Dandy-Walker症候群(Dandy-Walker syndrome)とは、小脳に生じる先天性の形態異常です。
この症候群では、小脳虫部(小脳の中央部分)の発育不全と、第4脳室(脳内にある脳脊髄液で満たされた空間)の異常な拡大が見られ、さらに、脳脊髄液の循環に支障をきたし、水頭症を併発することがあります。
この疾患は胎児期に形成されるため、出生前診断で発見される場合もありますが、生後に症状が顕在化して診断に至ることも多いです。
Dandy-Walker症候群の主な症状
Dandy-Walker症候群は、小脳虫部の形成不全や第四脳室の嚢胞性拡大を特徴とし、多様な神経学的症状を呈する疾患です。
神経学的症状の幅広い表現型
Dandy-Walker症候群で現れる神経学的な異常は、生後間もない時期から観察される場合もあれば、成人期に至るまで明確な形で現れないこともあります。
最も見られる症状は、運動発達の遅延や協調運動の障害です。
主要症状 | 通常の発現時期 |
運動発達の遅れ | 乳児期から幼児期 |
協調運動の不全 | 幼児期から成人期 |
眼球運動の異常 | 生後早期から成人期 |
症状は小脳機能の低下に起因し、小脳は身体の平衡維持や運動の円滑な遂行に重要な役割を担うため、形成異常は様々な運動機能の問題を起こします。
頭蓋内圧亢進に伴う臨床症状
Dandy-Walker症候群では、脳脊髄液の循環障害により頭蓋内圧が上昇します。
頭蓋内圧亢進の症状
- 頭囲の異常な増大(特に乳幼児期)
- 嘔吐
- 易刺激性(過敏な反応や機嫌の悪さ)
- 傾眠傾向(眠気が強くなる状態)
- 視力障害(見えにくさや視野の異常)
症状は、特に乳幼児期において顕著に現れることが多いです。
認知機能への影響と発達課題
Dandy-Walker症候群は患者の認知機能にも影響を及ぼし、知的発達の遅れは軽度から重度まで幅広いです。
認知機能の領域 | 想定される影響 |
言語発達 | 遅延する可能性 |
学習能力 | 低下する例あり |
注意力 | 集中困難な場合あり |
記憶力 | 影響を受けることがある |
認知機能に関する問題は、脳の構造的異常や水頭症の合併によって生じます。
随伴する全身性の症状
Dandy-Walker症候群においては、中枢神経系以外の臓器にも異常が観察されることがあり、随伴症状には臓器系統の異常が含まれます。
心臓の先天的な形成異常や泌尿生殖器系の構造的な問題は、Dandy-Walker症候群患者の一部に認められる症状です。
影響を受ける臓器系統 | 随伴症状 |
循環器系 | 心室中隔欠損(心臓の左右の心室を隔てる壁に穴がある状態) |
泌尿生殖器系 | 腎臓の形成不全や位置異常 |
骨格系 | 指の形成異常(多指症や合指症など) |
Dandy-Walker症候群の原因
Dandy-Walker症候群の原因は、胎児期における脳の発達過程での異常であり、遺伝的要因と環境要因が絡み合って生じます。
遺伝的要因の影響
Dandy-Walker症候群の発症には、特定の遺伝子の変異が深く関与していることが、明らかになってきました。
脳の発達に重要な役割を果たすZIC1、ZIC4、FOXC1などの遺伝子が、発症リスクを高めることが分かっています。
遺伝子異常により小脳や第4脳室の正常な形成が阻害され、Dandy-Walker症候群の特徴的な脳の形態異常につながるのです。
遺伝子 | 機能 | Dandy-Walker症候群との関連 |
ZIC1 | 小脳の発達を制御 | 小脳虫部の低形成に関与 |
ZIC4 | 神経管の閉鎖を促進 | 脳室系の異常形成に影響 |
FOXC1 | 中脳・後脳の境界形成を調整 | 小脳と第4脳室の構造異常に関連 |
環境要因の影響
遺伝的要因に加えて、胎児期の環境要因もDandy-Walker症候群の発症に関わっています。
妊娠中の母体の健康状態や外部からの様々な刺激が、胎児の脳の発達に予想以上に大きな影響を与える可能性があることが分かってきました。
妊娠初期のアルコール摂取、特定の薬物の使用、ウイルス感染症などが、胎児の脳の正常な発達を阻害する要因です。
診察(検査)と診断
