薬物乱用頭痛(medication-overuse headache)とは、頭痛の治療薬を必要以上に服用することで起こる持続的な頭痛のことです。
この症状は、元々片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛(他の疾患が原因ではない頭痛)を患っている方が、頭痛薬を日常的に使用することで発症します。
薬物乱用頭痛の特徴は、頭痛の発生頻度や痛みの程度が増大し、使用している薬の効果が次第に弱まっていくことです。
患者さんは、頭痛を和らげるためにさらに多くの薬を摂取してしまい、結果として症状が悪化する悪循環に陥ります。
薬物乱用頭痛の主な症状
薬物乱用頭痛の症状は、頭痛薬を過剰に服用することによる長期的な頭痛であり、頭痛の発生頻度の増加、痛みの強さの上昇、使用している薬の効果減弱が挙げられます。
頭痛の頻度と持続時間
薬物乱用頭痛の最も顕著な症状は、頭痛の発生頻度が著しく高くなることです。
多くの患者さんは、一か月のうち15日以上も頭痛に悩まされます。
頭痛の持続時間も長くなり、一日中頭痛が続くこともまれではありません。
頭痛の特徴 | 薬物乱用頭痛 |
頻度 | 月15日以上 |
持続時間 | 数時間~終日 |
痛みの性質と部位
薬物乱用頭痛における痛みの性質
- 鈍く重い痛み
- 頭を帯で締め付けられるような痛み
- 脈打つような痛み
痛みを感じる部位は頭の両側に広がることが多く、ときには頭全体に及ぶこともありますが、頭の片側だけに痛みを感じる患者さんもいます。
随伴症状
薬物乱用頭痛には、頭痛以外にもさまざまな付随症状が現れることがあります。
随伴症状 | 頻度 |
吐き気 | 高い |
光過敏 | 中程度 |
音過敏 | 中程度 |
めまい | 低い |
薬物効果の変化
薬物乱用頭痛に特徴的な症状は、患者さんが日常的に使用している頭痛薬の効き目が次第に弱くなっていくことです。
そのため、頭痛を抑えるために、より多くの薬を服用する必要性を感じるようになります。
また、薬の効果が持続する時間が短くなり、頭痛が再び現れるまでの間隔が徐々に縮まっていきます。
朝方の頭痛
薬物乱用頭痛に悩む患者さんの多くは、朝方に頭痛を感じることが多いです。
この現象は、夜間睡眠中に体内の薬物濃度が低下することが関係しています。
睡眠中に薬の効果が切れることで、目覚めた際に頭痛が現れるというメカニズムが働いているのです。
時間帯 | 頭痛の特徴 |
朝方 | 発生頻度が高い |
日中 | 症状に波がある |
夜間 | 比較的軽度な場合多い |
薬物乱用頭痛の原因
薬物乱用頭痛の主な原因は、頭痛薬の過剰な使用によって起きる中枢神経系の感作と、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることです。
頭痛薬の過度な使用がもたらす悪循環
薬物乱用頭痛は、頭痛薬を必要以上に使用することで生じる二次性頭痛(別の原因によって引き起こされる頭痛)の一種です。
頭痛発作を抑えようと頭痛薬を頻繁に使用すると脳が薬物に対して徐々に慣れてしまい、効果が次第に弱くなっていき、より多くの薬物を摂取するようになり、悪循環に陥ってしまうのです。
中枢神経系の感作メカニズム
頭痛薬を長期間使用し続けると、中枢神経系に感作(かんさ)と呼ばれる現象が起こります。
感作とは、特定の刺激に対する神経系の反応性が高まってしまう状態です。
感作の段階 | 特徴 |
初期段階 | 薬物への反応性が少しずつ高まる |
進行段階 | わずかな量の薬物でも強い反応を示す |
慢性化段階 | 薬物を使用しなくても頭痛が続く |
脳内の痛みを伝える経路が過敏になり、通常であれば頭痛を起こさないような軽い刺激でも強い痛みを感じるようになってしまいます。
脳内の神経伝達物質のバランスが乱れる仕組み
薬物を過剰に摂取すると、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れてしまいます。
影響を受けやすい神経伝達物質
- セロトニン(気分や睡眠の調整に関与)
- ドーパミン(報酬系や運動機能に関与)
- ノルアドレナリン(覚醒や注意力の維持に関与)
- グルタミン酸(記憶や学習に関与)
神経伝達物質のバランスが崩れることで、痛みを感じる閾値(いきち)が低下することが、頭痛が慢性化する一因です。
薬物の種類による影響の違い
薬物乱用頭痛の原因となる薬物には様々な種類があり、それぞれ異なる影響を及ぼします。
薬物の種類 | 乱用による影響 |
アセトアミノフェン | 肝臓の機能障害のリスクが高まる |
トリプタン | セロトニン症候群(セロトニンが過剰になる状態)を引き起こす可能性がある |
