Parkinson病 – 脳・神経疾患

Parkinson病(Parkinson disease)とは、脳内の神経伝達物質であるドーパミンを作り出す神経細胞が徐々に減少していく進行性の神経変性疾患です。

中年期以降に発症することが多く、手足の震え(振戦)、動作の緩慢さ、筋肉のこわばり、姿勢の異常といった運動症状を特徴とします。

初期症状は日常生活における些細な変化として現れることが多く、例えば文字を書くことが難しくなる、歩幅が小さくなる、表情が乏しくなるといった変化に気づくことが大切です。

また、うつ症状や便秘、睡眠障害、嗅覚障害といった非運動症状も、この病気の重要なサインとして知られています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Parkinson病の主な症状

パーキンソン病は、振戦(手足の震え)、筋強剛(筋肉のこわばり)、無動・寡動(動作の減少や遅さ)、姿勢反射障害(バランスの悪さ)という4大運動症状を主体とします。

振戦(手足の震え)

振戦は、パーキンソン病において最も目立つ症状の一つとして知られており、多くの患者さんが最初に気づく症状となることが少なくありません。

特徴的なのは、手を膝の上に置いているときや安静にしているときに現れる4~6Hzの規則的な震えで、これが安静時振戦です。

この振戦は、手指でピルを丸める動作に似ていることから、医学的に「pill-rolling tremor(錠剤転がし様振戦)」という名称が付けられています。

振戦は精神的な緊張や不安によって増強することや、意図的な運動を開始すると一時的に消失あるいは軽減し、また、睡眠中には消失します。

振戦の種類主な特徴
安静時振戦4~6Hzの規則的な震え、安静時に出現、動作で改善
体位時振戦姿勢を保持する際に出現、安静時より頻度が高い
本態性振戦パーキンソン病以外でも見られる、動作時に増強
生理的振戦健常者でも出現する微細な震え、疲労で増強

筋強剛(筋肉のこわばり)

筋強剛は、関節の他動運動に対する抵抗が増大する現象です。

パーキンソン病における筋強剛には、鉛管様強剛と歯車様固縮という二つのパターンがあります。

鉛管様強剛では、関節を動かす際に一定の抵抗が持続的に感じられ、鉛管を曲げるような感覚が生じ、歯車様固縮では、関節を動かす際に断続的な抵抗を感じ、歯車を回すような感覚が起こります。

症状は、上肢や下肢の近位部に強く現れ、特に肘関節や膝関節での評価が診断の重要な手がかりです。

無動・寡動の多様な症状

無動・寡動は、随意運動の開始が遅くなり、動作の範囲が小さくなる症状です。

  • 歩行時の腕振りが減少または消失
  • 表情が乏しくなり、仮面様顔貌を呈す
  • 声が小さくなり、単調な話し方になる
  • 文字を書く際に、徐々に小さくなる
  • 日常生活動作全般が遅くなる
無動・寡動の症状臨床的な特徴
歩行障害小刻み歩行、すり足歩行、加速歩行
姿勢異常前傾姿勢、側屈姿勢、突進現象
動作緩慢動作開始困難、運動速度低下、運動範囲減少
微細運動障害小字症、ボタンかけ困難、箸使用障害

