ビタミンB欠乏性ニューロパチー(vitamin B complex deficiency neuropathy)とは、体内でビタミンB群が不足することによって起こる末梢神経障害のことです。
神経細胞の機能維持や髄鞘の形成にビタミンB群が重要な役割を果たしており、不足は神経細胞の変性や髄鞘の破壊につながります。
初期症状として手足のしびれや痛み、筋力低下などが現れ、進行すると感覚障害や運動機能の低下、深部腱反射の減弱などの症状が現れます。
長期にわたるアルコールの多飲や偏った食生活、消化器系の疾患によって吸収障害が生じている場合に、このような神経障害を引き起こすリスクが高いです。
ビタミンB欠乏性ニューロパチーの主な症状
ビタミンB欠乏性ニューロパチーでは、末梢神経系に広範な障害が生じることにより、感覚障害や運動機能の低下、自律神経症状などが起こります。
感覚神経障害による症状
末梢神経系における感覚神経の障害により、末端部から始まる様々な感覚異常が現することがビタミンB欠乏性ニューロパチーの重要な所見です。
手足の末端から徐々に体側へと進行していく異常感覚は、しびれ感やチクチクした痛み、ピリピリとした電気が走るような不快な感覚として自覚されることが多く、下肢での症状が顕著です。
神経障害の進行に伴い、温度感覚や触覚、痛覚などの表在感覚が徐々に鈍くなっていくとともに、にも異常をきたすことで、歩行時のふらつきや転倒リスクが増大します。
感覚異常の種類 | 症状 |
表在感覚障害 | 手足の痺れ、チクチク感、痛み |
深部感覚障害 | バランス障害、歩行時のふらつき |
運動神経障害による症状
ビタミンB欠乏性ニューロパチーで見られる筋力低下は、両側かつ対称的に現れ、下肢遠位部の筋群から始まって徐々に近位部へと進展していく経過をたどります。
進行性の筋力低下に伴い、歩行障害や立位保持の困難さが増していくことで、日常生活動作に支障をきたすようになることも少なくありません。
自律神経症状
ビタミンB欠乏性ニューロパチーでは、自律神経系の機能障害も認められます。
- 発汗異常による体温調節機能の低下
- 血圧変動による立ちくらみやめまい
- 循環器系の症状として頻脈や不整脈
- 消化管運動の低下による便秘や腹部膨満感
- 排尿障害による頻尿や残尿感
ビタミンB欠乏性ニューロパチーの原因
ビタミンB欠乏性ニューロパチーは、体内におけるビタミンB群の慢性的な不足状態や吸収障害によって起こり、栄養摂取の偏り、消化管の吸収不全、薬剤性の影響などが関与しています。
栄養摂取に関連する要因
食生活の多様化に伴い、極端な偏食や特定の食事制限による栄養素の偏りが、ビタミンB群の慢性的な不足を引き起こすことが重要な原因の一つです。
菜食主義者や過度な糖質制限を実施している方は、動物性食品の摂取不足によってビタミンB12を中心としたビタミンB群の慢性的な欠乏状態に陥りやすくなっています。
食事パターン | 欠乏しやすいビタミンB |
完全菜食主義 | ビタミンB12、B2 |
糖質制限食 | ビタミンB1、B6 |
偏食傾向 | ビタミンB群全般 |
消化管疾患による吸収障害
消化管の構造や機能に影響を及ぼす様々な病態が、ビタミンB群の吸収障害を起こす要因となり、胃切除後や炎症性腸疾患の患者さんは注意が必要です。
胃切除後症候群では、内因子の分泌低下によってビタミンB12の吸収が低下することに加えて、消化管の通過時間が短縮することで、他のビタミンB群の吸収も障害されます。
ビタミンB群の吸収に影響を与える代表的な病態
- 炎症性腸疾患による腸管粘膜の障害
- 腸管切除後の吸収面積減少
- セリアック病による栄養素吸収障害
- 慢性膵炎による消化酵素分泌不全
- 胆汁分泌障害による脂溶性ビタミンの吸収低下
薬剤性要因
特定の薬剤の長期使用が体内のビタミンB群の代謝や吸収に影響を与え、ビタミンB欠乏性ニューロパチーの発症につながる可能性もあります。
薬剤分類 | 影響を受けるビタミンB |
制酸薬 | B12、B1 |
抗てんかん薬 | B6、葉酸 |
糖尿病薬 | B12、B1 |
利尿薬 | B1、B6 |
