動脈硬化 – 循環器の疾患

動脈硬化(Arteriosclerosis)とは、血管の内壁に脂質やコレステロールなどが蓄積し、血管が硬くなってしまう病気です。

水道管が長年の使用で錆びつき、水が流れにくくなるように、動脈が硬くなることで血液の流れが悪くなります。

年齢とともに進行しやすく、特に高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病がある方は注意が必要です。

初期段階では自覚症状がほとんどないため、定期的な健康診断を受け、早期に発見することが大切です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

動脈硬化の種類(病型)

動脈硬化(Arteriosclerosis)は、病理学的に粥状硬化、細動脈硬化、メンケベルグ型動脈硬化の3種類に分けられています。

粥状硬化(じゅくじょうこうか)

粥状硬化は動脈硬化の中で最も一般的な病型で、動脈の内膜にコレステロールなどの脂質が蓄積し、粥状(おかゆ状)の塊を形成します。

主に大型から中型の動脈で発生し、冠状動脈や頸動脈、大動脈などが影響を受けやすいのが特徴です。

年齢とともに進行することが多く、生活習慣とも密接な関係があります。

特徴影響を受けやすい血管
脂質の蓄積冠状動脈
粥状の塊形成頸動脈
大型~中型動脈に発生大動脈

細動脈硬化(さいどうみゃくこうか)

細動脈硬化は小さな動脈や細動脈に影響を与える病型で、血管壁が肥厚し、内腔(血液の通り道)が狭くなります。

高血圧や糖尿病の方に多く見られ、腎臓や脳、網膜などの臓器に影響があります。

メンケベルグ型動脈硬化

メンケベルグ型動脈硬化は比較的まれな病型で、動脈の中膜(血管壁の中間層)にカルシウムが沈着するという特徴を持ちます。

主に下肢の動脈に発生しやすく、高齢者に多く見られます。

他の2つの病型と比べて症状が現れにくいのが特徴ですが、血管の弾力性が失われるため、循環器系に影響を与える場合があります。

各病型の比較

病型主な発生部位特徴主なリスク因子
粥状硬化大型~中型動脈脂質の蓄積高脂血症、喫煙
細動脈硬化小動脈、細動脈血管壁の肥厚高血圧、糖尿病
メンケベルグ型下肢の動脈カルシウム沈着高齢、慢性腎臓病

動脈硬化の主な症状

動脈硬化は初期症状がほとんどなく、気付かないうちに進行してしまうことが多くあります。

しかし、進行すると脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。

気付きやすい主な症状には、胸痛や頭痛、めまい、歩くときに足が痛くなる(間欠性跛行)などがあります。

気になる症状が出た場合は、早めに医療機関を受診するようにしてください。

心臓に関連する症状

心臓の冠動脈に動脈硬化が起きると、狭心症や心筋梗塞といった重篤な症状が現れるおそれがあります。

気をつけたい症状
  • 胸痛や胸部圧迫感(特に運動時や精神的ストレス時に悪化)
  • 息切れや呼吸困難(日常的な活動でも感じる場合がある)
  • 不整脈(動悸や脈の乱れを感じる)
  • 疲労感や倦怠感(通常以上に疲れやすくなる)

脳に関連する症状

脳の血管に動脈硬化が生じると、一過性脳虚血発作(TIA)や脳卒中などの深刻な症状が現れます。

症状特徴
突然の頭痛激しい痛みを伴い、これまでに経験したことのないような強さの場合がある
麻痺体の片側に現れる場合が多く、顔の歪みや手足の動きにくさとして感じる
言語障害呂律が回らない、言葉が出てこない、他人の言葉が理解しづらくなる
めまい立ちくらみや回転性のめまいを感じ、バランスを保つのが難しくなる

脳に関連する症状は突然現れることが多く、一時的なものであっても迅速な医療機関への受診が必要です。

四肢に関連する症状

末梢動脈疾患(PAD)として知られる四肢の動脈硬化は、主に下肢に症状が現れます。

症状詳細
間欠性跛行歩行時の足の痛みや不快感、休憩すると軽減するが再び歩き出すと症状が現れる
冷感足や手が冷たくなり、他の部位との温度差を感じる
皮膚の変化色調の変化や潰瘍の形成、傷の治りが悪くなる
脱毛足の毛が薄くなり、皮膚のつやや弾力が失われる

