Machado-Joseph病(Machado-Joseph disease)とは、遺伝子の変異によって起こる神経変性疾患で、小脳や脳幹、脊髄などの神経系に進行性の障害が生じる病気です。
成人期に発症することが多く、歩行時のふらつきや手足の震え、飲み込みの困難さなどの症状から始まり、徐々に全身の運動機能に影響が及んでいきます。
この病気は常染色体優性遺伝形式で遺伝し、両親のいずれかが保因者である場合、子どもが発症する可能性は50パーセントです。
Machado-Joseph病の主な症状
Machado-Joseph病は、小脳性運動失調を主症状として発症し、進行性の歩行障害、構音障害、嚥下障害、眼球運動障害などの多彩な神経症状が徐々に現れます。
神経学的症状の特徴
運動失調はMachado-Joseph病でよく見られる神経症状です。
体幹や四肢の協調運動に顕著な障害が現れることから、患者さんの日常生活動作に大きな影響を与えます。
歩行時のふらつきや転倒傾向が初期から目立ち、疾患の進行に伴って歩行補助具の使用が必要となるため、定期的な身体機能評価と歩行状態の確認が欠かせません。
眼球運動の制限や複視などの視覚症状も多くの患者さんに認められ、読書や細かい作業、移動時の安全確保などに問題が生じます。
症状カテゴリー | 症状 |
運動系症状 | 歩行時のふらつき、手足の震え |
視覚系症状 | 複視、眼球運動障害 |
構音・嚥下系 | 呂律不良、むせ込み |
自律神経系 | 排尿障害、発汗異常 |
進行性の症状変化
神経症状は20〜40歳代で発症し、徐々に進行します。
初期段階では軽度の歩行障害や構音障害が主体となりますが、時間経過とともに症状は多様化し重症度も増していきます。
眼球運動障害は疾患の進行過程で重要な指標で、上方視や側方視の制限が顕著になることから、定期的な診察と評価が不可欠です。
身体機能への影響
Machado-Joseph病における主要な身体機能
- 運動機能障害による姿勢保持の困難さ
- 眼球運動の制限による視覚情報処理の低下
- 構音障害によるコミュニケーションの変化
- 自律神経症状による体調管理の必要性
- 嚥下機能低下による食事摂取への影響
症状の個人差と進行パターン
発症年齢 | 主な初期症状 |
20代 | 歩行障害、めまい |
30代 | 構音障害、複視 |
40代 | 手指の震え、筋力低下 |
運動失調の程度や進行速度には年齢や遺伝子変異の型によって症状の出現パターンが異なることから、患者さんの状態に応じた観察と評価が必要です。
筋緊張の異常は疾患の進行に伴って悪化し、下肢での症状が顕著となることから、定期的な評価と機能訓練を実施します。
自律神経症状としては排尿障害や発汗異常などが見られ、体調管理に影響を及ぼします。
眼球運動障害は複視や注視眼振として現れ、読書や細かい作業に支障をきたすことがあるため、定期的な視機能評価も考慮に入れることが大切です。
嚥下障害は誤嚥性肺炎のリスクを高める不可欠な症状として認識されており、言語聴覚士による嚥下機能評価と摂食指導が推奨されます。
Machado-Joseph病の原因
Machado-Joseph病は、DNAの中のATXN3という遺伝子に変化が起きることで発症する遺伝性の神経疾患です。
遺伝子変異
DNAの中には、文字の並びのような形で遺伝情報が書き込まれており、ATXN3遺伝子の中にはCAGという3つの文字の組み合わせが繰り返し並んでいる部分があります。
Machado-Joseph病では、その繰り返しの数が通常よりもずっと多いのが特徴です。
このCAGの繰り返しの数は、病気の発症年齢とも関係があります。
CAGリピート回数 | 発症年齢 | 病気の進行速度 |
61-67回 | 50歳以上 | 比較的緩やか |
68-74回 | 30-50歳 | 中程度 |
75回以上 | 30歳未満 | 比較的早い |
遺伝の仕組みと特徴的な性質
遺伝子の変化が次の世代へと受け継がれていく仕組は以下の通りです。
- 親から子へと50%の確率で遺伝子変異が伝わる
- 世代を重ねるごとにCAGの繰り返し回数が増える
- 男性でも女性でも同じように発症
- 片方の親から変異遺伝子を受け継ぐだけで発症
- 遺伝子検査で確実な診断が可能
アタキシン3タンパク質の働きと異常
Machado-Joseph病では、ATXN3遺伝子から作られるアタキシン3というタンパク質の影響があります。
タンパク質の役割 | 正常な場合の働き | 異常が起きた場合の影響 |
細胞の掃除係 | 不要なタンパク質を分解 | 掃除が追いつかなくなる |
