Sturge-Weber症候群 – 脳・神経疾患

Sturge-Weber症候群(Sturge-Weber syndrome)とは、先天的な血管形成の異常を特徴とする神経皮膚症候群です。

この疾患では、顔の片側に赤いあざ(血管腫)が現れ、同側の脳や眼球内にも異常な血管が発達します。

典型的な症状は、てんかん発作や片側の身体の麻痺、緑内障です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Sturge-Weber症候群の主な症状

Sturge-Weber症候群は、顔面の血管腫、てんかん発作、緑内障などの特徴的な症状を起こす先天性疾患です。

顔面の血管腫

Sturge-Weber症候群の最も顕著な症状は、顔面の血管腫(血管の異常な増殖によって生じる良性の腫瘍)です。

血管腫は片側の顔面に現れ、三叉神経(顔面の感覚や咀嚼筋を支配する神経)の第1枝および第2枝の支配領域に沿って分布します。

血管腫の色合いは濃い赤色から紫色まで様々で、ほとんどのケースで生まれた時から見られます。

血管腫の広がりは、軽度のものから顔の半分以上を覆う広範囲なものまでです。

神経学的症状

Sturge-Weber症候群と診断された患者さんの多くは、神経学的症状を経験します。

中でも最も頻繁に見られるのが、てんかん発作です。

てんかん発作は患者さんの約75-90%に発症し、部分発作(身体の一部のみが影響を受ける発作)から全般発作(意識消失を伴う全身性の発作)まで、様々なタイプが確認されています。

症状発現頻度
てんかん発作75-90%
片麻痺(体の片側の運動麻痺)30-50%
発達遅滞50-75%

眼科的症状

Sturge-Weber症候群では、眼科的症状も非常に重要な特徴の一つです。

眼科的合併症として知られているのが緑内障(眼圧の上昇により視神経が損傷される疾患)で、患者さんの約30-70%に発症します。

その他の眼科的症状は、脈絡膜血管腫(眼球の血管層である脈絡膜に生じる血管の腫瘍)や網膜剥離(網膜が眼球壁から剥がれる状態)などです。

  • 緑内障
  • 脈絡膜血管腫
  • 網膜剥離
  • 結膜血管腫(眼球表面の粘膜に生じる血管の腫瘍)
  • ぶどう膜炎(眼球内の血管に富む組織の炎症)

その他の身体症状

Sturge-Weber症候群では、中枢神経系や眼科的症状以外にも、体にさまざまな症状が現れます。

軟部組織(筋肉、脂肪、血管、神経などの柔らかい組織)や骨の肥大が、顔面血管腫のある側で観察されることが多いです。

組織の肥大により、顔の左右非対称性や咬合不全(上下の歯がうまく噛み合わない状態)といった二次的な問題が発生します。

また、頭痛や片頭痛も高い頻度で起こります。

症状特徴
軟部組織肥大血管腫のある側の顔面に多く見られる
骨肥大主に顎骨や頬骨に観察されることがある
頭痛片頭痛タイプが多いとされる
運動障害片麻痺や協調運動障害などが含まれる

Sturge-Weber症候群の原因

Sturge-Weber症候群の原因は、胎児期における血管形成の異常と遺伝子変異です。

遺伝子変異

Sturge-Weber症候群の発症には、GNAQ遺伝子(細胞の増殖や分化を制御する遺伝子)の突然変異が関与しています。

GNAQ遺伝子の変異は、胎児が母体内で成長する初期の段階で起こり、この時期の変異が後の症状発現につながります。

血管形成の乱れ

Sturge-Weber症候群では、脳や顔面の血管が通常とは異なる形で発達することが特徴的です。

異常な血管形成は、胎児期に血管が新しく作られる過程で問題が生じることに起因しています。

本来あるべき姿の血管発達が妨げられることで、特有の症状が生じます。

異常な血管形成の部位症状
顔面赤あざ(血管腫)
てんかん発作
緑内障(眼圧上昇)

