脊髄空洞症(syringomyelia)とは、脊髄の中心部に液体で満たされた空洞が形成され、進行性に神経症状を起こす神経難病です。
この病気では、頭蓋骨と脊椎の接合部の形態異常であるキアリ奇形を伴い、脳脊髄液の流れが乱れることで空洞が形成されます。
主な症状として、手指のしびれや痛み、温度感覚の低下、筋力低下などが現れ、症状は徐々に進行し、左右非対称に生じることが特徴的です。
10代後半から30代に多く見られ、女性の方が男性よりも発症率が高くなっています。
脊髄空洞症の主な症状
脊髄空洞症は、感覚障害や運動機能の低下、疼痛などの多様な神経症状が徐々に進行します。
感覚障害の特徴的なパターン
脊髄空洞症における感覚障害は、解離性感覚障害という様式を示すことが重要な特徴です。
温度や痛みを感じにくくなる一方で、触覚や振動覚は比較的保たれ、この症状は上肢から始まって徐々に体幹や下肢へと広がっていく経過をたどります。
このような感覚障害のパターンは、脊髄の中心部に空洞が形成されることで、脊髄の深部を走行する温痛覚の神経線維が障害される結果として生じます。
感覚の種類 | 障害の程度 |
温度覚 | 強く障害 |
痛覚 | 強く障害 |
触覚 | 比較的保持 |
振動覚 | 比較的保持 |
感覚障害は通常、両側性に現れますが、左右差があることも多く、初期には片側性に症状が起きることもあります。
運動機能障害と筋力低下
運動機能の障害は上肢から始まり、手指の細かな動きに支障をきたすことが多いです。
筋力低下は、空洞の位置に対応した脊髄分節の支配領域に現れ、進行性に悪化します。
手の筋肉が徐々に痩せていく筋萎縮は、母指球や小指球などの手内筋に顕著に見られ握力の低下や物をつかむ力が減退します。
障害部位 | 主な症状 |
上肢 | 手指の巧緻運動障害、握力低下 |
体幹 | 姿勢保持困難、バランス障害 |
下肢 | 歩行障害、脱力感 |
自律神経症状と関連症状
脊髄空洞症では、以下のような自律神経症状が起こることがあります。
- 発汗異常や体温調節障害が出現し、特定の部位で発汗が増加または減少
- 血圧変動が大きくなり、起立時のめまいや立ちくらみを経験
- 膀胱直腸障害により排尿や排便のコントロールが困難
- 皮膚の栄養障害や創傷治癒の遅延が発生
症状は神経系の広範な障害を反映しており、症状の組み合わせや程度は個々の患者さんによって異なります。
特殊な症状と進行性変化
脊髄空洞症に特徴的な症状として神経障害性疼痛があり、灼熱感やビリビリした痛み、電気が走るような痛みなどが上肢や肩甲部に多く出現します。
また、脊柱の変形や関節の不安定性が生じることもあり、若年期から発症した場合には、脊柱側弯症などの骨格系の問題を伴います。
特殊症状 | 具体的な症状の性質 |
神経痛 | 灼熱感、電撃痛、持続性疼痛 |
骨格変化 | 脊柱変形、関節不安定性 |
栄養障害 | 皮膚潰瘍、創傷治癒遅延 |
これらの症状は、脊髄空洞症の進行に伴って徐々に顕在化し、症状は必ずしも対称性ではなく、左右差を伴うことも多いです。
脊髄空洞症の原因
脊髄空洞症は、先天的な要因や後天的な脊髄損傷、髄液循環動態の異常など、複数の要因が複雑に絡み合って発症します。
先天性要因と遺伝的背景
先天性の脊髄空洞症の最も代表的な原因は、第I型キアリ奇形です。
小脳扁桃が大後頭孔を通って脊柱管内に下垂することで、脳脊髄液の正常な循環が妨げられ、脊髄実質内に空洞が形成されます。
遺伝的要因に関する研究では、特定の遺伝子変異が脊髄空洞症の発症リスクを高める可能性があることが指摘されており、家族性の発症例も報告されています。
先天性要因 | 病態の特徴 |
キアリ奇形 | 小脳扁桃の下垂により髄液循環が障害される |
二分脊椎 | 脊髄の発生異常により空洞形成のリスクが上昇 |
脊索遺残 | 胎生期の脊索が残存し空洞形成の原因となる |
後天性要因と環境因子
後天的な要因として、外傷性脊髄損傷や脊髄腫瘍、脊髄炎などの炎症性疾患も脊髄空洞症の発症に関与していて、交通事故やスポーツ外傷による脊髄への直接的な損傷は、空洞形成の重要なトリガーです。
空洞形成のきっかけとなる後天性要因
- 脊髄への直接的な外傷や圧迫による組織損傷
- くも膜下出血や髄膜炎による髄液循環の異常
- 脊椎手術後の癒着による髄液流動性の低下
