Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞動脈瘤破裂, Ruptured aneurysm of the sinus of Valsalva)とは、心臓の大動脈基部にある特殊な構造(バルサルバ洞)に生じる動脈瘤が破裂する稀な病態です。
この疾患は、生まれつき大動脈壁の強度不足に起因します。
動脈瘤が破裂すると、急激な胸痛や呼吸困難といった深刻な症状が出現し、即座の医療介入が求められます。
Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞動脈瘤破裂)の種類(病型)
Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞動脈瘤破裂)の病型は、榊原・今野の分類により4つに区分されています。
この分類法は、動脈瘤の隆起する場所に基づいたものです。
病型 | 動脈瘤の隆起する場所 | 特徴 |
Ⅰ型 | 右冠動脈洞 | 左端から発生 |
Ⅱ型 | 右冠動脈洞 | 中央部から発生 |
Ⅲ型-V | 右冠動脈洞 | 後部から発生し右室に突出 |
Ⅲ型-A | 右冠動脈洞 | 後部から発生し右房に突出 |
Ⅳ型 | 無冠動脈洞 | 右端から発生し右房に突出 |
Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞動脈瘤破裂)の主な症状
Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞動脈瘤破裂)の主な症状は、突然の胸痛、呼吸困難、動悸、うっ血性心不全です。
通常の日常活動中に、突如として現れる点(急激な発症)が特徴です。
胸部の症状
胸痛はValsalva洞動脈瘤破裂の最も顕著な症状の一つで、胸の中心部や上部に激しい痛みを感じます。
圧迫感や締め付けられるような感覚を伴い、場合によっては、痛みが背中や首、顎にまで広がるケースもあります。
特徴 | |
発症 | 突然 |
部位 | 胸部中心または上部 |
性質 | 激しい、圧迫感 |
放散 | 背中、首、顎 |
呼吸器系の症状
息切れもValsalva洞動脈瘤破裂の主要な症状で、突然呼吸が困難になったり、息苦しさを感じたりする症状がみられます。
重度の場合、十分な酸素を取り込めず、チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる状態)を呈する場合もあります。
循環器系の症状
Valsalva洞動脈瘤破裂は循環器系にも影響を及ぼし、動悸や不整脈が起こります。
また、心臓が正常に機能できなくなるため、めまいや失神が起きる可能性もあります。
これらの症状は、突然現れ、急速に悪化する傾向がある点が特徴です。
その他の関連症状
- 冷や汗
- 吐き気
- 疲労感
症状の進行
Valsalva洞動脈瘤破裂の症状は時間とともに悪化する傾向があり、初期段階では軽度であっても、急速に重症化する可能性があります。
※症状の持続時間や強度は、破裂の程度や場所によって異なります。
症状の進行 | 特徴 |
初期 | 軽度の胸痛や息切れ |
中期 | 症状の増強、循環器系の症状出現 |
後期 | 重度の胸痛、呼吸困難、ショック症状 |
命にかかわる可能性もあるため、これらの症状が現れた際には、直ちに医療機関への受診が必要です。
Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞動脈瘤破裂)の原因
Valsalva洞動脈瘤破裂の主たる原因は、大動脈壁の先天的な脆弱性です。
具体的には、大動脈壁を構成する結合組織の発達不全や、弾性線維の減少などが挙げられます。
これらの異常により、Valsalva洞と呼ばれる大動脈基部の特定の部位が通常よりも弱くなり、動脈瘤を形成しやすい状態となります。
この状態は出生後も継続し、年齢とともにリスクが高まる傾向があります。
また、先天的な血管壁の脆弱性に加え、感染症や外傷、動脈硬化なども誘因です。
- 先天的な大動脈壁の脆弱性
- 遺伝子変異(フィブリリン1、COL3A1、TGFBR1/2など)
- 結合組織疾患の存在(マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群など)
- 高血圧などの循環器系疾患
- 炎症性疾患(感染性心内膜炎など)
