Lennox-Gastaut症候群(Lennox-Gastaut syndrome)とは、小児期に発症する難治性てんかんの一つで、複数の発作型を伴う重度の脳機能障害を特徴とする神経疾患です。
2歳から6歳の間に症状が顕在化しますが、成人期に発症することもあります。
Lennox-Gastaut症候群は、知的障害や発達の遅れを伴うことが多いです。
Lennox-Gastaut症候群の主な症状
Lennox-Gastaut症候群は、多様かつ重度の発作を起こします。
多彩な発作型
Lennox-Gastaut症候群の特徴は、複数の発作型が混在することです。
- 強直発作(全身の筋肉が突然硬直する)
- 脱力発作(突然の筋力低下により転倒する)
- 非定型欠神発作(短時間の意識消失)
- ミオクロニー発作(筋肉の瞬間的な収縮)
発作は昼夜を問わず頻繁に発生し、脱力発作は予期せぬ転倒によって重大な外傷を起こす危険性が高いため、細心の注意が必要です。
発作型 | 特徴 |
強直発作 | 全身の筋肉が突如として硬直 |
脱力発作 | 急激な筋力低下による転倒 |
非定型欠神発作 | 短時間の意識消失状態 |
ミオクロニー発作 | 筋肉の瞬間的かつ不随意な収縮 |
認知機能の障害
Lennox-Gastaut症候群で多く見られるのは、知的能力の低下や学習能力の障害です。
認知機能の問題は、発作の重症度や頻度関連していて、症状の進行とともに悪化します。
認知機能障害の種類 | 影響を受ける領域 |
知的障害 | 全般的な知的能力や理解力 |
学習障害 | 読解、文章作成、数学的思考 |
注意力障害 | 集中力の持続、選択的注意 |
記憶障害 | 短期記憶、長期記憶の形成と保持 |
運動発達の遅延
Lennox-Gastaut症候群の患者さんでは、運動発達の遅れが観察されます。
運動発達の遅延は、頻発する発作や長期にわたる抗てんかん薬の使用による副作用が原因です。
運動発達の遅れは、歩行の開始時期や微細運動スキルに影響を及ぼし、日常生活動作の習得を困難にします。
行動面における課題
Lennox-Gastaut症候群の患者さんには、行動上の問題が観察されることが少なくありません。
多動性、注意散漫、衝動的な行動、さらに、自閉症スペクトラム障害に似た特徴や、対人関係の構築における困難さも報告されています。
行動上の問題 | 表れ方 |
多動性 | 過度の落ち着きのなさ、絶え間ない動き回り |
注意散漫 | 集中力の持続困難、指示理解の不十分さ |
衝動性 | 熟慮せずに行動、潜在的危険への無頓着 |
社会性の課題 | 円滑なコミュニケーションの困難、対人関係構築の苦手さ |
Lennox-Gastaut症候群の原因
Lennox-Gastaut症候群(LGS)の原因は、脳の広範囲な機能障害です。
遺伝的要因の関与
特定の遺伝子の異常が、脳の発達や神経系の機能に影響を与え、LGSの発症リスクを高める可能性があります。
LGSと関連する遺伝子
遺伝子名 | 関連する機能 |
SCN1A | ナトリウムチャネル(神経細胞の電気的活動に関与) |
CDKL5 | シグナル伝達(細胞間の情報伝達に重要) |
ARX | 脳の発達(神経細胞の形成や配置に関与) |
STXBP1 | シナプス機能(神経細胞間の情報伝達に必要) |
脳の構造的異常
LGSの原因として、脳の構造的な異常も重要な要因の一つです。
脳の異常は、出生前(胎児期)、出生時、あるいは生後早期に生じ、正常な発達や機能を妨げます。
脳の構造的異常
- 皮質形成異常(大脳皮質の構造や配置の異常)
- 脳梗塞(脳の血管が詰まることによる組織の損傷)
- 脳出血(脳内での出血による組織の損傷)
- 低酸素性虚血性脳症(出生時などの酸素不足による脳の損傷)
- 脳腫瘍(脳内に発生する異常な組織の増殖)
代謝異常と感染症
代謝異常や感染症もLGSの原因です。