診察(検査)と診断

Sturge-Weber症候群の診断は、特徴的な臨床所見の観察と各種画像検査を組み合わせ、最終的な確定診断には脳血管造影や遺伝子検査が用いられます。

臨床所見の観察

Sturge-Weber症候群の診断では、患者さんの顔面に特徴的な血管腫(ポートワイン母斑と呼ばれる赤紫色の痣)があるかどうかを確認します。

血管腫は三叉神経(顔面の感覚を司る神経)の第1枝領域、前頭部や上まぶたの周辺に見られることが多いです。

また、緑内障などの眼科的異常やてんかん発作といった神経学的症状の有無も、診断を進める上で重要な手がかりになります。

臨床所見特徴
顔面血管腫片側性で、主に三叉神経の支配領域に分布
眼科的異常緑内障、脈絡膜血管腫(眼の奥の血管の腫れ)など
神経学的症状てんかん発作、片麻痺(体の片側の麻痺)など

画像検査

臨床所見の観察に加えて、各種の画像検査技術はSturge-Weber症候群の診断を進める上で欠かせません。

最も有用とされているのは、MRIです。

MRI検査では、脳の軟膜(脳の表面を覆う薄い膜)に生じる血管腫や、それに伴う脳の萎縮、さらには石灰化などの所見を観察できます。

また、CT(コンピュータ断層撮影)も補助的な検査として使用され、脳内の石灰化を検出する能力に優れている方法です。

  • MRI
  • CT
  • 脳血流SPECT(脳の血流を評価する検査)
  • 眼底検査(眼の奥の状態を観察する検査)
  • 頭蓋内圧モニタリング

脳波検査

脳波検査では、脳の電気的な活動を記録し、Sturge-Weber症候群に特有な異常波形や発作時の波形変化を観察できます。

長時間にわたってビデオカメラと同時に脳波を記録する長時間ビデオ脳波モニタリングという方法を用いることで、実際の発作時の脳波変化と臨床症状との関連を評価することが可能です。

遺伝子検査

Sturge-Weber症候群の原因となる遺伝子として、GNAQ遺伝子という特定の遺伝子に生じる体細胞モザイク変異(体の一部の細胞にのみ存在する遺伝子の変化)が同定されました。

ただし、遺伝子変異の検出率は100%ではないため、遺伝子検査の結果のみでSturge-Weber症候群の診断を確定することは現時点では難しいです。

確定診断

Sturge-Weber症候群の最終的な確定診断には、脳血管造影検査が用いられます。

検査により、軟膜血管腫(脳表面の異常な血管の集まり)や静脈灌流異常(血液の流れの異常)を明瞭に描出することが可能です。

検査特徴と臨床的意義
MRI軟膜血管腫の評価、脳萎縮の程度の判定に有用
CT脳内の石灰化を高感度で検出可能
脳血管造影脳血管の異常を詳細に評価し、確定診断に寄与
遺伝子検査GNAQ遺伝子の特定の変異を検出し、診断の補助となる

Sturge-Weber症候群の治療法と処方薬、治療期間

Sturge-Weber症候群の治療は、薬物療法と長期的な経過観察が中心です。

てんかん発作への対策

Sturge-Weber症候群に伴うてんかん発作をコントロールすることは、治療の中で最も重要なことの一つです。

よく使用される抗てんかん薬には、カルバマゼピン、レベチラセタム、オクスカルバゼピンなどがあり、それぞれ特徴が異なります。

抗てんかん薬特徴と使用目的
カルバマゼピン体の一部分で起こる発作に特に効果がある
レベチラセタム他の薬に比べて体への負担が少ない
オクスカルバゼピンカルバマゼピンを改良して作られた薬

