West症候群(点頭てんかん) – 脳・神経疾患

West症候群(点頭てんかん)(West syndrome)とは、生後3か月から1歳までの乳児期に発症する、重度のてんかん症候群の一つです。

特徴的な発作パターン、脳波異常、および発達の遅れを伴う複雑な神経学的疾患として知られています。

症状は、短時間の筋肉の収縮と弛緩を繰り返す「てんかん性スパズム」(数秒間続く全身の筋肉の突然の収縮)と呼ばれる頻繁な発作です。

発作は、頭を前に倒すような動きを伴うことから、「点頭てんかん」と呼ばれています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

West症候群(点頭てんかん)の主な症状

West症候群(点頭てんかん)は乳児期に発症し、症状は点頭発作、精神運動発達の停滞または退行、そして特徴的な脳波異常である高振幅徐波とスパズムの混在(ヒプスアリスミア)を伴います。

点頭発作の特徴

点頭発作は、West症候群において最もよく見られる症状です。

乳児の体が瞬間的に屈曲する動きを特徴とし、以下のような形態が観察されます。

発作の種類特徴
屈曲型頭部と体幹が前方に屈曲
伸展型頭部と体幹が後方に伸展
混合型屈曲と伸展が混在

発作は数秒間隔で連続して起き、一連の発作が「クラスター」です。

クラスターは、1日に数回から数十回発生し、睡眠から覚醒への移行期や覚醒から睡眠への移行期に頻発します。

精神運動発達への影響

West症候群の第二の主要症状は、精神運動発達の停滞または退行です。

発達の遅れが現れる領域

  • 運動機能(首のすわり、寝返り、お座り)
  • 言語能力(喃語(なんご)、単語の発語)
  • 社会性(人見知り、あやし遊びへの反応)
  • 認知機能(物の永続性の理解、因果関係の把握)

脳波異常

West症候群の診断において、特徴的な脳波所見であるヒプスアリスミアの存在は診断上、重要な要素です。

ヒプスアリスミアは、高振幅徐波とスパズムが混在する特異な脳波パターンで、いくつかの特徴があります。

脳波所見特徴
高振幅徐波大きな振幅を持つゆっくりとした波
スパズム突発的な速波の混入

脳波異常は、覚醒時に比べて睡眠時により現れることが多く、脳の電気的活動の乱れを示す重要な指標です。

その他の随伴症状

上記の主要症状に加えて、West症候群患者さんには様々な随伴症状が観察されます。

症状の分類
眼球の異常運動眼球偏位、眼振
筋緊張の変化筋緊張低下または亢進
自閉症様の行動特性視線が合わない、社会的相互作用の減少

また、一部の患者さんでは、感覚過敏や睡眠障害が見られることもあります。

West症候群(点頭てんかん)の原因

West症候群(点頭てんかん)の原因は遺伝子異常、脳の構造的異常、代謝障害、感染症など、様々な要因が関与する神経学的疾患です。

West症候群の原因分類

West症候群の原因は、大きく分けて特発性(原因不明)と症候性(原因既知)の2つに分類されます。

特発性West症候群は明確な原因が特定できない場合で、全体の約10〜20%です。

一方、症候性West症候群は原因が判明していて、全体の約80〜90%を占めます。

遺伝子異常

遺伝子異常は、West症候群の重要な原因の一つです。

ARX遺伝子(脳の発達に関与)、CDKL5遺伝子(神経細胞の機能に関与)、STXBP1遺伝子(神経伝達物質の放出に関与)の変異が、West症候群の発症と関連しています。

遺伝子名関連する症状遺伝子の機能
ARX知的障害、てんかん脳の発達制御
CDKL5早期てんかん性脳症シナプス形成
STXBP1大田原症候群神経伝達物質放出

脳の構造的異常

脳の構造的異常もWest症候群の主要な原因で、脳の発達過程で生じる異常や、出生前後の脳障害が含まれます。

原因となる脳障害は、脳室周囲白質軟化症(未熟児に多い脳の白質部分の障害)、皮質形成異常(脳の表面層の形成異常)、結節性硬化症(全身に良性腫瘍ができる遺伝性疾患)です。

代謝障害

先天性代謝異常症の中には脳の発達や機能に影響を与え、West症候群を起こすものがあります。

影響のある代謝障害は、フェニルケトン尿症(アミノ酸代謝異常)、非ケトーシス型高グリシン血症(アミノ酸代謝異常)、ビタミンB6依存症(ビタミンB6の代謝異常)です。

代謝異常は脳内の神経伝達物質のバランスを崩し、てんかん発作を誘発する可能性があります。

代謝障害影響代謝異常の種類
フェニルケトン尿症知的障害、てんかんアミノ酸代謝異常
非ケトーシス型高グリシン血症てんかん、呼吸障害アミノ酸代謝異常
ビタミンB6依存症難治性てんかんビタミン代謝異常