四肢の動脈硬化は、進行すると重度の痛みや組織の壊死につながる場合もあります。

全身に関連する症状

  • 疲労感や倦怠感の増加(日常的な活動でも強い疲れを感じる)
  • 運動耐容能の低下(以前よりも運動や活動を続けられなくなる)
  • めまいや立ちくらみ(急に立ち上がったときなどに感じやすくなる)
  • 記憶力や集中力の低下(仕事や学習に支障をきたすようになる)

動脈硬化の症状は徐々に進行し、気づかないうちに生活の質を低下させていきます。

他の疾患と似た症状も多いため、自己判断は避け、医療機関で診断を受けることが大切です。

動脈硬化の原因

動脈硬化は、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙など、生活習慣病が主な原因です。

動脈硬化が起きるしくみ

動脈硬化は、長い時間をかけて少しずつ進む病気です。

血管の内側に脂質(主にコレステロール)が少しずつたまっていき、免疫細胞が、この脂質の蓄積を「異物」として認識します。

この異物を排除しようと攻撃を始める過程で、血管内に軽い炎症が発生します。

これは体が自身を守ろうとする反応ですが、血管の状態を悪化させる原因となります。

炎症が続くと血管の壁は少しずつ厚くなっていき、本来持っていた柔軟性を失っていきます。

そして、しだいに硬くなっていくのです。これが「動脈硬化」と呼ばれる状態です。

生活習慣が動脈硬化に影響する

喫煙や運動不足などの日々の生活習慣は、動脈硬化の進行に大きく影響します。

動脈硬化のリスクを高める生活習慣

生活習慣動脈硬化への影響
喫煙血管内皮の損傷を促進
運動不足血液循環の悪化
高脂肪食血中コレステロール値の上昇
ストレス血圧上昇、炎症反応の促進

また、動脈硬化は遺伝的要因もあると考えられているため、動脈硬化の家族歴がある方は特に注意が必要です。

年齢と動脈硬化の関係

加齢に伴い、動脈硬化のリスクは自然と高くなっていきます。

これには、主に2つの理由があります。

まず1つ目は、長年の生活習慣の積み重ねです。毎日の食事や運動、ストレスなどが少しずつ血管に影響を与えていきます。

2つ目は、細胞の修復能力が低下することです。

若い頃は血管の傷もすぐに治っていたのが、年齢とともにその回復力が弱くなっていきます。

動脈硬化を促進する疾患

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 高コレステロール血症
  • 肥満

高血圧や糖尿病などの疾患は動脈硬化の進行を加速させます。動脈硬化の予防にためには、こうした持病をしっかり管理することが大切です。

診察(検査)と診断

動脈硬化の診断では、血液検査、画像診断を行います。

血液検査

血液検査項目には、以下のようなものがあります。

検査項目主な目的
脂質検査総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の量を調べる
血糖検査空腹時の血糖値やHbA1cを測定する
炎症マーカーCRP(C反応性タンパク)の量を確認する

血液検査の結果から、動脈硬化のリスクとなる要因を評価していきます。

画像診断

動脈硬化がどの程度進んでいるかを確認するため、画像診断を行います。

  • 頸動脈エコー検査
  • 血管内超音波検査(IVUS)
  • CT血管造影
  • MRI血管造影

画像診断では、血管の壁の状態や狭くなっている程度を調べることができます。

確定診断

診断基準内容
フラミンガムリスクスコア年齢、性別、血圧、喫煙習慣などから心臓や血管の病気になるリスクを予測する
日本動脈硬化学会ガイドラインLDLコレステロール値や他のリスク要因から治療が必要かどうかを判断する

