若年ミオクロニーてんかん – 脳・神経疾患

若年ミオクロニーてんかん(juvenile myoclonic epilepsy)とは、主に10代から20代の若年層に発症するてんかんで、突然の筋肉の収縮(ミオクロニー発作)が特徴です。

この疾患では、上半身や腕に発作が現れ、患者さんの多くが朝方に症状を経験します。

睡眠不足やストレス、アルコール摂取などが発作の引き金となり、全身けいれん発作を伴うケースも見られます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

若年ミオクロニーてんかんの主な症状

若年ミオクロニーてんかんの症状は、上肢を中心とした突然の筋収縮、全身性強直間代発作、および欠神(けっしん)発作です。

ミオクロニー発作

若年ミオクロニーてんかんの最も特徴的な症状は、ミオクロニー発作と呼ばれる突発的な筋肉の収縮です。

発作は上肢に現れることが多く、患者さんは腕や手が瞬間的に動くといった体験をします。

ミオクロニー発作は、朝方や目覚めた直後に起こりやすいです。

特徴説明
主な部位上肢(腕や手)
発生時間帯朝方や覚醒直後
持続時間瞬間的

患者さんによっては物を落としたり、動作が突然中断されたりといった症状が現れます。

全身性強直間代発作

全身性強直間代発作も、若年ミオクロニーてんかんで頻繁に見られる症状です。

患者さんは意識を失い、全身の筋肉が硬直した後、激しく震えるという症状を呈します。

発作中は、呼吸が一時的に停止し、顔色が変化するといった状況も起こります。

全身性強直間代発作は、ミオクロニー発作と比較すると発生頻度は低いものの、より重篤な症状です。

発作の進行

  1. 意識消失
  2. 全身筋肉の硬直
  3. 激しい震え
  4. 発作後の著しい疲労感

欠神発作

欠神(けっしん)発作は、若年ミオクロニーてんかんの一部の患者さんに観察されます。

数秒から数十秒間意識が途切れ、周囲の状況に対して反応を示さなくなります。

欠神発作は、一見すると「ぼんやり」しているように見受けられ、周囲の人が気づかないケースも少なくありません。

欠神発作の特徴詳細
持続時間数秒〜数十秒
外見的特徴ぼんやりした様子
意識状態一時的な意識の途切れ
発作後の状態即座に回復、記憶なし

症状の組み合わせ

若年ミオクロニーてんかんの患者さんは、上記の症状を単独で経験することもあれば、複数の症状が組み合わさって現れることもあります。

ミオクロニー発作と全身性強直間代発作の両方が現れる患者さんも多いです。

症状の組み合わせ特徴
ミオクローヌス発作のみ最も一般的
ミオクローヌス発作 + 全身性強直間代発作比較的多い
3種類全ての発作稀にある

若年ミオクロニーてんかんの原因

若年ミオクロニーてんかんの原因は、遺伝的要因と脳の電気的活動の異常です。

遺伝的要因の影響

若年ミオクロニーてんかんの発症には遺伝的な要素が関与しており、家族歴のある患者さんが多いことが特徴です。

特定の遺伝子変異が疾患の発症リスクを高めることが明らかになっており、EFHC1遺伝子やCACNB4遺伝子などの変異が、若年ミオクロニーてんかんの発症と関連しています。

EFHC1遺伝子やCACNB4遺伝子は、神経細胞の機能や脳内の電気的活動の調整において重要な役割を果たしており、変異が脳の正常な働きに影響を及ぼします。

遺伝子名関連する機能
EFHC1神経細胞の成長と分化
CACNB4カルシウムチャネルの調整

脳の電気的活動の異常

若年ミオクロニーてんかんの発作は、脳内の神経細胞の異常な電気的活動によって起こされ、この異常が症状の原因です。

通常、脳内の神経細胞は秩序立った電気的信号を発していますが、てんかん患者さんの脳では、信号のバランスが崩れ、過剰な電気的活動が生じてしまいます。

若年ミオクロニーてんかんでは、大脳皮質の前頭葉や頭頂葉といった特定の領域で、異常な電気的活動が見られることが多いです。

環境要因との相互作用

遺伝的要因や脳の電気的活動の異常に加えて、環境要因も若年ミオクロニーてんかんの発症や症状の悪化の原因です。

睡眠不足やストレス、アルコール摂取などが発作の引き金となり、脳内の神経細胞の興奮性を高めたり、電気的活動のバランスを崩したりすることで、発作のリスクを増大させます。

