頭蓋縫合早期癒合症 – 脳・神経疾患

頭蓋縫合早期癒合症(craniosynostosis)とは、新生児の頭蓋骨を構成する複数の骨板の接合部(縫合線)が、本来よりも早い段階で固着してしまう先天性の病態です。

この疾患では一つあるいは複数の縫合線が早期に閉鎖してしまい、頭蓋の形状に変形が生じたり、脳の正常な発育が阻害されたりします。

頭蓋縫合早期癒合症は、出生直後には明確な兆候が現れないケースもありますが、多くの場合、乳児期に頭部の形態異常として発見されます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

頭蓋縫合早期癒合症の種類(病型)

頭蓋縫合早期癒合症は、単一縫合癒合症、多縫合癒合症、症候群性頭蓋縫合早期合症の3つの主要な病型に分類されます。

単一縫合癒合症

単一縫合癒合症は、頭蓋縫合早期癒合症の中で最も一般的な形態で、頭蓋骨を構成する骨板のうち、1つの縫合線のみが早期に癒合する状態です。

この病型では、癒合する縫合線の位置によって、頭蓋の形状に特徴的な変化が現れます。

矢状縫合(頭頂部の前後に走る縫合線)の早期癒合では細長い頭蓋形状となり、冠状縫合(耳の上から頭頂部を横切る縫合線)の早期癒合では前頭部の平坦化が見られます。

縫合線の種類特徴的な頭蓋形状医学的名称
矢状縫合細長い頭蓋舟状頭蓋
冠状縫合前頭部の平坦化前頭斜頭蓋
後頭縫合後頭部の平坦化後頭斜頭蓋

多縫合癒合症

多縫合癒合症は、複数の縫合線が同時に早期癒合する状態です。

単一縫合癒合症と比較して、より複雑な頭蓋形状の変化を起こします。

癒合する縫合線の組み合わせ頭蓋形状の特徴潜在的な合併症
両側冠状縫合短頭症(頭が前後に短く、左右に広い)眼球突出
矢状縫合と両側冠状縫合クローバーリーフ頭蓋頭蓋内圧亢進
冠状縫合と後頭縫合塔状頭蓋(頭が高く尖った形状)視神経障害

症候群性頭蓋縫合早期癒合症

症候群性頭蓋縫合早期癒合症は、頭蓋縫合の早期癒合に加えて、他の身体的特徴や合併症を伴う病型です。

この病型では、遺伝子変異が関与している場合が多く見られます。

代表的な症候群は、Apert症候群、Crouzon症候群、Pfeiffer症候群、Saethre-Chotzen症候群です。

症候群性頭蓋縫合早期癒合症の患者さんでは、頭蓋形成術だけでなく、他の身体的特徴に対する治療も必要となり、脳神経外科、形成外科、眼科、耳鼻咽喉科、遺伝科など、複数の専門診療科によるケアが不可欠です。

症候群名特徴関連遺伝子
Apert症候群頭蓋変形、中顔面低形成、合指症(指が癒合している状態)FGFR2
Crouzon症候群頭蓋変形、眼球突出、中顔面低形成FGFR2, FGFR3
Pfeiffer症候群頭蓋変形、幅広い母指と足趾FGFR1, FGFR2

頭蓋縫合早期癒合症の主な症状

頭蓋縫合早期癒合症は、頭蓋骨の形状異常や脳の発達に影響を及ぼし、頭蓋内圧上昇や神経学的な問題を起こします。

頭蓋形状の変化

頭蓋縫合早期癒合症において最も顕著に表れるのが、頭蓋骨の形状異常です。

この形状の変化は、早期に癒合した縫合の部位によって、それぞれ特徴的な頭の形として現れます。

矢状縫合(頭頂部の前後に走る縫合)が早期に癒合すると、前後に細長い頭型、いわゆる舟状頭となり、冠状縫合(頭の左右を横切る縫合)の早期癒合では、頭が短く幅広くなります。

