閉塞性血栓血管炎(Thromboangiitis obliterans:TAO)(バージャー病:Buerger’s disease)とは、主に四肢の中小動脈や静脈に炎症が生じ、血管が閉塞してしまう疾患です。
喫煙者の若年男性に多く見られ、手足の冷感やしびれ、安静時の疼痛などの症状が現れるのが特徴です。
原因については現在も不明な点が多いですが、喫煙との関連性が指摘されており、病態には免疫の異常が関与していることが推測されています。
病状が進行した場合、皮膚潰瘍や壊疽を引き起こし、生活の質を著しく低下させてしまう難治性の疾患の一つです。
閉塞性血栓血管炎(TAO)(バージャー病)の種類(病型)
閉塞性血栓血管炎(TAO)、通称バージャー病は、重症度により1度から5度の5段階に分類されています。
重症度 | 症状 |
1度 | 患肢皮膚温の低下、しびれ、冷感、皮膚色調変化(蒼白、虚血性紅潮など)を呈する患者であるが、禁煙も含む日常のケア、 又は薬物療法などで社会生活・日常生活に支障のないもの。 |
2度 | 上記の症状と同時に間欠性跛行(主として足底筋群、足部、 下腿筋) を有する患者で、薬物療法などにより、 社会生活・ 日常生活上の障害が許容範囲内にあるもの。 |
3度 | 指趾の色調変化(蒼白、チアノーゼ) と限局性の小潰瘍や壊死又は 3 度以上の間欠性跛行を伴う患者。 通常の保存的療法のみでは、 社会生活に許容範囲を超える支障があり、 外科療法の相対的適応となる。 |
4度 | 指趾の潰瘍形成により疼痛(安静時疼痛)が強く、社会生活・日常生活に著しく支障をきたす。 薬物療法は相対的適応となる。 したがって入院加療を要することもある。 |
5度 | 激しい安静時疼痛とともに、壊死、潰瘍が増悪し、入院加療にて強力な内科的、外科的治療を必要とするもの。(入院加療:点滴、鎮痛、包帯交換、外科的処置など) |
1度は軽度の虚血症状がありますが、日常生活に支障はありません。2度では間歇性跛行が現れ、歩行時に下肢の痛みや疲労感を覚えます。
3度になると安静時でも痛みを感じ、下肢の血流障害が進んでいる状況です。
皮膚の色の変化や潰瘍ができる場合もあります。
※日本では、3度以上が医療費助成の対象となっています。
4度
4度は下肢に壊疽が生じた状態を指します。壊疽が広がると切断が必要になる可能性もあります。
- 足趾の壊疽
- 足部の壊疽
- 下腿の壊疽
5度
5度は最も重い状態で、命の危険に直結します。広い範囲の壊疽や感染を伴い、全身の状態が悪化した状態です。
閉塞性血栓血管炎(TAO)(バージャー病)の主な症状
閉塞性血栓血管炎(TAO)では手足の冷たさ、しびれ、痛みなどが特徴的に現れ、病状が進行すると皮膚の潰瘍や壊死を引き起こす可能性があります。
四肢の虚血症状
TAOは主に手足の動脈に炎症が生じて閉塞するため、四肢の血流量が減少します。
そのため、手足の冷感、しびれ、疼痛といった虚血症状が出現します。
指先や足先が冷たくなったり、蒼白になったりするレイノー現象が特徴的です。
症状 | 詳細 |
冷感 | 手足の末端が冷たく感じる |
しびれ | 手足のしびれや感覚鈍麻 |
疼痛 | 安静時や歩行時の手足の痛み |
重症例では、虚血による疼痛が安静時にも生じるようになり、QOLが著しく低下します。
間欠性跛行
TAOが進行して下肢の動脈狭窄が悪化すると、歩行時に下肢の痛みやこむら返りが生じ、ある程度歩くと休憩が必要になる間欠性跛行が現れます。
これは、歩行時の筋肉への酸素供給が不足するために起こる症状です。
皮膚症状
四肢の虚血が高度になると、皮膚の色調変化や潰瘍、壊疽などの皮膚症状が出現します。
皮膚が蒼白から暗紫色に変色したり、表面がつやを帯びてくすんだ様子を呈すのが特徴です。
さらに進行すると、虚血部位に潰瘍ができ、重症化すれば壊疽に至る可能性があります。
重症度 | 症状 |
軽度 | 皮膚の色調変化(蒼白、暗紫色) |
中等度 | 皮膚潰瘍の形成 |
重度 | 壊疽(組織の死滅・壊死) |
その他の症状
- 手足の脱毛や爪の変形
- 皮膚の菲薄化や脆弱化
- 上肢の症状(レイノー現象、指尖部潰瘍)
閉塞性血栓血管炎(TAO)(バージャー病)の原因
閉塞性血栓血管炎(TAO)が発症する原因は複雑で、喫煙、遺伝的な要因、自己免疫の機序などが絡み合っていると考えられます。
中でも喫煙は最も大きなリスク要因であり、TAOを予防し管理するためには、禁煙が欠かせません。
