片側顔面けいれん – 脳・神経疾患

片側顔面けいれん(hemifacial spasm)とは、顔の片側だけに不随意な筋肉の収縮が起こる神経の疾患です。

顔面神経に血管が接触することで神経が過敏になり、目の周りの筋肉がピクピクと細かく動き始め、進行すると頬や口の周りにまで症状が広がります。

主に40歳以上の方に見られ、女性は男性の約2倍の確率で発症し、ストレスや疲労によって症状が悪化しやすく、また睡眠中は症状が消失するものの、起床後に再び始まることが多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

片側顔面けいれんの主な症状

片側顔面けいれんは、顔の片側に不随意的な筋肉の収縮が生じ、目の周りから始まり、徐々に頬や口の周りにまで進行します。

症状の基本的な特徴

片側顔面けいれんの症状は、目の周囲の不随意的な動きから始まることが多く、まばたきが頻繁に起こったり、目が勝手に閉じたりする状態から始まることが重要な特徴です。

不随意運動は、数秒から数分間持続し、その後一時的に収まることがありますが、症状の進行に伴って持続時間が延長したり、頻度が増加したりします。

顔面の筋肉が自分の意思とは関係なく動いてしまう状態は、片側のみに限局し、左右両方に同時に症状が出現することはありません。

症状の進行パターン

進行段階主な症状の特徴
初期段階目の周りの軽いけいれんや、まばたきの増加が見られる
進行段階頬から口元にかけての筋肉の不随意運動が加わる

顔面の筋肉の不随意運動は、ストレスや疲労、緊張などによって症状が増悪し、このような状態が続くと筋肉の疲労感や違和感を伴うようになってきます。

症状の進行に伴い、まばたきの頻度が増加するだけでなく、目を完全に閉じてしまう状態が長く続くようになり、日中の視覚活動に支障をきたすので注意が必要です。

症状の特異的な性質

片側顔面けいれんにおける不随意運動は、睡眠中には消失しますが、起床後から再び現れ、日中を通じて断続的に続きます。

症状の強さや頻度には個人差がありますが、一般的に朝方よりも夕方から夜にかけて症状が強くなる傾向があり、これは、日常生活での疲労の蓄積が原因です。

随伴症状と関連する身体変化

症状カテゴリー症状
感覚症状顔面のしびれ感や違和感が出現
聴覚症状耳の中でカチカチという音が聞こえる

片側顔面けいれんに特徴的な随伴症状

  • 顔面の筋肉がピクピクと細かく収縮する不随意運動
  • 眼瞼けいれんによる視界の一時的な遮断
  • 表情筋の不随意的な動きによる顔の歪み
  • 口角が不自然に上がる現象
  • まぶたが勝手に閉じる症状

片側顔面けいれんの症状は進行性で、時間の経過とともに症状が拡大していきます。

初期段階では目の周りの軽微な症状から始まり、やがて顔面全体に広がっていく過程で、表情筋の動きが非対称になっていく様子が観察されます。

症状は数週間から数か月にわたってゆっくりと進み、顔面の不随意運動は、会話中や食事中などの場面で突然起こり、症状が出現するタイミングを予測することは困難です。

片側顔面けいれんの原因

片側顔面けいれんは、脳幹部において顔面神経が血管による圧迫を受けることで発症します。

神経血管圧迫の仕組み

顔面神経が血管と接触する部位は、脳幹から顔面神経が出てくる根出口部において最も多く見られ、この部位での慢性的な圧迫が神経の機能異常を引き起こす主たる要因です。

血管による神経の圧迫は、加齢に伴う血管の蛇行や動脈硬化によって生じることが多く、椎骨動脈や後下小脳動脈などの血管が関与しています。

解剖学的要因と加齢変化

解剖学的要因発症への影響
血管の走行異常神経との接触リスクが上昇
動脈硬化血管の変形や蛇行が進行

血管の異常には、先天的な要因と後天的な要因があり、加齢に伴う血管壁の弾性低下や動脈硬化性変化によって、血管の蛇行が徐々に進行していくことがわかっています。

顔面神経は走行経路の特性上、狭い空間を通過する必要があり、わずかな血管の変化でも神経への圧迫が生じやすい状態です。

二次性の原因因子

片側顔面けいれんを起こす要因として、以下のような状態が関与しています。

  • 頭蓋内の腫瘍性病変による神経圧迫
  • 多発性硬化症などの脱髄性疾患
  • 脳血管奇形による圧迫
  • 頭部外傷後の神経損傷
  • 顔面神経周囲の炎症性変化

