減弱
- 固有感覚の障害
- 触覚の低下
感覚の種類 | 障害の特徴と影響 |
深部感覚 | 関節位置覚の低下により、暗所での姿勢保持が困難 |
表在感覚 | 皮膚の触覚・痛覚が低下し、外傷リスクが上昇 |
感覚障害は、初期には軽微な症状として現れることが多いものの、時間の経過とともに徐々に範囲が拡大し、機能障害として認識されるようになります。
自律神経症状と関連症状
自律神経症状として、発汗異常や血流障害などが起こり、末梢循環障害による手足の冷感や、皮膚の乾燥などの症状も見られます。
四肢のふるえや筋けいれんなどの不随意運動は、日常的に経験する症状として多くの患者から報告されており、特に運動後や疲労時には、症状が増強。
骨格の変形としては、側彎症や胸郭の変形などが生じる可能性があり、変形は呼吸機能に影響を与えます。
また、疲労感についても主要な症状の一つで、通常の活動でも疲れやすく、回復に時間を要することが多いです。
神経伝導速度の低下
神経伝導検査における所見は、運動神経と感覚神経の両方で伝導速度の遅延が認められ、筋力低下や感覚障害の原因です。
末梢神経の髄鞘における障害によって神経インパルスの伝導が遅くなる現象が生じ、運動機能や感覚機能の低下が引き起こされることが分かっています。
Charcot-Marie-Tooth病の原因
シャルコー・マリー・トゥース病は、末梢神経を構成するタンパク質の遺伝子変異によって起こる遺伝性ニューロパチーで、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、またはX連鎖遺伝など、複数の遺伝形式を取ります。
遺伝子変異のメカニズム
ミエリン鞘と呼ばれる神経線維を覆う構造物の形成に関与する遺伝子の変異が、最も基本的な原因で、変異によって末梢神経系における情報伝達に深刻な障害が生じます。
末梢神経系において重要な役割を果たすPMP22、MPZ、GJB1などの遺伝子に変異が生じることにより、神経線維の絶縁体としての機能を持つミエリン鞘の形成や維持に問題が発生し、これが神経伝導障害の直接的な原因です。
遺伝子名 | 関連する病型と特徴 |
PMP22 | CMT1A型、遺伝子重複による発症が多い |
MPZ | CMT1B型、ミエリン構造タンパクの異常 |
GJB1 | CMTX型、伝導速度の低下が著明 |
遺伝形式の多様性
常染色体優性遺伝形式をとるCMT1型では、片方の親から変異遺伝子を受け継ぐことで発症する可能性が高いです。
一方、常染色体劣性遺伝形式をとるCMT4型では、両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継ぐことで発症し、両親が保因者である場合に子どもが発症するという遺伝パターンを示します。
X連鎖遺伝形式をとるCMTX型では、X染色体上の遺伝子変異が関与しており、男性では一つの変異遺伝子で発症する一方、女性では二つのX染色体を持つことから症状が比較的軽度です。
分子生物学的発症機序
変異の種類 | 分子レベルでの影響 |
遺伝子重複 | タンパク質の過剰産生による機能異常 |
点変異 | タンパク質の構造異常や機能喪失 |
分子レベルでの発症メカニズムについては、遺伝子変異によって生じるタンパク質の異常が末梢神経系の機能に広範な影響を及ぼすことが明らかになっています。
中心的な役割を果たしているのは、ミエリン鞘の形成や維持に関与するタンパク質の質的・量的異常です。
診察(検査)と診断
Charcot-Marie-Tooth病の診断過程では、問診と神経学的診察に加え、電気生理学的検査や遺伝子検査などの複数の検査を組み合わせることで、病型分類と診断の確実性を高めていきます。
問診と家族歴聴取
神経症状の発症時期や進行の様子、さらに家系内での類似症状の有無など、問診により得られる情報は診断の基盤です。
特に若年期からの緩徐な進行を示す運動感覚神経障害の存在はCharcot-Marie-Tooth病を強く示唆する重要な手がかりとなります。
家族歴の聴取においては、三世代以上にわたる詳細な家系図の作成を行い、常染色体優性遺伝や伴性遺伝などの遺伝形式の推定に役立てていきます。
問診のポイント | 確認内容 |
発症時期 | 幼少期からの運動発達の遅れや転びやすさ |
進行経過 | 歩行障害や手指の巧緻運動障害の進行速度 |
家族歴 | 血縁者での類似症状の有無と遺伝形式の推定 |
神経学的診察法
神経学的診察では、四肢の筋力、感覚機能、腱反射などの評価に加え、手指や足部の変形、歩行パターンの観察など、全身にわたる診察が必要です。
筋力検査では下肢遠位部の筋力低下に注目し、前脛骨筋や下腿三頭筋などの筋力を評価していきます。
手足の変形具合を観察する際には次のような特徴的な所見に着目します。
- 足部のペス・カヴス変形(凹足)の有無
- 槌状趾の形成
- 手指の爪彎曲
- 下腿部の逆シャンペンボトル様の筋萎縮
- 手内筋の萎縮(猿手様変形)
電気生理学的検査
