両大血管右室起始症(Double outlet right ventricle:DORV)とは、心臓の構造に生まれつき異常がある病気です。
通常、大動脈は左心室から、肺動脈は右心室から出ていますが、DORVでは両方の大血管が右心室から出ています。
この状態では、酸素を多く含む血液と酸素の少ない血液が混ざってしまい、体に十分な酸素が行き渡らなくなります。
症状の程度は個人差が大きく、軽度から重度まで様々で、早期発見・早期医療介入が重要です。
両大血管右室起始症(DORV)の種類(病型)
両大血管右室起始症(DORV)は、大血管の位置関係と心室中隔欠損孔の位置によって複数の病型に分類されます。
大血管の位置関係による分類
DORVは、大血管の位置関係により、正常大血管型と大血管転位型の2つに大きく分けられます。
正常大血管型は、後方の大動脈が心室中隔に騎乗するタイプを指します。この場合、大動脈と肺動脈の位置関係は通常の心臓と似た配置になります。
一方、大血管転位型は、後方の肺動脈が心室中隔に騎乗するタイプです。
この型では、大動脈と肺動脈の位置が通常とは異なる配置となっています。
心室中隔欠損孔の位置による分類
DORVのもう一つの重要な分類基準は、心室中隔欠損孔の位置です。
分類 | 特徴 |
大動脈弁下型心室中隔欠損 | 心室中隔欠損孔が大動脈弁の直下に位置する |
肺動脈弁下型心室中隔欠損 | 心室中隔欠損孔が肺動脈弁の直下に位置する |
両大血管型心室中隔欠損 | 心室中隔欠損孔が両大血管の下に位置する |
遠隔型心室中隔欠損 | 心室中隔欠損孔が大血管から離れた位置にある |
両大血管右室起始症(DORV)の主な症状
両大血管右室起始症(DORV)の主な症状は、チアノーゼ、呼吸困難、哺乳不良、発育不全など、心不全の症状です。
DORVの症状概要
両大血管右室起始症(DORV)は、心臓の構造異常により様々な症状を引き起こします。
症状の現れ方や程度は、心臓の具体的な構造や合併する他の心臓の異常によって異なります。
多くの場合で生後まもなく症状が現れますが、中には症状が軽微で、幼児期や学童期まで気づかれないケースもあります。
新生児期・乳児期に見られる主な症状
新生児期や乳児期には、以下のような症状が現れます。
- チアノーゼ(皮膚や唇が青紫色になる)
- 呼吸困難や頻呼吸(呼吸が速くなる)
- 哺乳困難や体重増加不良
- 多汗(特に哺乳時)
- 易疲労性(すぐに疲れる)
これらの症状は、心臓の異常な構造により十分な酸素が体全体に行き渡らないことが原因です。
幼児期・学童期に見られる主な症状
幼児期や学童期になると、症状がより明確になります。
症状 | 特徴 |
運動耐容能の低下 | 同年齢の子どもに比べて体力が劣る |
成長遅延 | 身長や体重の増加が緩やかになる |
反復する呼吸器感染 | 風邪などにかかりやすく、重症化しやすい |
倦怠感 | 日常的に疲れやすく、元気がない |
症状の進行と合併症
DORVの症状は、時間の経過とともに進行し、以下のような合併症のリスクが高まります。
合併症 | 説明 |
心不全 | 心臓の機能が低下し、体に十分な血液を送れなくなる |
不整脈 | 心臓の拍動リズムが乱れる |
肺高血圧症 | 肺動脈の血圧が異常に高くなる |
感染性心内膜炎 | 心臓の内側の膜に細菌感染が起こる |
両大血管右室起始症(DORV)の原因
両大血管右室起始症(DORV)の原因は複雑で多岐にわたります。
遺伝的要因と環境因子の相互作用が主な要因とされていますが、完全には解明されていません。
遺伝的要因
遺伝子変異の中でも、心臓の発生に関わる転写因子をコードするNKX2-5やGATA4といった遺伝子の変異が、DORVを含む様々な先天性心疾患と関連していることが研究により明らかになっています。
これらの遺伝子変異は、心臓の形成や機能に直接的な影響を及ぼすため、DORVの発症リスクを高める重要な因子と考えられています。
遺伝子 | 関連する心臓の発生過程 |
NKX2-5 | 心臓の区画化と分化 |
GATA4 | 心筋細胞の分化 |
TBX1 | 心臓流出路の形成 |
これらの遺伝子変異は単独で発症の原因となる場合もありますが、多くの場合は、複数の遺伝子が相互に作用し合って発症に至ると考えられています。
環境因子の影響
- 妊娠中の母体の感染症(特に風疹ウイルス)
- 妊娠初期の薬物摂取
- 母体の栄養状態
