1度房室ブロック(First-degree atrioventricular block)とは、心臓の電気信号の伝導に軽度の遅延が生じる状態です。
通常、心臓の上部(心房)から下部(心室)へと電気信号が伝わることで規則正しい心臓の拍動が維持されていますが、1度房室ブロックではこの電気信号の伝導に若干の遅れが生じます。
多くの場合で特に症状はなく、定期的な検査によって初めて発見されるケースがほとんどです。
また、1度房室ブロックは心臓の機能に軽微な影響を与える程度であり、日常生活に大きな支障をきたすことは稀です。
1度房室ブロックの主な症状
1度房室ブロックは多くの場合無症状ですが、時に軽度の症状が現れることがあります。
ほとんどの場合は無症状
1度房室ブロックは、ほとんどの方で症状が特に現れません。
日常生活を送る上で支障がないため、定期健康診断や他の理由で行われた心電図検査で偶然発見されるケースが多いです。
軽度の症状が現れることも
症状が出現する場合、その程度は一般的に軽いものとされています。
1度房室ブロックで起こる可能性のある症状は、動悸や疲労感、めまいなどがあります。
症状 | 特徴 |
動悸 | 心臓がドキドキする感覚 |
疲労感 | 普段より疲れやすい |
めまい | 軽い浮遊感や立ちくらみ |
日常生活に大きな影響を与えることは少ないですが、気になる方は医療機関で相談するようにしてください。
運動時に感じやすい症状
1度房室ブロックの症状は、安静時よりも運動時に感じやすくなります。
激しい運動や長時間の持続的な運動をされた際に、以下のような症状を経験する方もいらっしゃいます。
- 息切れ
- 胸部の不快感
- 普段より早く疲れを感じる
症状の個人差と変動
1度房室ブロックの症状の現れ方や程度には、個人差があります。
また、同じ方でも日によって症状の強さが変わることもあります。
症状の変動に影響を与える要因
要因 | 影響 |
ストレス | 症状を強める |
睡眠不足 | 疲労感を増強させる |
環境温度 | 暑さや寒さで症状が変化 |
症状の変動が大きい場合や、生活に支障をきたすほどの症状がある場合は専門医への相談が必要です。
1度房室ブロックの原因
1度房室ブロックは、心臓の上部にある心房と下部にある心室を結ぶ房室結節という部分で、電気信号の伝導が遅くなることにより起こります。
循環器系の機能異常による影響
循環器系の機能異常は、1度房室ブロックの主要な原因の一つです。
具体的には虚血性心疾患、心筋炎、心筋症、心臓弁膜症などが挙げられます。
このような疾患は、心臓の電気伝導系に直接的な影響を与え、結果として1度房室ブロックを引き起こす可能性があります。
特に、虚血性心疾患では心臓の血流不足により房室結節の機能が低下し、電気信号の伝導が遅延します。
薬物による影響
一部の薬物も1度房室ブロックの原因となる場合があります。
薬物の種類 | 代表的な薬剤名 |
カルシウム拮抗薬 | ベラパミル、ジルチアゼム |
ベータ遮断薬 | プロプラノロール、アテノロール |
ジギタリス製剤 | ジゴキシン |
抗不整脈薬 | アミオダロン、プロカインアミド |
カルシウム拮抗薬やβ遮断薬などの薬は心臓の電気伝導系に作用し、房室結節での信号伝達を遅延させる作用があります。
そのため、これらの薬物を服用している方は、1度房室ブロックが生じるリスクが高くなります。
加齢による影響
年齢を重ねるにつれて、心臓の電気伝導系の機能が徐々に低下します。
年齢層 | 1度房室ブロックの発生率 |
20-40歳 | 約0.5-1% |
40-60歳 | 約2-3% |
60歳以上 | 約5-10% |
このように、年齢が上がるにつれて1度房室ブロックの発生率が高くなる傾向が見られます。
これは加齢に伴う心臓の構造的変化や、電気伝導系の細胞の減少などが関係していると考えられています。
その他の要因
上記の主要な原因以外にも、1度房室ブロックを引き起こす要因がいくつか存在します。
例えば、電解質異常や自律神経系の変調、先天性の心臓構造異常なども原因のひとつです。
また、まれではありますが、激しい運動や過度のストレスによって一時的に1度房室ブロックが生じることもあります。
診察(検査)と診断
1度房室ブロックの診断は、心電図検査でPR間隔の延長(0.20秒以上)と、全ての心房興奮の心室への伝導を確認することで行われます。
12誘導心電図検査
12誘導心電図検査では、体表面の複数箇所に電極を装着して心臓の電気的活動を記録します。
検査結果では、以下の特徴的な所見が見られた場合に1度房室ブロックと診断されます。
心電図所見 | 正常範囲 | 1度房室ブロック |
PR間隔 | 0.12-0.20秒 | 0.20秒超 |
QRS波形 | 正常 | 正常 |