- 脊髄腫瘍による局所的な圧迫や循環障害
- 感染性疾患による脊髄実質の炎症性変化
髄液循環動態の異常
脊髄空洞症の発症メカニズムにおいて、髄液循環動態の異常は中心的な役割を果たし、正常な髄液循環が阻害されることで、脊髄実質内に髄液が溜まり、空洞が形成される過程が研究されています。
循環障害の種類 | 空洞形成への影響 |
髄液流出障害 | 髄液圧の上昇により脊髄実質内に髄液が浸透 |
髄液吸収障害 | 髄液の正常な吸収が妨げられ空洞が拡大 |
圧較差異常 | 頭蓋内と脊髄腔の圧力差により髄液の異常な流れが生じる |
髄液循環の異常は、単独で発症することもありますが、先天性要因や後天性要因と組み合わさって空洞形成を促進することが多いです。
複合的要因と発症メカニズム
脊髄空洞症の発症には、解剖学的異常、髄液循環の変化、組織の損傷や炎症反応など、様々な因子が組み合わさることで空洞形成が進行していくことが明らかになってきました。
また、加齢に伴う脊椎の変性変化や、職業性の慢性的な脊椎への負荷なども、脊髄空洞症の発症リスクを高める要因です。
診察(検査)と診断
脊髄空洞症の診断には神経学的所見の詳細な評価とMRIを中心とした画像検査による総合的な診断アプローチが重要です。
診察の基本的アプローチ
神経学的診察においては、まず感覚障害の分布や運動機能の評価を行い、特に感覚障害については解離性感覚障害の有無を詳しく確認していきます。
患者さんの症状の進行具合や日常生活への影響について、時系列に沿って問診を実施することで、病状の進行速度や生活上の制限について正確に把握できます。
また、頸部や背部の痛み、しびれ感などの神経症状については、部位や性質、持続時間などを細かく記録し、症状の変化や進行パターンを分析していきます。
診察項目 | 評価のポイント |
感覚検査 | 温痛覚、触覚、振動覚の左右差 |
運動機能 | 筋力低下の分布、筋萎縮の有無 |
反射検査 | 深部腱反射の左右差、病的反射 |
自律神経 | 発汗異常、皮膚温度変化 |
画像診断
MRI検査では、T1強調画像、T2強調画像、造影検査などを組み合わせて、脊髄内部の状態を詳細に観察していきます。
画像診断において特に注目すべき点として、空洞の大きさ、進展範囲、周囲組織との関係性があり、これらの所見を総合的に判断することで病態の把握が可能です。
さらに、脊髄造影CTやミエログラフィーなどの補助的検査も、症例に応じて実施することで、より詳細な病態評価に役立てます。
神経生理学的検査
診断には、神経生理学的な検査も用います。
- 体性感覚誘発電位検査による感覚伝導路の評価
- 運動誘発電位検査による運動機能の客観的評価
- 針筋電図検査による筋肉の電気生理学的評価
- 自律神経機能検査による交感神経機能の評価
経過観察と検査計画
定期的なMRI検査による画像評価と神経学的診察を組み合わせることで、病状の進行度合いを正確に把握できます。
検査項目 | 実施間隔の目安 |
MRI検査 | 6ヶ月〜1年ごと |
神経学的診察 | 3〜6ヶ月ごと |
神経生理検査 | 必要に応じて随時 |
画像再評価 | 症状変化時 |
複数の検査結果を総合的に分析することで、病態の進行状況をより正確に評価することが可能となり、また、継続的な経過観察によって病状の変化を早期に察知できます。
脊髄空洞症の治療法と処方薬、治療期間
脊髄空洞症の治療には、手術療法を中心とした外科的アプローチと薬物療法を組み合わせた総合的な医療介入が必要です。
外科的治療の種類と特徴
脊髄空洞症における手術療法は、空洞の原因や患者さんの状態に応じて様々な術式を選択します。
代表的な手術方法として大後頭孔減圧術があり、手術では頭蓋骨の一部と第1頸椎を切除することで、脳脊髄液の循環改善を図ります。
手術の選択では、空洞の位置や大きさ、髄液循環の状態などを総合的に判断し、最も効果的な術式を決定することが重要です。
手術時間は3〜6時間程度で、術後の入院期間は2〜3週間を要します。
手術方法 | 手術の目的と特徴 |
大後頭孔減圧術 | 髄液循環の改善と脳幹圧迫の解除 |
空洞腹腔シャント術 | 空洞内の髄液を腹腔内へ持続的に誘導 |
癒着剥離術 | くも膜の癒着を剥離し髄液循環を改善 |
薬物療法のアプローチ
薬物療法は、症状のコントロールと手術後の回復支援が目的です。