喫煙とTAOの関係
TAOの患者さんは、ほとんどすべての方がたばこを吸っているという事実があります(約93%に明らかな喫煙歴)。
喫煙によって血管内皮細胞にダメージが蓄積し、血管の炎症や血栓ができやすくなることがTAOの発症につながっていると考えられています。
さらに喫煙は血管を収縮させて血流を悪くするため、TAOの症状をさらに悪化させてしまう要因にもなり得ます。
遺伝的要因の関与
遺伝的な要因もTAOの発症の原因だとする説が有力ですが、詳しい原因はいまだ不明です。
下記のような遺伝子多型を持つ人のTAO発症リスク増加が報告されています。
- HLA-DRB1*1501
- IL-1β-511T
- eNOS 4a/4a
ただし遺伝的な要因だけでTAOが発症するわけではなく、喫煙などの環境要因との複合的な相互作用が原因になっていると考えられています。
自己免疫機序の関与
TAO患者の血液中から血管内皮細胞に対する自己抗体が見つかったという報告がり、自己免疫の関与も指摘されています。
自己抗体 | 陽性率 |
抗血管内皮細胞抗体 | 約50% |
抗コラーゲン抗体 | 約30% |
これらの自己抗体が血管の炎症や血栓形成を引き起こしている可能性がありますが、詳しくはまだ解明されていません。
診察(検査)と診断
閉塞性血栓血管炎(バージャー病)の臨床診断では、特徴的な症状や身体所見、喫煙などのリスク因子の存在を確認します。
診察
病歴聴取でのポイント | 確認すべき内容 |
喫煙歴 | どのくらいの期間と1日何本吸っているか |
自覚症状 | 痛み、冷感、しびれ、歩行時の脚の痛み |
喫煙の期間と1日の本数、手足の痛みや冷たい感じ、皮膚の潰瘍ができていないかなどを確認します。
身体診察では、手足の脈拍が触れるか、皮膚の色の変化や潰瘍ができていないかをチェックします。
非侵襲的検査
検査の種類 | 評価できる項目 |
血管超音波検査 | 動脈の狭窄や閉塞の有無 |
足関節上腕血圧比(ABI) | 下肢動脈の狭窄の程度 |
血管超音波検査は、動脈の狭くなった部分や詰まった部分を見つけるのに役立ちます。
足首と上腕の血圧を測定して比べる検査(ABI)では、下肢動脈の狭窄がどの程度あるかを評価できます。
侵襲的検査
血管造影検査は、動脈の狭窄や閉塞部位を詳しく調べられる確定診断のための検査です。
ただし、体に負担がかかる検査なので、非侵襲的検査だけでは十分な情報が得られないときに行います。
確定診断
次のような所見がある場合、閉塞性血栓血管炎(バージャー病)と確定診断されます。
- 45歳より若い喫煙者である
- 下肢動脈が部分的に詰まっている
- 上肢動脈も狭くなっていたり詰まっていたりする
- 血管の炎症を示す病理検査の結果
閉塞性血栓血管炎(TAO)(バージャー病)の治療法と処方薬、治療期間
閉塞性血栓血管炎(TAO)の治療は、禁煙と血管拡張薬の投与が中心になります。
重症度に応じて、血行改善薬やステロイド薬、抗凝固薬などが処方される可能性もあります。
治療期間は症状によって異なりますが、基本的に生涯続ける必要があります。
禁煙
閉塞性血栓血管炎(TAO)は喫煙が原因と考えられているため、禁煙が大切です。
禁煙により症状の進行を抑制し、再発リスクを下げることが可能です。
血管拡張薬の投与
血管拡張薬は、血管を拡げて血流を改善する薬です。バージャー病の治療では、以下のような血管拡張薬が使われます。
- プロスタグランジンE1製剤(アルプロスタジル)
- 抗血小板薬(シロスタゾール、サルポグレラート)
その他の薬物療法
重症のケースでは、ステロイド薬や抗凝固薬が処方される場合もあります。
薬剤名 | 主な効果 |
アルプロスタジル | 血管拡張、血流改善 |
シロスタゾール | 血小板凝集抑制、血管拡張 |
サルポグレラート | 血小板凝集抑制、血管拡張 |
ステロイド薬 | 炎症抑制 |
抗凝固薬 | 血栓形成抑制 |
ステロイド薬は炎症を抑制し、血管炎の進行を防ぎます。また、抗凝固薬は血栓ができるのを防ぐ効果があります。
治療期間と経過観察
治療は長期間続ける必要があり、症状が落ち着いていても、定期的な経過観察が欠かせません。
治療経過に合わせて、薬の調整や他の治療法の検討が行われます。再発や合併症を防ぐためにも、生涯にわたる定期検査が大切です。
経過観察の間隔 | 主な内容 |
1〜3ヶ月ごと | 症状のチェック、薬剤の調整 |
6ヶ月ごと | 画像検査による血行評価 |
