房室回帰性頻拍(Atrioventricular Reciprocating Tachycardia:AVRT)とは、心臓の電気信号が正常な経路から外れ、異常な経路を通ることで発生する不整脈です。
通常、心臓の上部(心房)から下部(心室)への電気信号の伝導は一方向ですが、AVRTでは別の経路を通って逆行します。
この異常な電気の循環により心拍数が突然非常に速くなり、動悸(どうき)や息切れ、めまい、胸の不快感などの症状を引き起こします。
房室回帰性頻拍(AVRT)の主な症状
房室回帰性頻拍(AVRT)は突然の動悸や息切れなどの特徴的な症状を引き起こし、日常生活に影響を及ぼします。
症状 | 特徴 |
動悸 | 突然始まり、持続的 |
息切れ | 日常活動で悪化 |
胸部不快感 | 個人差が大きい |
めまい | 脳血流低下が原因 |
突然の動悸
房室回帰性頻拍(AVRT)の最も顕著な症状は、突然始まる激しい動悸です。
心臓が非常に速く、強く鼓動しているような感覚が特徴です。
通常の活動中やリラックスしているときでも予期せずに発生することがあり、多くの場合、数分から数時間続きます。
息切れと疲労感
息切れは、心臓が異常に速く拍動することで、体に十分な酸素が行き渡らなくなるため起こります。
また、発作の前後や発作中に強い疲労感を感じることも珍しくありません。
胸部の不快感
心臓の異常な活動による循環器系への負荷が原因で、発作時に胸部の不快感や圧迫感がみられる場合もあります。
胸部の不快感は軽度のものから強い痛みを伴うものまで、個人によって様々です。
激しい胸痛がある場合は、他の心臓疾患の可能性も考慮し、速やかな医療機関への受診が必要です。
めまいと失神
心臓のポンプ機能が一時的に低下し、脳への血流減少によりめまいや立ちくらみが起こる場合もあります。
重症の場合は失神に至ることもあり、特に高齢者や他の健康問題を抱えている方は注意が必要です。
房室回帰性頻拍(AVRT)の原因
房室回帰性頻拍(AVRT)は、心臓の電気伝導系の異常によって引き起こされる不整脈です。
この疾患の主な原因は、先天的な副伝導路の存在や心臓の構造的な異常にあります。
遺伝的要因や生活習慣も発症に関与する可能性があり、複合的な要素が絡み合って発症すると考えられています。
副伝導路の存在
AVRTの最も重要な原因は、心臓内に存在する異常な電気伝導路、すなわち副伝導路です。
通常、心臓の電気信号は洞結節から心房を通り、房室結節で一時的に減速したあと心室へと伝わります。
しかし、AVRTの患者さんでは、心房と心室の間に本来存在しない副伝導路が存在します。
この副伝導路は電気信号を異常に速く伝導させる性質を持っているため、心臓の電気信号が心房と心室の間を循環してしまい、結果として心拍数が著しく上昇することになります。
心臓の構造的異常
副伝導路以外にも、心臓の構造的な異常がAVRTの原因となる場合があります。
生活習慣とストレス
日々の生活習慣やストレスもAVRTの発症や悪化に関与する可能性があります。
- 過度の飲酒
- 喫煙
- 睡眠不足
- 過度のカフェイン摂取
- 慢性的なストレス
その他の要因
要因 | 影響 |
電解質異常 | 心筋細胞の電気的活動に影響 |
甲状腺機能亢進症 | 心拍数上昇、不整脈リスク増加 |
薬物使用 | 心臓の電気的活動に影響を与える可能性 |
これらの要因は、直接的または間接的に心臓の電気伝導系に影響を与え、AVRTの発症や悪化につながる可能性があります。
診察(検査)と診断
房室回帰性頻拍(AVRT)の臨床診断では特徴的な症状と心電図所見を評価し、確定診断には電気生理学的検査が用いられます。
病歴聴取と身体診察
- 症状の詳細
- 発症のタイミング
- 持続時間
- 頻度
- 生活習慣
身体診察では、頻脈発作中の心拍数や血圧の測定、心音の聴診などを行います。
また、頸静脈の拍動や末梢の脈拍の状態なども注意深く観察します。
心電図検査
通常の12誘導心電図に加え、発作時の心電図記録が診断に有用です。
発作時の心電図では、特徴的なP波の位置や形状、QRS波形の変化などが観察されます。
