二次性高血圧 – 循環器の疾患

二次性高血圧(Secondary hypertension)とは、特定の疾患や状態が原因で起こる高血圧です。

主な原因としては、腎臓疾患、内分泌疾患、血管疾患、薬剤の副作用などが挙げられます。

二次性高血圧は、全高血圧患者のうち5〜10%程度を占めていると考えられています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

二次性高血圧の種類(病型)

二次性高血圧には、腎性高血圧、内分泌性高血圧、血管性高血圧、脳・中枢神経系による高血圧、薬剤誘発性高血圧、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)など、様々な病型があります。

腎性高血圧

腎臓の疾患や異常が原因となって起こる高血圧です。 腎実質性疾患や腎血管性疾患などが含まれます。

腎実質性疾患
  • 慢性腎臓病
  • 急性糸球体腎炎
腎血管性疾患
  • 腎動脈狭窄症
  • 腎血管炎

内分泌性高血圧

内分泌系の疾患や異常によって引き起こされる高血圧を内分泌性高血圧と言います。

原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫などが代表的な疾患です。

  • 原発性アルドステロン症:アルドステロンの過剰分泌により高血圧を呈する
  • クッシング症候群:コルチゾールの過剰分泌により高血圧を呈する
  • 褐色細胞腫:カテコールアミンの過剰分泌により高血圧を呈する

血管性(脈管性)高血圧

大動脈や、主要な動脈の疾患や異常によって引き起こされる高血圧です。大動脈縮窄症や大動脈炎症候群などが含まれます。

疾患名概要
大動脈縮窄症大動脈の一部が狭窄し、上半身の血圧が上昇する
大動脈炎症候群大動脈の炎症により、血管の狭窄や閉塞を引き起こす

脳・中枢神経系による高血圧

脳腫瘍やてんかん、頭部外傷などの脳や中枢神経系の疾患や異常によって引き起こされる高血圧があります。

これらの疾患により、交感神経系の活動が亢進し、血圧上昇を引き起こす場合があります。

薬剤誘発性高血圧

ステロイド薬、免疫抑制薬、経口避妊薬、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの特定の薬剤の使用によって引き起こされる高血圧です。

これらの薬剤は、血管収縮や体液貯留などの機序を介して血圧上昇を引き起こす可能性があります。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)

睡眠中に上気道が繰り返し閉塞することで、一時的な低酸素状態や交感神経系の活動亢進が起こり、高血圧を引き起こす場合があります。

OSASは、肥満や顎の形態異常などが原因で発症する場合が多いとされています。

二次性高血圧の主な症状

二次性高血圧の症状は、高血圧の原因となっている基礎疾患によって異なります。

頭痛やめまい、ふらつき、動悸、息切れなどが主な症状ですが、胸痛や腎機能低下などが現れる方もいます。

頭痛

二次性高血圧の患者さんの中には、頭痛を訴える方が少なくありません。

片側のこめかみや目の奥が脈打つように痛む片側性拍動性頭痛や、起床時や朝方に強くなる頭痛が代表的です。

めまい・ふらつき

二次性高血圧では、めまいやふらつきを感じる場合があります。

立ち上がった際に一時的に意識が遠のく立ちくらみや、歩行時に体がふらついたりまっすぐ歩けなかったりするのが代表的な症状です。

また、回転性のめまいを感じる方もいます。

動悸・息切れ

安静時でも心臓がドキドキと速く打つ感覚がある動悸や、軽い運動でも息切れを感じるといった症状がみられます。

浮腫

二次性高血圧では、体に水分が貯留して浮腫が生じる場合があります。

特に、下肢の浮腫は比較的よくみられる症状のひとつです。

二次性高血圧の原因

二次性高血圧は、他の疾患や要因が血圧上昇の引き金となっているのが特徴です。

腎臓疾患、内分泌疾患、薬剤の影響、睡眠時無呼吸症候群など、様々な要因が血圧上昇に関与しています。

腎臓の疾患

腎臓の疾患は、二次性高血圧の主要な原因の一つです。

腎動脈狭窄、慢性腎臓病、多発性のう胞腎などの腎臓疾患では、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化や体液量の増加により、血圧が上昇します。

腎臓の疾患血圧への影響
腎動脈狭窄レニン-アンジオテンシン系の活性化
慢性腎臓病体液量の増加、血管収縮

内分泌疾患

内分泌疾患も二次性高血圧の原因となり得ます。

原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫などの内分泌疾患では、ホルモンの過剰分泌が血圧上昇を引き起こします。

  • 原発性アルドステロン症:アルドステロンの過剰分泌
  • クッシング症候群:コルチゾールの過剰分泌
  • 褐色細胞腫:カテコラミンの過剰分泌

薬剤の影響

特定の薬剤の使用が、二次性高血圧の原因となる場合もあります。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、経口避妊薬、ステロイド、シクロスポリンなどの薬剤は、血圧上昇の副作用を引き起こす可能性があります。

薬剤血圧への影響
NSAIDs腎臓でのナトリウム貯留
経口避妊薬レニン-アンジオテンシン系の活性化

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中の反復的な無呼吸により交感神経系が活性化し、血圧が上昇します。

さらに、低酸素状態による血管内皮機能の低下も血圧上昇に関与します。

診察(検査)と診断

二次性高血圧の確定診断では、特殊検査により原因疾患の特定を行います。

問診・身体所見

問診項目身体所見項目
高血圧の家族歴血圧測定
生活習慣心音・肺音の聴診
服用薬剤腹部の触診

スクリーニング検査

  • 血液検査(血算、電解質、腎機能、脂質など)
  • 尿検査(蛋白尿、血尿、カテコールアミンなど)
  • 心電図検査
  • 胸部X線検査

特殊検査

スクリーニング検査で異常が認められた際は、特殊検査を行います。

検査項目目的
腹部超音波検査腎臓や副腎の形態評価
腹部CT検査腎臓や副腎の形態評価
血漿レニン活性・アルドステロン濃度測定原発性アルドステロン症の診断
24時間蓄尿によるカテコールアミン測定褐色細胞腫の診断