姿勢反射障害と歩行異常

姿勢反射障害は、パーキンソン病の進行に伴って顕在化する症状です。

この症状により、バランスを崩した際の姿勢の立て直しが困難となり、転倒のリスクが増大します。

特に後方への姿勢反射が障害されやすく、軽く後ろから押されただけでも容易に転倒してしまうので注意が必要です。

歩行に関しては、小刻み歩行やすり足歩行といった異常が見られます。

また、歩き始めの一歩目が出にくい現象(すくみ足)や、逆に一度歩き始めると急に加速してしまう現象(加速歩行)なども観察されます。

自律神経症状の多様性

自律神経症状は、運動症状と並んでパーキンソン病の主要な症状の一つです。

便秘は早期から現れることが多く、運動症状が明確になる前から認められ、また、起立性低血圧による立ちくらみ、発汗異常、排尿障害なども見られます。

Parkinson病の原因

パーキンソン病は、中脳黒質のドパミン産生神経細胞が変性・脱落することによって起こります。

ドーパミン神経細胞の変性メカニズム

ドパミンを生成する神経細胞の減少は、中脳黒質という特定の領域で起こり、この過程には複数の分子メカニズムが関与しています。

神経細胞内では、αシヌクレインというタンパク質が異常に蓄積し、細胞死を引き起こす重要な要因です。

細胞内で起こるミトコンドリアの機能障害も、エネルギー産生の低下や酸化ストレスの増加を通じて神経細胞の死を加速させます。

さらに、ユビキチン・プロテアソーム系という細胞内のタンパク質分解システムの機能低下も、異常タンパク質の蓄積を促進する原因です。

遺伝的要因の影響

パーキンソン病の発症には、複数の遺伝子が関与することが分かっています。

遺伝子名関連する病態メカニズム
SNCAαシヌクレインの産生異常
Parkinミトコンドリア品質管理
PINK1ミトコンドリア機能維持
LRRK2シナプス機能異常

遺伝子変異は、家族性パーキンソン病の原因となるだけでなく、孤発性の症例においても発症リスクを高める可能性があります。

環境因子との相互作用

環境要因もパーキンソン病の発症に関わっています。

  • 農薬や殺虫剤への長期曝露
  • 特定の有機溶剤との接触歴
  • 頭部外傷の既往
  • 工業地域での居住歴
  • 井戸水の長期使用

酸化ストレスと炎症の役割

酸化ストレスは神経細胞死を生じさせる主要な要因の一つで、フリーラジカルの過剰産生が細胞内の様々な構造を傷つけます。

酸化ストレスの原因細胞への影響
ミトコンドリア障害エネルギー産生低下
鉄イオンの蓄積DNA損傷
ドパミン代謝異常細胞膜障害

この過程で活性化されるミクログリアは、炎症性サイトカインを放出し、神経炎症を起こすことで病態をさらに進行させます。

慢性的な神経炎症は、周辺の健康な神経細胞にも悪影響を及ぼし、ドーパミン神経細胞の変性を加速させる悪循環を形成するのです。

細胞内品質管理システムの破綻

細胞内には異常タンパク質を分解・除去する複数のシステムがあるものの、パーキンソン病では、この機能が低下しています。

オートファジー・リソソーム系の機能不全は、変性したタンパク質や損傷したミトコンドリアの蓄積を招き、細胞死を促進する結果に。

小胞体ストレス応答の異常も、神経細胞の生存に必要なタンパク質の合成を阻害します。

診察(検査)と診断

パーキンソン病の診断においては、問診と神経学的診察を基本として、補助的に画像検査やDATスキャンなどの機能画像検査を組み合わせます。

問診による病歴の聞き取り

問診では、症状の発現時期や進行の様子、日内変動の有無などについて確認していきます。

初発症状がどの部位に出現したのか、また症状の左右差の有無などは診断の手がかりとなる重要な情報です。

家族歴の聴取も必須であり、特に若年発症例では遺伝性パーキンソン病の可能性も念頭に置いて聞き取りを進めていく必要があります。

問診のポイント確認事項
初発症状振戦の有無、左右差、安静時か動作時か
進行経過緩徐進行性か急速進行性か、症状の変動
家族歴類似症状の家族歴、発症年齢、重症度
生活歴職業歴、嗜好品、薬剤使用歴、頭部外傷歴

