完全型AVSD(complete AVSD)/完全型ECD(complete ECD)– 循環器の疾患

先天性心疾患の一種である完全型AVSD(complete AVSD)とは、心臓の心房中隔と心室中隔に欠損がある先天性心疾患です。

この欠損により、心臓の左右の血液が混ざり合い、肺への血流が増加し、心臓に負担がかかります。

以前は完全型ECD(complete ECD)とも呼ばれていました。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

完全型AVSD(complete AVSD)の主な症状

完全型AVSDの主な症状は、呼吸困難、易疲労性、発育不全、頻回の呼吸器感染症などです。

症状は、個々の患者によって程度や現れ方が異なります。また、年齢や合併症の有無によっても症状の現れ方は変化します。

呼吸器系への影響

完全型AVSDの最も顕著な症状の一つが、呼吸に関連するものです。

呼吸が速くなる頻呼吸や息切れが多くみられ、特に乳児の場合は、哺乳時に呼吸が荒くなったり、疲れやすくなったりします。

症状説明
頻呼吸呼吸数が増加し、息が速くなる
呼吸困難息苦しさや息を吸うのに努力が必要
哺乳障害乳児が授乳中に疲れやすく、十分な栄養摂取が困難

循環器系への影響

完全型AVSDでは、心臓の構造異常により循環器系にも影響が及びます。

心臓に負担がかかるため、心拍数が増加したり、不整脈が生じたりする場合があります。

また、血液の循環が適切に行われないため、末梢の血液循環が悪くなる場合もあります。

成長と発達への影響

十分な酸素や栄養が体全体に行き渡らないため、成長の遅れが見られる場合があります。

具体的には、体重の増加が緩やかになったり、身長の伸びが遅くなったりします。

さらに、運動能力の発達にも影響が出る場合があり、同年齢の子どもと比べて体力や持久力が劣ることがあります。

影響具体例
体重増加の遅れ標準的な成長曲線から外れる
身長の伸びの鈍化同年齢の平均身長を下回る
運動能力の低下同年齢の子どもと比べて疲れやすい

その他の症状と影響

  • チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる)
  • 疲労感や倦怠感
  • 食欲不振
  • 発汗の増加
  • 反復性の呼吸器感染症

完全型AVSD(complete AVSD)の原因

完全型AVSDの原因は、胎児期の心臓の形成過程における異常です。

具体的には、心房と心室を隔てる壁(中隔)が完全に形成されず、穴(欠損孔)が残ってしまうことが原因です。

遺伝的な要因と環境的な要因が複合的に影響していると考えられていますが、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。

一部の症例では、ダウン症候群などの染色体異常との関連が知られています。

遺伝子の影響

特定の遺伝子変異や染色体異常が、完全型AVSDの発生異常と密接に関連していることが分かっています。

特にダウン症候群では完全型AVSDの高い発生率がみられ、21番染色体のトリソミーが心臓の発生プロセスに影響を与えるため、このような結果になると考えられています。

完全型AVSDと関連する主な遺伝的要因

遺伝的要因関連性
ダウン症候群高い
CRELD1遺伝子変異中程度
GATA4遺伝子変異中程度
NKX2.5遺伝子変異低~中程度

環境の影響

完全型AVSDの発症リスクを高める可能性がある環境要因は、以下のとおりです。

  • 妊娠中の母体のウイルス感染
  • 妊娠中の母体の糖尿病
  • 妊娠中の母体のアルコール摂取
  • 妊娠中の母体の喫煙
  • 妊娠中の母体の特定の薬物使用