1年ごと | 全身状態の評価、合併症のチェック |
予後と再発可能性および予防
閉塞性血栓血管炎(TAO)は閉塞性動脈硬化症(ASO)とは異なり、心血管疾患や脳血管疾患、大血管病変を合併することは少ないため、生命予後に関しては比較的良好です。
しかし、重症化すると四肢の切断が必要となるケースもあり、働き盛りの成人にとってはQOL(生活の質)を著しく低下させる可能性もあります。
肢趾切断頻度
肢趾切断頻度はASOが全体の12%であったのに対し、TAOは15%との報告があります。
切断部位については、ASOでは大腿切断が18例 (切断 の56%) であるのに対し、TAOでは下腿,足及び指趾切断があわせて77例 (切断 の84%) と多いのが対照的です。
(出典:瀬戸山隆平, et al. 閉塞性動脈硬化症の予後について. 日本老年医学会雑誌, 1978, 15.6: 574-579.)
死亡率
期間 | 症状初発より死亡までの期間 |
---|---|
3年以内 | 0.3% |
5年以内 | 1.2% |
10年以内 | 2.3% |
10年以上 | 7.1% |
予後を左右する早期診断と治療
閉塞性血栓血管炎では早期診断と治療開始により重症化を防ぎ、予後を改善できます。
一方、診断が遅れると、すでに病状が進行している可能性があり治療が難しくなる可能性もあります。
特徴的な症状が見られた際には、速やかに専門医を受診し、検査を受けることが大切です。
予防
- 禁煙
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- ストレス管理
- 適切な体温管理(寒冷暴露の回避)
閉塞性血栓血管炎の最大の原因は喫煙であり、禁煙は治療と再発予防の基本です。
禁煙以外にも、生活習慣の改善が閉塞性血栓血管炎の治療と再発予防に役立ちます。
閉塞性血栓血管炎(TAO)(バージャー病)の治療における副作用やリスク
閉塞性血栓血管炎(バージャー病)の治療には、副作用やリスクも伴います。
薬物療法における副作用
閉塞性血栓血管炎の治療で用いられるお薬には、次のような副作用が報告されています。
薬の種類 | 主な副作用 |
血管を広げる薬 | 頭痛、めまい、顔のほてり |
血小板の凝集を抑える薬 | 出血しやすくなる、胃や腸の不調 |
血液の固まりを防ぐ薬 | 出血しやすくなる、皮下出血 |
外科的治療に伴うリスク
症状が重い場合には、バイパス手術や血管形成術などの外科的治療が検討されますが、これらの治療には次のようなリスクが伴います。
- 感染症
- 出血
- 血栓(血の塊ができる)
- 再発(再び血管が狭くなる)
禁煙補助薬の副作用
禁煙のお薬を使う際には、次のような副作用に気をつける必要があります。
薬の種類 | 主な副作用 |
ニコチンを補う療法 | 口内炎、めまい、動悸 |
バレニクリン | 吐き気、変な夢を見る、気分の変動 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
閉塞性血栓血管炎(バージャー病)の治療は、公的医療保険の対象となります。自己負担額は、一般的に以下のとおりです。
- 70歳未満:3割負担
- 70歳以上75歳未満:2割負担(現役並み所得者は3割)
- 75歳以上:1割負担(現役並み所得者は3割)
治療費の内訳
- 診察費
- 検査費(血液検査、画像検査など)
- 投薬費(血管拡張薬、抗血小板薬など)
- 手術費(バイパス手術、交感神経切除術など)
- リハビリテーション費
これらの費用は、患者さんのご病状や治療の方向性によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
項目 | 費用(円) |
診察費 | 3,000〜5,000 |
検査費 | 10,000〜50,000 |
投薬費 | 5,000〜10,000 |
手術費 | 100万〜500万 |
リハビリテーション費 | 3,000〜5,000 |
費用は目安となりますので、詳しくは担当医や各医療機関へ直接ご確認ください。
指定難病患者への医療費助成制度
バージャー病の重症度分類3度以上が医療費助成の対象となっています(2024年5月時点)。
難病医療費助成について、詳しくは厚生労働省のホームページでご確認ください。
以上
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