代謝異常は体内の化学物質のバランスを崩し、脳の機能に悪影響を与え、感染症は脳に直接的な損傷を与えたり、免疫系の過剰反応を通じて間接的に脳に影響を及ぼします。
LGSと関連する代謝異常と感染症
代謝異常 | 感染症 |
フェニルケトン尿症(アミノ酸代謝異常) | 先天性トキソプラズマ症(寄生虫感染) |
ピリドキシン依存症(ビタミンB6代謝異常) | 先天性サイトメガロウイルス感染症 |
尿素サイクル異常症(アンモニア代謝異常) | 細菌性髄膜炎(脳や脊髄を覆う膜の感染) |
ミトコンドリア病(細胞のエネルギー産生異常) | 脳炎(脳実質の炎症) |
特発性(原因不明)の場合
一部のLGS症例では明確な原因を特定できないことがあり「特発性」と呼ばれ、原因が不明な状態です。
特発性の場合でも、知られていない遺伝的要因や環境要因が関与している可能性があります。
原因カテゴリー | 割合(推定) | 特徴 |
構造的脳異常 | 30-50% | 画像検査で確認可能 |
遺伝的要因 | 20-30% | 遺伝子検査で特定 |
代謝異常 | 5-10% | 血液・尿検査で診断 |
感染症 | 5-10% | 病歴や検査で判明 |
特発性 | 20-30% | 原因不明 |
診察(検査)と診断
Lennox-Gastaut症候群の診断は病歴聴取から始まり、神経学的診察、脳波検査、画像診断などの複数の検査を組み合わせて行われます。
病歴聴取と神経学的診察
Lennox-Gastaut症候群の問診では発作の種類や頻度、持続時間、初めて発作が起きた年齢などの情報を収集していきます。
同時に、発達の遅れや認知機能の変化についても確認を行います。
病歴聴取の項目 | 確認すべき内容 |
発作の特徴 | 発作の種類、頻度、持続時間、発作前後の状態 |
発症年齢 | 初回発作の時期、発作パターンの変化 |
発達歴 | 運動・言語発達の遅れ、退行の有無 |
家族歴 | てんかんや他の神経疾患の家族内発症 |
脳波検査
Lennox-Gastaut症候群の診断には、脳波検査は欠かせません。
特徴的な脳波所見は、覚醒時には全般性徐棘徐波複合(脳全体に広がるゆっくりとした波と鋭い波の組み合わせ)が、睡眠時には速律動(速い波形の連続)が観察されることです。
長時間にわたるビデオ脳波モニタリングを実施することで、発作時の脳波変化と実際の症状との関連性を観察し、分析できます。
画像検査
脳の構造的な異常を詳しく調べるため、MRI検査が実施されます。
Lennox-Gastaut症候群の患者さんの中には、皮質形成異常(脳の表面の構造に異常がある状態)や腫瘍、血管の形成異常などの脳の器質的な病変が認められるケースがあります。
ただし、MRI上で明らかな異常が見られない患者さんもいるため、画像所見の解釈には注意が必要です。
より詳細な脳機能の評価が必要な場合には、PET(陽電子放射断層撮影)やSPECT(単一光子放射断層撮影)などの機能的画像検査も補助的に用いられ、脳の代謝活動や血流の変化を視覚化できます。
画像検査の種類 | 評価内容と特徴 |
MRI | 脳の構造的異常を高解像度で描出、放射線被曝なし |
PET | 脳の代謝活動を可視化、微細な機能異常の検出に有用 |
SPECT | 脳血流の変化を評価、発作時と発作間欠期の比較が可能 |
臨床診断と確定診断のプロセス
Lennox-Gastaut症候群の臨床診断は、特徴的な所見を総合的に評価して進められます。
- 複数の発作型(特に強直発作と脱力発作)が混在して出現すること
- 知的障害や発達の遅れが認められること
- 特徴的な脳波所見(全般性徐棘徐波複合と速律動)が確認されること
Lennox-Gastaut症候群の治療法と処方薬、治療期間
Lennox-Gastaut症候群(LGS)の治療は、抗てんかん薬による薬物療法を中心に、食事療法、外科的治療、神経刺激療法を組み合わせて行われます。
薬物療法
LGSで最も用いられる治療法は、薬物療法です。