癒合する縫合特徴的な頭の形
矢状縫合舟状頭(細長い頭)
冠状縫合短頭(幅広い頭)
人字縫合三角頭

頭蓋内圧上昇に伴う症状

頭蓋縫合早期癒合症では、頭蓋骨の正常な成長が妨げられるため、脳の健全な発達に必要な空間が十分に確保できず、そ頭蓋内の圧力が上昇します。

圧力上昇による症状

  • 持続的な頭痛
  • 嘔吐
  • 視力の低下
  • 発達の遅れ
  • 落ち着きのなさや不機嫌

神経学的症状

頭蓋縫合早期癒合症に伴う神経学的症状は、脳が圧迫されたり変形したりすることで生じ、特に注意が必要なのは、視神経への影響です。

頭蓋内の圧力が上昇することで視神経が圧迫されると、視力の低下や、失明のリスクがあります。

また、脳の特定の部位が圧迫されることで、てんかん発作や認知機能の低下が見られるケースも。

神経学的症状発生のメカニズム
視力の問題視神経への圧迫
てんかん脳組織の圧迫や変形
認知機能の低下脳の発達阻害

発達の遅れと運動機能の障害

頭蓋縫合早期癒合症は、乳幼児の全体的な発達にも影響を与え、運動面での遅れが目立ちます。

首のすわりや寝返り、はいはいといった運動機能の獲得が、通常の時期よりも遅れ、さらに、言葉の発達や社会性の発達にも影響が及びます。

これらの発達の遅れは、脳が直接圧迫されたり変形したりすることによる影響と、頭蓋内圧の上昇による二次的な影響が原因です。

顔の非対称性

頭蓋縫合早期癒合症では頭蓋骨の変形に伴い顔の左右対称性が崩れ、片側の冠状縫合が早期に癒合した場合、そちら側の前頭部や眼窩の発達が制限され、顔の左右差が目立つように。

この非対称性は、見た目の問題だけでなく、食べ物を噛む機能や言葉を発する能力にも影響があります。

また、眼窩の形が変わることで、眼球が突出したり斜視になったりするなど、目に関する問題もあります。

顔の非対称性関連する症状
前頭部の平らな部分顔の左右差
眼窩の形の変化眼球突出、斜視
上顎の変形噛み合わせの問題

頭蓋縫合早期癒合症の原因

頭蓋縫合早期癒合症の原因は、遺伝的要因と環境的要因の相互作用によって生じる頭蓋骨の縫合線における異常な骨化プロセスにあります。

遺伝的要因

特定の遺伝子に変異が生じると、頭蓋骨の正常な発達が妨げられ、縫合線が早期に閉じてしまうことがあります。

遺伝子変異は、骨の形成や細胞の増殖に関与する遺伝子に影響を与え、頭蓋骨の成長パターンに異常をきたすのです。

遺伝子関連する症候群遺伝子の機能
FGFR2Apert症候群、Crouzon症候群細胞の成長と分化を制御
TWIST1Saethre-Chotzen症候群頭蓋骨の発達を調節
EFNB1頭蓋顔面異形成症細胞間の相互作用に関与

環境的要因

環境的要因も、頭蓋縫合早期癒合症の発症に関与する可能性があることが、明らかになってきました。

胎児期の環境や出生後早期の外的要因が、頭蓋骨の発達に予想以上に大きな影響を与えることがあります。

環境要因潜在的影響考えられるメカニズム
胎内環境頭蓋骨発達の異常母体のストレスホルモンによる影響
出生時の圧力縫合線の早期閉鎖機械的ストレスによる骨化促進
栄養状態骨代謝への影響ビタミンDやカルシウム代謝の変化

妊娠中の母体の健康状態や、特定の薬物への暴露なども、頭蓋縫合早期癒合症のリスク要因となることが示唆されています。

発症時期と進行

頭蓋縫合早期癒合症の発症時期は症例によって異なり、多くの場合、出生後数か月以内に症状が顕在化し、診断されますが、進行速度や重症度には個人差が大きいです。

発症時期特徴診断方法
胎児期超音波で異常が検出されることも精密超音波検査、MRI
新生児期頭蓋の形状異常が顕著に身体診察、CT scan
乳児期成長に伴い症状が進行定期的な頭囲測定、3D imaging