臨床診断と確定診断

問診・身体所見、スクリーニング検査、特殊検査の結果を総合的に評価し、臨床診断を下します。

二次性高血圧の治療法と処方薬

二次性高血圧の治療は、原因疾患の治療を基本としながら、薬物療法や生活習慣の改善を組み合わせて行います。

原因疾患の特定と治療

二次性高血圧の治療を行うには、まず原因となる病気を特定しなければなりません。

腎臓の病気、内分泌の病気、血管の病気など、原因と考えられる疾患の治療を行います。

薬物療法

二次性高血圧で用いられる主な治療薬は以下のとおりです。

薬剤名作用機序
ACE阻害薬レニン-アンジオテンシン系の抑制
カルシウム拮抗薬血管拡張
利尿薬体内の水分・塩分排出

生活習慣の改善

治療と合わせ、生活習慣の改善も大切です。塩分を控えめにする、体重を管理するほか、運動を習慣づけることなどが求められます。

継続的なモニタリング

定期的に血圧を測ったり検査をしたりして、治療の効果を確認します。

原因疾患が再発したり、新たな合併症が起こったりしないように、定期的な検査も必要です。

治療に必要な期間と予後について

二次性高血圧では、治療により多くの場合で血圧が正常化し、良好な予後が期待できます。

治療期間と血圧のコントロール

二次性高血圧は、多くの場合で数週間から数ヶ月程度の治療が必要です。

降圧薬を用いて血圧のコントロールを行い、血圧が安定した状態を維持し、合併症のリスク低減を目指します。

予後

原因疾患の治療効果が得られ、血圧が正常化すれば良好な予後が期待できます。

ただし、治療後も定期的な血圧チェックと検査が必要です。

定期検査の項目通院の頻度目安
血圧測定1~3ヶ月ごと
生活習慣の確認3~6ヶ月ごと
降圧薬の調整必要に応じて

二次性高血圧の治療における副作用やリスク

二次性高血圧の治療で使用する薬剤によって、副作用が生じる場合があります。

利尿薬の副作用

利尿薬は、二次性高血圧の治療でよく用いられる薬剤ですが、電解質異常や脱水、腎機能低下などの副作用を引き起こすことがあります。

利尿薬の種類主な副作用
チアジド系利尿薬低カリウム血症、高尿酸血症、耐糖能異常
ループ利尿薬低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎機能低下

降圧薬の副作用

二次性高血圧の治療には、ACE阻害薬やARB、カルシウム拮抗薬などの降圧薬が使用されるケースがあり、これらの薬剤にも副作用があります。

  • ACE阻害薬:空咳、血管浮腫、高カリウム血症
  • ARB:めまい、頭痛、高カリウム血症
  • カルシウム拮抗薬:頭痛、顔面紅潮、浮腫

手術療法のリスク

二次性高血圧の原因となる疾患によっては、手術療法が必要となる場合があります。手術療法には、出血や感染、合併症などのリスクが伴います。

手術療法の種類主なリスク
腎動脈狭窄に対する経皮的腎動脈形成術出血、血栓症、腎機能悪化
原発性アルドステロン症に対する副腎摘出術出血、感染、副腎不全

予防方法

二次性高血圧を予防するためには、健康的な生活習慣がなにより大切です。

また、定期的に血圧を測定し、早期発見・早期治療を心がけましょう。

バランスの取れた食事

塩分の過剰摂取は高血圧の原因となるため、1日の塩分摂取量を6g未満に抑えましょう。

また、野菜や果物、全粒穀物、低脂肪乳製品などを積極的に取り入れ、バランスの取れた食事が大切です。

食品群摂取量の目安
野菜1日350g以上
果物1日200g程度
全粒穀物毎食取り入れると◎
低脂肪乳製品1日200ml程度

適度な運動

週に150分以上の中等度の有酸素運動を行うと、血圧の上昇を抑える効果が期待できます。

ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を日常的に取り入れるようにしましょう。

禁煙と節酒

喫煙は血管を収縮させ、血圧を上昇させる要因となります。禁煙により、血圧の改善が見込めます。

また、過度な飲酒も高血圧のリスクを高めるため、1日の飲酒量を男性で20-30g、女性で10-20g程度に抑えることが望ましいです。

アルコール飲料目安量
ビール(5%)500ml
日本酒(15%)180ml
ワイン(12%)200ml
ウイスキー(40%)60ml

ストレス管理

慢性的なストレスは、交感神経を刺激し、血圧を上昇させる可能性があります。

ストレス解消法を見つけ、上手にストレスと付き合っていくことが大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

二次性高血圧の治療費用は、原因となる疾患や病態によって変わります。

治療費の目安

腎血管性高血圧の際は血管拡張薬や手術が必要となる場合があり、年間100万円以上の治療費用がかかる場合もあります。

原発性アルドステロン症では内服薬による治療が中心となるため、年間治療費は10万円程度が目安です。

ただし、二次性高血圧の治療費用は、多くの場合で医療保険の対象です。自己負担割合は1割~3割となります。

疾患名主な治療法年間治療費用の目安
腎血管性高血圧血管拡張薬、手術100万円以上
原発性アルドステロン症内服薬10万円程度

医療費控除の活用

二次性高血圧の治療費用が高額になった(自己負担額が10万円を超える)場合は、医療費控除の活用により税金の還付を受けられます。

医療費控除は確定申告が必要です。詳しくは国税庁のホームページをご確認ください。

以上

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