運動神経伝導検査と感覚神経伝導検査を実施することで、末梢神経障害の程度や分布、脱髄型か軸索型かの鑑別を行えます。
検査項目 | 測定内容 |
運動神経伝導速度 | 末梢神経の伝導速度低下や伝導ブロックの有無 |
複合筋活動電位 | 振幅低下や時間的分散の評価 |
F波潜時 | 近位部神経伝導の評価 |
遺伝子検査による分子診断
遺伝子検査では、PMP22、MPZ、GJB1などの主要な原因遺伝子の変異解析を行い、病型の確定と遺伝カウンセリングに向けた情報を得ることが大切です。
遺伝子検査の実施にあたっては、検査の意義や結果が及ぼす影響について十分な説明を行い、患者さんやご家族の理解と同意を得ることが重要となります。
Charcot-Marie-Tooth病の治療法と処方薬、治療期間
シャルコー・マリー・トゥース病の治療は、理学療法、作業療法、装具療法などの複合的なリハビリテーションを基本とし、症状の進行を抑制する薬物療法と組み合わせながら、長期的に実施していく必要があります。
リハビリテーション療法
理学療法においては、関節可動域の維持と筋力強化を目的とした運動療法を行い、下肢の筋力維持と関節拘縮の予防に重点を置いた運動プログラムを、患者さんの体力や運動機能に合わせて段階的に進めます。
作業療法では、日常生活動作の改善と上肢機能の維持を目指した訓練を実施し、手指の巧緻性を保つためのトレーニングや、生活環境の調整に関する指導を行います。
運動療法プログラム
- ストレッチングによる関節可動域の維持
- 低負荷の筋力トレーニングによる筋力維持
- バランス練習による姿勢制御能力の向上
- 歩行訓練による移動能力の維持
- 日常生活動作の練習による実用的な機能向上
装具療法と補助具の活用
足部の変形に対しては、足関節装具(AFO)や足底装具などの装具療法を用い、装具を使用することで歩行の安定性を高め、転倒予防をすることが大切です。
装具の種類 | 主な目的と効果 |
短下肢装具 | 足関節の安定化と歩行改善 |
足底装具 | 足部変形の進行抑制と疼痛緩和 |
手関節装具 | 手指機能の補助と関節保護 |
薬物療法のアプローチ
神経障害性疼痛に対する薬物療法は、抗てんかん薬や三環系抗うつ薬などを使用することで、痛みのコントロールを図っていきます。
薬剤分類 | 使用目的と投与期間 |
ビタミンB12製剤 | 神経栄養補給、長期継続 |
抗てんかん薬 | 神経障害性疼痛の緩和、症状に応じて調整 |
抗炎症薬 | 急性期の疼痛緩和、短期使用 |
ビタミンB12製剤の投与は、神経の栄養補給という観点から広く実施されており、末梢神経の機能維持に寄与することから、長期的な治療の中で基本的な投薬です。
治療継続の意義
治療プログラムの実施にあたっては、定期的な評価と調整を行いながら、長期的な視点で継続していくことが必要です。
リハビリテーションは、週2〜3回程度の頻度で実施していくことで、効果的な機能維持を図れます。
薬物療法は、症状の程度や経過に応じて投与量や種類を調整していく必要があり、神経障害性疼痛に対する治療では、効果判定を行いながら薬剤選択を進めていくのが基本です。
Charcot-Marie-Tooth病の治療における副作用やリスク
Charcot-Marie-Tooth病の治療に関連する副作用やリスクとして、整形外科的手術後の合併症、リハビリテーション実施中の筋疲労や関節痛、また補助具使用による二次的な問題などがあります。
手術療法における合併症
整形外科的手術においては、手術部位の感染や術後の創傷治癒遅延、神経損傷、血栓症などの合併症が報告されており、神経障害を有する患者さんでは創傷治癒能力が低下している点に注意が必要です。
手術部位 | 想定される合併症 |
足部手術 | 創部感染、骨癒合不全、神経痛 |
腱移行術 | 腱の再断裂、可動域制限、瘢痕形成 |
関節形成術 | 関節不安定性、深部静脈血栓症 |
リハビリテーションに伴うリスク
運動療法を実施する際に注意すべき点として、以下の項目が挙げられます。
- 過度な運動負荷による筋力低下の増悪
- 関節可動域訓練時の軟部組織損傷
- バランス訓練中の転倒
- 疲労の蓄積による全身状態の悪化
- 代償動作の固定化
装具療法の副作用
装具使用に伴う皮膚トラブルや筋力低下などの二次的な問題について、医療機関での定期的な確認が大切です。
装具の種類 | 予想される副作用 |
短下肢装具 | 皮膚潰瘍、筋委縮、関節拘縮 |
足底装具 | 圧迫部の痛み、歩行パターンの変化 |
手部装具 | 巧緻性低下、皮膚トラブル |
薬物療法におけるリスク管理
神経障害性疼痛に対する薬物療法では、眠気やめまい、消化器症状などの副作用が出現することがあります。
鎮痛薬の長期使用においては、胃腸障害や腎機能障害などの全身性の副作用に加え、薬物依存のリスクについても考慮しながら投与を継続することが大切です。
抗てんかん薬を神経障害性疼痛に使用する際には、めまいや複視、肝機能障害などの副作用モニタリングを継続的に行い、異常が認められた際には速やかに投与量の見直しを検討します。