神経学的診察の手順

神経学的診察では歩行状態の観察から始まり、姿勢反射、筋トーヌス、協調運動などを診察していきます。

歩行診察では、歩幅や歩行速度、腕振り、方向転換時の動作を観察し、また、すくみ足の有無を確認するために、狭い場所での歩行や急な方向転換なども実施します。

筋トーヌスの診察では、上肢や下肢の関節を他動的に動かし、その際の抵抗感を確認し、歯車様固縮が認められれば、パーキンソン病を強く疑う根拠です。

画像検査による客観的評価

頭部MRIやCTは、パーキンソン病に似た症状を呈する疾患を除外する目的で行い、典型的な画像所見の確認に有用です。

  • 頭部MRI T1強調画像による黒質の評価
  • T2強調画像やFLAIR画像による脳血管障害の確認
  • SWI(磁化率強調画像)による微小出血の有無
  • DATスキャンによるドパミントランスポーターの分布評価
  • MIBG心筋シンチグラフィーによる交感神経終末の機能評価

鑑別診断のための各種検査

似た症状が見られる疾患との鑑別には様々な検査を活用しますが、早期のパーキンソン病では、他の神経変性疾患との区別が困難な例も多いです。

鑑別診断のための検査臨床的意義
DATスキャン線条体のドパミン神経終末の変性程度を確認
MIBG心筋シンチレビー小体型認知症との鑑別に有効
脳血流SPECT進行性核上性麻痺などとの鑑別に使用
髄液検査炎症性疾患や他の変性疾患の除外

非運動症状の評価方法

非運動症状は、問診と各種スケールを用い、自律神経症状、睡眠障害、嗅覚障害などの表かは、初期診断から経過観察まで一貫して行うことが必要です。

特に嗅覚検査は早期診断における重要な補助的検査で、標準的な嗅覚検査に加えて、簡易検査キットなども開発されています。

生化学的検査の役割

血液検査や髄液検査は、他疾患の除外や全身状態の評価に不可欠です。

特に若年発症例では、Wilson病などの代謝性疾患の可能性も考慮して、銅代謝関連の検査も実施することがあります。

遺伝子検査については、家族歴が濃厚な場合や若年発症例において検討します。

Parkinson病の治療法と処方薬、治療期間

パーキンソン病の治療は、薬物療法を中心に、運動療法、手術療法を組み合わせながら、患者さんの状態や進行度に応じて長期的に継続します。

薬物療法の基本

レボドパ製剤は、脳内で不足しているドーパミンを補充する働きがあり、パーキンソン病治療の基礎となる薬剤で、腸で吸収された後、血液脳関門を通過して脳内に入り、ドーパミンに変換されることで神経伝達物質として機能します。

薬剤分類主な作用機序
レボドパ製剤ドーパミン補充
ドパミンアゴニストドーパミン受容体刺激
COMT阻害薬レボドパの分解抑制
MAO-B阻害薬ドーパミンの分解抑制

ドパミンアゴニストは、脳内のドーパミン受容体を直接刺激することで症状の改善を図る薬剤で、若年発症の患者さんへの投与することが多いです。

COMT阻害薬は、レボドパからドパミンへの変換過程で起こる分解を抑制し、より多くのレボドパを脳内に届けます。

運動療法とリハビリテーション

身体機能の維持のため、運動療法を次のような目的で実施します。

  • 関節可動域の維持改善
  • 筋力低下の予防
  • バランス機能の向上
  • 歩行能力の維持
  • 姿勢保持機能の改善

手術療法

脳深部刺激療法(DBS)は、脳内に電極を埋め込み、電気刺激によって症状をコントロールする治療法です。

薬物療法では十分な効果が得られなかったり、薬の副作用が強い場合に検討します。

手術療法の種類期待される効果
脳深部刺激療法運動症状の改善
凝固術振戦の軽減
レボドパ持続経腸療法薬効の安定化

手術部位の選定には、症状の種類や重症度、年齢などの要因を総合的に判断することが重要です。

Parkinson病の治療における副作用やリスク

パーキンソン病の治療薬には、運動機能改善効果がある一方で、ジスキネジア(不随意運動)や幻覚、悪心などの副作用があります。

レボドパ製剤に関連する運動合併症

レボドパ製剤の長期投与に伴い、wearing-off現象やon-off現象といった運動合併症が現することがあり、現象は投与開始から数年程度で見られることが多く、薬剤の血中濃度変動が原因です。

