洞不全症候群(SSS) – 循環器の疾患

洞不全症候群(Sick Sinus Syndrome:SSS)とは、心臓のペースメーカーの役割を果たす洞結節(どうけっせつ)の機能が低下する病気です。

洞結節は心臓の右心房上部に位置し、規則正しい電気信号を発生させて心臓のリズムを制御しています。

この洞結節が正常に働かなくなると、心拍数が遅くなったり不規則になったりして、めまいや失神、疲労感、息切れなどの症状が現れます。

高齢者に多く見られますが、若年者でも発症します。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

洞不全症候群(SSS)の種類(病型)

洞不全症候群(SSS)は、I型、II型、III型に分類されます。

徐脈性不整脈頻脈性不整脈
洞性徐脈心房細動
洞停止心房粗動
洞房ブロック発作性上室性頻拍

洞不全症候群(SSS)の病型分類の概要

洞不全症候群(SSS)の病型分類は、心臓の電気的活動の異常パターンに基づいています。

I型は洞徐脈や洞停止が主な特徴となり、心拍数の異常な低下や一時的な停止が見られます。

II型は洞房ブロックによる心拍数の低下が見られ、洞結節からの電気的刺激が心房に正常に伝わらない状態を指します。

III型は徐脈と頻脈が交互に現れる、いわゆる徐脈頻脈症候群を指し、複雑な心リズムの変動が特徴です。

I型:洞徐脈・洞停止型

I型は洞結節の自動能低下により生じ、心拍数が異常に遅くなる洞徐脈や、洞結節からの刺激が一時的に停止する洞停止が特徴的です。

心電図上では、P波の間隔が不規則に延長したり、P波が一定時間消失したりする所見が見られます。

II型:洞房ブロック型

II型は、洞結節で発生した電気的刺激が心房に正常に伝わらないことで起こります。

洞房ブロックによる、心拍数の不規則な低下がこの病型の特徴です。

心電図ではP波の脱落やP波間隔の突然の延長が観察され、ブロックの程度によって異なる心電図所見が現れます。

ブロックの程度心電図所見
1度P-P間隔の延長
2度間欠的なP波の脱落
3度完全なP波の途絶

III型:徐脈頻脈症候群

III型は、徐脈と頻脈が交互に出現する複雑な病態です。

洞性徐脈や洞停止などの徐脈性不整脈と、心房細動や心房粗動などの頻脈性不整脈が入れ替わり立ち替わり現れます。

徐脈時に代償性の頻脈が生じやすく、自覚症状が強く現れるのが特徴です。

洞不全症候群(SSS)の主な症状

洞不全症候群(SSS)の主な症状には、めまい、失神、動悸、疲労感、息切れなどがあります。

めまいと失神

めまいや失神は、心臓が十分な血液を脳に送れないときに起こります。

めまいは軽度から重度まで様々で、ふらつきや立ちくらみのような軽い症状から、回転性めまいのような重い症状まで幅広く現れます。

失神は一時的な意識消失を指し、突然起こることがあります。

症状特徴
めまい軽度のふらつきから重度の回転性めまいまで
失神突然の一時的な意識消失

特に失神は転倒や事故のリスクを高めるため、注意が必要です。

動悸と不整脈の自覚

動悸は心臓の鼓動が通常よりも速く、強く、または不規則に感じられる状態を指し、心臓のリズムが乱れていることの現れです。

  • 胸がドキドキする感覚
  • 心臓が飛び跳ねるような感覚

この他、心拍が遅くなっていることを自覚する場合もあります。

これらの症状は、日常生活の中で突然現れるのが特徴です。

疲労感と活動耐性の低下

洞不全症候群により、多くの患者さんが慢性的な疲労感を感じます。

心臓が体に十分な血液を送れないため、日常的な活動でも疲れやすくなり、以前よりも体力が落ちたと感じるようになります。

軽い運動や作業でも息切れを感じやすくなるため、生活の質に大きな影響を与えます。

症状影響
慢性的な疲労感日常生活の活動が制限される
活動耐性の低下運動や作業が困難になる

その他の症状

  • 胸痛や胸部不快感
  • 記憶力の低下や集中力の困難
  • 睡眠障害(不眠や過度の眠気)
  • 食欲不振

症状は患者さんによって異なり、症状の組み合わせや程度も様々です。常に現れるわけではなく、間欠的に発生することもあります。

洞不全症候群の症状は他の心臓疾患や一般的な健康問題と似ているため、症状が持続する場合は医療機関を受診し、診断を受けることが大切です。

洞不全症候群(SSS)の原因

洞不全症候群(SSS)の主な原因は、加齢に伴う洞結節の変性や線維化、心臓の構造的異常、および全身性疾患などです。

加齢による洞結節の変化

加齢は洞不全症候群(SSS)の最も一般的な原因の一つです。

年を重ねるにつれ、洞結節の細胞数が減少し、その機能が低下します。

また、洞結節周辺の組織が線維化することで、電気信号の伝導に影響を与えます。

このような変化により、洞結節が正常なペースメーカーとしての役割を果たせなくなります。

心臓の構造的異常

心臓の構造的異常も洞不全症候群(SSS)の原因となります。