緑内障(眼圧が高くなる病気)への対応

Sturge-Weber症候群に関連して起こる緑内障の管理も大切です。

まず最初に試されるのは、目薬による治療で、代表的な目薬には、プロスタグランジン系と呼ばれる薬やβ遮断薬があり、眼圧をコントロールします。

目薬だけでは十分な効果が得られない場合には、手術による治療も検討されます。

皮膚の赤あざへの治療

顔に現れる赤あざ(血管腫)に対しては、レーザーを使った治療が効果的です。

治療をいつ始めるか、何回行うかは、患者さんの年齢や赤あざの状態を見て、個別に判断されます。

脳の血管の異常への対策

脳の血管に異常があることで起こる症状に対しては、抗血栓療法が用いられます。

アスピリンなどが使われ、血液の流れを良くすることが目標です。

症状主な治療法治療の目的
てんかん発作抗てんかん薬発作を抑える
緑内障目薬眼圧を下げる
脳の血流異常抗血栓療法血液の流れを改善する

長期的な治療と定期検査

Sturge-Weber症候群の治療は長い期間にわたって続けられるため、定期的に症状の変化を確認することが重要です。

観察する項目

  • てんかん発作が起こる頻度と程度
  • 眼圧の変化
  • 脳や神経の症状が進行していないか
  • 使っている薬の効果と体への影響

多くの方が生涯にわたって管理を続ける必要があります。

Sturge-Weber症候群の治療における副作用やリスク

Sturge-Weber症候群の治療は複数のアプローチを組み合わせて進められますが、各治療法にはそれぞれ特有の副作用やリスクがあります。

抗てんかん薬の副作用

抗てんかん薬は効果的ですが、同時に様々な副作用が生じるリスクも伴います。

よく見られる副作用は、眠気やめまい、吐き気です。

さらに、長期間にわたって抗てんかん薬を使用し続けると、認知機能の低下や骨密度の減少といった問題が生じます。

薬剤名副作用
カルバマゼピン眠気、めまい、皮膚の発疹
バルプロ酸肝機能障害、体重増加
レベチラセタムイライラしやすくなる、不眠

外科的治療のリスク

薬物療法だけではてんかん発作のコントロールが難しい場合、外科的な治療が検討されます。

手術に伴う合併症は、出血や感染、脳浮腫(脳の腫れ)などです。

また、手術を行う脳の部位によっては、運動機能や言語機能に予期せぬ影響を与えることもあります。

外科的治療に伴うリスク

  • 脳内出血
  • 手術部位の感染
  • 脳浮腫(脳の腫れ)
  • 神経機能障害(運動や感覚、言語などの機能に影響)
  • 麻酔に関連する合併症

レーザー治療の副作用

Sturge-Weber症候群に特徴的な顔面の血管腫(赤あざ)に対するレーザー治療は、外見的な改善に効果がありますが、注意すべき副作用があります。

治療を受けた直後は、照射部位の腫れや痛み、一時的な色素沈着(皮膚が濃く変色すること)が生じることが多いです。

まれなケースではありますが、瘢痕の形成や色素脱失などの永続的な変化が起こる可能性もあります。

緑内障治療のリスク

Sturge-Weber症候群に伴って発症することの多い緑内障の治療にも、特有のリスクがあります。

緑内障の治療でよく用いられる点眼薬による副作用は、眼の刺激感や結膜(白目の部分)の充血です。

点眼薬での治療が難しいときに検討される手術治療では、眼内出血や感染といった、より深刻なリスクが伴います。

緑内障治療の方法とリスク

治療法リスク
点眼薬による治療眼の刺激感、結膜の充血
レーザーを用いた治療一時的な眼圧上昇、虹彩炎(虹彩の炎症)
濾過手術(手術的治療)低眼圧、眼内感染

ステロイド治療の副作用

Sturge-Weber症候群に伴う炎症を抑えるために、ステロイド薬が使用されることがありますが、長期間の使用には注意が必要です。

ステロイド薬の副作用として、免疫力の低下、骨粗鬆症、糖尿病などが挙げられます。

また、成長期の小児に対するステロイド治療では、成長の抑制問題にも留意しなければなりません。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の費用

外来診療では、薬物療法や定期検査が行われます。

抗てんかん薬は、1ヶ月あたりの自己負担額は5,000円から15,000円程度です。

薬剤名1ヶ月の自己負担額(概算)
カルバマゼピン5,000円~8,000円
レベチラセタム10,000円~15,000円

レーザー治療の費用

顔面の血管腫に対するレーザー治療は、1回あたり20,000円から50,000円の自己負担が生じ、複数回の治療が必要となる例が多いです。

入院治療の費用

症状が重いときや手術が必要な際には入院治療が行われます。

治療内容自己負担額(概算)
7日間の入院(検査含む)80,000円~120,000円
脳外科手術(14日間入院)200,000円~300,000円

定期検査の費用

画像検査は、定期的に行われます。

  • MRI検査 自己負担額 約8,000円~12,000円
  • CT検査 自己負担額 約5,000円~8,000円
  • 脳波検査 自己負担額 約3,000円~5,000円

以上

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