心電図検査の種類 | 特徴 |
12誘導心電図 | 基本的な心臓の電気活動を記録 |
ホルター心電図 | 24時間以上の連続記録が可能 |
イベントレコーダー | 患者が症状を感じた時に記録 |
特に、発作時と発作間欠期の心電図を比較することで、診断の精度が向上します。
電気生理学的検査
AVRTの確定診断には、電気生理学的検査(EPS)が用いられます。
この検査では、カテーテルを用いて心臓内の電気信号を直接測定し、不整脈の機序を詳細に評価します。
EPSで確認するポイント
- 副伝導路の存在と位置
- 頻拍の誘発と停止
- 頻拍中の心臓内の電気的活動パターン
- 副伝導路の電気生理学的特性
この検査結果に基づき、AVRTの確定診断が行われます。
鑑別診断
AVRTの診断過程では、症状や心電図所見が類似する他の頻脈性不整脈との鑑別が必要です。
鑑別疾患 | 特徴的な所見 |
房室結節リエントリー頻拍(AVNRT) | 心電図でのP波の位置が異なる |
心房頻拍 | 規則的なP波が見られる |
心房粗動 | 特徴的な鋸歯状波形を示す |
心室頻拍 | QRS波形が幅広く異常 |
房室回帰性頻拍(AVRT)の治療法と処方薬、治療期間
房室回帰性頻拍(AVRT)の治療には、薬物療法とカテーテルアブレーション治療が主に用いられます。
薬物療法では抗不整脈薬を使用し、症状のコントロールを図ります。
治療法 | メリット | デメリット |
薬物療法 | 非侵襲的、即時効果 | 長期服薬、副作用リスク |
カテーテルアブレーション | 根治の可能性が高い | 侵襲的処置、合併症リスク |
薬物療法による治療
薬物療法は、AVRTの症状を軽減し、発作の予防を目的としています。
主に使用される薬剤
薬剤分類 | 主な薬剤名 |
カルシウム拮抗薬 | ベラパミル、ジルチアゼム |
β遮断薬 | プロプラノロール、アテノロール |
Naチャネル遮断薬 | フレカイニド、プロパフェノン |
これらの薬剤は、心臓の電気的活動を調整し、異常な電気信号の伝導を抑制する効果があります。
薬物療法による治療期間は症状の改善状況や副作用の有無によって異なりますが、多くの場合、長期的な服薬が必要です。
カテーテルアブレーション治療
カテーテルアブレーション治療は、AVRTの根治を目指す治療法です。
心臓内に細いカテーテルを挿入し、異常な電気信号の発生源を特定して、その部分を高周波エネルギーで焼灼します。
この治療法の大きな利点は高い成功率と再発率の低さで、多くの患者さんで1回の治療で症状が改善し、薬物療法が不要になります。
カテーテルアブレーション治療の流れ
- 局所麻酔下で大腿部の血管からカテーテルを挿入
- X線透視下で心臓内にカテーテルを誘導
- 電気生理学的検査により異常伝導路を特定
- 高周波エネルギーを用いて異常伝導路を焼灼
- 治療効果の確認
治療時間は通常2〜4時間程度で、入院期間は3〜5日ほどです。数週間の安静期間を経て、日常生活に復帰できることが多いです。
予後と再発可能性および予防
房室回帰性頻拍(AVRT)の治療後の予後は、一般的に良好です。
ただし、再発の可能性があるため、長期的な経過観察と自己管理が予後改善に不可欠です。
治療後の予後
房室回帰性頻拍(AVRT)の治療後の予後は、多くの患者さんにおいて良好です。
カテーテルアブレーション治療を受けた患者さんの多くは、症状の改善や生活の質の向上を実感できます。
ただし、個々の患者さんの状態や治療方法によって予後が異なる場合があるため、医療機関での定期的な経過観察が重要となります。
再発の可能性
AVRTの治療後も、一定の割合で再発のリスクがあります。
再発率は治療法や患者さんの状態によって異なりますが、カテーテルアブレーション後の再発率は比較的低いとされています。
一般的な再発率の目安
治療法 | 再発率 |
カテーテルアブレーション | 5-10% |
薬物療法 | 30-50% |
再発リスクの低減
再発リスクを低減するためには、以下の点への注意が大切です。
- 定期的な通院と経過観察
- 処方された薬の確実な服用
- ストレス管理
- 十分な睡眠と休養