その他の要因
加齢に伴う消化機能の低下や、慢性的なアルコール摂取による栄養素の吸収障害も、ビタミンB欠乏性ニューロパチーの発症要因です。
長期間にわたる経腸栄養や完全静脈栄養による管理を必要とする患者さんでは、ビタミンB群の補給が不十分となることがあります。
妊娠中や授乳期における栄養需要の増加も、ビタミンB群の不足を引き起こす要因で、葉酸やビタミンB12の需要が増加することで、欠乏状態に陥りやすい状況が生まれるのです。
また、慢性的な疾患や状態による代謝の亢進、持続的なストレス状態、過度な運動などによっても、体内のビタミンB群の消費が増加し、欠乏状態を起こします。
診察(検査)と診断
ビタミンB欠乏性ニューロパチーの診断は、問診と神経学的所見の確認、血液検査によるビタミンB群の定量、さらに電気生理学的検査などを用います。
問診と神経学的診察
問診では、患者さんの食生活や生活環境に関する聞き取りを行うとともに、手足のしびれや歩行時の違和感といった自覚症状の発現時期や進行具合について、確認を実施します。
神経学的診察では、深部腱反射や振動覚、位置覚などの検査を行い、末梢神経の機能状態を評価していくことが重要です。
神経学的検査項目 | 検査内容 |
深部腱反射検査 | 膝蓋腱反射や足首反射の確認 |
感覚機能検査 | 振動覚・温痛覚・触覚の確認 |
筋力検査 | 手足の筋力低下の有無確認 |
歩行検査 | バランス機能の確認 |
血液検査による生化学的診断
血液検査では、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB12(コバラミン)などの血中濃度を測定することで、体内のビタミンB群の不足状態を把握できます。
電気生理学的検査
神経伝導検査では、末梢神経に微弱な電気刺激を与え、伝導速度や振幅を測定することで、神経線維の機能状態を評価します。
筋電図検査においては、針電極を用いて筋肉の電気的活動を記録し、神経障害による異常所見の有無を分析していくことになります。
以下の項目は、電気生理学的検査において特に注目すべきポイントです。
- 運動神経伝導速度の低下
- 感覚神経活動電位の減少
- 複合筋活動電位の振幅低下
- 遠位潜時の延長
- F波潜時の異常
画像診断による補助的検査
画像検査種類 | 主な観察対象 |
MRI検査 | 脊髄・神経根の状態 |
超音波検査 | 末梢神経の形態変化 |
CT検査 | 骨構造・軟部組織 |
神経超音波 | 神経腫大・変性 |
画像診断技術の進歩により、従来は困難であった末梢神経の形態学的変化画像として捉えられ、特にMRI検査では、神経周囲の微細な変化まで観察することが可能です。
超音波検査はリアルタイムで神経の状態を観察できる利点を持つことから、診断の補助的手段とします。
また、神経超音波検査は、末梢神経の腫大や変性などを簡便に観察できることから、経時的な変化の追跡にも有用な検査方法です。
ビタミンB欠乏性ニューロパチーの治療法と処方薬、治療期間
ビタミンB欠乏性ニューロパチーの治療では、欠乏しているビタミンB群を補充するための薬物療法を中心として、神経機能の回復を目指した治療を実施するとともに、原因となる基礎疾患への対応も行います。
ビタミンB群補充療法
神経機能の早期回復のため、初期治療では高用量のビタミンB群を非経口的に投与することが一般的な治療法で、重度の欠乏状態では、静脈内投与による急速な補充療法が有効な手段です。
投与経路 | 投与量と期間 |
静脈内投与 | ビタミンB1 100mg/日、B12 1000μg/日、2週間 |
筋肉内注射 | ビタミンB12 1000μg/週、4週間 |
経口投与 | ビタミンB複合体 3錠/日、維持期 |
急性期後の維持療法は、経口によるビタミンB群の補充に切り替えます。
神経再生促進療法
神経組織の修復と再生を促進するための治療法として、いくつかの薬剤による介入が推奨されています。
- メチルコバラミン製剤による神経再生促進
- ビタミンB1誘導体による軸索再生サポート
- 神経栄養因子製剤による神経保護作用