これらの環境要因は単独で影響を与えるわけではなく、遺伝的要因と相互に作用し合って、完全型AVSDの発症リスクを高めると考えられています。

診察(検査)と診断

完全型AVSDの診断は、聴診、胸部X線検査、心電図検査などの基本的な検査に加え、心臓超音波検査で確定診断を行います。

検査段階主な検査項目
初期評価病歴聴取、身体診察、聴診
非侵襲的検査心エコー、胸部X線、心電図
高度画像診断心臓MRI、CT
侵襲的検査心臓カテーテル検査

画像診断

完全型AVSDの診断において、心エコー検査は、心臓の構造異常を詳細に観察できる主要な手法として広く用いられています。

この検査により、心房中隔欠損や心室中隔欠損、共通房室弁の状態を精密に評価できます。

また、胸部X線検査も心臓の大きさや肺血流の状態を確認する上で有効な手段となります。

検査名主な評価項目
心エコー検査心房中隔欠損、心室中隔欠損、共通房室弁の状態
胸部X線検査心臓の大きさ、肺血流の状態

心電図検査

心電図検査では、完全型AVSDに特徴的な左軸偏位や右室肥大などの所見がみられます。

より詳細な評価が求められる場合には、心臓MRI検査やCT検査が必要です。

侵襲的検査による確定診断

心臓カテーテル検査では、心腔内の圧力測定や血流動態の評価が可能です。

また、造影剤を用いることで、心臓内の血流パターンや欠損部位を視覚化できます。

遺伝子検査と関連症候群の評価

  • 染色体分析
  • 特定遺伝子の変異検査
  • 全エクソーム解析 など

完全型AVSDは他の遺伝性症候群(特にダウン症候群)と関連するため、遺伝子検査や染色体分析が行われる場合もあります。

完全型AVSD(complete AVSD)の治療法と処方薬、治療期間

完全型AVSDの治療は、手術による根治が基本です。治療期間は術前の状態や合併症の有無によって異なります。

外科手術

手術は心臓の構造的異常を修正し、正常な血流パターンを回復させるのが目標です。

一般的には生後3〜6ヶ月頃に実施されますが、個々の患者の状態により時期が調整される場合もあります。

手術では、心房中隔欠損と心室中隔欠損の閉鎖、さらに共通房室弁の二つの独立した弁への分割が行われます。

手術の成功率は高く、多くのケースで正常に近い心機能を取り戻すことが期待できます。

薬物療法:手術前後のサポート

手術前の薬物療法は、心不全の症状緩和と、手術に耐えうる体調の維持を目的としています。

以下は、頻繁に使用される薬剤とその効果です。

薬剤名効果
利尿剤体内の過剰水分排出による心臓負担の軽減
ジゴキシン心臓収縮力の向上と心不全症状の改善
ACE阻害薬血管拡張による心臓負担の軽減

手術後も、心機能の回復促進のために一定期間薬物療法が継続される場合があります。

治療期間

手術直後の集中治療期間は通常1〜2週間程度ですが、その後も定期的な通院と各種検査が必要です。

標準的な定期検査の一例

  • 手術後1ヶ月:初回外来受診
  • 手術後3ヶ月、6ヶ月、1年:心エコー検査と外来受診
  • その後年1回:定期的な心機能評価と成長発達のチェック

予後と再発可能性および予防

完全型AVSDの予後は、早期に診断され治療が行われれば良好です。ほとんどの場合、手術により症状は改善し、正常な生活を送ることができます。

予後の長期的な改善傾向

完全型AVSDの治療予後は、ここ数十年で目覚ましい進歩を遂げています。

外科技術の革新や周術期管理の発展により、手術の成功率が飛躍的に向上し、長期生存率も大幅に改善しています。

年代手術成功率10年生存率
1980年代70%60%
2000年代95%90%
2020年代98%95%

ただし、予後は患者個々の状態や合併症の有無によって変わるため、一律に論じるのは難しいです。

再手術のリスクと継続的な管理

完全型AVSD患者には、初回手術後も長期的な経過観察が求められます。

再手術が必要となる主な要因としては、左側房室弁(僧帽弁)の逆流や狭窄、右室流出路狭窄などが挙げられます。

これらの問題は子どもの成長に伴って表面化することがあるため、定期的な心エコー検査や心臓カテーテル検査による評価が推奨されます。

合併症と追加治療

完全型AVSDの治療後、一部で合併症が発生する可能性があります。

主要な合併症には弁逆流、不整脈、肺高血圧症などがあり、これらの合併症に対しては追加治療が必要です。

合併症追加治療
弁逆流弁形成術や弁置換術
不整脈抗不整脈薬、アブレーション治療
肺高血圧症肺血管拡張薬の投与

妊娠・出産に関する配慮事項

完全型AVSDの女性患者における妊娠・出産は、慎重な管理が必要です。

妊娠中は循環血液量が増加するため、心臓への負荷が高まります。

そのため、妊娠前から産科医と循環器専門医による綿密な計画立案と、妊娠中の定期的なモニタリングが欠かせません。

出産方法の選択も、個々の患者の状態に応じて慎重に検討する必要があります。

心機能妊娠リスク推奨される管理
良好低〜中等度通常の産科管理 + 定期的な心機能評価
中等度低下中等度〜高度頻回の心機能評価 + 入院管理の検討
高度低下極めて高度妊娠非推奨または極めて厳重な管理

完全型AVSD(complete AVSD)の治療における副作用やリスク

完全型AVSDの治療における副作用やリスクは、手術による合併症(出血、感染、不整脈など)、薬物療法による副作用(低カリウム血症、腎機能障害など)があります。

手術に関連する急性期のリスク

術中や術直後に生じる可能性のある合併症には、出血、感染症、不整脈などがあります。

新生児や乳児期早期の患者では手術侵襲への耐性が低く、合併症のリスクが高まる傾向です。

急性期合併症発生頻度
出血5-10%
感染症2-5%
不整脈10-15%

薬物療法に伴うリスク

手術後の管理において利尿薬や強心剤、血管拡張剤などが使用されますが、これらの薬剤にも副作用のリスクがあります。

薬剤副作用
利尿剤脱水、電解質異常(低カリウム血症など)
強心剤不整脈、低カリウム血症
血管拡張剤低血圧、頭痛、めまい
肺高血圧症治療薬低血圧、頭痛、肝機能障害

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

完全型AVSDの治療費は、手術費用、入院費用、薬剤費、検査費用などがかかります。

高額な費用が必要となる場合が多く、小児慢性特定疾病医療費助成制度や自立支援医療制度などの公的医療費助成制度の利用によって、自己負担額を軽減できる場合があります。

初期診断と検査にかかる費用

心エコー検査、心電図検査、レントゲン撮影などの基本的な検査費用の合計は、20,000円から30,000円程度になります。

項目概算費用
初診料3,000円~5,000円
心エコー検査8,000円~12,000円
心電図検査5,000円~7,000円
レントゲン撮影3,000円~5,000円

手術にかかる費用

完全型AVSD/ECDの手術費用は、心臓手術の中でも複雑なため高額になります。

手術自体の費用、麻酔費、入院費を含めると200万円から300万円程度が目安です。

術後の費用

退院後も定期的な通院と検査が必要です。

フォローアップ項目頻度概算費用
再診料月1回2,000円~3,000円
心エコー検査3ヶ月に1回8,000円~12,000円
血液検査6ヶ月に1回5,000円~8,000円

以上

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