複数の抗てんかん薬を組み合わせて使用することが多く、患者さんの発作の種類や頻度、年齢などを考慮しながら行います。
使用される抗てんかん薬
薬剤名 | 作用 | 特徴 |
バルプロ酸 | 広範囲の発作に効果 | LGSの第一選択薬として広く使用される |
ラモトリギン | 部分発作と全般発作に有効 | 認知機能への影響が比較的少ない |
トピラマート | 複数の発作型に効果 | 食欲抑制作用もある |
クロバザム | 不安軽減と発作抑制 | 睡眠の質を改善する効果も期待できる |
食事療法
薬物療法と並行して、ケトン食療法も有効な選択肢です。
こ高脂肪、低炭水化物、適度なタンパク質の食事を摂ることで、体をケトーシス状態(脂肪をエネルギー源として利用する状態)にし、発作を抑制する効果があります。
ケトン食療法
- 適応の判断 患者さんの全身状態や病歴を評価
- 栄養士による食事プランの作成 個々の患者さんに合わせて食事内容を決定
- 段階的な食事内容の変更 急激な変更を避け、体を徐々に新しい食事に慣れさせる
- 定期的な血液検査とモニタリング 栄養状態や代謝の変化をチェック
- 必要に応じた調整 効果や副作用を見ながら、食事内容を微調整
食事療法は、薬物療法だけでは十分な効果が得られないときに考慮されます。
外科的治療
薬物療法や食事療法で十分な発作コントロールが得られない難治性の症例では、外科的治療が検討されます。
LGSに対する外科的治療
手術名 | 適応 | 期待される効果 |
脳梁離断術 | 半球間の発作波の伝播を遮断 | 全般化発作の減少 |
皮質切除術 | 発作の焦点となる脳領域を切除 | 部分発作の消失または減少 |
半球離断術 | 重度の片側性病変がある場合 | 対側半球の機能改善 |
神経刺激療法
神経刺激療法は、LGSの新たな治療の選択肢です。
電気的な刺激を特定の神経に与えることで、発作を抑制する効果があり、従来の治療法では十分な効果が得られなかった患者さんに用いられます。
神経刺激療法
- 迷走神経刺激療法(VNS) 首の迷走神経に電気刺激を与え、脳の興奮を抑える
- 深部脳刺激療法(DBS) 脳の深部に電極を埋め込み、異常な電気活動を調整
- 応答性神経刺激療法(RNS) 発作の前兆を検知して、ピンポイントで電気刺激を与える
長期的な治療管理
LGSの治療は長期にわたるため、定期的な評価と調整が不可欠です。
治療の経過観察
評価項目 | 頻度 | 目的 |
発作頻度の記録 | 毎日 | 治療効果の把握と調整 |
薬物血中濃度測定 | 1-3ヶ月ごと | 適切な薬物用量の維持 |
脳波検査 | 3-6ヶ月ごと | 脳の電気活動の変化を観察 |
神経学的診察 | 1-3ヶ月ごと | 全身状態と神経機能の評価 |
Lennox-Gastaut症候群の治療における副作用やリスク
Lennox-Gastaut症候群の治療には抗てんかん薬の使用をはじめ、外科的介入、食事療法、免疫療法などが含まれ、治療法にはそれぞれ副作用やリスクがあります。
抗てんかん薬による副作用
抗てんかん薬は、Lennox-Gastaut症候群の治療において基本となる薬剤ですが、様々な副作用があります。
副作用として、眠気やめまい、吐き気などが挙げられ、多くの場合、服薬開始直後や増量時に一時的に現れ、その後徐々に改善することが多いです。
また、認知機能への影響や行動の変化も報告されています。
長期にわたって抗てんかん薬を使用する場合、骨密度の低下や肝機能障害などの副作用も懸念されるため、定期的な検査と対策が不可欠です。
抗てんかん薬 | 副作用と注意点 |
バルプロ酸 | 肝機能障害、血小板減少、膵炎のリスク。定期的な血液検査が重要。 |
ラモトリギン | 皮疹、重篤な場合はスティーブンス・ジョンソン症候群。特に投与開始時の慎重な観察が必要。 |
トピラマート | 認知機能低下、言語障害、腎結石。水分摂取の励行と定期的な腎機能検査が望ましい。 |
