乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群) – 脳・神経疾患

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)(severe myoclonic epilepsy in infancy)とは、生まれてから1年以内に始まる、遺伝子変異による治療が難しいてんかんです。

熱性けいれんが最初の症状となり、その後、様々な種類のてんかん発作が現れるようになります。

乳児重症ミオクロニーてんかんでは、子どもの成長や体の動きに遅れが出ることが多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)の主な症状

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)は、いろいろな種類の発作が高頻度で起こり、発達の遅れを伴う難治性のてんかんです。

発作の特徴と進行

Dravet症候群の最も特徴的な症状は、生後6ヶ月頃から始まる発作です。

初期段階では熱性けいれんの形で現れ、38度以上の体温上昇時に全身性の強直間代発作(全身が硬直し、その後激しく震える発作)が現れます。

発作は体の片側から始まりその後両側に拡大し、発作の持続時間は長く、15分以上続くことも珍しくありません。

年齢とともに発作の種類は変化し、より複雑になっていきます。

年齢発作の種類
1歳未満熱性けいれん、全身性強直間代発作
1-5歳ミオクロニー発作(筋肉が瞬間的に収縮する発作)、欠神発作(意識が一時的に途切れる発作)、部分発作(体の一部から始まる発作)
5歳以上非定型欠神発作(通常の欠神発作より長く続く)、脱力発作(突然体の力が抜ける発作)

月に数回から週に数回の頻度で発作が起こります。

運動発達と認知機能への影響

Dravet症候群では、発作の重症度に応じて運動発達や認知機能に影響が現れます。

1歳頃までは正常な発達を示しますが、その後徐々に発達の遅れが目立つようになるのが特徴です。

運動面では、筋肉の緊張が低下したり、体の動きをうまくコントロールできなかったりするため、歩行開始が遅れ、認知面では、言葉の発達が遅れたり、学習に困難を感じます。

発達領域特徴
運動発達筋肉の緊張低下、体の動きのコントロール困難、歩行開始の遅れ
認知発達言葉の発達遅滞、学習の困難さ、注意力が散漫になりやすい

自律神経症状と感覚過敏

Dravet症候群では、体の調子を整える自律神経系の不安定さがあり、体温調節がうまくいかなかったり、汗の出方が異常だったり、心臓の動きに問題が生じます。

また、光や音に対して非常に敏感になり、刺激が発作のきっかけになります。

Dravet症候群でよく見られる自律神経症状と感覚過敏

  • 体温調節障害(熱が出やすかったり、逆に体温が下がる)
  • 発汗異常(汗が異常に多く出たり、ほとんど出なかったり)
  • 心拍数の変動(心臓の拍動が不規則に)
  • 光に対する過敏性(まぶしさを強く感じる)
  • 音に対する過敏性(騒音を非常に不快に感じる)

睡眠障害と行動の変化

Dravet症候群の患者さんでは、睡眠のリズムが乱れることがあります。

眠りにつくのが難しかったり、夜中に何度も目が覚めたり、日中に強い眠気を感じたりといった症状が見られます。

また、発作の後に意識がはっきりしなかったり、混乱した状態が長時間続いたりすることも特徴的です。

行動面では、衝動的な行動が増えたり、注意力が続かなかったり、落ち着きがなくなります。

症状の分類症状
睡眠障害入眠困難、夜間頻繁な覚醒、日中の過度な眠気
発作後の状態遷延する意識障害、長時間続く錯乱状態
行動の変化衝動性の亢進、注意力の低下、多動傾向

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)の原因

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)の原因は、脳の神経細胞で電気信号のやり取りを調整する「ナトリウムチャネル」という構造物に関わる遺伝子の変異です。

遺伝子変異の役割

Dravet症候群の発症には、SCN1A遺伝子の変異が関わっていることがわかっています。

この遺伝子は、脳の神経細胞同士が正しく情報をやり取りするために欠かせない、ナトリウムチャネルの一部を作り出す設計図のような役割を果たしています。

SCN1A遺伝子に何らかの変化が起きると、ナトリウムチャネルがうまく働かなくなり、脳内の電気的な信号のバランスが崩れてしまうのです。

遺伝子変異のタイプ

SCN1A遺伝子の変異には、いくつかの種類があります。

変異タイプ特徴
ミスセンス変異遺伝子の設計図の一部が別のものに書き換わる
ナンセンス変異設計図の途中で「ストップ」の指示が入ってしまう
フレームシフト変異設計図の読み方がずれてしまう
スプライシング変異設計図の必要な部分をつなぎ合わせる際に問題が生じる