環境要因影響
睡眠不足脳の興奮性上昇
ストレス神経伝達物質のバランス変化
アルコール脳の抑制機能低下

脳の発達との関連性

若年ミオクロニーてんかんが10代から20代の若年層に多く発症する背景には、この時期特有の脳の発達過程と関連があります。

思春期から青年期にかけては脳の構造や機能が劇的に変化し、前頭葉の発達や神経回路の再編成が活発に行われる時期です。

発達過程において、遺伝的要因や環境要因が絡み合うことで、一部の人々でてんかん発作が起こりやすい状態が生じます。

若年ミオクロニーてんかんの発症に関連している要因

  • ホルモンバランスの急激な変化
  • 神経伝達物質の調整機能の未成熟
  • シナプス(神経細胞同士の接続部)の刈り込み過程の異常
  • 脳の可塑性(環境に応じて変化する能力)の高さ
発達要因若年ミオクロニーてんかんとの関連
ホルモン変化脳の興奮性に影響を与える
神経回路の再編成異常な電気的活動を引き起こす可能性
前頭葉の発達発作の制御機能に影響を与える

診察(検査)と診断

若年ミオクロニーてんかんの診断は、病歴聴取、神経学的診察、脳波検査、および画像診断を組み合わせて実施されます。

病歴聴取

若年ミオクロニーてんかんの診断では、病歴聴取が極めて重要です。

患者さんやご家族から、発作の種類、頻度、持続時間、発症年齢などの情報を収集していきます。

朝方に起こりやすいミオクロニー発作や、全身性強直間代発作の有無に注目して聞き取りを行います。

聴取項目重要ポイント
発作の種類ミオクローヌス、全身性強直間代、欠神(意識が一時的に途切れる)
発作の頻度日単位、週単位、月単位
発症年齢通常10代後半から20代前半
誘発因子睡眠不足、ストレス、光刺激など

また、家族歴も診断の重要な手がかりです。

神経学的診察

神経学的診察は、若年ミオクロニーてんかんの診断において、他の神経疾患を除外するために欠かすことができません。

反射、筋力、感覚、協調運動を評価し、神経系統に問題がないかを確認していきます。

若年ミオクロニーてんかんの患者さんでは、神経学的診察で明らかな異常は認められません。

脳波検査

脳波検査は、若年ミオクロニーてんかんの診断において最も大切な検査の一つです。

この疾患に特徴的な脳波所見として、3-6 Hzの全般性多棘徐波複合(ぜんはんせいたきょくじょはふくごう)と呼ばれる特殊な波形が観察されます。

脳波検査で確認される所見

  1. 全般性多棘徐波複合(てんかん特有の異常な脳波パターン)
  2. 光過敏性反応(光の刺激に対する異常な反応)
  3. 睡眠中の異常波形の増強(睡眠時に異常な脳波がより顕著になる現象)

脳波検査は、患者さんが目覚めている覚醒時と睡眠時の両方で実施することが望ましいです。

光刺激や睡眠剥奪(いつもより睡眠時間を短くする)などの方法を用いることで、異常波形の検出率がさらに向上します。

画像診断

MRIは、てんかんの原因となりうる脳の構造的異常を除外するために実施され、診断の精度を高めます。

画像検査目的
MRI(磁気共鳴画像法)脳の詳細な構造を観察し、異常がないかを確認
CT(コンピュータ断層撮影)急性期の頭蓋内病変の有無を素早く確認

若年ミオクロニーてんかんでは、MRIで明らかな異常は認められないのが特徴的で、他の原因によるてんかんを確実に除外するために、画像診断は必須の検査です。

若年ミオクロニーてんかんの治療法と処方薬、治療期間

若年ミオクロニーてんかんの治療は、抗てんかん薬による薬物療法が中心となり、患者さんの症状や日常生活のリズムに合わせて長期的に継続することが必要です。

抗てんかん薬

若年ミオクロニーてんかんの治療に用いられる抗てんかん薬には、次のようなものがあり、それぞれ特徴的な作用メカニズムを持っています。

  • バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン)
  • レベチラセタム(商品名:イーケプラ)
  • ラモトリギン(商品名:ラミクタール)
  • トピラマート(商品名:トピナ)
  • クロナゼパム(商品名:リボトリール)

薬剤は、脳内の過剰な電気的活動を抑える働きがあり、発作を予防する効果が期待できます。

薬剤名特徴
バルプロ酸ナトリウム広範囲のてんかん発作に有効で、長年の使用実績がある
レベチラセタム副作用が比較的少なく、他の薬剤との相互作用が少ない
ラモトリギン気分安定作用もあり、うつ症状を伴う患者さんに有効な場合がある
トピラマート体重増加が少なく、肥満傾向のある患者さんに適している

