脊髄髄膜瘤(脊髄披裂) – 脳・神経疾患

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)(myelomeningocele)とは、胎児の発育過程で脊椎や脊髄の形成に問題が生じる先天性疾患です。

この疾患では、脊髄や髄膜が背部の皮膚の外に突出してしまいます。

腰部や仙骨部(骨盤の後ろ下部)に発生し、胎児期から診断されることが多い病態です。

神経機能に影響を及ぼすため、運動障害や感覚障害が生じたり、膀胱や腸の機能に問題が出たりします。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の主な症状

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)は、下肢の運動機能障害や感覚障害、膀胱・直腸機能の問題などの神経学的症状を起こします。

下肢の運動機能障害

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)では、病変の位置や程度に応じて症状は変化しますが、多くの患者さんで見られるのは、歩行困難や筋力低下です。

下肢の麻痺は完全なものから部分的なものまであり、両側に現れます。

病変部位運動機能への影響
腰部足首の動きに制限が生じる
胸部下肢全体の麻痺が発生する

感覚機能の低下と喪失

運動機能の問題のほかに、感覚障害も主要な症状の一つです。

病変部位より下方の皮膚で、触覚や痛覚、温度覚などの感覚が鈍化したり、完全に消失したりします。

膀胱

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の患者さんでは、排尿や排便のコントロールが思うようにいかないことがあります。

この症状は、膀胱や直腸の機能を支配する神経系統に損傷が起こることが原因です。

  • 尿意と無関係に尿が漏れ出す尿失禁
  • 尿が出にくくなる尿閉
  • 排便が困難になる便秘
  • 便意をコントロールできない便失禁

水頭症の併発

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)に随伴して、水頭症が発症することもあります。

水頭症とは脳脊髄液の循環や吸収に異常が生じ、脳室内に過剰に貯留する病態です。

水頭症の症状特徴
頭囲拡大特に乳幼児において顕著に現れる
嘔吐朝方に頻発する傾向がある
頭痛進行性で持続的な性質を持つ
発達遅延早期発見・治療で改善する場合がある

水頭症の症状は年齢によって異なる症状がありますが、幼児では頭囲の異常な拡大が特徴的な所見です。

さらに、嘔吐や頭痛、発達の遅れといった症状も併せて現れます。

その他の随伴症状

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)では、上述の症状以外にも身体的問題が生じ、側弯症や関節の拘縮、骨折リスクの上昇、さらに、神経系統の異常に起因する多様な合併症の報告もあります。

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の原因

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)は、胎児発生過程における神経管閉鎖不全が原因です。

神経管閉鎖不全

神経管閉鎖不全は、胎児発生の初期段階で生じる形成異常です。

受精後3〜4週目に神経管が形成され、これが中枢神経系の基礎となりますが、この過程に障害が生じると、神経管が完全に閉鎖せず開放状態のまま残ってしまうことがあります。

遺伝的要因の関与

特定の遺伝子変異や染色体異常も、脊髄髄膜瘤の発生に関与しています。

遺伝子関連する異常
MTHFR葉酸代謝障害
PAX3神経堤細胞の発生異常

家族歴がある場合、次の妊娠でも発生リスクが上昇するので注意が必要です。

環境要因の影響

環境要因も脊髄髄膜瘤の発生のリスクを増加させる可能性があります。

影響のある環境因子

  • 妊娠初期の葉酸欠乏
  • 妊娠中の高熱
  • 糖尿病
  • 抗てんかん薬の服用
  • 肥満

複合的な要因

脊髄髄膜瘤の発生には遺伝的要因と環境要因が絡み合っていて、単一の原因ではなく、複数の要因が組み合わさって発生リスクを上昇させます。

要因リスク上昇の程度
葉酸欠乏2〜3倍
糖尿病2〜10倍
抗てんかん薬10〜20倍

予防の重要性

脊髄髄膜瘤の発生メカニズムの解明が進んだことで、予防の重要性が認識されるようになりました。

特に、妊娠前および妊娠初期の葉酸摂取が神経管閉鎖不全のリスクを大幅に低減させることが明らかになっています。

また、妊娠中の適切な栄養管理や生活習慣の改善も、発生リスクを減らします。

診察(検査)と診断

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の診断は、出生前の超音波検査や羊水検査から始まり、出生後の身体診察、画像検査、そして専神経学的評価を経て、最終的に確定診断へと至ります。

胎児期からの診断への取り組み

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の診断は、妊娠中の出生前診断から始まります。

定期的に行われる妊婦健診の超音波検査で、胎児の背部に特徴的な嚢胞状の突出が観察されることが、脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)を疑う重要な手がかりです。

より詳細な評価必要な場合には、高解像度超音波検査や胎児MRIといった、画像診断を用います。

出生前診断法特徴と利点
超音波検査非侵襲的で繰り返し実施可能、広く普及している
胎児MRI高精細な画像が得られるが、コストと設備を要する

さらに、羊水検査を通じて神経管閉鎖障害のマーカーとして知られるアルファフェトプロテイン(AFP)の値を測定することも、診断の精度を高める上で有用です。

新生児期における身体診察

出生後、新生児に対して身体診察が実施され、背部の皮膚の状態、嚢胞状の突出の有無や大きさ、位置などを観察します。

同時に、下肢の運動機能や反射、筋肉の緊張度などの神経学的所見も、診断を進める上で欠かせない情報です。

注意を払う点

  • 背部皮膚の異常(突出、変色、毛髪の異常な生え方など)
  • 下肢の運動能力と感覚機能の状態
  • 排尿・排便機能の様子
  • 頭囲の測定(水頭症合併の可能性を確認するため)