確定診断のためには、血管造影検査や血管内視鏡検査など、体への負担がより大きい検査が必要な場合もあります。

動脈硬化の治療法と処方薬、治療期間

動脈硬化そのものを治す薬はないため、生活習慣の改善(禁煙、食生活改善、運動)や高血圧、高脂血症、糖尿病などの合併症に対する薬物療法を行います。

進行した動脈硬化に対しては、カテーテル治療やバイパス手術といった血管を広げる外科的治療を検討していきます。

薬物療法

高血圧、高脂血症、糖尿病などの合併症に対して薬物治療を行い、動脈硬化の進行を防ぎます。

動脈硬化の治療で使われる代表的な薬

薬剤の種類主な効果
スタチンコレステロール低下
抗血小板薬血栓予防
ACE阻害薬血圧調整
ARB血管保護

動脈硬化の進行を抑制し、心臓や脳への血流を改善する効果があります。

※動脈硬化の「治療をする」というよりも、動脈硬化の「管理薬」や「予防薬」となります。

生活習慣の改善

動脈硬化の進行を遅らせるためには、薬物療法と並行し、生活習慣の改善も必要です。

  • 禁煙する
  • 適度な運動を心がける
  • バランスの取れた食事をとる
  • ストレス管理をする
  • 適正体重を維持する

外科的治療

外科的治療は、薬物治療だけでは改善が見られない場合に行います。カテーテル治療やバイパス手術など、血管を広げる治療法が一般的です。

治療法対象
バルーン血管形成術軽度から中等度の狭窄
ステント留置術中等度から重度の狭窄
バイパス手術複数箇所の重度狭窄や閉塞

治療後も長期的な管理が必要です

動脈硬化の治療は一度行えば終わりというものではなく、定期的な検査や診察で治療の効果を確認し、必要に応じて治療内容を調整していくことが大切です。

また、血圧や適正体重の維持、適度な運動習慣をつけるなど、ご自身による健康管理も大切になってきます。

予後と進行リスクおよび予防

動脈硬化は、放置すると脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高くなります。

生活習慣の改善や薬物治療により進行を抑制し、良好な予後が期待できます。

予後について

動脈硬化は、発見の時期や対応の速さ、そして何よりご自身の生活改善への取り組みによって予後が大きく変わってきます。

定期的な健康診断で動脈硬化の兆候が見つかり、すぐに生活習慣の改善や必要な治療を始めた場合は、多くの場合良好な経過をたどることができます。

一方で、動脈硬化がかなり進行してから発見された場合や、生活改善が不十分な場合は、心筋梗塞や脳卒中などの深刻な合併症のリスクが高くなります。

一度進行すると完全に元に戻すことは難しいですが、継続的な管理と定期検査により進行を抑えることができます。

進行リスクとなる要因管理方法
高血圧血圧の定期測定と管理
高コレステロール定期的な血液検査と食事療法
喫煙禁煙する
運動不足適度な運動を習慣化する

また、動脈硬化の予防と進行抑制には、日々の生活習慣の見直しが大切です。

動脈硬化の治療における副作用やリスク

動脈硬化の治療には、薬物療法や手術など様々な方法がありますが、それぞれに副作用やリスクが伴います。

薬物療法の副作用

薬物療法は動脈硬化の進行を抑える重要な治療法ですが、様々な副作用が生じます。

スタチン系薬剤は肝機能障害や筋肉痛を引き起こす可能性があるほか、抗血小板薬は出血のリスクを高めます。

薬剤の種類主な副作用
スタチン系肝機能障害、筋肉痛
抗血小板薬出血リスク増加

副作用は個人の体質や健康状態によって異なるため、医師と相談しながら治療を行っていくようにしてください。

手術療法のリスク

動脈硬化が進行した場合のバイパス手術やステント留置術などの手術療法には、一定のリスクが伴います。

  • 感染症
  • 出血
  • 血管形成
  • 麻酔による副作用
  • 手術部位の痛み など

手術を受ける際は医師から十分な説明を受け、リスクを理解した上で治療を受けるようにしましょう。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

動脈硬化の治療費は、治療法(薬物療法、カテーテル治療、手術など)、合併症の有無、入院期間などによって大きく異なります。

薬物療法のみの場合は、月3000円~5000円程度の費用が目安です。

薬物療法にかかる費用

一般的な薬剤とその月額費用の目安は以下の通りです。

薬剤の種類月額費用(目安)
高脂血症薬3,000〜10,000円
降圧剤2,000〜8,000円
抗血小板薬1,500〜5,000円

薬剤は長期的に服用する必要があるため、継続して費用がかかります。ただし、健康保険が適用となりますので、実際の自己負担額はこれより少なくなります。

検査費用の目安

動脈硬化の進行度を確認するために、定期的な検査が必要です。

主な検査項目と費用

  • 血液検査(脂質プロファイル):5,000〜8,000円
  • 頸動脈エコー検査:10,000〜15,000円
  • 心電図検査:3,000〜5,000円
  • 負荷心電図検査:10,000〜20,000円

検査は保険適用となるため、自己負担額は3割程度です。

人間ドックなどの総合的な健康診断を利用すれば、複数の検査を一度に受けられ、費用面でも効率的です。

以上

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