治療期間と経過観察

多くの患者さんで、薬物療法を開始してから数週間から数ヶ月で発作の頻度が減少し始めます。

ただし、完全な発作抑制を達成するまでには、さらに時間がかかることもあります。

発作が2年間以上完全に抑制された後も、少なくとも3〜5年は薬物療法を継続することが推奨されており、これは再発のリスクを最小限に抑えるためです。

治療段階期間目標
初期治療数週間〜数ヶ月発作頻度の減少
発作抑制期間2年以上完全な発作抑制
薬物療法継続3〜5年以上再発予防

生活習慣の改善

薬物療法と並行して、発作の誘因となる要素を避けるための生活習慣の改善も、治療効果を高めるために重要です。

注意を払う点

  • 規則正しい睡眠習慣の維持:十分な睡眠時間の確保と一定の就寝・起床時間の維持
  • ストレス管理:リラックス法の習得やストレス解消法の実践
  • アルコール摂取の制限:過度の飲酒を避ける
  • 過度の疲労を避ける:適度な休息を取り、無理のない生活リズムを保つ
  • 光刺激(特にフラッシュ光)への暴露を控える:光過敏性のある患者さんは特に注意が必要

若年ミオクロニーてんかんの治療における副作用やリスク

若年ミオクロニーてんかんの治療には抗てんかん薬が用いられ、薬剤にはさまざまな副作用やリスクが伴います。

抗てんかん薬の副作用

抗てんかん薬は、若年ミオクロニーてんかんの発作をコントロールするために欠かせませんが、一定の副作用リスクがあります。

副作用は眠気、めまい、吐き気などです。

症状は投薬開始直後に現れやすく、時間の経過とともに徐々に軽減していきます。

一般的な副作用頻度特徴
眠気日中の活動に支障をきたすことも
めまい立ちくらみや歩行困難を伴うことも
吐き気食欲不振につながる可能性あり
頭痛持続する場合は要相談

認知機能への影響

一部の抗てんかん薬は、患者さんの認知機能に影響を与える可能性があります。

記憶力の低下、集中力の減退、情報処理速度の遅延などが報告されていて、高用量の投与や複数の抗てんかん薬を併用するケースで、より顕著です。

長期使用に伴うリスク

抗てんかん薬を長期にわたって使用することで、潜在的なリスクが生じることがあります。

長期使用に伴うリスク

  1. 骨密度の低下(骨粗しょう症のリスク増加)
  2. 肝機能障害(肝臓の働きが低下する可能性)
  3. 代謝異常(体重増加や脂質異常症など)
  4. 内分泌系の変化(ホルモンバランスの乱れ)
  5. 皮膚症状(発疹や光線過敏症など)

催奇形性リスク

妊娠可能年齢の女性患者さんにとって、抗てんかん薬の催奇形性リスク(胎児に先天異常を引き起こす可能性)は重要な問題です。

薬剤催奇形性リスク注意点
バルプロ酸可能な限り避けるべき
カルバマゼピン慎重な使用が必要
ラモトリギン比較的安全とされる
レベチラセタム近年使用が増加

妊娠を希望する患者さんや妊娠中の患者さんに対しては、てんかん発作のリスクと薬剤による催奇形性リスクを考慮し、薬剤選択や用量調整を行います。

薬物相互作用

若年ミオクロニーてんかんの治療に用いられる抗てんかん薬は、他の薬剤と相互作用を起こす可能性があり、十分な注意が必要です。

相互作用により、抗てんかん薬の効果が予期せず減弱したり、副作用が増強することがあります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法の費用

代表的な抗てんかん薬の1ヶ月分の費用(3割負担の場合)

薬剤名1ヶ月の自己負担額
バルプロ酸ナトリウム1,500〜3,000円
レベチラセタム4,000〜8,000円
ラモトリギン3,000〜6,000円

診察・検査費用

定期的な診察と検査も必要です。

項目頻度自己負担額
外来診察1〜3ヶ月に1回1,000〜3,000円
血液検査3〜6ヶ月に1回2,000〜4,000円
脳波検査年1〜2回3,000〜6,000円

年間の総治療費

薬物療法と診察・検査を合わせた年間の総治療費は、症状の程度や使用する薬剤によります。

  • 軽症で安価な薬剤を使用 年間約5〜10万円
  • 中等症で標準的な薬剤を使用 年間約10〜20万円
  • 重症で高価な薬剤を使用 年間約20〜30万円以上

以上

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