エルゴタミン | 血管を収縮させる作用による副作用のリスクがある |
オピオイド | 依存性が高く、耐性(効果が弱くなること)が形成されやすい |
それぞれの薬は異なる仕組みで中枢神経系に作用し、薬物乱用頭痛の発症に関与します。
遺伝的要因と環境因子
薬物乱用頭痛の発症には、遺伝的な要因も関係していることが分かってきました。
特定の遺伝子の変異(遺伝子多型)を持つ方は、薬物乱用頭痛のリスクが高いです。
遺伝子 | 関連する機能 |
COMT | ドーパミンの代謝に関与 |
OPRM1 | オピオイド(麻薬性鎮痛薬)の受容体に関与 |
SLC6A4 | セロトニンの輸送に関与 |
遺伝的要因に加え、ストレスや生活習慣などの環境因子が互いに影響し合い、薬物乱用頭痛の発症リスクを高めます。
診察(検査)と診断
薬物乱用頭痛の診察と診断は、患者さんの病歴を聞き取り、身体の診察を行い、頭痛日記を分析し、検査を組み合わせて実施されます。
病歴聴取の重要性
薬物乱用頭痛を診断する上で、患者さんの病歴を聞き取ることが最も重要な過程です。
- 頭痛がどのくらいの頻度で起こり、どれくらい続くのか
- 頭痛薬をどのような種類で、どのくらいの頻度で使用しているのか
- 頭痛の性質(どこが痛むのか、どのくらい強い痛みなのか、他にどんな症状があるのかなど)
- 頭痛薬の効き目がどのように変化してきたか
頭痛日記の活用
頭痛日記は、薬物乱用頭痛を診断する際に欠かせません。
1〜3か月間にわたって、毎日の頭痛の状況と薬の使用状況を記録します。
記録項目 | 内容 |
頭痛 | 頻度、強さ、続いた時間 |
薬の使用 | 種類、量、使った時間 |
頭痛日記を分析し、薬物の使用パターンに問題がないかを確認します。
身体診察と神経学的検査
薬物乱用頭痛の診断では、頭痛の原因が他にないかを確認するために、身体の診察と神経系の検査も行います。
確認する項目
- バイタルサイン(血圧や脈拍など、体の基本的な状態)
- 頭や首の視診と触診
- 神経学的所見(反射の強さ、感覚の異常、体を動かす機能)
診察を通じて、薬物乱用以外の原因で起こる頭痛(二次性頭痛)の可能性がないかを評価することが大切です。
補助的検査の役割
薬物乱用頭痛を診断する際、MRIやCTなどの画像検査は必ずしも行う必要はありませんが、他の原因による頭痛の可能性を除外するために、行うこともあります。
検査 | 目的 |
MRI/CT | 脳や頭の中に異常がないかの確認 |
血液検査 | 全身の状態を調べる |
ICHD-3診断基準の適用
薬物乱用頭痛の最終的な診断は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準に基づいて行われます。
主な基準
- 1か月に15日以上頭痛がある
- 3か月を超える期間にわたって、頭痛薬を定期的に使いすぎている
- もともとあった頭痛が悪化している
鑑別診断
薬物乱用頭痛を診断する際には、他の種類の慢性的な頭痛との鑑別を行うことが大切です。
慢性片頭痛や慢性緊張型頭痛といった似たような他の頭痛と区別するために、薬の使用状況と頭痛のパターンを分析します。
この過程で、脳腫瘍などの深刻な病気による二次性頭痛の可能性についても、検討が行われます。
薬物乱用頭痛の治療法と処方薬、治療期間
薬物乱用頭痛の治療は、頭痛の原因となっている薬物を徐々に減らしていく段階的な中止と、新しい予防薬の導入を組み合わせて行い、3〜6ヶ月の期間をかけて進めていきます。
段階的な薬物中止療法について
薬物乱用頭痛の治療で最初に行うのは、過剰に使用している薬物を少しずつ減らしていくことです。
急に薬をやめることで起こる体調不良(離脱症状)を最小限に抑えながら、脳の神経系を正常な状態に戻すことを目指しています。
週 | 薬物使用量 |
1週目 | 通常量の75% |
2週目 | 通常量の50% |
3週目 | 通常量の25% |
4週目 | 完全中止 |
薬を減らしていく途中で、一時的に頭痛がひどくなる方もいますが、これは回復に向かう過程の一部です。
予防薬による治療の進め方
薬を減らしていくのと同時に、新しい予防薬を使い始めることが効果的です。
予防薬は、頭痛の回数や強さを軽くし、再び薬を使いすぎてしまうことを防ぐ役割があります。
よく使われる予防薬
- トピラマート(てんかんの薬として開発されましたが、頭痛予防にも効果)
- プロプラノロール(高血圧の薬ですが、頭痛予防にも効果)
- アミトリプチリン(うつ病の薬ですが、頭痛予防にも効果)
- ボツリヌス毒素(ボトックス注射)
急に起こる頭痛への対処法
薬物乱用頭痛の治療中に急な頭痛が起きた時は、決められた範囲内で頭痛薬を使います。