PR間隔が延長していても、すべての心房の興奮が心室に伝わっている点が1度房室ブロックの特徴です。
ホルター心電図検査による24時間モニタリング
1度房室ブロックの診断精度を高めるため、ホルター心電図検査を実施することがあります。
この検査では小型の心電計を24時間装着し、日常生活中の心臓の動きを連続的に記録します。
ホルター心電図検査の利点
- 長時間の心電図記録が可能
- 日常生活中の不整脈を捉えられる
- 症状と心電図変化の関連を調べられる
ホルター心電図検査では、通常の心電図検査では見逃される可能性のある一過性の変化も捉えることができます。
その他の補助的検査
1度房室ブロックの原因や合併症を調べるため、必要に応じて以下の検査を追加する場合があります。
検査項目 | 目的 |
血液検査 | 電解質異常や甲状腺機能異常の確認 |
胸部X線 | 心臓の大きさや肺の状態の評価 |
心エコー検査 | 心臓の構造や機能の評価 |
1度房室ブロックの治療法と処方薬
1度房室ブロックは多くの場合、無症状で日常生活に支障をきたすことはなく、特別な治療は必要ありません。
経過観察の必要性
1度房室ブロックと診断された方は、定期的に循環器専門医の診察を受けましょう。
経過観察の目的は、心臓の状態を継続的に評価し、より重度の房室ブロックへの進行がないかを確認することです。
経過観察の項目 | 頻度 |
心電図検査 | 3-6ヶ月ごと |
血液検査 | 6-12ヶ月ごと |
心エコー検査 | 必要に応じて |
薬物療法の考え方
多くの場合、1度房室ブロックに対する特定の薬物療法は必要ありません。
ただし、原因となる基礎疾患や合併症がある際には、それらに対する治療が行われます。
基礎疾患・合併症 | 考えられる薬物療法 |
高血圧 | 降圧薬 |
心不全 | 利尿薬、ACE阻害薬 |
虚血性心疾患 | 抗血小板薬、β遮断薬 |
予後と進行の可能性および予防
1度房室ブロックの予後は一般的に良好で、多くの場合は特別な治療を必要としません。
進行の予防には、生活習慣の改善や定期的な検診が役立ちます。
予後の概要
1度房室ブロックの予後は、ほとんどの患者さんにおいて良好です。
多くの場合、日常生活に支障をきたすような症状はみられず、特別な治療を必要としないのが一般的です。
しかしながら、定期的な経過観察は欠かせません。
心臓の状態を定期的にチェックすることで、病状の進行や他の心臓の問題の発生を早期に発見できます。
進行のリスク
1度房室ブロックが進行するリスクは、個々の患者さんの状況によって異なります。
進行のリスクを高める要因としては、加齢や高血圧、糖尿病といった基礎疾患などが挙げられます。
リスク因子 | 説明 |
高齢 | 加齢に伴い、心臓の伝導系の機能が低下する傾向があります |
基礎疾患 | 高血圧や糖尿病などの存在が進行リスクを高めます |
薬剤の影響 | 一部の薬剤が房室伝導に影響を与え、進行を促進します |
遺伝的要因 | 家族歴がある場合、進行のリスクが高まります |
生活習慣の改善による予防
1度房室ブロックの進行を予防するためには、健康的な生活習慣を心がけましょう。
- 適度な運動の実施
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠とストレス管理
- 禁煙
- 適正体重の維持
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
1度房室ブロックは通常無症状で経過観察のみで済むため、特別な治療費は発生しません。
一般的に、診断のための初診料、心電図検査費用、定期的な経過観察の診察料がかかります。
検査にかかる費用
1度房室ブロックと診断された方は、定期的な心電図検査が実施されることが多く、状態に応じて検査の頻度や種類を決定します。
項目 | 概算費用 |
心電図検査 | 1,500円~3,000円 |
ホルター心電図 | 5,000円~15,000円 |
運動負荷心電図 | 5,000円~10,000円 |
長期的な管理にかかる費用
定期的な外来受診と検査、必要に応じた薬物療法を行った場合の治療費の例です。
- 外来診察(年4回):12,000円~20,000円
- 心電図検査(年4回):6,000円~12,000円
- 薬物療法(必要な場合):24,000円~120,000円
- 血液検査(年2回):10,000円~20,000円
保険適用
1度房室ブロックの治療は、通常、健康保険の適用対象となります。
自己負担額は年齢や加入している保険の種類によって異なり、70歳未満の方の場合、医療費の3割が自己負担となるのが一般的です。
以上
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