ビタミンB群の大量投与を行う場面では、アレルギー反応や皮膚症状、まれに肝機能障害などの可能性も考慮し、定期的な血液検査による経過観察が必要です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
基本的な検査費用
神経伝導検査と筋電図検査は診断において基本となる検査、遺伝子検査は確定診断のために実施します。
検査項目 | 3割負担時の費用 |
神経伝導検査 | 4,500円程度 |
筋電図検査 | 3,900円程度 |
遺伝子検査 | 20,000円程度 |
リハビリテーション費用
運動機能の維持・改善のため、以下のリハビリテーションを組み合わせて行います。
- 理学療法(1単位) 2,000円程度
- 作業療法(1単位) 2,000円程度
- 装具療法指導料 1,800円程度
- 歩行訓練(1単位) 1,900円程度
治療用装具と薬物療法
装具は定期的な調整や交換が必要となることがあり、薬物療法は症状に応じて組み合わせて使用します。
項目 | 自己負担額 |
短下肢装具 | 15,000円程度 |
足底装具 | 8,000円程度 |
ビタミンB12製剤(月額) | 2,500円程度 |
抗てんかん薬(月額) | 3,000円程度 |
以上
Pareyson D, Marchesi C. Diagnosis, natural history, and management of Charcot–Marie–Tooth disease. The Lancet Neurology. 2009 Jul 1;8(7):654-67.
Szigeti K, Lupski JR. Charcot–marie–tooth disease. European Journal of Human Genetics. 2009 Jun;17(6):703-10.
Patzkó Á, Shy ME. Update on Charcot-Marie-tooth disease. Current neurology and neuroscience reports. 2011 Feb;11:78-88.
Young P, De Jonghe P, Stögbauer F, Butterfass‐Bahloul T. Treatment for Charcot‐Marie‐tooth disease. Cochrane database of systematic reviews. 2008(1).
Rossor AM, Polke JM, Houlden H, Reilly MM. Clinical implications of genetic advances in Charcot–Marie–Tooth disease. Nature Reviews Neurology. 2013 Oct;9(10):562-71.
Saporta AS, Sottile SL, Miller LJ, Feely SM, Siskind CE, Shy ME. Charcot‐Marie‐Tooth disease subtypes and genetic testing strategies. Annals of neurology. 2011 Jan;69(1):22-33.
Barreto LC, Oliveira FS, Nunes PS, de França Costa IM, Garcez CA, Goes GM, Neves EL, de Souza Siqueira Quintans J, de Souza Araújo AA. Epidemiologic study of Charcot-Marie-Tooth disease: a systematic review. Neuroepidemiology. 2016 Feb 6;46(3):157-65.
Banchs I, Casasnovas C, Albertí A, De Jorge L, Povedano M, Montero J, Martínez-Matos JA, Volpini V. Diagnosis of Charcot‐Marie‐Tooth disease. BioMed Research International. 2009;2009(1):985415.
Pareyson D, Scaioli V, Laura M. Clinical and electrophysiological aspects of Charcot-Marie-Tooth disease. Neuromolecular medicine. 2006 Mar;8:3-22.
Berger P, Young P, Suter U. Molecular cell biology of Charcot-Marie-Tooth disease. Neurogenetics. 2002 Mar;4:1-5.