画像診断

身体診察に続いて画像診断を行い、X線検査は、脊椎の形態異常を評価する基本的な検査法です。

画像診断法評価対象と特徴
X線検査脊椎の形態異常を全体的に把握
MRI脊髄や髄膜の詳細な構造を非侵襲的に観察
CT(コンピュータ断層撮影)骨性構造と軟部組織の関係を3次元的に評価

MRI(磁気共鳴画像法)は脊髄や髄膜の構造を評価でき、MRI検査では、脊髄の位置や形状、髄膜の状態、脳室の大きさなども同時に確認できます。

神経学的評価

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の診断過程において、神経学的評価も重要です。

評価には、運動機能、感覚機能、反射、膀胱・直腸機能などの神経系の機能チェックが含まれます。

神経専門医による診察と、電気生理学的検査(筋電図など)が実施され、患者さんの神経機能の状態を総合的に評価します。

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の治療法と処方薬、治療期間

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の治療は、出生直後の外科的修復から始まり、水頭症への対応、継続的なリハビリテーション、そして合併症に対する薬物療法を含む生涯にわたる管理まであります。

新生児期における初期治療

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の治療で最初に行われるのは、新生児期の外科的修復です。

手術の目的は、露出した神経組織を保護し、脳脊髄液の漏出を防止することにあり、出生後24〜72時間以内に実施することが推奨されています。

手術の手順

  1. 露出した脊髄と髄膜を周囲組織から慎重に剥離
  2. 露出神経組織を脊柱管内に還納
  3. 硬膜を縫合し脳脊髄液漏出を防止
  4. 周囲の筋肉や皮膚で欠損部を被覆

初期手術は、感染リスクの低減と、更なる神経損傷の予防ために極めて重要です。

水頭症への対応

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)患者さんの多くは水頭症を合併します。

水頭症に対する標準的治療は脳室シャント術です。

シャントの種類特徴と機能
脳室腹腔シャント最も一般的、髄液を腹腔内に誘導
脳室心房シャント髄液を右心房に誘導

シャント手術は脊髄髄膜瘤修復後、あるいは水頭症の臨床症状が現れたときに実施されます。

シャントは長期的な管理が必要で、定期的な経過観察が不可欠です。

継続的リハビリテーション

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)患者さんに対するリハビリテーションは、運動機能、感覚機能、そして日常生活動作の改善が目的です。

リハビリテーションの種類

  • 理学療法:運動機能の改善、歩行訓練
  • 作業療法:日常生活動作の獲得
  • 言語療法:必要に応じて実施
  • 排尿・排便管理訓練

リハビリテーションは長期的に継続され、患者さんの成長や臨床状態の変化に応じて調整されます。

合併症管理のための薬物療法

薬物療法は主に、脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)合併症の管理に用いられます。

症状使用される薬剤
痙性バクロフェン、ボツリヌス毒素
神経因性膀胱抗コリン薬、α遮断薬

痙性に対しては、バクロフェンの経口投与やボツリヌス毒素の局所注射が有効です。

神経因性膀胱に対しては、抗コリン薬やα遮断薬が使用されます。

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の治療における副作用やリスク

脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)の治療では、手術や長期的な医療管理が必要となり、それぞれの段階で副作用やリスクが生じます。

手術に関連するリスク

手術は脊髄髄膜瘤の主要な治療法ですが、いくつかのリスクがあり、感染症は手術後の懸念事項の一つで、手術部位の感染や髄膜炎が発生する可能性があります。

リスク発生率
手術部位感染2-5%
髄膜炎1-3%

また、麻酔に関連するリスクも考慮する必要があり、呼吸器系や循環器系の問題に注意します。

脳脊髄液に関連する合併症

脳脊髄液の流れに関する問題は、治療後に生じる可能性のある重大な合併症です。

水頭症(脳内に脳脊髄液が過剰に蓄積する状態)は、特に注意を要する合併症で、脳の圧迫や機能障害を起こすことがあります。

水頭症に対しては、脳室シャント術(脳脊髄液の流れを調整する管を埋め込む手術)が必要となり、シャント自体も閉塞や感染などのリスクを伴います。

神経学的合併症

治療後も神経学的な問題が持続または、新たに発生することがあります。

発生する可能性のある神経学的合併症

  • 運動機能障害(筋力低下や麻痺)
  • 感覚障害(痛覚や温度感覚の異常)
  • 膀胱・腸管機能障害(排尿・排便のコントロールが困難)
  • てんかん発作(脳の異常な電気活動による発作)

長期的な医療管理に伴うリスク

脊髄髄膜瘤の治療は長期的な医療管理を必要とし、リスクもあります。

長期管理項目関連リスク
定期的な画像検査放射線被曝
カテーテル管理尿路感染症

また、長期的な薬物療法に伴う副作用もあり、抗てんかん薬の長期使用による肝機能障害や骨密度低下に注意が必要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

手術費用

手術費用は、50万円から100万円で、複雑な症例では150万円を超えることもあります。

手術の種類概算費用
通常手術50-100万円
複雑手術100-150万円以上

入院費用

手術後の入院期間は平均2週間から1ヶ月で、1日あたりの費用は2万円から3万円です。

リハビリテーション費用

退院後のリハビリテーションは、1回あたり5000円から1万円程度です。

頻度や期間は個人差が大きいですが、週2-3回のペースで数ヶ月から数年続きます。

継続的な医療管理費用

定期的な診察や検査、装具などの費用が必要です。

  • MRI検査15,000円~30,000円
  • CT検査8,000円~15,000円
  • 尿検査1,000円~2,000円
項目頻度概算費用
外来診察月1-2回3,000-5,000円/回
装具交換年1-2回5-10万円/回

以上

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