品質管理 | 異常なタンパク質を発見 | 異常を見逃してしまう |
神経細胞の保護 | 細胞の健康を維持 | 細胞が徐々に弱っていく |
情報伝達の調整 | スムーズな神経伝達 | 情報伝達が乱れる |
細胞の中で起こる変化
遺伝子の変異によって異常な形になったアタキシン3タンパク質は、脳や神経の細胞の中で次々と集まって固まりを作ってしまい、細胞の正常な働きを妨げます。
異常なアタキシン3タンパク質は細胞の中の様々な仕組みに悪影響を及ぼすことも分かってきており、細胞のエネルギー工場と呼ばれるミトコンドリアの働きを低下させたり、細胞内のカルシウムの量のバランスを崩したり、細胞を傷つける物質を増やしたりするなど、複数の問題を起こします。
診察(検査)と診断
Machado-Joseph病の診断においては、問診と神経学的診察を基盤として実施し、画像検査による形態学的評価を経て、最終的には遺伝子解析による確定診断に至ります。
問診と家族歴聴取
聴取項目 | 確認事項 |
初発症状 | 歩行の不安定さ、めまい感 |
発症時期 | 症状自覚時の年齢、季節 |
家族歴 | 血縁者の類似症状の有無 |
進行経過 | 症状の変化、増悪傾向 |
問診においては、初発症状の性質や出現時期について時系列での把握を進めていくとともに、症状の進行パターンや日常生活における影響について、患者さんやご家族から情報を収集していきます。
特に若年発症例においては、家族歴の有無が診断の重要な手がかりです。
神経学的診察の手順
神経学的診察では以下の項目について段階的な確認を行います。
- 脳神経系機能の確認と記録
- 運動機能の定量的測定
- 反射検査による神経学的所見の採取
- 協調運動の定性的観察
- 自律神経機能の確認
協調運動の観察においては、歩行状態や手指の動きなど、複数の動作について観察を行い、神経学的な異常の分布や程度について評価を行っていくことが大切です。
画像診断
検査方法 | 観察対象となる部位 |
MRI検査 | 小脳、脳幹部、大脳 |
CT検査 | 頭蓋内全体像、出血性病変 |
SPECT | 脳血流分布、代謝状態 |
頭部MRI検査では、小脳や脳幹部における萎縮の有無や程度について観察を行い、T1強調画像やT2強調画像、FLAIR画像など、複数の撮像法を組み合わせることで、より正確な形態学的評価を行うことが可能です。
CT検査は、頭蓋内の全体像を把握するとともに、出血性病変の有無について確認を行うことで、他の神経疾患との鑑別診断に役立ちます。
SPECT検査では、脳血流分布や代謝状態について観察を行うことで、機能的な異常の分布や程度について評価を行うことができます。
遺伝子検査による診断確定
染色体検査では、ATXN3遺伝子におけるCAGリピート数の解析を行い、疾患との関連性について分子生物学的な検討を加えて、診断を確定します。
Machado-Joseph病の治療法と処方薬、治療期間
Machado-Joseph病の治療には、薬物療法、理学療法、作業療法、言語聴覚療法などを組み合わせた総合的なアプローチが必要です。
薬物療法による治療
薬物療法では、運動症状の緩和を目的としたバクロフェンやダントロレンなどの筋弛緩薬を使用し、3~6ヶ月かけて効果を確認しながら投与量を調整していきます。
筋弛緩薬の投与で大切なのは、まず少量から開始し、2週間ごとに効果と体の反応を見ながら徐々に増量していくことです。
バクロフェンは脊髄での神経伝達に作用する薬剤で、筋肉の過度な緊張を和らげ、6ヶ月から1年かけてゆっくりと効果を確認しながら継続投与を行います。
ダントロレンは筋肉に直接働きかけて弛緩作用をもたらす薬剤で、3ヶ月から6ヶ月の投与期間で効果が現れることが多いです。
チザニジンは中枢神経系に作用して筋緊張を抑制する薬剤で、6ヶ月から1年程度の継続投与により安定した効果を得られることが期待できます。
アマンタジンは神経伝達物質に作用して運動機能の改善を促し、3ヶ月から1年程度の投与期間で効果を評価しながら継続していきます。
主な治療薬と投与期間
薬剤名 | 一般的な投与期間 | 主な作用 |
バクロフェン | 6ヶ月~1年 | 筋緊張緩和 |
ダントロレン | 3ヶ月~6ヶ月 | 筋弛緩作用 |
チザニジン | 6ヶ月~1年 | 痙縮抑制 |
アマンタジン | 3ヶ月~1年 | 運動機能改善 |
理学療法とリハビリテーション
理学療法では、筋力維持と関節可動域の確保を目指します。
関節可動域訓練では受動的な関節運動から始めて、徐々に自動運動へと移行していき、週3回60分程度の訓練を継続的に実施していきます。
