不整脈の一種である房室結節リエントリー頻拍(Atrioventricular nodal reentrant tachycardia:AVNRT)とは、心臓の電気信号が正常な経路から外れて循環してしまう状態を指します。
AVNRTでは心臓が通常よりも速く拍動し、動悸や息切れなどの症状が現れます。また、めまいや胸部の不快感を感じる方もいます。
症状は突然発症し、数分から数時間続く場合もありますが、多くの場合は自然に収まります。
しかし、症状が頻繁に起こったり長引いたりする場合は、専門医による診断が必要です。
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の主な症状
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の主な症状は、突然の動悸や心拍数の上昇、めまい、息切れなどです。
突然の動悸と心拍数の上昇
AVNRTの最も特徴的な症状は、突然の動悸と心拍数の急激な上昇です。
胸がドキドキする感覚を突然感じ、この症状は数分から数時間続きます。
心拍数が通常の2倍以上に上昇し、1分間に150回以上の拍動を記録することもあります。
症状 | 特徴 |
動悸 | 突然発症、持続時間が数分から数時間 |
心拍数 | 通常の2倍以上に上昇、1分間に150回以上も |
めまいと失神
AVNRTによる急激な心拍数の上昇は、脳への血流を一時的に減少させます。
その結果、めまいや立ちくらみを感じる場合があり、症状が重度の場合は失神に至ることもあります。
息切れ・疲労感
AVNRTの発作中、心臓が非常に速いペースで拍動しているため、体が十分な酸素を取り込めず、息切れや呼吸困難が起こる場合があります。
また、発作後に強い疲労感を感じることもあります。
その他の症状
AVNRTの症状は個人によって異なり、以下のような症状を伴う方もいます。
- 胸の不快感や圧迫感
- 冷や汗
- 首や肩の痛み
- 不安感や焦燥感
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の原因
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)は、心臓の電気伝導系の異常によって引き起こされる不整脈です。
その主な原因は、心臓内の特定の部位における電気信号の異常な伝導パターンにあります。
AVNRTの基本的なメカニズム
AVNRTは、房室結節という心臓の特殊な部位で発生します。
通常、電気信号は房室結節を一方向に通過しますが、AVNRTでは信号が同じ場所を何度も循環してしまうことにより、異常に速い心拍を引き起こします。
この循環のパターンは「リエントリー回路」と呼ばれます。
解剖学的要因
房室結節には、通常2つの経路が存在し、これらの経路の特性の違いがAVNRTの発症に関連しています。
経路 | 特徴 |
速伝導路 | 電気信号を速く伝える |
遅伝導路 | 電気信号をゆっくり伝える |
これらの経路が電気信号の循環を可能にし、AVNRTの発症につながる要因となります。
電気生理学的要因
- 不応期の違い
- 伝導速度の差異
- 伝導方向の変化
- 房室結節内の不均一性
これらの要因が複雑に絡み合い、リエントリー回路が形成され、AVNRTが引き起こされると考えられています。
遺伝的要因と環境因子
AVNRTの家族歴のある患者さんでは、発症リスクが高くなる傾向です。
要因 | 影響 |
遺伝子 | イオンチャネルの機能に影響 |
環境因子 | ストレスや生活習慣が発症に関与 |
また、環境因子も無視できません。過度のストレスや不規則な生活習慣、アルコールの過剰摂取などがAVNRTの発症を誘発する可能性があると考えられています。
診察(検査)と診断
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の診断は、心電図、ホルター心電図、および電気生理学的検査などの検査によって、房室結節内を循環する電気的信号を特定することによって行われます。
問診と身体診察
- 動悸の持続時間や頻度
- 発作の誘因などを聴取
- めまいや失神の有無
- 胸痛の随伴など
