呼吸困難 – 循環器の疾患

呼吸困難(Dyspnea)とは、息を吸ったり吐いたりする時に感じる不快感や、苦痛のことを指します。

普段は意識せずにできる呼吸が、何らかの原因で困難になり、息苦しさや胸の圧迫感を覚える状態です。

軽いものから生命の危険を伴う重篤なものまで、幅広くあります。

呼吸困難の背景には、心臓や肺の疾患といった身体的な問題だけでなく、強い不安感やストレスなどの精神的な要因も関係している場合があります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

呼吸困難の種類(病型)

呼吸困難の症状を評価するための方法の一つとして、ヒュージョーンズ(Hugh-Jones)の分類があります。

この分類方法では、日常生活における活動の制限度合いに基づき、呼吸困難を5段階に区分けしています。

ヒュージョーンズ分類

グレード特徴
I同じ年齢の健康な人と変わらない労作ができる
II平らな道では同年齢の健康な人と同じように歩けるが、坂道では遅れる
III平らな道でも健康な人より遅いペースでしか歩けない
IV平らな道でも自分のペースでしか歩けず、途中で休む必要がある
V会話や服の着替えでも息切れを感じ、外出することができない

実際の診療におけるヒュージョーンズ分類の活用例

70歳の男性患者さんで、初めて診察した時にはグレードIVと判断されました。

その後、治療と計画的な運動療法を行った結果、3ヶ月後にはグレードIIまで症状が改善しました。

このように、ヒュージョーンズ分類は治療の効果を評価する上でも有効なツールとなります。

▼以下の表は、この患者さんの経過を示したものです。

時期ヒュージョーンズ分類6分間で歩ける距離
初診時グレードIV200m
1ヶ月後グレードIII300m
3ヶ月後グレードII450m

呼吸困難の主な症状

呼吸困難は患者さんによって違った言葉で表現されることがよくあります。

同じ症状であっても、ある方は「胸がギュッと締め付けられるような感じ」と表し、別の方は「空気を吸い込むのが難しい」というような言い方をするかもしれません。

診療現場では表現をよく聞き取り、症状がどの程度で、どのような性質なのかを正確に理解しなければなりません。

呼吸困難の症状の特徴

特徴説明
症状の現れ方急に起こる場合と、少しずつ悪化する場合がある
続く時間一時的なもの、長く続くものがある
悪化させる要因体を動かしたり姿勢を変えたりすること
一緒に現れる症状せきや胸の痛み、動悸など

呼吸困難の程度を評価する方法

病院では、mMRC(修正版医学研究評議会)息切れスケールなどの評価ツールをよく使用します。

このスケールは、日々の生活における息苦しさの影響を0から4までの5段階で評価しています。

mMRC息切れスケールの概要

段階日常生活での状態
0かなり激しい運動をした時だけ息切れを感じる
1平らな道を早足で歩いたり、ゆるやかな坂を上ったりする時に息切れを感じる
2息苦しさのために同じ年齢の人よりゆっくり歩く、または平らな道を歩く時に休憩が必要
3100メートル歩くか数分歩くと息切れのために立ち止まらなければならない
4息切れがひどくて家から出られない、または服を着替えるのも大変

