混合型認知症(mixed dementia)とは、複数の種類の認知症が同時に進行する状態です。
アルツハイマー病(記憶障害が特徴的な認知症)や血管性認知症(脳血管障害による認知症)、レビー小体型認知症(幻視や動作の緩慢さが特徴的な認知症)などの異なる認知症が組み合わさり発症します。
認知症に特徴的な変化が同時に進行するため、症状も多面的で広範囲に及び、記憶力の低下、判断能力の衰え、言語機能の変化などが現れます。
混合型認知症の主な症状
混合型認知症の症状は、多様な認知機能障害と身体症状が見られます。
認知機能障害
混合型認知症では、記憶力の低下や判断能力の減退といった認知機能障害が顕著に現れ、直近の出来事を想起できなくなったり、日常的行う物事の手順を失念したりします。
また、複雑な計算や問題解決能力が低下し、状況に応じた意思決定が困難になります。
加えて、時間や場所の認識が不明瞭になり、見当識障害(時間、場所、人物などの認識が困難になる状態)が生じることが多いです。
認知機能障害 | 症状 |
記憶力低下 | 近時記憶の障害 |
判断能力減退 | 適切な意思決定の困難 |
見当識障害 | 時空間認識の混乱 |
言語機能の変容
言語機能の変容も混合型認知症の主要症状の一つです。
語彙の想起に時間を要したり、会話の文脈を追跡することが困難になります。
また、複雑な文章の理解や、自身の思考を表現することに困難を感じます。
行動・心理症状
混合型認知症では、行動や心理面での変化も生じます。
急激な感情の変動や、明確な理由のない焦燥感を経験し、これまでの性格とは異なる攻撃的な言動や、社会的規範に反する行動をとることも。
さらに、幻覚や妄想といったが現れることもあります。
- 感情の急激な変動
- 原因不明の焦燥感
- 攻撃的言動
- 社会的規範からの逸脱行動
- 幻覚・妄想
身体機能の低下
混合型認知症では認知機能障害に加え、身体機能の低下も観察されます。
患者さんは歩行が不安定になったり、転倒リスクが上昇し、また、手指の巧緻性が低下し、ボタンの着脱といった日常的動作に時間がかかるようになります。
さらに、嚥下機能の低下により、食事中の誤嚥頻度が増加したり、誤嚥性肺炎のリスクが上昇するので注意が必要です。
身体機能低下 | 症状 |
歩行機能 | 歩行不安定化、転倒リスク上昇 |
手指の巧緻性 | 細かい動作の困難 |
嚥下機能 | 誤嚥頻度増加、誤嚥性肺炎リスク上昇 |
混合型認知症の原因
混合型認知症の原因は、複数の認知症疾患が同時に脳内で進行し、相互に影響を及ぼし合うことです。
複数の認知症が共存する仕組み
混合型認知症では、アルツハイマー病や血管性認知症、レビー小体型認知症などの異なるタイプの認知症が同時に発症します。
ことなるたいぷの認知症が脳内で重複して進行するため、単一の認知症とは異なる複雑な病態を起こすのが特徴です。
アルツハイマー病と血管性認知症の関係
アルツハイマー病と血管性認知症は、混合型認知症の中でも多く見られる組み合わせで、両者が相乗的に作用して認知機能の低下を加速させます。
認知症の種類 | 特徴 |
アルツハイマー病 | 脳内のタンパク質異常蓄積 |
血管性認知症 | 脳血管の障害 |
- アルツハイマー病 ベータアミロイドやタウタンパク質(神経細胞の構造を維持するタンパク質)が脳内に異常蓄積し、神経細胞の機能を障害することで認知機能の低下を起こす。
- 血管性認知症 脳梗塞や脳出血などの血管障害が原因となり、脳組織に直接的なダメージを与えることで認知機能に影響を及ぼす。
二つの病態が同時に進行すると、脳の広範囲にわたって機能障害が生じ、より複雑で深刻な症状を起こす可能性が高まるのです。
レビー小体型認知症の影響
レビー小体型認知症もまた、混合型認知症の一因となることがあり、他の認知症タイプと組み合わさることで症状の多様性を増大させます。
レビー小体型認知症では、α-シヌクレインというタンパク質が異常凝集し、レビー小体と呼ばれる特徴的な構造物を形成します。
レビー小体が脳内に広がると、認知機能だけでなく運動機能にも影響を及ぼし、パーキンソン病様の症状(手足の震えや筋肉のこわばりなど)も引き起こすことに。
遺伝的要因と環境因子の関与
混合型認知症の発症には、遺伝的要因と環境因子も関係しています。
危険因子
- 加齢
- 高血圧
- 糖尿病
- 喫煙
- 運動不足
- 頭部外傷の既往症
危険因子が複合的に作用することで、脳の脆弱性が高まり、複数の認知症が同時に発症するリスクが増大します。