診察(検査)と診断

頭蓋縫合早期癒合症の診断は、身体診察、画像検査、遺伝子検査を組み合わせて行います。

初期評価と臨床診断

頭蓋縫合早期癒合症の診断では、頭の形や顔の左右対称性、頭囲の大きさなどを観察します。

頭の形が通常とは異なっていたり、左右で違いがあったりする状態は、この疾患を疑うきっかけになる重要な手がかりです。

また、成長や発達の様子、神経系に関連する症状がないかどうかについても、評価を行います。

評価項目観察するポイント
頭の形普段とは違う形や左右差
頭の大きさ成長曲線から外れていないか
発達の状況体の動きや言葉の発達に遅れはないか
神経系の症状目の問題やけいれんはないか

画像検査

臨床診断の次の段階は画像検査で、レントゲン撮影は、頭蓋骨の形や縫合線の状態を評価するための基本的な検査です。

ただし、より詳細な情報を得るためには、CTスキャン(コンピュータ断層撮影)が欠かせません。

CTスキャンでは頭蓋骨の立体的な構造を明らかにし、縫合線がどの程度くっついているかを評価できます。

さらに、MRI検査は、脳の実質部分の状態や脳室(脳の中にある空洞部分)の形を評価するのに役立ちます。

遺伝子検査

頭蓋縫合早期癒合症は、FGFR2、TWIST1、EFNB1といった遺伝子に変化があると、発症しやすいことが分かっています。

遺伝子検査は、診断を確実にするだけでなく、他の症状を伴う複合的な症候群との違いを見分けるのにも有用です。

遺伝子関連する症候群
FGFR2エーペルト症候群、クルーゾン症候群
TWIST1セートル・コッツェン症候群
EFNB1頭蓋顔面鼻症候群

他の疾患との鑑別

頭蓋縫合早期癒合症の診断を行う際には、似たような症状が出る他の疾患との鑑別が大切です。

鑑別が必要な疾患

  • 変形性斜頭症(頭が横から見て平らになる状態)
  • 小頭症(頭が小さい状態)
  • 水頭症(脳室内に水がたまる病気)
  • 頭蓋骨欠損症(頭蓋骨の一部が欠けている状態)
  • 代謝に関係する骨の病気

頭蓋縫合早期癒合症の治療法と処方薬、治療期間

頭蓋縫合早期癒合症の治療法は、外科的介入と薬物療法を組み合わせて行います。

外科的治療

外科的治療は頭蓋縫合早期癒合症の主要な治療法で、手術の目的は、早期に閉じてしまった縫合線を解放し、頭蓋骨の正常な成長を促すことです。

手術のタイミングは、患者さんの年齢や症状の進行度によって決定されますが、多くの場合、生後6か月から1歳の間に実施されます。

手術法適応特徴手術時間
縫合切除術単一縫合癒合癒合した縫合線のみを切除2-3時間
頭蓋形成術複雑な症例頭蓋全体の再形成を行う4-8時間

術後の経過観察期間は1年以上に及び、定期的な画像検査や発達評価が行うことが大切です。

薬物療法

頭蓋内圧の管理や骨形成の調整を目的として、以下のような薬剤が使用されることがあります。

  • 利尿剤(アセタゾラミドなど) 頭蓋内圧の軽減を目的とし、脳脊髄液(脳と脊髄を守る液体)の産生を抑制。
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 術後の疼痛管理や炎症の軽減に使用。
  • ビタミンD製剤 骨代謝の調整を促し、健康な骨の形成を支援。
  • カルシウム製剤 骨形成の促進に役立ち、特に手術後の骨の修復を助ける。

薬物療法治療期間は、術後数週間から数か月間です。

治療期間と経過観察

単一縫合癒合の軽症例では、1回の手術と数か月の経過観察で治療が完了することもありますが、複雑な症例では長期的な管理が必要です。

治療段階期間内容フォローアップ頻度
術前評価1-2か月画像検査、手術計画立案週1-2回
手術数時間-1日外科的介入24時間監視
術後管理1-2週間集中治療室での管理毎日
初期回復期1-3か月創傷治癒、薬物療法週1-2回

