拘束型心筋症(Restrictive cardiomyopathy:RCM)とは、心臓の筋肉が硬くなり、心臓の拡張機能低下により血液を十分に全身に送り出せなくなってしまう病気です。
心筋の線維化や心筋細胞の配列の乱れなどが原因となって起こり、心不全や不整脈、突然死などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
原因不明の特発性のものもありますが、遺伝性のタイプもあり、ご家族に同じような病気の方がいらっしゃる場合は特に注意が必要です。
拘束型心筋症(RCM)の種類(病型)
拘束型心筋症は非閉塞性と閉塞性に大別でき、それぞれにびまん性と非びまん性があります。
種類 | 原因 |
非閉塞性 | 異常物質による心筋の浸潤 |
閉塞性 | 心内膜および心内膜下の線維化 |
非閉塞性拘束型心筋症
非閉塞性拘束型心筋症は、異常物質による心筋の浸潤が原因となるものです。
非閉塞性拘束型心筋症の原因となる異常物質としては、アミロイドーシスや、サルコイドーシス、ヘモクロマトーシスなどがあります。
閉塞性拘束型心筋症
閉塞性拘束型心筋症は、心内膜および心内膜下の線維化が原因となります。
放射線療法や抗がん剤の使用、心臓手術後の癒着などが発症原因として挙げられます。
びまん性RCMと非びまん性RCM
拘束型心筋症は、びまん性と非びまん性に分類することもできます。
- びまん性拘束型心筋症:心筋全体に障害が及ぶ
- 非びまん性拘束型心筋症:片方の心室のみ、または片方の心室の一部を不均等に障害が侵す
拘束型心筋症の重症度分類
拘束型心筋症の重症度は、NYHA分類のⅠ度からⅣ度の4段階で評価されます。
重症度分類 | NYHA分類 | 身体活動制限 | 症状 |
---|---|---|---|
軽症 | Ⅰ度 | なし | 日常的な身体活動で症状なし |
中等症 | Ⅱ度 | 軽度 | 日常的な身体活動で症状あり |
重症 | Ⅲ度 | 中等度~高度 | 軽労作で症状あり |
最重症 | Ⅳ度 | 重度 | 安静時にも症状あり |
拘束型心筋症(RCM)の主な症状
拘束型心筋症は、心筋が硬くなることで心臓の拡張機能が低下し、心不全症状を引き起こす疾患です。
進行性の疾患であり、息切れ、浮腫、動悸、倦怠感などの症状が代表的です。
息切れ・呼吸困難感
拘束型心筋症では、心臓の拡張障害により左室への血液流入が減少するため、肺うっ血を生じやすくなります。
そのため、安静時や軽い運動時でも、息切れや呼吸困難感を感じる場合があります。
症状 | 概要 |
息切れ | 安静時や軽い運動時に息苦しさを感じる |
呼吸困難感 | 胸部の圧迫感や息苦しさを感じる |
浮腫(むくみ)
右心不全により全身の静脈圧が上昇し、体液が血管外へ漏出しやすくなります。
その結果、下肢や腹部、顔面などに浮腫が出現します。
- 下肢の浮腫
- 腹部の膨満感
- 顔面や頸部の浮腫
動悸・胸部不快感
心機能低下により心拍出量が減少し、動悸や胸部の不快感を自覚する場合があります。
症状 | 概要 |
動悸 | 心臓がドキドキする、心拍数が増加する |
胸部不快感 | 胸部の圧迫感や痛みを感じる |
全身倦怠感・易疲労感
拘束型心筋症では、心拍出量の低下により全身の血流が減少し、臓器への酸素供給が不足します。
全身倦怠感や易疲労感を感じる場合があり、日常生活の活動量が低下し、運動耐容能が低下します。
拘束型心筋症(RCM)の原因
拘束型心筋症の主な原因は、心筋の線維化や硬化だと考えられています。
心筋の線維化
心筋の線維化とは、心筋組織中にコラーゲンなどの線維成分が増加することを指します。
その結果、心室の柔軟性が失われ、心室の拡張障害が起こります。
心筋の線維化が引き起こる要因
遺伝的要因 | サルコイドーシスや血球貪食症候群などの遺伝性疾患に伴う場合がある |
炎症性要因 | ウイルス感染や自己免疫疾患に伴う心筋炎により生じる場合がある |
心筋の硬化
心筋の硬化とは、心筋細胞そのものが肥大・硬化することを指します。
アミロイドーシスやヘモクロマトーシスなどの全身性疾患に伴って生じ、心室の拡張障害が引き起こされます。
疾患名 | 原因物質 |
アミロイドーシス | アミロイドタンパク |
ヘモクロマトーシス | 鉄 |
RCMの原因となりうる主な疾患
- サルコイドーシス
- 血球貪食症候群
- アミロイドーシス
- ヘモクロマトーシス
続発性の原因
放射線療法や化学療法などの医原性要因や、糖尿病・高血圧などの生活習慣病が心筋に長期的な影響を及ぼし、RCMを引き起こす可能性も指摘されています。
診察(検査)と診断
拘束型心筋症の診察や診断においては、心電図検査や心エコー検査、カテーテル検査などが用いられるのが一般的です。