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
自己管理の継続により、再発のリスクを軽減できます。
長期的な経過観察の重要性
AVRTの治療後は、長期的な経過観察が予後改善に大きく寄与します。
定期的な診察や検査により再発の兆候を早期に発見し、必要に応じて治療方針を調整できます。
一般的な経過観察の例
期間 | 診察頻度 |
治療後6ヶ月 | 1-2ヶ月毎 |
6ヶ月-1年 | 3-4ヶ月毎 |
1年以降 | 6-12ヶ月毎 |
房室回帰性頻拍(AVRT)の治療における副作用やリスク
房室回帰性頻拍(AVRT)の治療には、薬物による副作用や、カテーテルアブレーションや手術による合併症などのリスクが伴います。
薬物療法のリスクと副作用
薬物療法は、AVRTの管理に用いられる一般的な方法ですが、使用する薬剤によって副作用のリスクが異なります。
抗不整脈薬の使用には、以下のような副作用の可能性があります。
- めまい
- 吐き気
- 頭痛
- 疲労感
- 便秘
また、一部の抗不整脈薬では、paradoxical effect(逆説的作用)と呼ばれる現象が起こる可能性があります。
これは、不整脈を抑制するはずの薬が、逆に不整脈を悪化させてしまう現象です。
このような事態を避けるため、医療従事者による慎重な経過観察が不可欠となります。
高周波カテーテルアブレーション治療のリスクと副作用
リスク | 発生頻度 |
出血 | 1-2% |
感染 | 1% 未満 |
血栓症 | 0.5-1% |
心タンポナーデ | 0.1-0.2% |
また、まれではありますが、カテーテル操作による心臓や血管の損傷、不整脈の悪化、心ブロックの発生などの合併症が起こる場合があります。
術後の回復期におけるリスク
高周波カテーテルアブレーション治療後の回復期には、以下のようなリスクに注意が必要です。
リスク | 対処法 |
穿刺部位の痛み | 冷却・鎮痛剤 |
軽度の発熱 | 経過観察 |
不整脈の一時的悪化 | 薬物療法 |
再発 | 再治療の検討 |
これらの症状の多くは一時的なものですが、持続する場合や重症化する場合には医療機関への受診が必要です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
房室回帰性頻拍(AVRT)の治療費は、症状の重症度や選択する治療法によって大きく変わります。
一般的に、薬物療法から外科的治療まで幅広い選択肢があり、それぞれに応じた費用が発生します。
薬物療法の費用
薬物療法は比較的安価な治療法です。抗不整脈薬の種類や用量によって異なりますが、月額1万円から3万円程度の費用がかかることが多いです。
ただし、長期的な服用が必要な場合があるため、総費用は増加する可能性があります。
また、定期的な検査費用も必要です。
カテーテルアブレーション治療の費用
カテーテルアブレーション治療の費用は、医療機関や使用する機器によって異なりますが、一般的に50万円から100万円程度かかります。
健康保険が適用される場合、患者負担額は治療費の30%程度です。
治療法 | 概算費用 | 患者負担額(3割負担の場合) |
薬物療法 | 1万円~3万円/月 | 3,000円~9,000円/月 |
カテーテルアブレーション | 50万円~100万円 | 15万円~30万円 |
入院費用
カテーテルアブレーション治療を受ける場合、通常3日から1週間程度の入院が必要です。
入院費用は医療機関によって異なりますが、1日あたり1万円から3万円程度かかる場合が多いです。
また、個室を利用する場合は別途追加料金が発生します。
経過観察の費用
治療後は、定期的な外来受診や検査が必要です。
検査項目 | 概算費用 |
心電図検査 | 5,000円~1万円 |
血液検査 | 3,000円~8,000円 |
胸部レントゲン検査 | 3,000円~6,000円 |
心臓超音波検査 | 1万円~2万円 |
以上
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