Lambert-Eaton症候群 – 脳・神経疾患

Lambert-Eaton症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome)とは、神経と筋肉の接合部(神経筋接合部)で起こる自己免疫疾患です。

この病気では、神経伝達物質(神経から筋肉へ信号を伝える物質)の放出が阻害されるため、筋力低下や疲労感といった症状が現れます。

多くの患者さんでは悪性腫瘍と関連して発症し、特に小細胞肺がんとの関連性が高いことが分かっています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Lambert-Eaton症候群の主な症状

Lambert-Eaton症候群は、筋力低下と自律神経障害を主な特徴とする脳・神経疾患です。

筋力低下の特徴

Lambert-Eaton症候群では、体の中心部に近い筋肉から筋力低下が始まり、下半身で顕著に現れる傾向があります。

特徴的な現象として、運動を繰り返すことで一時的に筋力が回復します。

多くの患者さんは、歩き始めるときに困難を感じますが、数歩進むうちに歩きやすくなります。

この現象は、神経筋接合部で神経伝達物質であるアセチルコリンの放出量が運動により、一時的に増えるためです。

症状特徴
筋力低下体の中心部に近い筋肉から
歩行の問題開始時に困難、続けると楽に

自律神経に関連する症状

Lambert-Eaton症候群は、体の無意識の働きを調整する自律神経系の機能にも影響を与えます。

自律神経の症状

  • 口の中が乾く
  • 便秘になりやすい
  • 排尿が難しくなる
  • 性機能に問題が生じる
  • 汗のかき方が通常と異なる

目に関する症状と反射の低下

Lambert-Eaton症候群では、目に関連する症状が現れることもあります。

物が二重に見える(複視)や、まぶたが下がる(眼瞼下垂)といった症状が報告されていますが、重症筋無力症ほど目立つものではありません。

また、腱反射(医師が膝などを軽くたたいたときの反応)が弱くなったり、消えたりすることも特徴的な所見です。

目の症状反射の変化
物が二重に見える腱反射が弱くなる
まぶたが下がる反射が消失する場合も

症状の変化しやすさ

Lambert-Eaton症候群の症状は、一日の中でも朝方に症状が重くなり、日中に楽になるなどの変動をしたり、長期的に変化したりします。

また、風邪などの感染症にかかったときや、ストレスを感じたときに、症状が一時的に悪化することも。

Lambert-Eaton症候群の原因

Lambert-Eaton症候群は、神経筋接合部(神経と筋肉がつながる部分)での自己免疫反応が原因で起こります。

自己免疫反応のしくみ

Lambert-Eaton症候群では、免疫システムが間違って、神経筋接合部にある電位依存性カルシウムチャネル(VGCC、電気信号に反応してカルシウムを通す穴)を攻撃してしまいます。

この誤った攻撃により、神経の末端からアセチルコリン(筋肉を動かすための信号物質)の放出が減り、筋肉がうまく縮むことができなくなります。

VGCCに対する自己抗体(自分の体の一部を攻撃する抗体)ができることが、根本的な原因です。

がんとの関係

Lambert-Eaton症候群には、がんに関連するタイプと関連しないタイプの2種類があります。

がんに関連するLambert-Eaton症候群は、特に小細胞肺がんとの関係が深いです。

がんの種類関連の強さ
小細胞肺がんとても強い
前立腺がんやや強い
胸腺腫(きょうせんしゅ)弱い

がん細胞が出す物質が免疫系を刺激し、VGCC抗体を作り出すよう促します。

がんに関連しないケースでは、他の自己免疫疾患や遺伝子の影響が関係している可能性が高いです。

遺伝子と環境の影響

Lambert-Eaton症候群の発症は、特定のHLA(ヒト白血球抗原、免疫に関わる遺伝子)を持つ人がなりやすいことが分かっています。

環境要因も病気のきっかけになる可能性があります。

  • ウイルス感染
  • 化学物質への曝露
  • ストレス
  • 喫煙

神経伝達物質の働き

Lambert-Eaton症候群では、神経伝達物質(神経細胞間で信号を伝える物質)の放出に関わる過程に障害が生じます。

神経伝達物質影響
アセチルコリン放出が減る
カルシウムイオンチャネルの働きが弱まる
カリウムイオン間接的に影響を受ける

VGCCの働きが弱まることで、神経の末端へのカルシウムイオンの流入が減り、結果としてアセチルコリンの放出が妨げられます。

この一連の反応が、筋力が弱くなったり自律神経の症状が出たりする原因です。

免疫系の異常な反応

Lambert-Eaton症候群における免疫系の異常な反応は、様々な要因が絡み合って起こります。

  • T細胞(免疫細胞の一種)の働きがおかしくなる
  • B細胞(抗体を作る細胞)が過剰に活発になる
  • サイトカイン(免疫細胞間の情報伝達物質)のバランスが崩れる