二次性要因は、直接的または間接的に顔面神経への圧迫や刺激をもたらし、片側顔面けいれんの症状を起こします。

発症リスクを高める要因

リスク要因影響メカニズム
高血圧血管壁の変性を促進
動脈硬化症血管の蛇行を悪化

片側顔面けいれんの発症には、様々な環境因子や生活習慣が関与することが明らかになってきており、特に循環器系の基礎疾患の存在が発症リスクを上昇の要因です。

高血圧症は血管壁への持続的な負荷をかけることで、血管の変形や硬化を促進し、神経への圧迫リスクを高めます。

加齢に伴う血管の変化は避けられない自然な過程ですが、生活習慣病の管理を行うことで、血管の変性を最小限に抑えることが大切です。

血管の異常は、必ずしも単独で存在するわけではなく、複数の要因が重なり合って発症に至ります。

診察(検査)と診断

片側顔面けいれんの診断には問診と神経学的診察に加えて、MRIなどの画像検査による血管走行の確認と電気生理学的検査による神経機能の評価を組み合わせます。

問診と神経学的診察

神経学的診察では顔面神経の機能を総合的に評価するため、患者さんの表情筋の動きを観察しながら、症状の出現頻度や部位、日内変動などについて詳しく聞き取ります。

問診では発症時期や進行状況、生活環境での困りごとなどを確認していくことが重要で、特に症状の左右差や進行パターンは、診断の手がかりとなる貴重な情報です。

観察ポイント確認内容
症状の左右差片側性か両側性か
症状の進行上から下へか、下から上へか
日内変動朝方や夕方での違い
誘発因子ストレスや疲労との関連

神経学的診察では、顔面の各部位における不随意運動の有無や、その他の神経症状の有無についても調べていきます。

画像診断による血管走行の評価

MRI検査では、特殊な撮影方法を用いることで、顔面神経と周囲の血管との位置関係を立体的に把握することが可能です。

MRI撮影の種類主な観察対象
T1強調画像神経の走行状態
T2強調画像脳実質の状態
MRA血管の走行状態
CISS法神経と血管の接触

電気生理学的検査による機能評価

電気生理学的検査では、以下のような項目について詳しく調べていきます。

  • 顔面神経伝導検査による神経の興奮性評価
  • 瞬目反射検査による反射機能の確認
  • 針筋電図検査による筋活動の記録
  • F波検査による神経回路の評価