危険因子 | 影響 |
加齢 | 脳の老化促進 |
高血圧 | 血管障害のリスク上昇 |
糖尿病 | 神経細胞へのダメージ |
複数の危険因子が重なると、脳内で異なるタイプの病理変化が同時に進行する可能性が高いです。
予防法 | 効果 |
運動習慣 | 脳血流改善 |
食生活改善 | 神経保護作用 |
知的活動 | 認知予備力向上 |
診察(検査)と診断
混合型認知症の診断は、問診、神経学的検査、認知機能検査、画像検査を組み合わせて行います。
初期評価と問診
混合型認知症の診断は、病歴、家族歴、生活習慣、現在の症状などについて聞き取りを実施します。
また、家族や介護者からも、患者さんの日常生活における変化や異常行動について確認します。
神経学的検査
問診に続いて神経学的検査を実施し、患者さんの反射、協調運動、バランス、感覚機能などを評価します。
混合型認知症では、複数の認知症タイプの特徴が現れるため、神経学的所見も多様です。
神経学的検査項目 | 評価内容 |
反射検査 | 深部腱反射、病的反射の有無 |
協調運動検査 | 運動の円滑さ、正確さ |
バランス検査 | 立位・歩行時の安定性 |
感覚機能検査 | 触覚、痛覚、温度覚の異常 |
認知機能検査
認知機能検査は、混合型認知症の診断において極めて重要です。
代表的な検査は、MMSE(Mini-Mental State Examination:認知機能の全般的な評価を行う検査)やMoCA(Montreal Cognitive Assessment:軽度認知障害を検出するための検査)です。
検査では、記憶力、注意力、言語能力、視空間認知能力などを多角的に評価します。
- MMSE(Mini-Mental State Examination)
- MoCA(Montreal Cognitive Assessment)
- CDR(Clinical Dementia Rating:認知症の重症度を評価する尺度)
- FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能を評価する検査)
- ADAS-Cog(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale:アルツハイマー病の認知機能を評価する尺度)
画像検査
画像検査は、脳の構造的・機能的変化を客観的に評価するために不可欠です。
CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)を用いて、脳萎縮の程度や部位、血管性病変の有無を確認します。
また、SPECT(単一光子放射断層撮影)やPET(陽電子放出断層撮影)などの機能的画像検査により、脳血流や代謝の状態を評価します。
画像検査の種類 | 評価内容 |
CT/MRI | 脳萎縮、血管性病変 |
SPECT | 脳血流 |
PET | 脳代謝、アミロイド沈着 |
混合型認知症の治療法と処方薬、治療期間
混合型認知症の治療は、複数の認知症タイプに対応した薬物療法と非薬物療法を組み合わせ、患者さんの状態に合わせて長期的に行う必要があります。
薬物療法の基本方針
混合型認知症の薬物療法では、認知機能改善薬と脳血管障害予防薬を使用します。
認知機能改善薬としては、コリンエステラーゼ阻害薬(脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑える薬)やNMDA受容体拮抗薬(神経細胞の過剰な興奮を抑える薬)が代表的です。
薬剤は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、認知機能の低下を抑制する効果があり、患者さんの記憶力や注意力の維持に役立ちます。
薬剤名 | 作用 |
ドネペジル | アセチルコリン増加 |
メマンチン | グルタミン酸制御 |
脳血管障害予防薬は、抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)や降圧薬(血圧を下げる薬)、スタチン系薬剤(コレステロールを下げる薬)などです。
非薬物療法の重要性
薬物療法と並行して、非薬物療法も混合型認知症の治療において欠かせません。
非薬物療法
- 認知リハビリテーション(記憶力や注意力を鍛える訓練)
- 運動療法(適度な運動による脳機能の活性化)