- 外傷や心臓手術の影響
遺伝的要因の関与
Valsalva洞動脈瘤破裂の発症には遺伝的要因が深く関わっていて、特定の遺伝子変異が大動脈壁の構造異常を引き起こすことが明らかになっています。
例えば、フィブリリン1遺伝子の変異はマルファン症候群の原因となることが判明していますが、この症候群ではValsalva洞動脈瘤破裂のリスクが顕著に高くなります。
また、他の結合組織疾患に関連する遺伝子変異も、Valsalva洞動脈瘤破裂の発症リスクを上昇させる要因となります。
遺伝子 | 関連疾患 | リスク度 |
フィブリリン1 | マルファン症候群 | 非常に高い |
COL3A1 | エーラス・ダンロス症候群 | 高い |
TGFBR1/2 | ロイス・ディーツ症候群 | 高い |
ACTA2 | 家族性胸部大動脈瘤 | 中程度 |
環境要因と後天的要素
先天的な要因に加え、環境要因や後天的な要素もValsalva洞動脈瘤破裂のリスクを高めます。
高血圧は、動脈壁に持続的な負荷をかけるため既存の脆弱性を悪化させる危険性があります。
また、感染性心内膜炎などの炎症性疾患も大動脈壁の構造を弱める一因です。
さらに、外傷や心臓手術後の合併症としてValsalva洞動脈瘤が形成されるケースもあります。
診察(検査)と診断
Valsalva洞動脈瘤破裂の診察では、心雑音の聴診、胸部X線検査、心電図検査に加え、心臓超音波検査や心臓CT検査などの画像診断によって確定診断を行います。
段階 | 実施内容 | 目的 |
初期評価 | 症状確認、身体診察、心電図、胸部X線 | 基本的な情報収集と緊急性の評価 |
一次検査 | 経胸壁心エコー検査、血液検査 | 動脈瘤の存在確認と全身状態の評価 |
二次検査 | 経食道心エコー検査、CT検査、MRI検査 | 詳細な解剖学的評価と周囲組織との関係把握 |
最終評価 | 心臓カテーテル検査(必要に応じて) | 血行動態の直接評価と治療方針の最終決定 |
身体診察
身体診察では、Valsalva洞動脈瘤破裂に特徴的な持続性雑音が聴取される場合にこの疾患を疑います。
加えて、頸静脈怒張や肝腫大といった右心不全徴候の有無も注意深く観察する必要があります。
画像診断
検査方法 | 特徴 | 利点 |
心エコー検査 | 非侵襲的で即時性が高い | 動脈瘤の形態や血流を評価可能 |
CT検査 | 高解像度の三次元画像を提供 | 周囲組織との関係を詳細に把握 |
MRI検査 | 放射線被曝なしで軟部組織のコントラストに優れる | 組織性状の詳細な評価が可能 |
心臓カテーテル検査 | 血行動態の直接評価が可能 | 治療介入の判断に有用 |
特に、心エコー検査は初期評価として非常に有用であり、動脈瘤の大きさや破裂部位の特定に役立ちます。
心臓カテーテル検査は血行動態の直接評価が可能であり、特に複雑な症例や手術適応の判断に際して有用です。
Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞動脈瘤破裂)の治療法、治療期間
Valsalva洞動脈瘤破裂の治療法は、外科手術による動脈瘤の切除と修復が基本です。
術後は心機能を改善するための薬物療法(強心薬、利尿薬など)を行います。
治療期間は術後の経過や合併症の有無によって異なりますが、一般的には数週間から数ヶ月程度です。
外科手術
バルサルバ洞動脈瘤破裂の治療において、外科的介入が最も効果的な方法です。
この手術では、破裂した動脈瘤を修復し、心臓の正常な機能回復が目標となります。
具体的な術式としてはパッチ閉鎖法や直接縫合法が挙げられ、破裂部位を閉鎖し、血流の正常化を図ります。
手術の成功率は高く、多くの患者さんで良好な予後が期待できます。
薬物療法
主に使用される薬剤は以下の通りです。
薬剤分類 | 目的 |
β遮断薬 | 心拍数と血圧のコントロール |
ACE阻害薬 | 血圧管理と心臓への負担軽減 |
利尿薬 | 体液量の調整 |
また、抗凝固薬も術後の血栓予防に使用される場合があります。
治療期間
手術自体は3時間程度で終わりますが、術後の経過観察を含めると、1週間から2週間程度の入院が必要です。
退院後も、心臓の機能が完全に回復するまでには時間がかかります。個人差はありますが、一般的には数週間から数ヶ月程度の安静が必要となります。
心臓の機能が回復してきたら、徐々にリハビリテーションを開始します。