片側顔面けいれんの治療法と処方薬、治療期間

片側顔面けいれんの治療には、内服薬による薬物療法とボツリヌス療法による局所治療、さらに手術療法である微小血管減圧術があります。

薬物療法による治療アプローチ

薬剤分類主な作用機序
抗てんかん薬神経の過剰興奮を抑制します
筋弛緩薬筋肉の緊張を緩和します

薬物療法では、カルバマゼピンやクロナゼパムといった抗てんかん薬を用い、神経の異常興奮を抑えることが目標です。

抗てんかん薬による治療では少量から開始して徐々に増量していき、効果が得られる最小限の投与量を見極めながら継続的に服用します。

筋弛緩薬は、顔面の筋肉の緊張を和らげる目的で使用し、バクロフェンやダントロレンといった薬剤を併用することで、より高い治療効果を期待できます。

ボツリヌス療法による局所治療

ボツリヌス療法は、顔面の特定の筋肉に直接ボツリヌス毒素を注入することで、けいれんを起こしている筋肉の活動を一時的に抑制する治療法です。

3〜4ヶ月ごとに定期的な投与を必要としますが、高い治療効果が得られることから、近年では第一選択の治療として位置づけられています。

ボツリヌス療法の利点は、外来での治療が可能であり、治療直後から効果を実感できることです。

微小血管減圧術による外科的治療

手術の種類治療期間
開頭手術入院期間は2週間程度
内視鏡手術入院期間は10日程度

微小血管減圧術は、顔面神経を圧迫している血管を特殊なクッション材で減圧する手術で、根本的な治療法として重要な選択肢です。

手術では神経と血管の接触部位を確認した上で、テフロンフェルトなどの人工物を用いて両者を分離します。

手術の対象となる患者さん

  • 薬物療法やボツリヌス療法で十分な効果が得られない
  • 若年で長期的な治療効果を期待したい
  • 画像検査で明確な血管圧迫所見がある
  • 全身状態が手術に耐えられる

手術後は2週間程度で、その後1〜2ヶ月の自宅療養期間が必要です。

治療法の選択と期間

薬物療法による治療は、効果が現れるまでに数週間から数ヶ月を要することがあり、症状の改善が得られた後も一定期間の継続が大切です。

ボツリヌス療法は即効性があり注射後数日で効果を実感できますが、効果の持続期間は3〜4ヶ月程度であるため、定期的な治療を続けます。

微小血管減圧術は、手術による根治を目指す治療法であり、手術が成功すれば永続的な効果が期待できますが、術後の経過観察は6ヶ月から1年程度必要です。

片側顔面けいれんの治療における副作用やリスク

片側顔面けいれんの治療においては、ボツリヌス療法と微小血管減圧術のそれぞれに特有の副作用やリスクがあります。

薬物療法における副作用

ボツリヌス療法では、注射部位周辺の筋肉に一時的な脱力が生じ、まぶたの下垂や複視といった症状が現れる可能性があります。

注射による痛みや内出血は一般的な副作用で、症状は通常2〜3日程度で自然に改善します。

副作用の種類出現時期と持続期間
注射部位の痛み直後〜数日間
内出血1〜2週間程度
まぶたの下垂2〜4週間程度
複視1〜3週間程度

抗体産生による効果の減弱については、定期的な投与間隔の調整や投与量の見直しによって対応することが可能です。

手術療法に伴うリスク要因

微小血管減圧術の一般的なリスクは、創部の感染や出血、麻酔に関連する合併症などです。

また、手術特有の合併症として、髄液漏や聴力低下、顔面神経麻痺などが報告されています。

手術前に注意が必要な点

  • 基礎疾患の有無と術前管理の必要性
  • 服用中の薬剤の確認と休薬の判断
  • 術後の安静度と活動制限の範囲
  • 退院後のフォローアップスケジュール
手術関連合併症発生頻度の目安
髄液漏1〜3%
聴力低下2〜5%
顔面神経麻痺1%未満
創部感染1%未満

年齢や基礎疾患による影響

高齢者や基礎疾患を持つ患者さんでは、治療による副作用やリスクが増大する傾向にあり、慎重な経過観察が大切です。

糖尿病や高血圧などの基礎疾患がある場合、手術の合併症リスクが上昇することがあり、術前の血糖コントロールや血圧管理が必要となってきます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

保存的治療にかかる費用

外来診療における保存的治療では、MRIなどの画像診断に加え、神経伝導検査などの生理検査を実施します。

検査項目3割負担額
MRI検査9,000円前後
神経伝導検査3,000円前後

薬物療法の費用

薬物療法による通院治療では、抗てんかん薬や筋弛緩薬などの処方を行いながら、定期的な診察を継続していきます。

抗てんかん薬の費用

薬剤名28日分の3割負担額
カルバマゼピン1,200円前後
クロナゼパム900円前後
フェニトイン800円前後
ガバペンチン3,500円前後

筋弛緩薬の費用

薬剤名28日分の3割負担額
バクロフェン1,500円前後
ダントロレン2,000円前後
チザニジン1,200円前後

ボツリヌス治療の費用

治療内容3割負担額
ボツリヌス注射25,000円前後
筋電図検査4,000円前後

ボツリヌス治療は3〜4ヶ月ごとに繰り返し実施し、1回の治療で約3万円の費用が必要です。

手術治療の費用

微小血管減圧術では約10日間の入院期間が一般的で、保険診療3割負担で35万円前後の費用となります。

以上

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