呼吸困難時の体の変化

  • 呼吸の回数が増える
  • 首や肩の筋肉を使って呼吸をする
  • 唇や爪の色が青紫色に変わる
  • 脈が速くなる
  • 汗をかく

体の変化は、息苦しさがどれくらい深刻か、また緊急性があるかどうかを判断する上で貴重です。

呼吸困難と一緒に現れることが多い症状

呼吸困難と一緒に現れることが多い症状には、以下のようなものがあります。

  • 胸の痛み
  • 心臓がドキドキする感じ
  • せき
  • ゼーゼーやヒューヒューという音

呼吸困難の原因

循環器系、呼吸器系、神経系など、多岐にわたる身体の仕組みの乱れが呼吸困難の原因になります。

循環器系が引き起こす呼吸困難

心臓が十分な血液を送り出せなくなると、肺に血液が溜まってしまい、息苦しさを感じるようになります。

疾患名特徴
心不全心臓のポンプ機能が低下する
弁膜症心臓の弁に異常が生じる
不整脈心臓の拍動リズムが乱れる
冠動脈疾患心臓の血管が狭くなる

以前、ご高齢の方が息切れを訴えて病院に来られたことがあります。聴診器で注意深く聞いてみると、心臓の鼓動に合わせて特殊な音が聞こえました。

この場合は、心臓の弁の病気である僧帽弁閉鎖不全症の典型的な症状でした。

呼吸器系に関連する要因

肺や気道に病気が生じると、直接的に呼吸の働きに影響を与えます。

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)タバコなどの有害物質による肺の炎症
  • 気管支喘息気道が狭くなり、空気の通りが悪くなる
  • 間質性肺炎肺の組織が硬くなり、酸素の取り込みが難しくなる
  • 肺炎細菌やウイルスによる肺の炎症
  • 肺塞栓症肺の血管が詰まる

神経筋疾患と呼吸困難の関係

神経や筋肉の異常も呼吸困難を引き起こすことがあります。

疾患群影響を受ける部位呼吸への影響
脳卒中呼吸の制御が乱れる
筋萎縮性側索硬化症運動ニューロン呼吸筋が徐々に弱くなる
重症筋無力症神経筋接合部呼吸筋の疲労が起こりやすい
ギラン・バレー症候群末梢神経呼吸筋の麻痺が生じる可能性がある

見落としがちなその他の原因

一見すると呼吸とは関係なさそうに思える問題でも、実は呼吸困難の原因になっているかもしれません。

要因説明呼吸困難との関連
貧血赤血球が減少する酸素を運ぶ能力が低下し、息切れを感じやすくなる
肥満体重が過度に増加する呼吸に使う筋肉への負担が増え、息苦しくなる
心理的要因不安やパニック障害など呼吸が速くなったり、胸が締め付けられる感覚を覚える
甲状腺機能亢進症甲状腺ホルモンが過剰に分泌される代謝が亢進し、呼吸が速くなる

呼吸困難の原因を把握するためには、患者さんの症状、これまでの病気の経験、普段の生活習慣などを総合的に考える必要があります。

また、状況に応じて検査を行い、隠れた病気を見逃さないようにすることも大切です。

診察(検査)と診断

呼吸困難・息苦しさがある場合の診断では、患者さんのお話をよく聞き、症状がいつ頃から始まったのか、どのくらい続いているのか、どんな時に悪化するのかなどを聞き取ります。

同時に、患者さんの全身の様子や呼吸の仕方、唇や爪の色が青くなっていないかなどを観察します。

問診で聞くこと確認のポイント
症状の始まり急に起こったのか、徐々に悪化したのか
続く時間ずっと続くのか、一時的なのか
悪化する要因体を動かした時や姿勢を変えた時など