全体として、3〜6か月程度が日常生活に復帰できる期間の目安です。
ただし、これはあくまで一般的な目安であり、個人差があります。
予後と再発可能性および予防
Valsalva洞動脈瘤破裂は、早期発見と治療によって予後は良好とされ、再発の可能性も低いです。
治療後の予後
Valsalva洞動脈瘤破裂に対する外科的治療後の予後は、多くの場合良好です。
外科的修復後の10年生存率は90%と報告されています※1。
※1 Wang ZJ, Zou CW, Li DC, et al:Surgical repair of sinus of valsalva aneurysm in Asian patients. Ann Thorac
Surg 2007;84:156-160
ただし、予後は個々の状態や合併症の有無により変動します。
また、未治療の場合の平均生存期間は約4年とされています※2。
※2 Yan F, Huo Q, Qiao J, et al:Surgery for sinus of Valsalva aneurysm:27-year experience with 100 patients. Asian Cardiovasc Thorac Ann 2008;16:361-365
再発のリスクと可能性
Valsalva洞動脈瘤破裂の再発は稀ですが、可能性はゼロではありません。
結合組織疾患を有する患者では、再発のリスクが相対的に上昇する傾向があります。
また、初回手術で十分な修復が行われなかった例においては、再発の確率が高まります。
Valsalva洞動脈瘤破裂(バルサルバ洞動脈瘤破裂)の治療における副作用やリスク
Valsalva洞動脈瘤破裂の治療における主な副作用やリスクは、手術に伴う出血、感染症、不整脈、心不全、麻酔によるアレルギー反応などがあります。
手術に伴う一般的なリスク
Valsalva洞動脈瘤破裂に対する外科的介入には、他の手術と同様のリスクが存在します。
感染症や出血、麻酔に関連する合併症などが代表的な例です。
リスク | 発生頻度 |
感染症 | 中程度 |
出血 | 低~中 |
麻酔関連 | 低 |
心臓特有の合併症
Valsalva洞動脈瘤破裂の手術は心臓に直接介入するため、心臓特有の合併症リスクが存在します。
例えば、不整脈や心不全、心タンポナーデなどが典型的な合併症です。
これらは生命を脅かす危険性があるため、術中・術後の綿密なモニタリングと迅速な対応が必須となります。
特に、手術によって心臓の構造や機能に変化が生じる点を考慮し、長期的な経過観察も欠かせません。
人工血管使用に関連するリスク
Valsalva洞動脈瘤破裂の修復には人工血管が用いられる場合があり、血栓形成や感染、人工血管の経年劣化などが長期的な問題として挙げられます。
人工血管の材質選択や縫合技術の進歩によりこれらのリスクは徐々に低減されつつありますが、完全な排除は現状では困難です。
合併症 | 短期的リスク | 長期的リスク |
血栓形成 | 中 | 高 |
感染 | 低~中 | 低 |
劣化 | なし | 中~高 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
Valsalva洞動脈瘤破裂の治療費は、手術の種類や合併症の有無、入院期間などによって異なりますが、健康保険が適用されます。
検査費用の目安
Valsalva洞動脈瘤破裂の診断には、様々な検査が必要です。主な検査とその費用は以下の通りです。
検査項目 | 概算費用 |
心エコー検査 | 5,000〜10,000円 |
CT検査 | 15,000〜30,000円 |
MRI検査 | 20,000〜40,000円 |
心臓カテーテル検査 | 100,000〜200,000円 |
手術費用の目安
手術費用は症状の重症度や手術方法によって異なりますが、一般的に300万円から500万円程度が目安です。
入院費用の目安
入院期間は通常2〜4週間程度で、1日あたりの入院費は約5,000円から10,000円です。
入院期間 | 概算費用 |
2週間 | 70,000〜140,000円 |
4週間 | 140,000〜280,000円 |
治療費の総額は、個々の患者の状態や治療内容によって大きく変わります。
具体的な治療費については、担当医や各医療機関で直接ご確認ください。
以上
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