一方、複雑な症例や症候群性の頭蓋縫合早期癒合症では、複数回の手術と長期的な経過観察が必要で治療期間は数年に及びます。

リハビリテーションと発達支援

手術後のリハビリテーションは、患者さんの全身的な発達を促進する上で欠かせない要素で、運動機能や言語発達に焦点を当てたプログラムが組まれることが多いです。

リハビリテーションの期間は6か月から2年程度で、この間定期的な評価が行われ、必要に応じてプログラムの内容が修正されます。

  • 理学療法士:運動機能の改善や姿勢の矯正を担当
  • 作業療法士:日常生活動作の獲得や微細運動の向上を支援
  • 言語聴覚士:言語発達や摂食・嚥下機能の改善をサポート
  • 小児神経心理学者:認知機能や行動面の発達を評価・支援

頭蓋縫合早期癒合症の治療における副作用やリスク

頭蓋縫合早期癒合症の治療では主に手術が行われ、手術に伴う感染症、出血、麻酔の問題などの一般的なリスクに加え、頭蓋内圧が高くなったり、再癒合などの合併症が起こる可能性があります。

手術に伴う一般的なリスク

手術を行った部分に起こる感染は、最も頻繁に見られる合併症の一つです。

感染が起きてしまうと、傷口の治りが遅くなったり、さらなる治療が必要になります。

出血も見逃せないリスクの一つで、乳児や幼児では、少量の出血でも体に大きな影響を与えます。

リスク頻度対応
感染100人中2〜5人程度予防のための抗生物質投与
出血100人中1〜3人程度手術中の出血管理を徹底

また、麻酔に関連する問題も考慮に入れることが必要で、乳幼児は大人に比べて麻酔薬の影響を受けやすく、呼吸が弱くなったり、心臓の動きが不安定になりやすいです。

頭蓋内圧が高くなることに関連するリスク

頭蓋縫合早期癒合症の患者さんは頭の中の圧力が高く、手術中の操作により、一時的にこの圧力がさらに上がり、脳浮腫、脳の血流が悪くなる(脳虚血)可能性があります。

このような状況では、視神経が圧迫されて視力に問題が生じたり、脳幹が圧迫されて呼吸や心臓の動きに障害が起こったりするリスクが高いです。

再癒合のリスク

頭蓋縫合早期癒合症の手術後に最も注意が必要な合併症の一つが、再癒合です。

手術で分離した縫合線が再び早い段階でくっついてしまい、再癒合が起こると、頭蓋骨の成長が再び制限され、脳の発達に支障を起こす問題が再発します。

年齢再癒合が起こるリスク
1歳未満100人中10〜15人程度
1〜3歳100人中5〜10人程度
3歳以上100人中1〜5人程度

顔の形に変形が起こるリスク

頭蓋縫合早期癒合症の手術では、頭蓋骨の形を整えるだけでなく、顔の骨格にも影響を与えることがあります。

額の骨(前頭骨)や上あごの骨(上顎骨)の位置関係が変わることで、顔の左右対称性が崩れたり、歯の噛み合わせに問題が生じるリスクがあります。

神経系に関連する合併症

頭蓋縫合早期癒合症の手術に伴う神経系に関連する合併症

  • けいれん発作
  • 体を動かす機能の障害
  • 物事を理解したり記憶したりする機能の障害
  • 言葉の発達の遅れ
  • 目や耳の働きに関する問題

合併症は手術中に脳が直接影響を受けたり、手術後に頭の中の圧力が変動することが原因です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

入院費用

入院費用の目安

手術の種類平均入院日数保険適用後の費用
単純縫合切除術7-10日30-50万円
複雑頭蓋形成術14-21日80-150万円

手術費用

手術費用は、術式の難易度や手術時間によります。

  • 単純縫合切除術 20-40万円
  • 複雑頭蓋形成術 60-100万円
  • 内視鏡支援下手術 40-70万円

麻酔費用

麻酔費用

手術時間保険適用後の麻酔費用
2-3時間5-8万円
4-6時間10-15万円

術後のフォローアップ費用

術後の定期的なCTスキャンや頭蓋内圧モニタリングなどの検査費用は、年間で10-20万円程度です。

以上

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