感染症と脳障害

周産期や出生後早期の感染症もWest症候群の原因となることがあり、サイトメガロウイルス感染、単純ヘルペスウイルス感染、トキソプラズマ症などが重要視されています。

West症候群の原因となり得る感染症

  • サイトメガロウイルス感染(先天性感染症の主要原因)
  • 単純ヘルペスウイルス感染(新生児期の重症感染症)
  • トキソプラズマ症(妊娠中の感染で胎児に影響)
  • 風疹(先天性風疹症候群の原因)
  • B群溶血性連鎖球菌感染(新生児期の髄膜炎の原因)
感染症影響感染経路
サイトメガロウイルス脳室周囲白質軟化症経胎盤感染
単純ヘルペスウイルス脳炎、脳症産道感染
トキソプラズマ頭蓋内石灰化経胎盤感染

診察(検査)と診断

West症候群(点頭てんかん)の診察(検査)と診断は、病歴聴取、神経学的診察、脳波検査、画像診断などを組み合わせて行います。

初期診察と病歴聴取

West症候群の問診では発作の様子と頻度、発達の遅れや退行の有無、妊娠中や出産時の状況、家族歴(てんかんや神経疾患の有無)を聞き取ります。

特に、点頭発作(体が瞬間的に屈曲する特徴的な発作)の描写は、West症候群を疑う重要な手がかりです。

神経学的診察

病歴聴取に続いて実施される神経学的診察では、患者さんの神経系の機能や発達状況を総合的に評価します。

評価項目内容意義
筋緊張筋肉の硬さや弛緩の程度神経系の機能異常を示唆
反射深部腱反射や原始反射の有無中枢神経系の成熟度を評価
運動発達首のすわり、寝返り、座位の獲得状況全体的な発達の遅れを把握
認知機能目で物を追う、音に反応するなど脳の高次機能の発達を評価

評価を通じて神経系の異常や発達の遅れを確認し、West症候群の可能性をさらに絞り込んでいきます。

脳波検査

West症候群の診断において、脳波検査は欠かすことのできない重要な検査です。

覚醒時と睡眠時の両方で脳波を記録することが大切であり、脳の電気的活動の異常を捉えます。

West症候群に特徴的な脳波所見

脳波所見特徴診断的価値
ヒプスアリスミア高振幅徐波とスパズムの混在West症候群の典型的所見
点頭発作波発作時に見られる特徴的な波形発作の性質を確認

所見はWest症候群の診断を確定させるだけでなく、他のてんかん症候群との鑑別にも役立ちます。

画像診断

脳の構造的異常を評価するため、画像診断が必要です。

  • MRI(磁気共鳴画像法):脳の詳細な構造を高解像度で観察
  • CT(コンピュータ断層撮影):脳の全体像や急性期の変化を素早く把握
  • SPECT(単一光子放射断層撮影):脳血流の分布を評価し、機能的な異常を検出

検査により脳の形態異常や腫瘍、血管奇形などの器質的病変を確認し、West症候群の背景にある脳の状態を評価します。

遺伝子検査

West症候群の原因となる遺伝子変異が複数同定されており、遺伝子検査が診断の一助となる場合があります。

遺伝子検査が考慮される状況

  • 家族歴がある場合:遺伝性の要因を特定
  • 原因不明の症例:潜在的な遺伝的要因を探索
  • 治療方針の決定に影響する可能性がある場合:個別化医療の基盤として活用

West症候群(点頭てんかん)の治療法と処方薬、治療期間

West症候群(点頭てんかん)の治療は、抗てんかん薬を用いた薬物療法が主体で、ACTH療法や外科的治療を組み合わせながら、患者さんの状態に応じて長期的に管理されます。

第一選択薬

ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法は、West症候群の治療において最も効果的な第一選択薬です。

ACTH療法は短期間で高い有効性を示し、多くの患者さんで発作の消失や脳波所見の改善が見られ、早期に開始された場合、効果はより顕著になります。

ACTH療法は2〜4週間程度の短期集中治療として行われ、その後徐々に減量していきます。

ACTH療法特徴注意点
投与方法筋肉注射専門医の管理下で実施
治療期間2〜4週間個別に調整される場合あり
主な効果発作抑制、脳波改善早期開始でより効果的

抗てんかん薬による治療

ACTH療法に加えまたは代替として、抗てんかん薬が使用されます。

代表的な薬剤は、バルプロ酸(デパケン®など)、ビガバトリン(サブリル®)、トピラマート(トピナ®)です。

単剤で使用されることもあれば、複数の薬剤を組み合わせて使用されることもあります。

抗てんかん薬による治療は、長期にわたって継続され、発作のコントロールが得られた後も、再発予防のために数年間継続され、思春期や成人期まで服薬を続ける患者さんも。

ビタミンB6療法

一部のWest症候群患者さんでは、ビタミンB6(ピリドキシン)が効果を示すことがあり、ビタミンB6依存性てんかんと呼ばれる特殊なケースでは、大量のビタミンB6投与が劇的な効果をもたらします。

