頭蓋内圧亢進(increased intracranial pressure)とは、頭蓋骨の内部で脳を取り巻く髄液の圧力が通常よりも高くなり、脳神経系に重大な影響を及ぼす疾患です。
脳は頭蓋骨という硬い骨で守られており、内部には脳実質、血液、髄液という3つの要素がありますが、容積バランスが崩れることで頭蓋内圧が上昇します。
頭蓋内圧亢進の症状として、持続的な頭痛や吐き気、視覚の異常、意識レベルの変化などが現れ、原因は、脳腫瘍、頭部外傷、脳出血、髄膜炎などです。
頭蓋内圧亢進の主な症状
頭蓋内圧亢進では、持続的な頭痛や嘔吐に加え、視覚障害や意識レベルの変化などの神経学的症状が現れ、発症から経過時間によって急性と慢性の2つの病態に分類できます。
頭蓋内圧亢進における急性期症状
急性頭蓋内圧亢進の症状は突発的に発症し、急速に進行することが特徴的であり、早期発見と迅速な対応が不可欠です。
急性期に見られる症状の強い頭痛は後頭部から始まり、次第に前頭部へと広がっていき、痛みは体動や咳、くしゃみなどによって増強します。
頭痛に随伴して起こる嘔吐は、朝方に悪化し、嘔吐後も頭痛の軽減が見られないことが一般的な頭痛との大きな違いです。
意識状態の変化は軽度の眠気から始まり、徐々に重篤化して傾眠傾向や見当識障害へと進行していきます。
急性症状 | 特徴的な性質 |
頭痛 | 後頭部から前頭部への進展、体動で増悪 |
嘔吐 | 朝方に増悪、嘔吐後も頭痛が持続 |
意識障害 | 傾眠傾向から見当識障害まで進行 |
慢性的な症状と進行パターン
慢性頭蓋内圧亢進では緩やかに進行し、患者さんが自覚する症状の種類も急性期とは異なる様相を呈します。
慢性期における頭痛は、急性期ほどの激しさはないものの、持続的な鈍痛として長期間にわたって続き、日中よりも早朝で症状が強いです。
視覚症状は慢性期に特徴的な症状の一つで、一時的な視野の欠損や複視、さらには乳頭浮腫による視力低下なども認められます。
- 持続的な頭痛(特に早朝に増悪)
- 視覚障害(視野欠損、複視、視力低下)
- 耳鳴りやめまい
- 吐き気や嘔吐(急性期ほど激しくない)
- 歩行時のふらつき
年齢層による症状の違いと特徴
小児と成人では頭蓋内圧亢進の症状が異なり、特に乳幼児では症状の把握が困難となる場合が多いです。
年齢層 | 特徴的な症状表現 |
乳幼児 | 泣き声の変化、不機嫌、哺乳力低下 |
小児 | 言語による症状表現、活動性の低下 |
成人 | 詳細な症状の説明が可能、随伴症状の認識 |
乳幼児の場合、言語による症状表現が難しいため、普段と異なる様子や行動の変化を注意深く観察することが大切です。
小児では、頭痛や吐き気などの症状を言葉で表現できるようになりますが、程度や性質を正確に伝えることが難しい場合もあります。
症状の進行と観察ポイント
急性期から慢性期へと移行する過程では、症状の性質が変化することがあり、頭痛の性状や随伴症状の組み合わせが異なります。
視覚症状については、両眼性の視力低下や視野欠損が現れた際、専門的な評価を受けることで、症状の程度や進行状況を正確に把握できます。
また、歩行時のバランス障害や協調運動の異常は、神経学的な症状として生じ、めまいや耳鳴りなどの症状は、頭蓋内圧の変動に伴い起こります。
頭蓋内圧亢進の原因
頭蓋内圧亢進は、頭蓋内の容積バランスが崩れることで生じる病態で、脳腫瘍、頭部外傷、脳血管障害、感染症などが原因です。
頭蓋内圧亢進の基本的なメカニズム
頭蓋腔内には脳実質、血液、脳脊髄液という3つの要素があり、容積の総和は一定に保たれていますが、いずれかの要素が増加すると代償機能が働き、他の要素が減少することで頭蓋内圧の均衡を維持しています。
この代償機能には限界があり、代償機能を超えた容積変化が起きると頭蓋内圧が急激に上昇するのです。
原発性要因による頭蓋内圧亢進
原発性要因 | 病態の特徴 |
特発性頭蓋内圧亢進 | 明確な原因が特定できない状態で発症する比較的まれな病態 |
脳腫瘍 | 腫瘍の増大により直接的に頭蓋内圧が上昇する |
水頭症 | 脳脊髄液の循環障害や吸収障害により髄液が過剰に貯留する |
原発性要因による頭蓋内圧亢進では、脳腫瘍の増大や水頭症による脳脊髄液の貯留が直接的な原因となって頭蓋内圧が上昇します。
脳腫瘍の場合、腫瘍周囲に浮腫が形成されることで、さらなる頭蓋内圧の上昇を引き起こす可能性があります。
続発性要因による頭蓋内圧亢進
続発性の頭蓋内圧亢進を起こす要因として、以下のような病態が挙げられます。
- 頭部外傷による頭蓋内出血や脳挫傷
- 脳血管障害(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)
- 髄膜炎や脳炎などの中枢神経系感染症