Dandy-Walker症候群の診断は、病歴聴取と神経学的診察から始まり、画像検査技術を使い脳の特徴的な構造異常を確認することで、最終的な確定診断に至ります。
初期評価
Dandy-Walker症候群の診断では、運動発達の遅れや頭囲の異常な拡大といった、本症候群に特徴的な症状がないかを確認していきます。
神経学的診察で注意を払う点
- 頭囲の測定(頭の大きさを正確に計測)
- 運動機能の詳細な評価(バランス能力や協調運動の状態を観察)
- 眼球運動の検査(目の動きの異常がないかを確認)
- 認知機能の評価(年齢に応じた知的発達の状態を調べる)
画像診断
Dandy-Walker症候群の確定診断を下すためには、高精度の画像検査が重要で、最も用いられる画像診断法は、MRI(磁気共鳴画像法)です。
画像検査法 | 特徴と利点 |
MRI | 脳の軟部組織を極めて詳細に描出することが可能 |
CT | 頭蓋骨などの骨構造の評価に特に有用 |
MRI検査で観察されるDandy-Walker症候群の特徴
- 小脳虫部の形成不全または完全な欠損
- 第四脳室の嚢胞状の異常な拡大
- 後頭蓋窩の拡大
特徴的な画像所見が確認されることで、Dandy-Walker症候群の診断がより確実なものとなります。
補助的診断手法
画像検査に加えて補助的な検査方法が、診断の確実性を高めたり、合併症の有無を評価したりする上で大切な役割を果たします。
検査手法 | 目的と意義 |
脳波検査 | てんかんの合併の有無や種類を評価する |
神経心理学的検査 | 認知機能障害の具体的な内容や程度を詳しく調べる |
遺伝子検査
Dandy-Walker症候群に関連する複数の遺伝子変異が明らかになってきたので、遺伝子検査を補助的に行うことがあります。
- 臨床診断の裏付けや確認
- Dandy-Walker症候群と類似した症状を示す他の症候群の除外
- 将来の家族計画に関する遺伝カウンセリングのための貴重な情報提供
ただし、遺伝子検査の結果だけでDandy-Walker症候群を確定診断することはできません。
鑑別診断
Dandy-Walker症候群の正確な診断を行う上で、類似した特徴を持つ他の脳奇形との鑑別が必要です。
類似疾患名 | 鑑別のポイント |
Blake’s pouch cyst | 小脳虫部の形成が正常範囲内であることが特徴 |
巨大槽 | 第四脳室の異常な拡大を伴わない点が重要な違い |
Dandy-Walker症候群の治療法と処方薬、治療期間
Dandy-Walker症候群の治療法は脳室シャント術や薬物療法が行われ、治療は生涯にわたって継続されることもあります。
脳室シャント術
Dandy-Walker症候群では、水頭症(頭蓋内に脳脊髄液が過剰に貯留する状態)の管理が治療の中心です。
脳室シャント術は、頭蓋内に溜まった余分な脳脊髄液を体の他の部分に逃がすための手術で、頭蓋内圧を正常に保ち、脳へのダメージを最小限に抑えられます。
シャントの種類 | 特徴 | 適用される状況 |
脳室腹腔シャント | 最も一般的に用いられる | 腹腔に問題がない場合 |
脳室心房シャント | 心臓の右心房に脳脊髄液を排出 | 腹腔に問題がある場合 |
脳室胸腔シャント | 胸腔に脳脊髄液を排出 | 他の選択肢が適さない場合 |
薬物療法
シャント術と並行して行われるのが、Dandy-Walker症候群に伴う様々な症状をコントロールするための薬物療法です。
てんかん発作が見られる患者さんには抗てんかん薬が処方され、筋肉の緊張が異常に高い場合には筋弛緩薬が使用されます。
薬剤の種類 | 目的 | 薬剤名 |
抗てんかん薬 | てんかん発作の予防と制御 | カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム |
筋弛緩薬 | 筋肉の過度の緊張を緩和 | バクロフェン、ダントロレン |
利尿薬 | 脳脊髄液の産生を抑制 | アセタゾラミド |
リハビリテーション
Dandy-Walker症候群の患者さんには、理学療法や作業療法、言語療法などが、年齢や症状、発達段階に応じて組み合わされ実施されます。
リハビリテーションプログラムは、患者さんの身体機能の改善だけでなく、日常生活動作の向上や社会参加の促進も目的です。