身体診察では、脈拍数や不整脈の有無、血圧を確認するほか、聴診により心音や心雑音の評価も行い、心臓の状態を把握します。
心電図検査
12誘導心電図検査はにおいて、発作時の心電図では以下の特徴的な所見が見られます。
- 規則的な狭QRS頻拍(QRS幅120ms未満)で、心拍数が180~250/分程度の頻脈を示す
- P波が見えないか、QRS波に埋もれており、通常の心電図とは明らかに異なるパターンを呈する
心電図所見 | 特徴 |
QRS幅 | 120ms未満 |
心拍数 | 180~250/分 |
P波 | 見えないか、QRS波に埋もれている |
発作時の心電図が得られない際は、24時間ホルター心電図や携帯型心電計を用いて発作を捉えます。
電気生理学的検査
AVNRTの確定診断には、電気生理学的検査(EPS)が必要です。
EPSでは、カテーテルを用いて心臓内の電気的活動を詳細に評価し、AVNRTの特徴的な所見を確認します。
具体的には以下の項目を確認し、これらの結果を総合的に判断してAVNRTの診断を確定します。
検査項目 | 内容 |
頻拍の誘発 | プログラム刺激による頻拍の再現 |
活動順序 | 心房と心室の興奮タイミング |
回路同定 | リエントリー回路の位置特定 |
EPSによりAVNRTの診断を確定し、他の上室性頻拍との鑑別を行うことができ、この結果に基づいて治療方針を決定していきます。
鑑別診断
AVNRTの診断では、他の上室性頻拍との鑑別が大切です。特に、類似した症状や心電図所見を呈する疾患との区別が求められます。
特に、房室回帰性頻拍(AVRT)や心房頻拍は、AVNRTと似た臨床症状や心電図所見を示します。
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の治療法と処方薬、治療期間
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の治療には、薬物療法とカテーテルアブレーション治療が主に用いられます。
AVNRTの治療方針
軽度の症状や稀にしか発作が起こらない場合は、経過観察や必要時の対症療法が選択されるのが一般的です。
頻繁に発作が起こる場合や日常生活に支障をきたす際には、積極的な治療が推奨されます。
治療の選択肢
- 薬物療法
- カテーテルアブレーション治療
- 経過観察
薬物療法について
薬物療法はAVNRTの初期治療や長期的な管理に用いられ、主に抗不整脈薬と呼ばれる、心臓の電気的活動を調整する働きを持つ薬剤が使用されます。
AVNRTの治療に用いられる主な薬剤
薬剤名 | 作用機序 | 主な副作用 |
ベラパミル | カルシウムチャネル遮断 | 低血圧、便秘 |
ジルチアゼム | カルシウムチャネル遮断 | めまい、浮腫 |
プロプラノロール | βブロッカー | 徐脈、疲労感 |
フレカイニド | ナトリウムチャネル遮断 | 悪心、めまい |
カテーテルアブレーション治療
カテーテルアブレーション治療は、AVNRTに対する根治的な治療法として広く用いられています。
この治療では、心臓内に細いカテーテルを挿入し、異常な電気信号の発生源を特定して高周波エネルギーを照射します。
これにより、不整脈の原因となる異常な電気回路を遮断し、症状の改善を図ります。
薬物療法で十分な効果が得られない場合や、患者さんが長期的な薬物療法を望まない場合に考慮されますが、侵襲的な処置であるため、全身状態や年齢、併存疾患などを評価した上で適応を判断します。
カテーテルアブレーション治療の特徴
項目 | 内容 |
治療効果 | 高い根治率(90%以上) |
所要時間 | 2〜3時間程度 |
入院期間 | 2〜3日程度 |
合併症リスク | 低い(1%未満) |
治療期間と経過観察
AVNRTの治療期間は、選択された治療法によって異なります。
薬物療法の場合は症状のコントロールが得られるまで継続し、その後も長期的な服用が必要となる場合があります。
カテーテルアブレーション治療では、治療後の短期間の経過観察を経て、多くの場合治療を終了できます。
治療後の経過観察の例
- 治療直後〜1ヶ月:週1回程度の外来受診
- 1〜3ヶ月:2週間〜1ヶ月ごとの外来受診
- 3ヶ月以降:症状や経過に応じて1〜3ヶ月ごとの外来受診