変異により、ナトリウムチャネルの形や働きに異常が起こり、てんかん発作が起きやすくなります。

新しく生じる遺伝子変異の重要性

Dravet症候群の患者さんの多くは、両親から受け継いだ遺伝子ではなく、受精後から出生までの間に新たに生じた変異(専門用語で「de novo変異」)を持っています。

この新しい変異がどのようにして起こるのかはまだ完全にはわかっていません。

遺伝子変異以外の要因

SCN1A遺伝子の変異が原因ですが、他の要素もDravet症候群の発症に関与している可能性があります。

  • SCN1A以外の遺伝子(例えばSCN2A、SCN8A、GABRA1など)の変異
  • エピジェネティックな変化(遺伝子そのものは変わらないけれど、遺伝子の働き方が変化すること)
  • 体の免疫システムの異常
  • 脳が発達する過程での微細な構造の変化

診察(検査)と診断

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)の診断は、患者さんの病歴を聞き取ることから始まり、神経の検査、脳波の検査、脳の画像検査、そして遺伝子の検査など、いくつもの段階を踏んで進められます。

初期評価と臨床診断

Dravet症候群の問診では、てんかん発作が始まった年齢や、どのような種類の発作が、どのくらいの頻度で起きているか、また、患者さんの成長の様子などについて、情報を集めます。

特に、生後半年から1歳くらいの間に、熱性けいれんを起こした経験がないかどうかを重点的に確認します。

聞き取り項目重要なポイント
発作の開始時期生後6ヶ月〜1歳が典型的
発作の種類熱性けいれんから始まることが多い
発作の頻度回数や間隔の変化
発達の様子運動や言語の発達の遅れの有無

神経学的診察

神経学的診察では、患者さんの体全体の状態、意識がはっきりしているかどうか、体を動かす力や感覚、反射などを総合的に調べ、脳や神経の働きに問題がないかを確認します。

注意してみる点は、手足の動きがスムーズかどうか、触った感覚や痛みを感じるかどうか、膝を軽くたたいたときの反応(膝蓋腱反射)などです。

脳波検査

Dravet症候群の診断では、通常の脳波検査に加えて、数時間から数日間ビデオカメラで患者さんの様子を撮影しながら脳波を記録する「長時間ビデオ脳波モニタリング」を行うこともあります。

モニタリングによって、発作が起きているときと起きていないときの脳の電気的な活動の違いを詳しく調べることが可能です。

Dravet症候群に特徴的な脳波の波形

  • 脳全体に広がる鋭い波と緩やかな波が交互に現れる波形(全般性棘徐波複合)
  • 脳の複数の場所から鋭い波が出る波形(多焦点性棘波)
  • 光の刺激に過剰に反応する波形(光過敏性反応)
脳波所見特徴
全般性棘徐波複合脳全体に広がる特徴的な波形
多焦点性棘波複数箇所から出現する鋭い波
光過敏性反応光刺激に対する過剰な反応

画像診断

MRIやCTなどの画像検査は、他の脳の病気がないかを確認したり、合併症がないかを調べたりするために行います。

MRIは脳の細かい構造を見るのに適しており、CTは頭の中に急に何か問題が起きていないかを確認するのに役立ちます。

また、SPECT(単一光子放射断層撮影)で脳の血液の流れを調べることも。

ただし、Dravet症候群では、病気が始まった初期の段階では、画像検査で特に異常が見つからないことも多いです。

遺伝子検査と確定診断

Dravet症候群を確実に診断するためには、遺伝子検査が欠かせません。

SCN1A遺伝子に変異があるかどうかを調べ、この遺伝子の変異は、Dravet症候群の患者さんの約80%で見つかるため、診断の決め手となります。

遺伝子検査

  • サンガー法 SCN1A遺伝子の配列を直接調べる
  • 次世代シーケンサー てんかんに関係する複数の遺伝子を一度に調べる
  • 人間の持っている遺伝子全体を広く調べる(全エクソーム解析)
遺伝子検査法特徴
サンガー法SCN1A遺伝子を直接調べる
次世代シーケンサー複数の関連遺伝子を同時に解析
全エクソーム解析すべての遺伝子を網羅的に調査