- 代謝性疾患や内分泌疾患
- 一酸化炭素中毒などの中毒性疾患
血液脳関門の破綻と浮腫形成
浮腫のタイプ | 主な特徴と発生機序 |
血管原性浮腫 | 血液脳関門の破綻により血漿成分が血管外に漏出 |
細胞性浮腫 | 細胞内のイオンバランスが崩れ、細胞内に水分が貯留 |
間質性浮腫 | 脳脊髄液の還流障害により細胞外腔に水分が貯留 |
血液脳関門が損傷を受けると、通常は通過できない物質が脳実質内に入り込むようになり、浮腫が形成されます。
浮腫形成のメカニズムは、原因となる疾患によって異なりますが、最終的には脳組織の容積増加をもたらし、頭蓋内圧の上昇につながります。
特に外傷性脳損傷や脳卒中の急性期では、血管原性浮腫と細胞性浮腫が同時に発生することで、急激な頭蓋内圧の上昇を起こすことがあるので注意が必要です。
代謝性要因と全身性疾患
代謝性の要因による頭蓋内圧亢進では、肝性脳症や低酸素血症、高血圧性脳症など、全身性の疾患が引き金です。
このような疾患では、血液脳関門の機能異常や脳血流の自動調節能の破綻により、二次的に脳浮腫が形成されて頭蓋内圧が上昇します。
また、内分泌系の異常や電解質バランスの乱れも、細胞性浮腫を引き起こす要因で、低ナトリウム血症では急激な浸透圧変化により重大な脳浮腫を引き起こすリスク因子です。
診察(検査)と診断
頭蓋内圧亢進の診断では、神経学的診察による身体所見の確認から画像診断、脳脊髄液検査まで行います。
神経学的診察
神経学的診察においては、意識状態の評価からはじまり、瞳孔反射や眼球運動、さらには運動機能や感覚機能まで、脳神経系統の確認を実施することが不可欠です。
初期評価では、患者さんの歩行状態や姿勢の観察から始め、意識レベルの判定にはグラスゴー・コーマ・スケールを用い判断を行います。
眼底検査では眼底の状態を観察し、特に視神経乳頭部の変化について入念な確認を行うことで、頭蓋内圧上昇の初期サインを捉えることが可能です。
神経学的診察項目 | 観察内容 |
意識レベル評価 | 開眼、発語、運動反応の確認 |
瞳孔検査 | 対光反射、瞳孔径、左右差の有無 |
眼底検査 | 視神経乳頭部の形状、網膜血管の走行 |
運動機能検査 | 筋力、協調運動、歩行状態 |
画像診断
CTスキャンでは、脳室の大きさや形状、正中線偏位の有無などを短時間で確認すでき、緊急時における初期診断のための画像検査として広く活用されています。
MRI検査では、T1強調画像やT2強調画像、さらにはFLAIR画像などの複数の撮像法を組み合わせることにより、脳実質の変化や脳脊髄液の動態を観察することが大切です。
また、特殊な画像診断技術として、MRベノグラフィーを実施することで、静脈洞血栓症などの血管性病変の存在を確認できます。
- 頭部単純CT検査(緊急時の初期評価)
- 頭部造影CT検査(腫瘍性病変の検索)
- 頭部MRI検査(脳実質の詳細評価)
- MRベノグラフィー(静脈系の評価)
- 脊髄造影MRI(脊髄病変の検索)
脳脊髄液検査による直接的な圧力測定
脳脊髄液検査では、腰椎穿刺を通じて髄液圧の直接測定を行い、同時に髄液の性状分析も実施することで、頭蓋内圧亢進の程度や原因について情報を得ます。
髄液検査項目 | 測定内容 |
開放圧測定 | 髄液圧の数値測定 |
外観観察 | 色調、混濁の有無 |
生化学検査 | 蛋白質、糖、細胞数の分析 |
培養検査 | 微生物学的検査 |
髄液の性状分析では、蛋白質濃度や細胞数、糖濃度などを測定することで、炎症性変化や感染症の有無についても確認を行います。
頭蓋内圧亢進の治療法と処方薬、治療期間
頭蓋内圧亢進の治療においては、薬物療法を基本としながら、必要に応じて外科的治療を組み合わせることで頭蓋内圧を正常範囲にコントロールすることが重要です。
基本的な薬物療法
浸透圧利尿薬であるマンニトールやグリセオールは、血液の浸透圧を上昇させることで脳組織から水分を引き出し、頭蓋内圧を低下させる即効性の高い治療薬です。
薬剤名 | 投与方法と作用機序 |
マンニトール | 点滴静注、血液浸透圧上昇による脳浮腫軽減 |
グリセオール | 点滴静注、血液脳関門を通過せず浸透圧効果を発揮 |
フロセミド | 静注、腎臓での水分再吸収抑制による利尿効果 |
ステロイド療法
副腎皮質ステロイドは、抗浮腫作用と抗炎症作用を併せ持つ薬剤として、腫瘍性病変や炎症性疾患による頭蓋内圧亢進に対して効果を発揮します。
デキサメタゾンやベタメタゾンなどの合成ステロイドは、血液脳関門を通過しやすく、脳実質内で強力な抗浮腫効果を示すことが特徴です。
まず高用量で開始し、臨床症状の改善に応じて段階的に減量していきます。
外科的治療の選択
減圧開頭術や脳室ドレナージなどの外科的処置は、以下のような状況で検討します。