経過観察中は、心電図検査や必要に応じてホルター心電図検査などを実施します。
予後と再発可能性および予防
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の治療後の予後は一般的に良好であり、再発のリスクも比較的低いとされています。
ただし、完全な予防は難しく、生活習慣の改善や定期的な経過観察が必要です。
治療後の予後
AVNRTの治療後の予後は、一般的に良好です。
カテーテルアブレーション治療を受けた場合、多くのケースで症状の改善を実感できます。
再発のリスクと頻度
治療法 | 再発率 |
カテーテルアブレーション | 約5-10% |
薬物療法 | 約30-50% |
カテーテルアブレーション後の再発率は比較的低く、多くの場合5-10%程度とされています。
一方、薬物療法のみでの管理では、再発率が30-50%程度と高くなる傾向です。
再発のリスクは時間の経過とともに低下し、治療後1年以内に再発する場合が最も多いとされていますが、その後も定期的な経過観察が必要となります。
再発防止のための生活習慣改善
AVNRTの再発を防ぐためには、以下のような生活習慣の改善が有効です。
- ストレス管理の徹底
- 十分な睡眠と休息の確保
- バランスの取れた食事
- 適度な運動の継続
- 過度の飲酒や喫煙を避ける
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の治療における副作用やリスク
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の薬物療法では、めまいや頭痛などの軽度な副作用から、重篤な不整脈を引き起こす可能性もあります。
一方、カテーテルアブレーション治療では、出血や感染、心臓への損傷などのリスクがあります。
薬物療法の副作用
薬物療法の軽度な副作用は、めまい、頭痛、吐き気、便秘などです。
これらの症状は、多くの場合、時間の経過とともに改善されます。
副作用 | 頻度 |
めまい | 高い |
頭痛 | 中程度 |
吐き気 | 中程度 |
便秘 | 低い |
一方で、重度の副作用として、徐脈(心拍数の低下)や血圧低下などが報告されています。
特に、高齢者や他の健康上の問題を抱えている患者さんにおいて、注意が必要です。
また、まれではありますが、薬物療法によって新たな不整脈が引き起こされる可能性があります。
カテーテルアブレーション治療のリスク
カテーテルアブレーション治療では、カテーテル挿入部位での出血や感染のリスクがあります。
また、心臓への直接的な処置を行うため、心臓組織への損傷のリスクも存在します。
具体的には、心臓穿孔や心タンポナーデなどの合併症が報告されています。
リスク | 発生頻度 |
出血 | 低い |
感染 | 非常に低い |
心臓損傷 | 非常に低い |
新たな不整脈 | まれ |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)の治療費は、治療方法(薬物療法、カテーテルアブレーションなど)や病院によって異なりますが、薬物療法では数千円から数万円程度が一般的です。
薬物療法の費用
一般的な抗不整脈薬の月額費用は以下の通りです。
薬剤名 | 月額費用(概算) |
ベプリジル | 5,000円〜10,000円 |
ジソピラミド | 3,000円〜8,000円 |
ピルシカイニド | 4,000円〜9,000円 |
ただし、状態や使用する薬剤の組み合わせによっては、この金額を上回る場合もあります。
カテーテルアブレーション治療の費用
カテーテルアブレーション治療の費用は、入院期間や使用する機器によって変動しますが、一般的な費用の内訳は以下のとおりです。
項目 | 費用(概算) |
入院費(3〜5日) | 10万円〜20万円 |
手術料 | 30万円〜50万円 |
カテーテル代 | 20万円〜30万円 |
健康保険が適用されるため、自己負担額は実際の費用の30%程度になります。
また、高額療養費制度の利用により、さらに負担を軽減できる可能性があります。
以上
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