鑑別診断

Dravet症候群の診断では、似たような症状を示す他のてんかん症候群と鑑別することが重要です。

特に、乳児期に始まる他のてんかん症候群との違いを見極める必要があります。

Dravet症候群と間違えやすい疾患

  • 良性家族性乳児けいれん(遺伝性で、比較的症状が軽いてんかん)
  • 乳児ミオクロニーてんかん(乳児期に始まる、体が瞬間的にビクッとする発作が特徴的なてんかん)
  • ウェスト症候群(生後3〜8ヶ月頃に始まる、独特の発作パターンを示すてんかん)

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)の治療法と処方薬、治療期間

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)の治療は、てんかん発作を抑える薬を中心に、長い期間にわたってさまざまな方法を組み合わせながら行われます。

抗てんかん薬

Dravet症候群の治療によく使われる抗てんかん薬には、以下のようなものがあります。

薬の名前特徴
バルプロ酸いろいろな種類の発作に効果がある
クロバザム発作の回数を減らすのに効果がある
スティリペントールDravet症候群の治療のために特別に開発された薬
トピラマート発作を抑えるだけでなく、思考や記憶などの能力改善にも効果がある

薬剤は、単独で使われることもあれば、いくつかを組み合わせて使われることもあります。

治療の段階目標
初期治療発作の頻度を減らし、重症度を軽減する
維持療法発作のコントロールを継続し、副作用を最小限に抑える
長期管理全体的な生活の質を向上させ、発達を支援する

ケトン食療法

薬による治療に加えて、ケトン食療法というDravet症候群の治療法もあります。

ケトン食療法は、脂肪分が多く、炭水化物(糖質)が少なく、タンパク質が適度に含まれる食事療法です。

食事療法によって、脳の中でエネルギーを作り出す仕組みが変わり、発作を抑える効果があります。

薬以外の治療法

薬による治療やケトン食療法以外にも次のような療法が、治療の一部として取り入れられます。

  • 理学療法(体を動かす能力を維持・改善するためのリハビリテーション)
  • 作業療法(日常生活の動作をスムーズに行えるようにするためのリハビリテーション)
  • 言語療法(話す・聞く・理解する能力を向上させるためのリハビリテーション)
  • 認知行動療法(考える力や行動の仕方を改善するための心理療法)
治療法目的
理学療法運動機能の改善、筋力の維持
作業療法日常生活動作の自立支援
言語療法コミュニケーション能力の向上
認知行動療法思考パターンの改善、ストレス管理

治療期間と経過観察

Dravet症候群の治療は、一生涯続けていく必要があります。

乳幼児期には発作を抑えることと成長の支援に重点が置かれ、学童期になると学校での学習支援や友達との関わり方のサポートが中心です。

思春期以降は、できるだけ自立した生活を送れるようにすることと、長期的な健康管理が目標となります。

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)の治療における副作用やリスク

乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet症候群)の治療には、副作用やリスクが伴います。

薬物療法の副作用

抗てんかん薬によっては、眠気や疲労感、めまい、吐き気といった軽度なものから、肝機能障害や血液異常など、より重篤な副作用まで幅広い影響を及ぼします。

特に、バルプロ酸やカルバマゼピンなどの従来型の抗てんかん薬では、長期使用による骨密度低下や代謝異常のリスクがあり、注意が必要です。

薬剤名副作用
バルプロ酸肝機能障害、膵炎
カルバマゼピン皮膚発疹、白血球減少

ケトン食療法のリスク

ケトン食療法は、脳のエネルギー代謝を変化させることで発作を抑制する効果が期待されますが、リスクが伴います。

  • 栄養不足や成長障害
  • 脱水症状
  • 腎臓結石の形成
  • 高コレステロール血症

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法にかかる費用

抗てんかん薬の処方が治療の基本です。

薬剤名月間費用(3割負担)
バルプロ酸約2,000〜4,000円
スティリペントール約30,000〜50,000円

入院治療の費用

発作のコントロールが困難な際には入院が必要です。

  • 3割負担の場合、1日あたり約10,000〜20,000円
  • 集中治療室使用時は1日あたり約30,000〜50,000円

検査・モニタリング費用

定期的な脳波検査やMRI検査は病状の把握に不可欠です。

検査項目費用(3割負担)
脳波検査約5,000〜8,000円
MRI検査約15,000〜25,000円

以上

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