- 薬物療法で十分な効果が得られない時
- 頭蓋内圧の急激な上昇がみられる時
- 脳ヘルニアのリスクが高い時
- 水頭症を合併している時
- 大きな占拠性病変が存在する時
持続的な頭蓋内圧モニタリング下での治療
モニタリング方法 | 特徴と利点 |
脳室カテーテル | 持続的な頭蓋内圧測定と髄液排出が可能 |
硬膜外センサー | 低侵襲で合併症リスクが少ない |
脳実質センサー | 局所の頭蓋内圧を正確に測定可能 |
持続的な頭蓋内圧モニタリングを行うことで投薬のタイミングや用量を決定し、治療効果を最大限に引き出します。
維持療法と治療期間
急性期の治療を経て頭蓋内圧が安定してきた段階では、経口薬による維持療法へと移行します。
維持療法では、アセタゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害薬を使用することで、髄液産生を抑制し、頭蓋内圧の安定化を図ります。
治療期間は、原因となる基礎疾患の種類や重症度によって個別に判断しますが、数週間から数か月の継続した治療を要することが多いです。
頭蓋内圧亢進の治療における副作用やリスク
頭蓋内圧亢進の治療では、浸透圧利尿薬や副腎皮質ステロイド薬などの薬物療法から外科的治療まで、それぞれの治療方法において特有の副作用やリスクがあります。
薬物療法における副作用
浸透圧利尿薬のマンニトールは、脱水や電解質バランスの乱れを起こす可能性があり、高齢者や腎機能が低下している患者さんでは注意深いモニタリングが必要です。
また、副腎皮質ステロイド薬の長期投与では、免疫機能の低下や血糖値の上昇、骨密度の減少など、全身性の副作用が生じることがあります。
薬剤名 | 主な副作用 |
マンニトール | 電解質異常、脱水、腎機能障害 |
デキサメタゾン | 免疫低下、血糖上昇、骨粗しょう症 |
グリセオール | 高血糖、電解質異常、循環器への負担 |
外科的治療に伴うリスクと合併症
脳室ドレナージ術では、創部感染や髄膜炎などの感染性合併症のリスクが、シャント手術においては、シャント感染、過度なドレナージによる硬膜下血腫の形成などの合併症が起こることがあります。
開頭減圧術では、術中の出血や術後の感染、脳浮腫の悪化など、手術に関連する一般的なリスクに加えて、頭蓋形成術が必要となる可能性も考慮に入れておくことが大切です。
輸液管理と電解質補正に関連する問題
急速な輸液負荷や電解質補正は、循環動態の変動や浮腫の悪化を招くことがあり、心機能や腎機能に問題を抱える患者さんでは慎重な管理が重要です。
高張食塩水の投与では、血清ナトリウム値の急激な変動による中心性橋脱髄症のリスクがあり、血清電解質濃度のチェックと補正速度の調整を行います。
利尿薬の使用に際しては、電解質バランスの崩れや腎機能への負担増大といった副作用に注意を払い、カリウムやマグネシウムなどの電解質補充を行うことが不可欠です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
基本的な外来診療費用
外来診療における脳血流シンチグラフィー検査は、1回あたり1〜2万円程度の自己負担で、脳波検査や神経学的検査などの基本検査も定期的に行うため、1回の外来受診で数千円から1万円程度の検査費用が発生します。
治療段階 | 一般的な医療費(3割負担の場合) |
外来診療(月額) | 1〜5万円 |
入院治療(月額) | 10〜30万円 |
手術費用(1回) | 30〜100万円 |
薬物治療(月額) | 5000円〜3万円 |
画像診断と各種検査費用
MRI検査は1回あたり1万5000円から2万円程度、CT検査は1回あたり5000円から1万円程度の費用がかかります。
定期的な血液検査や髄液検査は、1回あたり3000円から1万円程度となることが多いです。
薬物療法にかかる医療費
頭蓋内圧を下げるための薬剤費用
- 浸透圧利尿薬(月額5000〜15000円)
- ステロイド薬(月額3000〜10000円)
- 炭酸脱水酵素阻害薬(月額4000〜12000円)
- 血管作動薬(月額6000〜20000円)
入院時の医療費内訳
入院費用項目 | 一般的な費用(3割負担) |
病室使用料(1日) | 5000〜15000円 |
投薬・注射(1日) | 3000〜10000円 |
各種検査(回数制) | 5000〜20000円 |
手術治療時の費用
減圧開頭術などの外科的治療では、手術料、麻酔料、材料費を含めて30〜100万円程度の費用が必要です。
術後のリハビリテーション費用として、1回あたり数千円の費用が追加で発生します。
以上
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