SSSを引き起こす可能性のある主な構造的異常

構造的異常影響
心筋梗塞洞結節への血流低下
心房中隔欠損症洞結節周辺の解剖学的変化
心臓手術後の瘢痕組織電気信号伝導の障害

全身性疾患による影響

全身性疾患も洞不全症候群(SSS)の原因となります。

SSSに関連する代表的な全身性疾患

  • アミロイドーシス
  • サルコイドーシス
  • 結合組織病
  • 自己免疫疾患

上記のような疾患は、心臓組織に炎症や変性をもたらし、洞結節の機能に悪影響を及ぼします。

薬剤による影響

一部の薬剤も洞不全症候群(SSS)の原因となります。特に、心拍数を低下させる作用を持つ薬剤は注意が必要です。

薬剤分類
β遮断薬プロプラノロール
Ca拮抗薬ベラパミル
抗不整脈薬アミオダロン

その他の要因

洞不全症候群(SSS)の原因には、上記以外にも様々な要因が考えられます。

例えば、自律神経系の異常や電解質バランスの崩れなども洞結節の機能に影響を与えます。

また、遺伝的要因も関与していることが示唆されていますが、この点については更なる研究が求められています。

診察(検査)と診断

洞不全症候群(SSS)の診断では、心電図検査が主軸となり、確定診断には長時間心電図や電気生理学的検査などが活用されます。

心電図検査

標準12誘導心電図では、洞性徐脈や洞停止、洞房ブロックなどの特徴的な所見が見られます。

ただし、SSSの症状は間欠的に生じることが多いため、24時間ホルター心電図や携帯型イベントレコーダーなどの長時間心電図検査が有効です。

心電図検査で見られる主なSSS所見

心電図所見特徴
洞性徐脈心拍数が異常に遅い
洞停止一時的に洞結節の活動が停止
洞房ブロック洞結節から心房への伝導障害
徐脈頻脈症候群徐脈と頻脈の交代

運動負荷試験と自律神経機能検査

SSSの診断精度を高めるため、運動負荷試験や自律神経機能検査が行われることがあります。

運動負荷試験では、運動時の心拍数の上昇が不十分な場合、SSSが疑われます。

一方、自律神経機能検査では、起立試験やバルサルバ手技などを用いて心拍変動を評価します。

電気生理学的検査による確定診断

SSSの確定診断には、電気生理学的検査(EPS)が用いられます。

EPSでは、カテーテルを用いて心臓内の電気的活動を直接測定します。

評価する項目

  • 洞結節回復時間(SNRT)
  • 洞房伝導時間(SACT)
  • 心房有効不応期(AERP)
  • 房室結節機能

その他の補助的検査

SSSの診断や合併症の評価には、以下のような検査も補助的に用いられます。

検査名目的
心エコー検査心臓の構造や機能の評価
胸部レントゲン心拡大や肺うっ血の確認
血液検査電解質異常や甲状腺機能の確認
頭部CT/MRI脳血管障害の有無の確認

検査結果を総合的に判断し、SSSの診断および重症度評価を行います。

洞不全症候群(SSS)の治療法と処方薬、治療期間

洞不全症候群(SSS)の主な治療法には薬物療法とペースメーカー植え込み術があり、治療期間は長期にわたるのが一般的です。

薬物療法

薬物療法は軽度から中等度のSSSに対して行い、主に使用される薬剤には以下のようなものがあります。

  • テオフィリン
  • アトロピン
  • イソプロテレノール

これらの薬剤は、心拍数を上げる効果があります。

ただし、薬物療法だけでは十分な効果が得られないと判断された場合、ペースメーカー植え込み術が検討されます。

ペースメーカー植え込み術

ペースメーカー植え込み術は、SSSの標準的な治療法として広く行われています。

ペースメーカーは心臓の拍動が遅くなりすぎたときに電気刺激を与え、適切な心拍数を維持する役割を果たします。

手術は通常局所麻酔下で行われ、1〜2時間程度で終了し、術後は1週間程度の入院が必要です。

治療期間

SSSの治療期間は、基本的に生涯にわたります。

薬物療法を受けている場合は、定期的な診察と薬の調整が必要です。

ペースメーカーを植え込んだ場合も、定期的な点検や電池交換が必要となるため、継続的な管理が求められます。

治療法特徴期間
薬物療法軽度〜中等度のSSS症状改善まで継続
ペースメーカー中等度〜重度のSSS生涯

予後と再発可能性および予防

洞不全症候群(SSS)の治療後の予後は一般的に良好ですが、再発のリスクがあるため、継続的な管理が必要です。

ペースメーカー植え込み手術後の生活の質は向上しますが、定期的な経過観察が欠かせません。

再発予防には、生活習慣の改善や併存疾患の管理が有効です。

ペースメーカー治療後の予後

洞不全症候群(SSS)に対するペースメーカー治療後の予後は、多くの場合良好とされています。

ペースメーカーによって心拍数が適切に調整されることで、症状の改善が期待できます。

予後に影響を与える要因影響の内容
年齢高齢者ほど合併症のリスクが上昇
併存疾患心不全や冠動脈疾患の有無が予後に影響
ペースメーカーの種類症状や心機能に応じた適切な機種選択が重要

