亜急性脊髄連合変性症(subacute combined degeneration of spinal cord)とは、体内のビタミンB12が著しく不足することで起こる神経系の疾患です。
ビタミンB12は神経細胞を覆う髄鞘(ずいしょう)の維持に欠かせない栄養素で、不足すると、神経細胞間の信号伝達に支障をきたします。
症状は、手足のしびれや痛み、感覚が鈍くなる、筋力が低下する、歩行が不安定になる、などです。
また、めまいや疲労感、記憶力の低下といった症状も現れます。
亜急性脊髄連合変性症の主な症状
亜急性脊髄連合変性症は、ビタミンB12欠乏に起因する神経系障害を特徴とし、感覚異常と運動機能低下が主な症状です。
感覚障害
亜急性脊髄連合変性症において最もよく見られる症状は、感覚障害です。
四肢末端、特に下肢遠位部から始まる異常感覚を呈し、感覚異常は、しびれ、疼痛、チクチク感など多様な形態で現れます。
日が経つと、症状は体の中心部へと広がります。
感覚障害の種類 | 特徴 |
しびれ感 | 四肢末端から出現 |
疼痛 | 鋭痛または鈍痛 |
異常感覚 | チクチク感、ピリピリ感 |
触覚や温度を感じる能力が鈍くなるため、怪我や火傷のリスクが高まるので、注意が必要です。
運動機能障害
感覚障害に続いて、脊髄の神経伝導路障害が原因で運動機能の低下が現れます。
初期の段階では、繊細な動きをコントロールすることが難しくなります。
観察される症状
- ボタンの着脱困難
- 握筆障害
- 箸使用時の不器用さ
症状が進むとより広い範囲で運動障害が生じ、歩く際のふらつきや、体のバランスを保つことの難しさが目立つようになります。
症状が重い場合、立ち上がったり歩いたりすること自体が困難になることも。
深部腱反射の変化
深部腱反射の変化も、亜急性脊髄連合変性症の特徴的な症状の一つです。
初期の段階では反射が通常よりも強く現れ、病状が進行するにつれ、反射は弱くなるか、完全に消失します。
病期 | 深部腱反射の状態 |
初期 | 亢進 |
中期 | 正常〜減弱 |
後期 | 減弱〜消失 |
自律神経症状
亜急性脊髄連合変性症は自律神経系にも影響を及ぼします。
自律神経症状
- 排尿障害
- 便秘
- 起立性低血圧(起立時の血圧低下)
亜急性脊髄連合変性症の原因
亜急性脊髄連合変性症の原因は、体内のビタミンB12が不足することです。
ビタミンB12欠乏が神経系に与える影響
ビタミンB12は神経系が正常に機能するために重要な栄養素で、不足すると、神経細胞を覆う髄鞘(ずいしょう)に異常が生じます。
髄鞘の損傷により神経細胞間の信号伝達が妨げられ、さまざまな神経学的な症状が現れるのです。
ビタミンB12が不足する原因
ビタミンB12の不足には、いくつかの要因があります。
- 食事からの摂取量不足
- 胃や小腸での吸収障害
- 自己免疫疾患の存在
長期間厳格な菜食を続けている方や高齢者は、不足のリスクが高いです。
消化器系の健康状態とビタミンB12の吸収
消化器系の状態も、ビタミンB12の吸収に大きく影響します。
消化器の状態 | ビタミンB12吸収への影響 |
萎縮性胃炎 | 吸収効率が低下する |
腸管切除後 | 吸収できる部位が減少する |
消化器系の状態にもんだいがあると、食事でビタミンB12を十分に摂取していても、体内での利用が難しくなります。
遺伝的要因と代謝異常
一部の患者さんでは、遺伝的な代謝異常がビタミンB12の利用や輸送に影響を与え、亜急性脊髄連合変性症の発症に関与しています。
- メチルマロン酸血症(血液中にメチルマロン酸という物質が蓄積する病気)
- ホモシスチン尿症(アミノ酸の一種であるホモシスチンが尿中に多く排出される病気)
- トランスコバラミンⅡ欠損症(ビタミンB12を運ぶタンパク質が不足する病気)
その他の潜在的な要因
ビタミンB12の不足以外にも、亜急性脊髄連合変性症を起こす可能性のある要因があります。
要因 | 神経系への影響 |
銅欠乏 | 神経機能の低下をもたらす |
亜鉛過剰 | 銅の吸収を妨げる |
感染症 | 神経組織を直接傷つける可能性がある |
このような要因は、ビタミンB12不足と似た神経学的症状を生じさせることがあります。
診察(検査)と診断
亜急性脊髄連合変性症の診断は、病歴聴取、神経学的診察、血液検査、画像診断を組み合わせて行い、ビタミンB12欠乏の確認と特徴的な神経症状の評価を通じて確定します。
病歴聴取と神経学的診察
診断の第一歩は、患者さんの病歴を伺うことから始まり、食生活、特に動物性タンパク質をどの程度摂取しているか、胃を切除した経験があるかなどを聞き取ります。
続いて、神経学的診察を行い、感覚の異常や体の動きの変化を評価します。
確認する項目
- 深部腱反射(膝蓋腱反射などの反射)の変化
- 振動覚・位置覚(体の位置を感じる感覚)の低下
- 筋力低下や協調運動の乱れ
これらの所見は、亜急性脊髄連合変性症に特徴的な症状です。
血液検査
血液検査は、この病気の診断において欠かせません。
調べる項目
検査項目 | 正常値 |
血清ビタミンB12 | 180-914 pg/mL |
血清葉酸 | 3.6-12.9 ng/mL |
総ホモシステイン | 3.7-13.5 μmol/L |
血清ビタミンB12値が低下していれば、亜急性脊髄連合変性症の可能性が高いです。
ただし、正常値の下限に近い場合、総ホモシステインやメチルマロン酸の値も測定し、数値が上昇していると、ビタミンB12が不足していることを示しています。
画像診断
MRI検査は、脊髄の状態を詳しく調べるのに必要な検査です。