ジスキネジアは、レボドパ製剤の血中濃度がピークに達する時期に一致して起きる不随意運動で、舞踏運動様の動きとして観察されます。

投与量や投与間隔の調整によって軽減できることもありますが、完全な制御は困難なケースも少なくありません。

運動合併症の種類特徴と発現時期
ジスキネジア薬効ピーク時に出現する不随意運動、投与3-5年後に多い
Wearing-off薬効時間の短縮化、投与2-3年後から出現
On-off現象急激な症状変動、進行期に多い
ジストニア早朝や薬効切れ時に出現する筋緊張異常

消化器系の副作用と対策

抗パーキンソン病薬による消化器症状は治療初期に高頻度で生じ、悪心や嘔吐、食欲不振などが代表的な症状です。

消化器症状への対策として、次のような方法を組み合わせることで、副作用の軽減を図れます。

  • 制吐薬の予防的併用による悪心・嘔吐の抑制
  • 食直後の服用による胃粘膜への刺激軽減
  • 少量からの漸増による消化器症状の予防
  • 徐放剤への切り替えによる血中濃度の急激な上昇防止
  • 消化管運動改善薬の併用による消化器症状の緩和

精神神経系の副作用

抗パーキンソン病薬、特にドパミンアゴニストでは、高齢者や認知機能低下を伴う患者さんに、幻覚や妄想などの精神症状が現れることがあります。

精神神経系副作用発現リスク因子
幻覚・妄想高齢、認知機能低下、睡眠障害
衝動制御障害若年、ドパミンアゴニスト使用
うつ状態運動症状増悪、自律神経障害
不眠症夜間症状、薬剤性不眠

自律神経系への影響

降圧作用を持つ抗パーキンソン病薬を使用すると起立性低血圧が誘発され、転倒リスクを高める要因となるため、血圧モニタリングによる注意深い観察が重要です。

また、便秘や排尿障害などの自律神経症状も薬剤の影響で悪化することがあります。

薬物相互作用に関するリスク

抗パーキンソン病薬は他の薬剤との相互作用に注意が必要で、特に向精神薬との併用では、錐体外路症状の増悪や精神症状のリスクが高いです。

MAO-B阻害薬とセロトニン作動薬の組み合わせは、セロトニン症候群のリスクが上昇するため、併用は避けます。

心血管系への影響

エルゴリン系ドパミンアゴニストでは、心臓弁膜症や心膜炎、肺線維症などの発生リスクが報告されているため、定期的な心エコー検査による経過観察や、胸部X線検査によるモニタリングが大切です。

非エルゴリン系ドパミンアゴニストでも、末梢性浮腫や突発的睡眠などの副作用があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法の費用

薬物療法は長期的な継続が必要で、複数の薬剤を組み合わせることが多いです。

薬剤の種類1ヶ月あたりの自己負担額(3割負担の場合)
レボドパ製剤2,000円~4,000円
ドパミンアゴニスト3,000円~8,000円
COMT阻害薬4,000円~6,000円

手術療法にかかる費用

手術療法は一時的に高額な費用が発生しますが、症状の改善効果が期待できる治療法です。

手術の種類自己負担額(3割負担の場合)
脳深部刺激療法90万円~120万円
レボドパ持続経腸療法80万円~100万円

リハビリテーションと補助具の費用

リハビリテーションは継続的な実施により、運動機能の維持・改善を図れます。

  • 理学療法 1回あたり1,500円~2,000円
  • 作業療法 1回あたり1,500円~2,000円
  • 言語療法 1回あたり1,500円~2,000円

以上

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