リハビリの種類 | 目的 | 内容 |
理学療法 | 運動機能の改善 | バランス訓練、歩行訓練 |
作業療法 | 日常生活動作の向上 | 食事や着替えの練習 |
言語療法 | コミュニケーション能力の向上 | 発声訓練、言語理解の促進 |
治療期間と経過観察
Dandy-Walker症候群の治療は、一度で完了するものではなく、長期的な取り組みが不可欠です。
シャントの機能や薬物療法の効果を定期的に評価し、患者さんの成長や症状の変化に応じて調整を行っていきます。
特に、成長期の子どもの場合は、身体の変化に合わせてシャントの長さを調整したり、薬の用量を見直したりする必要があります。
- MRIやCTを用いた定期的な脳の画像検査による水頭症の管理状況の確認
- 神経学的検査による運動機能や認知機能の発達状況の評価
- 成長段階や能力に応じた教育支援プランの検討と調整
- 家族への心理的サポートと療育に関するアドバイスの提供
Dandy-Walker症候群の治療における副作用やリスク
Dandy-Walker症候群の治療には、脳室シャント術や内視鏡的第三脳室底開窓術などの高度な外科的介入があり、これらの複雑な処置には感染症のリスク、出血の危険性、医療機器の不具合といった潜在的な合併症や副作用が伴う可能性があります。
脳室シャント術に付随するリスク要因
脳室シャント術は、Dandy-Walker症候群に随伴する水頭症に広く採用される外科的手法です。
脳室シャント術特有のリスク
- シャント(脳脊髄液を排出するための管)の閉塞
- 手術部位や体内に埋め込まれたシャントシステムの感染
- 脳脊髄液の過剰な排出によるドレナージ障害
- シャントシステムの機械的不具合や故障
特に、シャントの閉塞は最も注意を要する合併症の一つです。
合併症 | 推定発生頻度 |
シャントの閉塞 | 約20-30%の症例で発生 |
シャント関連感染 | 約5-10%の症例で発生 |
シャントの閉塞が生じた場合、患者さんの状態によっては緊急の再手術が必要となります。
内視鏡的第三脳室底開窓術に伴うリスク要因
内視鏡的第三脳室底開窓術は、シャントへの依存を回避できる可能性がある手術方法ですが、この手術手技にもリスクがあります。
リスク | 説明 |
頭蓋内出血 | 脳内の微細な血管を誤って損傷することによる出血 |
髄液漏 | 手術で開けた穴から脳脊髄液が漏れ出す状態 |
全身麻酔に関連するリスク要因
Dandy-Walker症候群の外科的治療には全身麻酔が不可欠であるため、麻酔そのものに関連するリスクも考慮すべき重要な要素です。
小児患者さんに対して注意が必要な点
- 呼吸器系の合併症(例:術後の一時的な呼吸困難)
- 循環器系の合併症(例:心拍数や血圧の不安定化)
- 術後に生じる悪心や嘔吐
長期的視点で考慮すべき合併症
Dandy-Walker症候群の治療後、中長期的な経過観察で、合併症が起こることがあります。
- シャント依存症(体内に留置したシャントシステムに長期的に依存せざるを得ない状態)
- 繰り返し発生する頭痛
- てんかん発作の新規発症や既存の発作の悪化
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
手術費用
脳室シャント術は主要な治療法で、費用は約30万円から50万円です。
手術の種類 | 費用範囲 |
脳室シャント術 | 30万円~50万円 |
内視鏡的第三脳室底開窓術 | 40万円~60万円 |
入院費用
手術後の入院期間は1週間から2週間程度で、1日あたりの入院費用は約2万円から3万円です。
入院期間 | 総費用 |
1週間 | 14万円~21万円 |
2週間 | 28万円~42万円 |
薬物療法の費用
抗てんかん薬や筋弛緩薬などの薬物療法が必要な際、月額1万円から3万円程度の費用がかかります。
リハビリテーション費用
- 理学療法(1回あたり約5,000円)
- 作業療法(1回あたり約5,000円)
- 言語療法(1回あたり約5,000円)
以上
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