ステロイド療法に伴うリスクの管理
難治性の発作に対してステロイド療法が用いられることがありますが、短期および長期の副作用について十分な注意が必要です。
短期的には、免疫機能の低下による感染症のリスク増大、血糖値の上昇、胃潰瘍の発症などが問題になります。
長期使用では、骨粗鬆症、白内障、成長障害などのリスクが高まるため、使用期間や投与量の調整が大切です。
外科的治療に伴うリスク
薬物療法で十分な発作抑制効果が得られない場合、外科的治療が選択肢として検討されますが、手術にはいろいろなリスクがあります。
手術には、感染症や出血、神経機能障害などのリスクが伴い、また手術後に新たな発作型が現れることもあるため、手術の適応については慎重な検討が必要です。
外科的治療 | リスクと術後の注意点 |
脳梁離断術 | 一時的な言語障害、運動障害。術後のリハビリテーションが重要。 |
皮質切除術 | 永続的な神経機能障害の可能性。切除部位に応じた機能評価と長期的なフォローアップが必要。 |
迷走神経刺激療法 | 声の変化、咳、嚥下障害。刺激強度の調整と経過観察が重要。 |
ケトン食療法における副作用
ケトン食療法は、難治性てんかんに対する非薬物療法の一つとして注目されているものの、いくつかの副作用やリスクがあるため、専門家の指導のもとで実施します。
短期的な副作用として、便秘や脱水、低血糖などが見られますが、食事内容の調整や水分補給で対処できることが多いです。
長期的には、成長障害や腎結石、高脂血症などのリスクがあるため、定期的な身体計測や血液検査、尿検査などによるモニタリングが不可欠です。
免疫療法におけるリスク管理
難治例に対して免疫グロブリン療法やステロイドパルス療法などの免疫療法が試みられ、固有の副作用があります。
免疫グロブリン療法では、ありますがアナフィラキシーショックや血栓症のリスクがあるため、投与中および投与後の厳重な観察が必要です。
ステロイドパルス療法では、短期間に大量のステロイドを投与するため、感染症のリスクが高まります。
免疫療法 | リスクと対策 |
免疫グロブリン療法 | アナフィラキシー、血栓症。投与速度の調整と抗凝固療法の検討 |
ステロイドパルス療法 | 感染症、電解質異常。感染予防と定期的な血液検査が重要 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
薬物療法にかかる費用
LGSの治療の基本となる抗てんかん薬の費用は、使用する薬剤の種類や量によって変動します。
薬剤名 | 1ヶ月あたりの概算費用(保険適用後) |
バルプロ酸 | 3,000円〜5,000円 |
ラモトリギン | 5,000円〜10,000円 |
トピラマート | 8,000円〜15,000円 |
クロバザム | 4,000円〜8,000円 |
多くの場合複数の薬剤を併用するため、月々の薬剤費は1万円から3万円です。
入院費用
LGSの患者さんは、症状のコントロールや治療方針の決定のために入院が必要になることがあります。
入院費用の目安
- 一般病棟(3週間) 約30万円〜50万円
- 集中治療室(1週間) 約50万円〜80万円
検査費用
LGSの診断や経過観察には、様々な検査が必要です。
検査項目 | 費用(保険適用後) |
脳波検査 | 5,000円〜10,000円 |
MRI検査 | 15,000円〜25,000円 |
血液検査 | 3,000円〜8,000円 |
検査は定期的に行われるため、年間で10万円から20万円程度の費用がかかります。
外科的治療の費用
難治性のLGSに対しては、外科的治療が選択されます。
- 脳梁離断術 150万円〜250万円
- 迷走神経刺激療法(VNS) 200万円〜300万円
以上
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