診察(検査)と診断

Lambert-Eaton症候群の診断は臨床評価、神経の機能を確認する検査、そして特殊な血液検査を組み合わせて行います。

臨床症状の評価

Lambert-Eaton症候群の診断では、筋力の弱さやその他の症状がどのように現れているか、時間とともにどう変化するかを観察します。

特に注意するのは、体の中心に近い筋肉(近位筋)の弱さや、動きを繰り返すことで筋力が良くなる現象(ワクシング現象)です。

また、自律神経の働きに関連する症状(口の渇きや便秘など)があるかも確認します。

評価項目症状
筋力の弱さ体の中心に近い筋肉から、動きを繰り返すと良くなる
自律神経の症状口が渇く、便秘になりやすいなど

神経学的検査

神経学的検査では、筋力や反射、感覚の機能などを調べます。

Lambert-Eaton症候群では、次のような症状が見られることが多いです。

  • 体の中心に近い筋肉の弱さ
  • 腱反射(医師が膝などをたたいたときの反応)が弱いか、なくなっている
  • 動作を繰り返すと一時的に筋力が良くなる
  • 目に関する症状(物が二重に見える、まぶたが下がるなど)

電気生理学的検査

Lambert-Eaton症候群の診断では、電気を使って神経と筋肉の働きを調べる検査が重要です。

  1. 反復神経刺激試験:神経に繰り返し電気刺激を与え、筋肉の反応を観察。Lambert-Eaton症候群では、ゆっくりした刺激で反応が小さくなり、速い刺激で反応が大きくなる変化が見られる。
  2. 単一線維筋電図:神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)の働きを細かく調べる。

検査結果は、Lambert-Eaton症候群に特有のパターンを示すため、診断の確実性を高めます。

検査名Lambert-Eaton症候群で見られる特徴
反復神経刺激試験ゆっくり刺激すると反応が小さく、速く刺激すると反応が大きくなる
単一線維筋電図神経と筋肉のつなぎ目の異常が見られる

血液検査

Lambert-Eaton症候群の最終的な診断には、血液検査が欠かせません。

特に重要なのは、患者さんの約85-90%で見つかる電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)という体内のタンパク質に対する自己抗体を調べる検査です。

抗VGCC抗体の検査は、放射性同位元素を使う方法(RIA)や酵素を使う方法(ELISA)で行います。

鑑別診断

Lambert-Eaton症候群の診断では、似たような症状が出る他の疾患と鑑別することも大切です。

鑑別すべき疾患

  • 重症筋無力症(筋肉の弱さが主な症状の自己免疫疾患)
  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS、運動神経が徐々に障害される病気)
  • 多発性筋炎(筋肉に炎症が起こる病気)
  • 多発性硬化症(脳や脊髄の神経に炎症が起こる病気)

Lambert-Eaton症候群の治療法と処方薬、治療期間

Lambert-Eaton症候群の治療は、免疫抑制療法と症状緩和療法を組み合わせて行います。

免疫抑制療法

Lambert-Eaton症候群の治療には、体の免疫反応を抑える免疫抑制療法が効果的です。

この治療法では、自己抗体(自分の体を攻撃してしまう抗体)の生成を抑え、神経筋接合部(神経と筋肉のつながり)の働きを良くすることを目指します。

主な免疫抑制薬

  • プレドニゾン(飲み薬のステロイド)
  • アザチオプリン
  • シクロスポリン
  • ミコフェノール酸モフェチル

薬剤は単独で使うこともあれば、組み合わせて使うこともあります。

症状緩和治療

免疫抑制療法と同時に、症状を軽減するための対症療法も大切です。

薬の名前働き
3,4-ジアミノピリジン神経の信号を伝える物質の放出を増やす
ピリドスチグミンアセチルコリン(神経の信号を伝える物質)の分解を遅らせる
グアニジンカルシウムチャネル(細胞内外のカルシウムの出入りを制御する穴)の働きを良くする