ビタミンB6療法は短期間試みられ、効果が認められた場合に長期的な治療として継続されますが、全ての患者さんに有効というわけではありません。

ケトン食療法

薬物療法に抵抗性を示す患者さんに対しては、ケトン食療法も選択肢の一つです。

特に乳幼児期のWest症候群患者さんにおいて、有効性が報告されています。

ケトン食療法は、高脂肪・低炭水化物・適正タンパク質の特殊な食事療法で、脳内のエネルギー代謝を変化させることで、発作を抑制します。

食事療法は6ヶ月から2年程度継続され、効果が認められれば更に長期間継続されることもありますが、栄養バランスの管理が難しいため、専門的な栄養指導のもとで実施することが必要です。

ケトン食療法内容留意点
栄養バランス高脂肪・低炭水化物・適正タンパク質専門的な栄養指導が必要
期間6ヶ月〜2年以上効果に応じて延長可能
主な効果発作頻度の減少個人差が大きい

外科的治療

薬物療法で十分な効果が得られないときは、外科的治療が検討され、局所的な脳の異常が明確な場合に有効性が高いです。

West症候群の外科的治療

  • 脳梁離断術(左右の大脳半球をつなぐ脳梁を切断する手術)
  • 皮質切除術(異常な脳部位を切除する手術)
  • 半球切除術(大脳半球の大部分を切除する手術)
  • 迷走神経刺激療法(首の迷走神経に電気刺激を与える治療)

West症候群(点頭てんかん)の治療における副作用やリスク

West症候群(点頭てんかん)の治療には、抗てんかん薬やステロイド薬が用いられ、薬剤には様々な副作用やリスクが伴います。

抗てんかん薬の副作用

West症候群の治療で使われる抗てんかん薬には、いくつかの副作用があります。

主な副作用

副作用症状対応策
眠気日中の傾眠、活動性の低下服薬時間の調整、用量の見直し
食欲変化食欲不振または過度の食欲亢進栄養指導、体重管理
皮膚症状発疹、かゆみ皮膚科受診、薬剤変更の検討
行動変化イライラ、落ち着きのなさ心理サポート、薬剤調整

ステロイド薬の副作用

ステロイド薬はWest症候群の治療において高い有効性を示す一方で、重大な副作用のリスクも伴うため、使用には細心の注意が必要です。

ステロイド薬の副作用

  • 免疫機能の低下(感染症のリスク増加)
  • 体重増加(特に体幹部の脂肪沈着)
  • 高血圧(循環器系への負担)
  • 骨密度の低下(骨折リスクの上昇)
  • 消化器症状(胃潰瘍などの消化管障害)

副作用は、長期使用や高用量投与で顕著になるため、投与期間や用量の管理が重要です。

薬剤相互作用のリスク

West症候群の治療では複数の薬剤を併用することが多いため、薬剤間の相互作用に注意を払います。

薬剤の組み合わせによっては、予期せぬ副作用が生じる可能性もあるため、慎重な経過観察が不可欠です。

相互作用の種類リスク対策
薬効の増強副作用の増強、過度の鎮静用量調整、併用薬の見直し
薬効の減弱発作のコントロール不良代替薬の検討、投与スケジュールの変更
代謝への影響肝機能障害、腎機能障害定期的な血液検査、臓器機能のモニタリング

長期使用に伴うリスク

West症候群の治療は長期にわたることが多く、薬剤の長期使用に伴うリスクにも注意が必要です。

長期使用のリスク影響対策
認知機能への影響学習能力の低下、記憶力の減退定期的な認知機能評価、教育支援
内分泌系への影響性腺機能低下、甲状腺機能異常内分泌学的検査、ホルモン補充療法の検討
骨代謝への影響骨密度低下、成長抑制骨密度測定、栄養指導、運動療法

リスクを最小限に抑えるため、定期的な評価と必要に応じた薬剤調整が大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法にかかる費用

ACTH療法は1クール(2〜4週間)で約10万円から20万円です。

抗てんかん薬の費用は月額1万円から3万円となります。

入院費用

West症候群の診断や治療開始時には1〜2週間の入院が必要で、3割負担の場合、10万円から20万円です。

治療内容概算費用(3割負担)
ACTH療法10万円〜20万円/クール
抗てんかん薬1万円〜3万円/月

その他の治療法にかかる費用

  • ビタミンB6療法 月額5000円〜1万円
  • ケトン食療法 月額1万円〜3万円
  • 外科的治療 100万円〜300万円

以上

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