体の診察

次に、実際に体を診察します。聴診器を使って肺の音を聞き、異常な音がしないか、どんな特徴があるかを確認します。

また、胸のふくらみ方や首や肩の筋肉の使い方にも注目します。

臨床検査

体の診察に続いて、血液検査や胸のレントゲン撮影、心電図検査などの基本的な検査から始め、必要に応じて検査を追加していきます。

  • 血液中の酸素や二酸化炭素の量を調べる検査
  • 肺の働きを詳しく調べる検査
  • 心臓の超音波検査
  • CTやMRIによる精密な画像検査

検査結果を総合的に判断し、臨床診断を行います。

最終的な診断

肺の病気が疑われる場合は気管支の内視鏡検査を、心臓の病気が疑われる場合は心臓カテーテル検査を検討します。

疑われる病気詳しい検査
肺の病気気管支の内視鏡検査
心臓の病気心臓カテーテル検査
神経や筋肉の病気筋肉の電気的な検査

呼吸困難の治療法と処方薬、治療期間

呼吸困難の治療にあたっては、まず原因となる病気を突き止め、その症状がどれほど深刻かを見極めることから始めます。

そのうえで、お薬による治療や酸素を使った治療、さらには薬を使わない方法を組み合わせて、患者さん一人ひとりの状態に合わせた総合的な治療を行います。

お薬による治療の基本

呼吸困難を和らげるためのお薬は、どんな病気が原因で起きているかによって選びます。

気道を広げる働きがあるお薬には、すぐに効果が出るものと、効果が長く続くものがあって、症状の程度に合わせて使い分けます。

また、炎症を抑える作用があるステロイドというお薬もよく使われます。特に喘息や肺の病気(COPD)でお困りの方によく処方されます。

吸入タイプのステロイドは、からだ全体への影響が少ないので、長く使うのに向いています。

お薬の種類主な働き
気管支を広げるお薬息がしやすくなる
炎症を抑えるお薬気道の腫れを減らす

酸素を使った治療

血液中の酸素が足りなくなって息苦しくなっている場合は、酸素を使った治療が効果的です。

症状が重い場合は、家でも酸素を使えるようにすることがあります。

酸素をどのくらい使うかは、血液中の酸素の量を測って決めます。通常は、血液中の酸素の量が90%以上になるように調整します。

治療期間と定期的な診察

治療にかかる時間は、どんな病気が原因かや、どれくらい症状が重いかによって大きく変わります。

風邪などが原因で起こる一時的な息苦しさなら、1〜2週間程度で良くなることが多いです。

一方で、COPDや肺の組織が硬くなる病気などの場合は、長い期間にわたって管理していく必要があります。

定期的に病院に通って、症状に変化がないかや、お薬が効いているかを確認し、必要に応じて治療の内容を見直します。

病気の種類治療にかかる時間の目安
急な気管支の炎症1〜2週間くらい
肺の慢性的な病気(COPD)生涯にわたって管理が必要

呼吸困難の治療における副作用やリスク

呼吸困難の治療に伴う注意点についてまとめました。

お薬による副作用

お薬の種類気をつけたい点
気管支を広げるお薬心臓の鼓動が速くなったり、乱れたりすることがある
ステロイド骨がもろくなったり、血糖値が上がったりすることがある

長く使い続けると体の抵抗力が弱くなる場合もあるので、医師と相談しながら使用することが大切です。

酸素を使う治療のリスク

酸素を治療で使う際には、量の調整が重要です。

酸素を多く吸い過ぎると、肺を傷つけてしまったり、逆に呼吸が苦しくなったりすることがあります。

人工呼吸器を使うときのリスク

呼吸困難の程度が重症の場合には、人工呼吸器という機械の助けを借りることがあります。

人工呼吸器には、以下のようなリスクがあります。

  • 肺に菌が入って炎症を起こす場合がある
  • のどや気管を傷つけてしまう可能性がある
  • 体の筋肉が弱くなってしまうことがある

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

呼吸困難の治療費は、原因の病気や重症度によって変動します。

保険適用により自己負担は抑えられますが、長期治療や高度医療機器使用時は費用が高額になります。

診療に関わる基本的費用

検査項目概算費用(保険適用時)
胸部X線撮影2,500円
血液検査4,000円
心電図検査2,000円
肺機能検査4,500円

精密検査にかかる費用の目安

重症例や原因特定が困難な場合、より詳細な検査が必要です。

  • CT検査 15,000円
  • 気管支鏡検査 25,000円
  • 心臓超音波検査 7,000円
  • 運動負荷試験 8,000円

在宅療養の費用

重度の呼吸困難で在宅酸素療法を行う場合、酸素濃縮装置のレンタル料や電気代などの費用がかかります

項目月額費用(概算)
酸素濃縮装置レンタル10,000円
電気代4,000円
消耗品1,500円

以上

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