- 音楽療法(音楽を通じた感情表現や記憶の刺激)
- アートセラピー(絵画や工作による創造性の刺激)
- 回想法(過去の記憶を引き出し、脳を活性化する方法)
治療計画の立案と実施
混合型認知症の治療は、患者さんの認知機能の状態、身体的健康状態、生活環境、家族のサポート体制などを考慮して立案します。
治療段階 | 目標 |
初期 | 症状進行抑制 |
中期 | 機能維持 |
後期 | 生活支援 |
- 初期 認知機能の低下を抑制することに重点を置き、薬物療法と非薬物療法を積極的に組み合わせて実施。
- 中期 現在の機能を維持しつつ、日常生活の支援を強化し、患者さんの自立性を可能な限り保つことを目指す。
- 後期 生活の質の維持と介護負担の軽減に焦点を当て、医療と介護のサービスを適切に組み合わせて提供。
治療法 | 初期 | 中期 | 後期 |
薬物療法 | ◎ | ○ | △ |
非薬物療法 | ○ | ◎ | ◎ |
介護サポート | △ | ○ | ◎ |
治療期間と経過観察
混合型認知症の治療は長期にわたり、診断後から生涯にわたって継続的な治療と支援が必要です。
経過観察の頻度は1〜3ヶ月に1回で、治療効果の評価には、認知機能検査や日常生活動作の評価、などを用い、総合的に判断します。
混合型認知症の治療における副作用やリスク
混合型認知症の治療では、複数の認知症タイプに対応する必要があるため、多様な副作用やリスクが生じる可能性があります。
薬物療法の副作用
混合型認知症の薬物療法では、複数の薬剤を併用することが多く、それぞれの薬剤に特有の副作用が現れることがあります。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(認知症の進行を遅らせる薬)の副作用は、消化器症状や不整脈です。
また、NMDA受容体拮抗薬(神経伝達物質の一種であるグルタミン酸の作用を調整する薬)は、めまいや頭痛、便秘などの副作用が報告されています。
薬剤の種類 | 副作用 |
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬 | 悪心、嘔吐、下痢、不整脈 |
NMDA受容体拮抗薬 | めまい、頭痛、便秘、傾眠 |
薬物相互作用のリスク
混合型認知症の患者さんは、認知症以外の合併症に対しても薬物治療を受けていることが多いので、複数の薬剤間で相互作用が起こるリスクが高いです。
認知症治療薬と降圧剤や抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)との相互作用により、副作用が増強したり、薬の効果が弱まったりすることがあります。
薬物相互作用を回避するためには、処方されているすべての薬剤の管理と定期的な見直しが必要です。
過剰投薬のリスク
混合型認知症の複雑な病態に対応するため複数の薬剤を処方し、高齢者は薬物の代謝能力が低下していることが多く、過剰投薬のリスクが高まります。
過剰投薬は、認知機能のさらなる低下や、転倒、せん妄(急性の意識障害や行動の変化)などの深刻な副作用を起こす可能性ことがあり、注意が必要です。
過剰投薬のリスク | 症状 |
認知機能の悪化 | 混乱、記憶障害の増悪 |
身体機能の低下 | ふらつき、転倒 |
急性の合併症 | せん妄、脱水 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外来診療にかかる費用
混合型認知症の外来診療では、定期的な診察や検査が行われます。
項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
認知機能検査 | 1,500円~3,000円 |
頭部MRI検査 | 10,000円~15,000円 |
検査は数ヶ月に1回です。
薬物療法の費用
認知症治療薬の費用は、使用する薬剤の種類や量によります。
- コリンエステラーゼ阻害薬(1ヶ月分) 3,000円~6,000円
- NMDA受容体拮抗薬(1ヶ月分) 4,000円~8,000円
- 抗精神病薬(1ヶ月分) 1,500円~3,000円
入院治療の費用
症状が悪化すると、入院が必要です。
入院期間 | 概算費用 |
1週間 | 50,000円~100,000円 |
1ヶ月 | 200,000円~400,000円 |
以上
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