- 環境汚染物質への曝露
これらの環境因子が単独あるいは遺伝的要因と相互作用し、DORVの発症リスクを高める可能性があります。
心臓発生過程の異常
DORVは、胎児期の心臓発生過程において、心臓の流出路が正常に形成されないために生じます。
具体的には、大動脈と肺動脈の両方が右心室から起始することになります。
発生過程の異常 | 説明 |
心臓内膜隆起の形成異常 | 心室中隔と大血管の位置関係に影響 |
心臓神経堤細胞の遊走異常 | 流出路中隔の形成不全を引き起こす |
心筋細胞の分化異常 | 心室や大血管の構造に影響を与える |
診察(検査)と診断
両大血管右室起始症(DORV)は、聴診で心雑音を認め、胸部X線検査で心拡大や肺血管陰影の異常、心電図検査で右室肥大や不整脈がある場合に疑われます。
心臓超音波検査にて、両大血管が右心室から起始していることを確認できた場合、確定診断となります。
非侵襲的検査の種類と特徴
DORVの診断過程では、負担が少ない非侵襲的検査が優先して行われます。
検査名 | 特徴 |
心エコー検査 | 心臓の構造や血流を可視化 |
胸部X線検査 | 心臓の大きさや肺の状態を確認 |
心電図検査 | 心臓の電気的活動を記録 |
これらの検査結果を総合的に評価し、DORVの可能性が高いかどうかを判断します。
精密検査による確定診断
非侵襲的検査でDORVが疑われる場合、より詳細な情報を得るための精密検査が実施されます。
確定診断に向けた主な精密検査
- 心臓CT検査
- 心臓MRI検査
- 心臓カテーテル検査
特に心臓カテーテル検査は、血行動態の正確な評価と同時に、治療方針の決定にも役立つ重要な検査です。
両大血管右室起始症(DORV)の治療法と処方薬、治療期間
両大血管右室起始症(DORV)の治療は、手術による修復が主な方法です。
薬物療法は補助的に用いられ、治療期間は個々の状態により異なります。
手術による治療
両大血管右室起始症(DORV)の根本的な治療は手術です。手術の目的は、血流を正常な経路に戻すことにあります。
具体的な手術方法は、DORVの複雑さや年齢、全身状態によって選択されます。
一般的に行われる手術には、心室中隔欠損閉鎖術や心内修復術などがあります。
状態や手術の複雑さによっては、複数回の手術が必要になる事例もあります。
手術方法 | 適応 |
心室中隔欠損閉鎖術 | 単純型DORV |
心内修復術 | 複雑型DORV |
段階的修復術 | 高リスク症例 |
手術のタイミングは、症状の重症度や患者さんの成長に応じて決定されます。
新生児期や乳児期早期に緊急手術が必要となる場合もありますが、多くは生後6か月から1歳頃までに計画的に手術が行われます。
薬物療法
薬物療法は手術前後の管理や症状のコントロールに用いられ、主に以下の目的で処方されます。
- 心不全症状の改善
- 肺高血圧の管理
- 不整脈の予防と治療
- 血栓予防
具体的な薬剤としては、利尿剤、血管拡張薬、抗不整脈薬、抗凝固薬などが使用されます。
治療期間
手術直後の集中治療期間は通常1〜2週間程度ですが、その後の回復期間を含めると、入院期間は1〜2か月に及ぶ場合もあります。
また、退院後も定期的な外来受診や検査が必要です。
治療段階 | 期間 |
術前管理 | 数週間〜数か月 |
手術 | 数時間〜半日程度 |
術後集中治療 | 1〜2週間 |
回復期入院 | 2〜6週間 |
外来フォローアップ | 生涯 |
長期的な経過観察が必要
DORVの治療は手術で終わりではなく、生涯にわたる経過観察が必要です。
定期的な経過観察では、心臓超音波検査や心電図検査により、心機能や血行動態を評価します。
また、成長に伴う問題や合併症の早期発見・対応も重要です。
特に、思春期や成人期に移行する際には心臓の負荷が変化する懸念があるため、慎重な経過観察が必要となります。
予後と再発可能性および予防
両大血管右室起始症(DORV)の治療後の予後は概ね良好ですが、適切な経過観察と管理が欠かせません。
再発のリスクは低いものの、合併症には注意が必要です。
治療後の予後
両大血管右室起始症(DORV)の治療後の予後は、多くのケースで良好な結果が得られています。
しかしながら、個々の症例によって予後が異なる点に留意する必要があります。
複雑な心臓構造の再建を要するため、術後の心機能や全身状態の綿密な観察が求められます。
再発のリスクと要因