薬物の種類 | 推奨される使用頻度 |
非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンなど) | 週に2回まで |
トリプタン(片頭痛の薬) | 月に6回まで |
急な頭痛への薬の使用は頭痛がひどくて日常生活に支障が出る場合に限り、安易に使わないようにすることが重要です。
薬以外の治療法の取り入れ方
薬による治療と同時に、薬を使わない治療法を取り入れることで、より良い効果が期待できます。
薬を使わない治療法
- バイオフィードバック(体の状態を機械で測定し体をコントロールする方法)
- 認知行動療法(考え方や行動パターンを変えることで症状を改善する方法)
- リラックス法(体や心をリラックスさせる技術を学ぶ方法)
- 運動療法(適度な運動を行うことで症状を改善する方法)
治療期間と経過観察の仕方
薬物乱用頭痛の治療は、約3〜6ヶ月です。
この期間中は定期的に診察を受け、頭痛の状態を日記につけることが欠かせません。
経過観察の項目 | 頻度 |
診察 | 2〜4週間ごと |
頭痛日記の確認 | 診察を受けるたび |
薬物乱用頭痛の治療における副作用やリスク
薬物乱用頭痛の治療では、薬をやめることで起こる離脱症状や新しく使い始める予防薬の副作用、一時的に頭痛が悪化するリバウンド頭痛などのリスクがあります。
薬物離脱症状のリスク
薬物乱用頭痛の治療で、原因となっている薬の使用をやめていく過程で、体調不良(離脱症状)が現れるリスクがあります。
薬物の種類 | 離脱症状 |
鎮痛薬(痛み止め) | 頭痛の悪化、吐き気、不安感 |
トリプタン(片頭痛の薬) | めまい、ふらつき、だるさ |
離脱症状は一時的なものですが、患者さんにとっては大変な経験となるため、薬は少しずつ減らしていくことが大切です。
予防薬の副作用
薬物乱用頭痛の治療では新しい予防薬を使いますが、副作用が出るリスクがあります。
よく使われる予防薬の副作用
- トピラマート 体重が減る、物事を考えたり記憶したりする力が一時的に低下する、腎臓結石
- プロプラノロール 疲れやすくなる、めまいがする、血圧が下がりすぎる
- アミトリプチリン 口が渇く、便秘、眠気
- ボツリヌス毒素 注射した部分が痛む、筋肉の力が弱くなる可能性
副作用は、薬の量を調整したり、別の薬に変更することで軽くなります。
リバウンド頭痛のリスク
薬物乱用頭痛の治療を進める中で、一時的に頭痛がひどくなる「リバウンド頭痛」が起こるリスクがあります。
リバウンド頭痛は、原因となっている薬をやめてから1〜2週間後に最も強く出ることが多いです。
リバウンド頭痛の特徴 | 対処法 |
頭痛の強さが増す | 薬を使わない治療法(リラックス法など)も併せて行う |
頭痛の回数が増える | 医師の指示に従って、症状を和らげる方法を取る |
薬の相互作用
薬物乱用頭痛の治療では、複数の薬を同時に使うことが多いため、薬同士の相互作用のリスクに注意が必要です。
リスクの高い組み合わせ
- トリプタン(片頭痛の薬)とSSRI(うつ病の薬の一種) セロトニン症候群(セロトニンが脳内で過剰になる)を起こす
- NSAIDs(イブプロフェンなどの痛み止め)と抗凝固薬(血液をサラサラにする薬) 出血のリスクが高まる
- ボツリヌス毒素と筋弛緩薬 筋肉の力が必要以上に弱くなる可能性
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外来診療の費用
薬物乱用頭痛の治療は主に外来で行われます。
項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
診察料 | 1,000円~1,500円 |
薬剤費 | 2,000円~5,000円 |
検査にかかる費用
薬物乱用頭痛の診断や経過観察のために、検査が必要になることがあります。
- 血液検査 約1,000円~3,000円
- 頭部MRI検査 約10,000円~15,000円
- 頭部CT検査 約5,000円~8,000円
薬物療法にかかる費用
薬物療法の費用
薬剤の種類 | 概算費用(1か月分) |
予防薬 | 3,000円~10,000円 |
頓服薬 | 2,000円~5,000円 |
非薬物療法の費用
薬物療法以外の治療法も、薬物乱用頭痛の管理に有効です。
代表的な非薬物療法の費用
- 認知行動療法 1回あたり 約5,000円~10,000円
- バイオフィードバック療法 1回あたり約3,000円~7,000円
保険適用外の場合もあるため、事前に確認してください。
以上
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