T2強調画像という特殊な撮影方法で、特徴的な所見が見られます。
- 後索(脊髄の後ろ側の部分)が白く光って見える
- 逆V字型の異常な信号
- 左右対称的な変化
特徴的な所見は、ビタミンB12不足による脊髄の変性を表しています。
MRI所見 | 特徴 |
後索の高信号 | T2強調画像で明るく見える |
逆V字型変化 | 後索が選択的に障害されていることを示唆 |
左右対称性 | 両側に同じように病変が分布 |
ただし、MRIで異常が見られなくても、亜急性脊髄連合変性症を完全に否定することはできません。
確定診断
亜急性脊髄連合変性症の確定診断は、次の要素を総合的に評価して行います。
- 特徴的な症状が見られるか
- 血液中のビタミンB12値が低下しているか
- MRIで特徴的な所見が見られるか
- ビタミンB12を補充すると症状が改善するか
診断基準を満たし、他の脊髄の病気が除外できれば、亜急性脊髄連合変性症と確定診断します。
亜急性脊髄連合変性症の治療法と処方薬、治療期間
亜急性脊髄連合変性症の治療は、ビタミンB12を補うことを中心とし、患者さんの状態に合わせて投与の仕方や量を調整します。
ビタミンB12補充
ビタミンB12を補うことは、亜急性脊髄連合変性症の治療で最も重要な方法です。
ビタミンB12補充は、神経系の働きを回復させ、症状を良くすることを目指し、多くの場合、神経の症状が悪化するのを抑えられ、改善することもあります。
ビタミンB12の投与法と量
ビタミンB12は、患者さんの状態や体への吸収具合に応じて、投与法を選びます。
- 筋肉内注射
- 経口投与
- 鼻腔内スプレー
投与法 | 1日の量 |
筋肉内注射 | 1000μg |
経口投与 | 1000-2000μg |
治療の始めは大量の筋肉内注射を行うことが多く、その後、症状が安定してきたら飲み薬に切り替えます。
治療期間と経過観察
治療期間は、数週間から数か月にわたります。
治療の段階 | 期間 |
初期の集中治療 | 1-2週間 |
その後の継続治療 | 数か月〜生涯 |
初期の集中治療が終わった後も、急に治療をやめると症状が再び現れる危険性があるので、定期的に様子を見ながら治療を続けることが必要です。
補助的な治療法
ビタミンB12を補う治療に加えて、補助的な治療を組み合わせることがあります。
- 体を動かす訓練(理学療法)
- 日常生活の動作を改善する訓練(作業療法)
- 食事指導
治療効果の確認
治療がどれくらい効いているかを評価するために、定期的な検査と診察が重要です。
- 血液検査(ビタミンB12の量や血球の数を調べる)
- 神経の状態を確認する検査
- MRIなどの体の中を見る検査
検査項目 | 確認内容 |
血液検査 | ビタミンB12量、貧血の有無 |
神経学的検査 | 感覚、運動機能の変化 |
画像検査 | 脊髄の状態 |
亜急性脊髄連合変性症の治療における副作用やリスク
亜急性脊髄連合変性症の治療ではビタミンB12補充療法を行いますが、投与方法や用量によって様々な副作用やリスクがあります。
ビタミンB12補充療法の副作用
ビタミンB12補充療法は安全性の高い治療法ですが、副作用が現れることがあります。
主な副作用
- 注射部位の疼痛や発赤
- 軽度の下痢や腹部不快感
- 頭痛や眩暈(めまい)
副作用は通常一過性であり重篤な合併症に発展することはまれですが、重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こる可能性もあるため、注意が必要です。
副作用 | 頻度 |
注射部位反応 | 比較的多い |
消化器症状 | まれ |
アレルギー反応 | 非常にまれ |
高用量投与のリスク
亜急性脊髄連合変性症の初期治療では、高用量のビタミンB12投与が行われ、高用量投与には、いくつかのリスクがあります。
- 電解質バランスの乱れ
- 低カリウム血症
- 血栓塞栓症のリスク上昇
リスクは、高齢者や腎機能低下患者さんで顕著となる傾向があるため、治療中は定期的な血液検査や電解質モニタリングが大切です。
長期治療のリスク
亜急性脊髄連合変性症の治療は長期に及ぶことが多く、特有のリスクがあります。
長期治療のリスク
- 注射による感染リスク
- 治療意欲の低下
- 薬剤耐性の発現
特に自己注射を行う患者さんでは、無菌操作の徹底が重要です。
併存疾患への影響
亜急性脊髄連合変性症の患者さんの多くは高齢者で、他の疾患を併存していることがあるため、ビタミンB12補充療法が他の疾患や使用中の薬剤に影響を与えることがあります。
抗凝固薬を使用中の患者さんでは、ビタミンB12補充により凝固能に変化が生じることがあるので注意が必要です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
ビタミンB12補充療法の費用
ビタミンB12補充療法は、投与方法によって費用が異なります。
投与方法 | 1回あたりの費用(3割負担) |
筋肉内注射 | 約500円〜1,000円 |
経口薬 | 約100円〜300円 |
治療初期は、週3回程度の注射を行います。
関連検査の費用
治療中は、定期的な血液検査やMRI検査が必要です。
検査項目 | 費用(3割負担) |
血液検査 | 約1,000円〜2,000円 |
MRI検査 | 約10,000円〜15,000円 |
MRI検査は、3〜6ヶ月に1回実施します。
以上
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