主に使用する薬剤
- 非ステロイド性抗炎症薬 疼痛管理と炎症抑制
- 神経障害性疼痛治療薬 しびれや痛みの軽減
- 筋弛緩薬 筋緊張の緩和と関節可動域の維持
- 副腎皮質ステロイド薬 炎症反応の抑制
- 神経保護薬 神経組織の保護作用
リハビリテーション医療
リハビリテーション医療は手術前後の機能回復に大切で、理学療法士による運動療法や作業療法士による日常生活動作訓練を通じて、筋力維持や関節可動域の改善を目標とします。
リハビリ種類 | 実施内容と期間 |
術前リハビリ | 2〜4週間の基礎体力強化と呼吸機能訓練 |
急性期リハビリ | 術後1週間からの段階的な機能回復訓練 |
回復期リハビリ | 3〜6か月の継続的な機能訓練と生活動作練習 |
治療期間と経過管理
手術直後から約3か月間は、集中的なリハビリテーションと薬物療法を組み合わせた治療を実施します。
その後の回復期には、外来でのリハビリテーションと投薬を継続しながら、徐々に日常生活への復帰を進めていくことになり、一般的な治療期間は6か月から1年程度です。
脊髄空洞症の治療における副作用やリスク
脊髄空洞症の治療では、手術療法や薬物療法などの各種治療法に関連する様々な副作用やリスクがあります。
手術療法における一般的なリスク
手術部位の解剖学的特徴から、脳脊髄液の循環動態に影響を及ぼす可能性があるため、術後の髄液漏や感染症などの合併症に対する十分な注意が必要です。
術後の創傷治癒の遅延や感染予防の観点から、厳密な衛生管理と定期的な医学的評価を実施することで、合併症の早期発見につながります。
手術関連リスク | 発生頻度 |
術後感染 | 2-5% |
髄液漏 | 3-7% |
創傷治癒遅延 | 1-4% |
麻酔関連合併症 | 1-3% |
薬物療法に関連する副作用
中枢神経系に作用する薬剤を使用する際には、眠気や注意力低下などの一時的な症状から、より深刻な副作用まで、様々な身体反応が現れることがあります。
起こりうる副作用
- 抗てんかん薬使用時の皮膚症状
- 鎮痛薬による消化器症状
- ステロイド薬の長期使用による骨密度低下
- 免疫抑制薬による感染リスクの上昇
画像診断に関連するリスク
造影MRI検査においては、ガドリニウム造影剤の使用に伴う副作用や腎機能への影響について、事前の評価と慎重な投与判断が大切です。
造影剤関連リスク | 対応方針 |
軽度アレルギー反応 | 抗ヒスタミン薬の予防投与 |
腎機能障害 | 腎機能検査値による投与量調整 |
遅発性副作用 | 経過観察期間の延長 |
造影剤沈着 | 累積使用量の管理 |
リハビリテーション実施時のリスク管理
リハビリテーションプログラムの実施中には、過度な負荷による神経症状の悪化や、運動機能の一時的な低下などが起こる可能性があります。
運動療法の強度設定では、患者さんの体力や神経症状の状態を考慮しながら、段階的な負荷増加を行うことで、安全性を確保することが大切です。
物理療法の実施に際しては、局所の温熱刺激や電気刺激による神経症状の変化に注意を払い、症状の増悪を防ぐための調整を行っていきます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
入院手術費用
手術費用は術式によって異なり、一般的な入院期間は2-3週間です。
手術費用項目 | 保険適用後の費用(概算) |
大後頭孔減圧術 | 30-35万円 |
空洞シャント術 | 25-30万円 |
手術時麻酔料 | 8-10万円 |
画像診断・検査費用
画像診断には主にMRIやCTが使用され、定期的な撮影を行います。
検査項目 | 保険適用後の費用(概算) |
MRI撮影 | 5,000-8,000円 |
CT撮影 | 4,000-6,000円 |
脊髄造影検査 | 15,000-20,000円 |
薬物療法・リハビリテーション費用
主な治療薬とリハビリテーション費用
- 神経障害性疼痛治療薬 1ヶ月あたり3,000-5,000円
- 抗炎症薬 1ヶ月あたり2,000-4,000円
- 筋弛緩薬 1ヶ月あたり2,500-4,500円
- 理学療法(1回) 2,000-3,000円
- 作業療法(1回) 2,000-3,000円
以上
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