- アデノシン三リン酸製剤によるエネルギー代謝改善
- γ-オリザノール製剤による末梢循環改善
リハビリテーション療法
薬物療法と並行して、運動機能の維持・改善を目的としたリハビリテーションプログラムを実施することが不可欠で、下肢の筋力低下や感覚障害に対する運動療法は、治療効果を高める上で重要です。
リハビリ内容 | 実施頻度 |
関節可動域訓練 | 1日2回、20分/回 |
筋力増強運動 | 1日1回、30分/回 |
バランス訓練 | 週3回、40分/回 |
歩行訓練 | 毎日、60分/回 |
治療期間
急性期の集中的な治療期間は通常2〜4週間で、その後は神経機能の改善状況に応じて3〜6ヶ月の継続的な治療を行います。
初期治療の高用量のビタミンB群補充療法は、投与開始から2週間程度でしびれ感や痛みといった感覚症状改善が認められます。
運動機能の回復には長期間を要することが多く、重度の筋力低下を伴う症例では、6ヶ月以上の継続的な治療とリハビリテーションが必要です。
ビタミンB欠乏性ニューロパチーの治療における副作用やリスク
ビタミンB欠乏性ニューロパチーの治療過程では、投与するビタミンB群製剤の種類や投与量、投与経路によって様々な副作用やリスクがあり、高用量療法や長期投与では経過観察が大切です。
ビタミンB群製剤投与に伴う副作用
ビタミンB群製剤の投与に際して、投与部位における痛みや腫れ、発赤などの局所反応が生じることがあります。
投与経路 | 発現しやすい副作用 |
静脈内投与 | 血管痛、静脈炎、アレルギー反応 |
筋肉内注射 | 注射部位疼痛、硬結、発赤 |
経口投与 | 悪心、食欲不振、下痢 |
消化器系の副作用として、経口投与時には悪心や嘔吐、食欲不振、腹部不快感などの症状が生じることがあり、症状は投与開始初期に比較的高頻度で認められます。
アレルギー反応とアナフィラキシーのリスク
ビタミンB群製剤投与によるアレルギー反応は、軽度の皮膚症状から重篤なアナフィラキシーショックまで、様々な過敏反応として現れる可能性があり、注意が必要な副作用です。
- 皮膚の発疹や蕁麻疹
- 顔面浮腫や咽頭浮腫
- 呼吸困難や喘鳴
- 血圧低下や頻脈
- 意識レベルの変化
高用量投与に関連するリスク
高用量のビタミンB群投与では特定の状況下において予期せぬ副作用が起こることがあり、腎機能障害を有する患者さんや高齢者は、より慎重な投与量の調整が必要です。
リスク要因 | 注意すべき副作用 |
腎機能障害 | 体内蓄積、高濃度曝露 |
肝機能障害 | 代謝遅延、血中濃度上昇 |
高齢者 | 排泄遅延、相互作用増強 |
多剤併用 | 薬物相互作用、代謝変化 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
一般的な検査費用
神経伝導検査や血液検査などの基本的な検査は、神経疾患の診断において欠かせます。
検査項目 | 費用(3割負担) |
神経伝導検査 | 4,500円 |
血液検査 | 3,000円 |
筋電図検査 | 5,000円 |
MRI検査 | 15,000円 |
治療薬の費用
治療では患者の症状や検査結果に基づき、ビタミンB群を主成分とする薬剤を処方し、内服薬と注射薬を組み合わせることで、より効果的な治療を目指します。
投薬期間は通常1〜3ヶ月です。
治療薬 | 28日分の費用(3割負担) |
ビタミンB1製剤(25mg/日) | 2,800円 |
ビタミンB6製剤(80mg/日) | 3,200円 |
ビタミンB12製剤(500μg/日) | 2,600円 |
神経障害性疼痛緩和薬 | 4,500円 |
神経再生促進薬 | 5,200円 |
入院時の費用
入院による集中的な治療が必要となる際は、より詳細な検査や治療を実施します。
入院費用項目 | 1日あたりの費用(3割負担) |
入院基本料 | 5,700円 |
注射・点滴 | 3,000円 |
食事療養費 | 1,500円 |
リハビリ | 3,000円 |
以上
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