バランス訓練では、座位保持から立位保持、さらには動的なバランス能力の向上へと段階的に進めていき、週2回30分程度の訓練です。
歩行訓練では、平行棒内での歩行練習から始めて、徐々に補助具を使用した歩行、さらには自立歩行へと目標を設定し、週3回45分程度の訓練を行います。
- 関節可動域訓練 週3回 60分/回
- バランス訓練 週2回 30分/回
- 歩行訓練 週3回 45分/回
- 筋力維持運動 週3回 45分/回
- 日常生活動作訓練 週2回 60分/回
作業療法による機能回復
作業療法では、日常生活における基本的な動作の維持・改善が目標です。
訓練内容 | 実施頻度 | 継続期間 |
上肢機能訓練 | 週3回 | 6ヶ月以上 |
手指巧緻動作訓練 | 週2回 | 3ヶ月以上 |
生活動作訓練 | 週3回 | 継続的 |
道具使用訓練 | 週2回 | 3ヶ月以上 |
言語聴覚療法
言語聴覚療法では、嚥下機能や構音機能の維持・改善を目的とした訓練を行い、機能の低下を最小限に抑えることが重要です。
言語聴覚療法は、嚥下機能評価に基づいてプログラムを作成し、週2~3回の頻度で実施します。
Machado-Joseph病の治療における副作用やリスク
Machado-Joseph病の治療では、症状緩和のために使用する薬剤による副作用と、合併症予防のための投薬や処置に伴うリスクがあります。
薬物療法における副作用
使用薬剤 | 主な副作用 |
筋弛緩薬 | 眠気、めまい、消化器症状 |
抗痙攣薬 | 肝機能障害、皮膚症状 |
抗めまい薬 | 口渇、便秘、頭痛 |
各薬剤の使用に際しては、血液検査による定期的な肝機能や腎機能のモニタリングを実施することになりますが、特に高齢の患者さんにおいては、薬剤の代謝や排泄に影響を及ぼす要因が多いため、より慎重な投与量の調整が必要です。
投薬管理上の注意点
薬物療法における注意すべき事項として以下の点があります。
- 薬剤の相互作用による影響
- 腎機能低下時の用量調整
- 高齢者における慎重投与
- 併存疾患への配慮
- 定期的な副作用モニタリング
投薬管理においては、患者さん一人一人の状態に応じて用量の調整をし、特に腎機能や肝機能に問題がある方については、より慎重な投与設計を行います。
複数の薬剤を併用する際には、薬物相互作用による副作用の増強や新たな症状の出現に十分な注意が必要です。
リハビリテーションに関連するリスク
リスク要因 | 発生しうる事態 |
過度な運動負荷 | 筋肉痛、関節痛 |
転倒 | 骨折、外傷 |
疲労 | 体調不良、めまい |
理学療法や作業療法で、患者さんの体力や体調に合わせた負荷設定が不可欠で、運動機能が低下している方は、過度な負荷による体調悪化や転倒のリスクに配慮することが大切です。
合併症予防処置のリスク
嚥下障害に対する経管栄養導入時には、誤嚥性肺炎や局所感染のリスクについて慎重な判断が大切で、嚥下機能が低下している患者さんについては、栄養管理方法の選択に際して十分な検討が必要です。
気道感染予防のための吸引処置では、粘膜損傷や出血などの局所合併症が起こることがあります。
また、気管切開を要する状況では、局所の感染管理や出血のリスク、気道狭窄などの合併症の可能性もあります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
薬物療法にかかる費用
薬剤名 | 28日分の自己負担額 | 効能 |
バクロフェン | 2,800円~ | 筋緊張緩和 |
ダントロレン | 3,200円~ | 筋弛緩作用 |
チザニジン | 2,400円~ | 痙縮抑制 |
複数の薬剤を併用する場合は、それぞれの薬剤費が加算されます。
リハビリテーション費用
各種療法の1回あたりの自己負担額
療法の種類 | 1回の自己負担額 | 標準的な実施頻度 |
理学療法 | 460円~ | 週2-3回 |
作業療法 | 460円~ | 週2-3回 |
言語聴覚療法 | 460円~ | 週1-2回 |
医療機器・補助具の費用
Machado-Joseph病の治療では、医療機器や補助具が必要になることがあります。
機器・補助具の種類 | 自己負担額 | 使用期間の目安 |
歩行補助具 | 8,000円~ | 2-3年 |
装具類 | 12,000円~ | 1-2年 |
車椅子 | 15,000円~ | 5年程度 |
以上
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