3,4-ジアミノピリジンは、筋力を上げるのに効果があり、多くの患者さんで症状がはっきりと良くなります。

ピリドスチグミンは、神経と筋肉のつながりでアセチルコリンの働きを長く続かせ、筋力の低下を改善します。

血漿交換療法と免疫グロブリン療法

症状が重かったり急速に悪化する場合は、より積極的な治療法を選ぶことがあります。

血漿交換療法は、患者さんの血液から自己抗体を含む血漿を取り除き、新しい血漿と入れ替える治療法です。

治療法効果が続く期間頻度
血漿交換療法2〜4週間週に1〜2回
免疫グロブリン療法3〜8週間月に1回

免疫グロブリン療法は、健康な人から集めた抗体を大量に点滴で入れる治療法で、自己抗体の働きを抑えます。

どちらの治療法も、すぐに効果が出て短期的な症状改善に有効ですが、効果は一時的なので、繰り返し行うことが多いです。

がんに関連した症例の治療

Lambert-Eaton症候群の約60%は、小細胞肺がんなどの悪性腫瘍が関係して起こります。

がんに関連した症例では、がんそのものの治療がLambert-Eaton症候群の症状改善につながります。

がん治療の選択肢

  • 手術で取り除く
  • 抗がん剤治療(化学療法)
  • 放射線治療

治療期間と経過観察

Lambert-Eaton症候群の治療は長く続き、症状を完全になくすことを目指します。

治療を始めてから数週間で症状が良くなることもありますが、多くの場合、数ヶ月から1年以上続けての治療が必要です。

Lambert-Eaton症候群の治療における副作用やリスク

Lambert-Eaton症候群の治療では、使用する薬剤や治療法に応じて様々な副作用が生じます。

免疫抑制療法の副作用

Lambert-Eaton症候群の主要な治療法である免疫抑制療法では、複数の副作用に注意が必要です。

代表的な免疫抑制薬であるプレドニゾロンやアザチオプリンの使用により、以下のような副作用が発現することがあります。

  • 感染症に対する易感染性の上昇
  • 骨粗鬆症の進行
  • 消化器症状(胃潰瘍など)の出現
  • 血糖値の上昇
  • 体重増加
薬剤名副作用
プレドニゾロン骨粗鬆症、血糖値上昇
アザチオプリン肝機能障害、骨髄抑制

症状改善薬のリスク

Lambert-Eaton症候群の症状改善に使用される3,4-ジアミノピリジン(3,4-DAP)には、特有のリスクがあります。

3,4-DAPの副作用

  • 末梢性の感覚異常(しびれ感、異常感覚)
  • 消化器症状(腹痛、下痢)
  • 神経系症状(めまい、頭痛)
  • 不眠
  • 不整脈

血漿交換療法のリスク

重症例や急性増悪時に検討される血漿交換療法にも、いくつかのリスクがあります。

血漿交換療法に関連するリスク

  • アレルギー反応
  • 感染症
  • 凝固異常
  • 低血圧
  • 電解質異常
リスク対策
アレルギー反応事前のアレルゲン検査
感染症厳重な無菌操作の実施

免疫グロブリン療法の副作用

免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)もLambert-Eaton症候群の治療選択肢の一つですが、複数の副作用があります。

IVIgの副作用

  • 頭痛
  • 発熱
  • 悪寒
  • 筋肉痛
  • 血圧変動

まれではありますが、急性腎不全や血栓塞栓症などの重篤な合併症のリスクもあります。

長期使用のリスク

Lambert-Eaton症候群の治療は長期に及ぶことが多く、薬剤の長期使用に伴うリスクにも注意が必要です。

免疫抑制薬の長期使用のリスク

  • 骨粗鬆症の進行
  • 糖尿病の発症または悪化
  • 高血圧
  • 白内障
  • 緑内障

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の費用

外来診療では、薬物療法と定期的な検査が行われます。

治療内容概算費用(月額・保険適用後)
免疫抑制薬5,000円〜20,000円
症状緩和薬3,000円〜10,000円
血液検査2,000円〜5,000円

入院治療の費用

症状が重かったり特殊な治療が必要な際は、入院治療が必要です。

治療内容概算費用(1回あたり・保険適用後)
血漿交換療法30,000円〜50,000円
免疫グロブリン療法50,000円〜100,000円

関連する検査費用

Lambert-Eaton症候群の診断や経過観察には、様々な検査を実施します。

  • 筋電図検査 3,000円〜5,000円
  • CT検査 5,000円〜10,000円
  • MRI検査 10,000円〜20,000円
  • 抗体検査 5,000円〜15,000円

以上

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