※個々の患者さんの状態や併存疾患によって、予後が変わります。

再発のリスクと管理

洞不全症候群(SSS)の再発リスクは、完全に排除することはできません。

ペースメーカー植え込み後も、基礎疾患の進行や新たな不整脈の発生により、症状が再び現れる可能性があります。

再発や合併症の早期発見のために、以下のような点に注意が必要です。

  • 動悸や息切れなどの症状の再出現
  • めまいや失神などの脳血流低下を示唆する症状
  • 胸部の違和感や痛み
  • 原因不明の疲労感や体調不良

生活習慣の改善による予防

洞不全症候群(SSS)の再発予防や症状悪化の防止には、生活習慣の改善が効果的です。

特に心臓に負担をかける要因を減らすことが大切であり、適度な運動や食生活の見直し、ストレス管理などが心臓の健康維持に役立ちます。

生活習慣改善項目推奨される行動
運動医師の指導のもと、適度な有酸素運動を実施
食事塩分・脂質制限、バランスの良い食事
禁煙・節酒心臓への負担軽減のため、禁煙と節酒を心がける
ストレス管理リラックス法の習得、十分な睡眠の確保

併存疾患の管理と予防

高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、心臓の負担を増加させ、不整脈の悪化につながるリスクがあります。

これらの疾患のコントロールによって、洞不全症候群(SSS)の再発リスクを低減できます。

洞不全症候群(SSS)の治療における副作用やリスク

洞不全症候群(SSS)の治療では、ペースメーカー植込みに伴う感染、出血、血栓症のリスクや、薬物療法による徐脈や電解質異常などの副作用が生じる可能性があります。

薬物療法の副作用

  • めまいや立ちくらみ
  • 頭痛
  • 吐き気
  • 疲労感
  • 睡眠障害
  • 便秘や下痢

副作用は、薬剤の用量調整や種類の変更によって軽減できる場合があります。

重篤な副作用が現れた際には、直ちに医療機関に相談するようにしてください。

ペースメーカー植込み手術のリスク

合併症発生頻度
感染1-2%
血腫1-2%
気胸1-2%
リード離脱1-2%

ペースメーカー植込み後の生活上の注意点

ペースメーカー植込み後は、デバイスが正常に機能するよう、日常生活での注意点があります。

電磁波の影響を受ける可能性があるため、特定の環境や機器の使用に制限がかかることがあります。

注意が必要な環境・機器対応方法
携帯電話植込み部位から15cm以上離す
IH調理器30cm以上離れる
空港の金属探知機通過せず、係員に申告する
MRI検査原則禁止(条件付きMRI対応機種を除く)

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

洞不全症候群(SSS)の治療費は、病状の重症度や治療法(薬物療法やペースメーカー植込み術など)によって大きく異なりますが、一般的に長期的な管理が必要となるため、長期的に医療費がかかります。

治療内容概算費用備考
薬物療法(年額)96,000円~300,000円薬の種類や量により変動
ペースメーカー植込み術100万円~200万円保険適用あり
入院費用(1週間)7万円~21万円病院・病室により変動
定期検診(年間)2万円~4万円3〜6ヶ月に1回程度

薬物療法の費用

薬剤費用は使用する薬の種類や量によって変動し、一般的な抗不整脈薬の場合、1ヶ月あたりの薬剤費は5,000円から15,000円程度となります。

長期的な服薬が必要となるため、継続的に治療費がかかります。

薬剤の種類1ヶ月あたりの概算費用年間概算費用
一般的な抗不整脈薬5,000円~15,000円60,000円~180,000円
抗凝固薬3,000円~10,000円36,000円~120,000円

ペースメーカー植込み術の費用と経済的負担

症状が重い場合や薬物療法で十分な効果が得られない場合のペースメーカー植込み術にかかる費用は、概ね100万円から200万円程度です。

※使用するペースメーカーの種類や入院期間によって変わります。

保険適用により患者さんの自己負担額は大幅に軽減されますが、一時的に大きな経済的負担となる可能性があります。

定期検診の費用

ペースメーカー植込み後は、定期的な検診が欠かせません。

検診の頻度は通常3〜6ヶ月に1回で、1回あたりの費用は5,000円から1万円程度が一般的です。

以上

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