DORVの再発リスクは比較的低いとされていますが、完全に否定することはできません。
再発の可能性に影響を与える要因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 手術時の年齢
- 心臓の構造的複雑性
- 術後の心機能の回復状況
- 併存する他の先天性心疾患の有無
これらの要因を考慮し、成長期における心臓や血管の変化にも注意を払い、必要に応じた追加の治療介入の検討が重要です。
合併症のリスクと管理
DORVの治療後には、合併症のリスクが存在します。
合併症 | 主な症状 |
不整脈 | 動悸、めまい |
心不全 | 息切れ、浮腫 |
感染性心内膜炎 | 発熱、倦怠感 |
合併症を早期に発見するためには、定期的な医療機関の受診が不可欠です。
両大血管右室起始症(DORV)の治療における副作用やリスク
両大血管右室起始症(DORV)の治療には様々な副作用やリスクが伴います。
手術やカテーテル治療などの侵襲的な処置には、感染症や出血、不整脈といった一般的な合併症のほか、DORVに特有のリスクも存在します。
また、治療後の長期的な問題として、再手術の必要性や心機能低下の可能性があります。
手術に伴う一般的なリスク
手術では、他の開心術と同様に合併症のリスクが存在します。
感染症や出血、麻酔に関連する問題、そして術後の不整脈などが代表的な例として挙げられます。
リスク | 発生頻度 | 対処法 |
感染症 | 中程度 | 抗生剤投与、創部管理 |
出血 | 低~中 | 輸血、止血処置 |
不整脈 | 中~高 | 抗不整脈薬、ペースメーカー |
DORVに特有の手術リスク
DORVの手術では、心臓の複雑な解剖学的構造を修正する必要があるため、心室中隔欠損(VSD)の閉鎖や大血管の再建などの処置に伴い、心臓伝導系の損傷や冠動脈の圧迫といった問題が起こる場合があります。
これらの合併症は、重度の不整脈や心筋虚血につながる危険性があり、時に致命的となる可能性もあります。
そのため、手術中および術後の厳密なモニタリングと迅速な対応が求められます。
また、手術後に残存短絡や弁機能不全が生じるリスクもあります。
カテーテル治療のリスク
カテーテル治療は開胸手術に比べて低侵襲ではありますが、血管損傷や血栓形成、造影剤アレルギー、不整脈の誘発などが主なリスクとして挙げられます。
また、デバイスの脱落や不適切な留置位置による問題が生じる可能性もあります。
リスク | 発生頻度 | 対処法 |
血管損傷 | 低 | 外科的修復 |
血栓形成 | 低~中 | 抗凝固療法 |
造影剤アレルギー | 低 | 前処置、代替造影剤 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
両大血管右室起始症(DORV)の治療費は、患者さんの状態や必要な手術の種類によって大きく異なります。
一般的に高額になる可能性がありますが、高額療養費制度や公費負担制度を利用することで自己負担額を抑えられます。
手術費用の内訳・目安
項目 | 概算費用 |
手術料 | 200万円〜500万円 |
麻酔料 | 30万円〜50万円 |
入院費 | 50万円〜100万円/週 |
術後ケア | 20万円〜50万円 |
保険適用と自己負担
DORVの治療は、健康保険の適用対象となります。
高額療養費制度では月々の自己負担額に上限が設けられ、経済的な負担を軽減できる場合があります。
また、18歳未満の患者さんは、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となる可能性があり、この制度を活用することで更なる負担軽減ができます。
両大血管右室起始症(DORV)は、「両大血管右室起始症(タウジッヒ・ビング奇形を除く。)」として、小児慢性特定疾病に含まれています。
タウジッヒ・ビング奇形はDORVの中でも特殊な形態であり、両大血管右室起始症の中でも特定の条件を満たすものが小児慢性特定疾病として認められています。
経過観察の長期的な費用
DORVの治療では、手術だけでなく長期的な経過観察が必要です。
経過観察でかかる費用例
- 定期的な心エコー検査
- 血液検査
- 心電図検査
- 必要に応じたCTやMRI検査
- 薬剤費
以上
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