病歴聴取・身体診察
病歴を聴取し、症状の出現時期や進行状況を把握します。
身体診察では、頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫などの右心不全の徴候を確認します。
心電図検査
心電図検査では、低電位差や心房細動などの所見が見られます。また、右室肥大や右軸偏位を示唆する所見も特徴的です。
所見 | 意義 |
低電位差 | 心筋の線維化を示唆 |
心房細動 | 心房の拡大や圧上昇を反映 |
心エコー検査
- 左右心房の拡大
- 左室壁の肥厚
- 拡張障害(左室流入血流速波形の異常)
- 右室圧上昇
心臓カテーテル検査
- 左右心房圧の上昇
- 拡張末期圧の上昇
- 心拍出量の低下
これらの所見は、RCMの血行動態的特徴を反映しています。
心筋生検
心筋生検では、心筋の線維化や心筋細胞の肥大、間質の浸潤などの所見が得られます。
また、アミロイドーシスや サルコイドーシスなどの特異的な原因疾患の診断にも役立ちます。
拘束型心筋症(RCM)の治療法と処方薬、治療期間
拘束型心筋症の治療は、心臓機能の維持と症状のコントロールが目的です。
薬物療法
初期段階で症状が軽度の場合は、薬物療法が中心です。薬物療法では、利尿薬、血管拡張薬、抗不整脈薬などが使用されます。
利尿薬は体内の余分な水分を排出し、うっ血症状を軽減します。血管拡張薬は血管を拡張させ、心臓の負担を軽減します。
また、抗不整脈薬は不整脈を抑制して心機能の悪化を防ぎます。
薬剤名 | 作用 |
フロセミド | 利尿作用 |
カプトプリル | 血管拡張作用 |
アミオダロン | 抗不整脈作用 |
非薬物療法
RCMの非薬物療法には、以下のようなものがあります。
- 食事療法:塩分や水分の制限により、うっ血症状を軽減します。
- 運動療法:適度な運動により、心機能の維持・改善を図ります。
非薬物療法は、薬物療法と並行して行われる場合が多いです。
外科的治療
病気の進行に伴い、心不全症状が悪化する場合があります。
心不全症状に対しては利尿薬や強心薬などを用いた薬物療法に加えて、心臓再同期療法(CRT)や植込み型除細動器(ICD)などのデバイス療法を検討する場合もあります。
重症(末期段階)のRCMでは、心臓移植が唯一の根本的な治療法です。心臓移植はドナー不足や手術のリスクなど、さまざまな課題があります。
移植までの期間は、補助人工心臓(VAD)による治療が行われることもあります。
治療期間
RCMの治療は、基本的に生涯にわたって継続する必要があり、長期的な治療が必要です。
予後
拘束型心筋症の予後は不良であり、根本的な治療法が確立されていないのが現状です。
予後に影響を与える因子
因子 | 詳細 |
原因疾患 | アミロイドーシスや肉芽腫性疾患など、原因疾患によって予後が異なる |
心不全の重症度 | NYHAクラスが高いほど予後不良 |
左室駆出率 | 低下している場合、予後不良 |
肺高血圧の合併 | 肺高血圧を合併している場合、予後不良 |
拘束型心筋症の治療は、原因疾患に対する治療と心不全に対する対症療法が中心となります。
しかしながら、多くの患者において根本的な治療法がなく、心不全の進行を遅らせることが主な目的となるのが実情です。
米国における成人を対象とした予後調査報告
5年生存率 | 64% |
10年生存率 | 37% |
拘束型心筋症(RCM)の治療における副作用やリスク
拘束型心筋症の治療には、副作用やリスクが伴う場合があります。
薬物療法における副作用
薬剤 | 主な副作用 |
利尿薬 | 電解質異常、脱水、腎機能低下 |
血管拡張薬 | 低血圧、頭痛、めまい |
外科的治療に伴うリスク
心臓移植は拒絶反応や感染症のリスクがあり、免疫抑制剤の長期投与が必要です。また、左心耳閉鎖術は、術後の心房細動や血栓形成のリスクがあります。
手術 | 主なリスク |
心臓移植 | 拒絶反応、感染症 |
左心耳閉鎖術 | 心房細動、血栓形成 |
デバイス治療のリスク
ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)などのデバイス治療には合併症のリスクがあります。
- デバイス感染
- リードトラブル
- 不適切なショック治療
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
拘束型心筋症は指定難病であり、医療費助成の対象となっています。
医療費助成の対象
拘束型心筋症重症度分類を用いて、中等症以上が対象です。
詳しくは難病情報センターのホームページをご確認ください。
以上
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