不安定狭心症 – 循環器の疾患

不安定狭心症(Unstable angina pectoris)とは、心臓の血管が狭くなり、十分な血液が供給されなくなる病気です。

通常の狭心症と異なり、安静時でも胸の痛みや圧迫感が生じます。症状は突然現れ、徐々に悪化するのが特徴です。

心筋梗塞の前触れとも言われているため、症状に気づいたらすぐに医療機関を受診しましょう。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

不安定狭心症の種類(病型)

不安定狭心症は、症状の重症度や発症状況に基づいて、ブラウンワルド分類という方法で分けられています。

ブラウンワルド分類とは

ブラウンワルド分類は、不安定狭心症の重症度を評価するための国際的に認められた基準です。

分類の構成要素

ブラウンワルド分類は、主に「臨床状況」と「重症度」の2つの要素があります。

臨床状況はA類からC類までの3つに区分します。

臨床状況説明
A類二次性不安定狭心症
B類一次性不安定狭心症
C類心筋梗塞後不安定狭心症

A類の二次性不安定狭心症は、狭心症の症状が他の病気や体調の変化によって起こる場合を指します。

B類の一次性不安定狭心症は、冠動脈そのものの問題が原因となる場合です。

C類の心筋梗塞後不安定狭心症は、心筋梗塞を経験した後に発症する不安定狭心症を表します。

重症度はI、II、IIIの3段階に分けられます。

重症度説明
I労作時に起こる新規の重症狭心症
II安静時に起こる狭心症(過去1か月以内、48時間以上前)
III安静時に起こる狭心症(過去48時間以内)

Iは体を動かしたときに起こる新しい重症の狭心症、IIは過去1か月以内で48時間以上前に安静にしているときに起こった狭心症、IIIは過去48時間以内に安静にしているときに起こった狭心症を指します。

実際の分類使用例

例えば、C類IIIに分類される方は、心筋梗塞後に48時間以内に安静時狭心症を経験した方を指します。この場合、より慎重な対応が必要です。

一方、A類Iに分類される方の場合は、他の病気が原因で新たに体を動かしたときの狭心症を経験した方を指します。原因となる病気の治療も含めた総合的な対応が必要です。

このようにブラウンワルド分類を活用し、状態の把握やそれぞれの状況に合わせた対応を行っていきます。

不安定狭心症の主な症状

不安定狭心症の主な症状は、胸の痛みや圧迫感です。安静時や日常的な活動の中であっても発作が起きる点が特徴となります。

胸の痛みの特徴

通常の狭心症とは異なり、胸の痛みや圧迫感がより頻繁に、予測しにくいタイミングで現れます。

痛みを感じる場所は胸の中心部や左胸で、締め付けられるような、重いものを乗せられたような、あるいは焼けるような感覚などと言われます。

痛みの特徴説明
部位胸の中心部や左胸
性質締め付けられる、重い、焼けるような感覚
持続時間数分~30分以上

症状の出現パターン

  • 安静時でも痛みが起こる
  • これまでより軽い運動でも痛みが起こる
  • 痛みの頻度が増加する
  • 痛みの程度が強くなる
  • ニトログリセリンなどの狭心症の薬が効きにくくなる

関連する症状

胸の痛み以外にも、不安定狭心症では息切れや呼吸困難、冷や汗、めまいや立ちくらみ、吐き気などの症状が現れることがあります。

注意が必要な状況

不安定狭心症は、心筋梗塞へ進展する可能性がある病態です。

統計的には、不安定狭心症患者の約30%が1年以内に心筋梗塞を発症するとされています。

したがって、これらの症状が現れた場合、特に今までに経験したことのない強い胸の痛みがある、痛みが20分以上続く、痛みが繰り返し起こる、安静にしても痛みが治まらないなどの状況では、早急に医療機関を受診することが大切です。

また、不安定狭心症の症状は個人差が大きく、典型的な症状が現れないこともあります。

体調の変化に気をつけ、少しでも気になる症状があれば迷わず医療機関を受診するようにしましょう。

不安定狭心症の原因

不安定狭心症の主な原因は、冠動脈の狭窄や血栓形成による心筋への血流不足であり、動脈硬化や生活習慣病とも関係しています。

冠動脈の異常と不安定狭心症

不安定狭心症は、心臓の筋肉に栄養や酸素を送る冠動脈に問題が生じることで起こります。

冠動脈の内側に脂質やコレステロールが蓄積して動脈硬化が進行すると、血管の内腔が狭くなり、心筋への血流が不足して酸素供給が滞ります。

動脈硬化によって狭くなった血管内では血小板が集まって血栓が形成されることもあり、この血栓が血管をさらに狭めたり、完全に閉塞させたりすることで不安定狭心症を引き起こします。

生活習慣と不安定狭心症

不安定狭心症の発症には、日々の生活習慣が深く関わっています。

喫煙、不適切な食生活、運動不足、過度のストレス、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などが冠動脈の異常や血栓形成のリスクを高める原因となります。

リスク要因影響
喫煙血管内皮の損傷、血栓形成促進
不適切な食生活動脈硬化の進行、肥満
運動不足血行不良、代謝機能低下
過度のストレス血圧上昇、血管収縮

日本人の生活習慣病の現状を見ると、不安定狭心症のリスクが高まっていることがわかります。

厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査」によると、40~74歳の男性の約3人に1人が高血圧症、約5人に1人が糖尿病と診断されており、多くの方が不安定狭心症のリスクを抱えていることになります。

診察(検査)と診断

不安定狭心症の診断では、心電図検査や血液検査などの基本的な検査を行います。

その後、必要に応じて冠動脈造影検査などの精密検査を実施していきます。

基本的な検査

不安定狭心症が疑われる場合の基本的な検査は、心電図検査と血液検査が代表的です。

検査名目的
心電図検査心臓の電気的な活動を調べる
血液検査心筋の損傷を示す物質を調べる

血液検査では心筋トロポニンという物質の値を調べて心筋の状態を評価します。この値が高くなっていると、心筋が傷ついている可能性があります。

精密検査

精密検査では代表的なものに冠動脈造影検査があり、心臓の血管に造影剤を注入し、X線を使って血管の様子を調べます。

冠動脈の狭窄や閉塞の有無を直接確認できるため、確定診断には重要な検査となります。

また、心臓超音波検査や心臓CT検査、心臓MRI検査などを行う場合もあります。

診断の基準

  • 安静時や軽い運動で胸痛が生じる
  • 胸痛の頻度や強さが増加している
  • 心電図で虚血性変化が見られる
  • 血液検査で心筋トロポニン値が軽度上昇している
  • 冠動脈造影検査で有意な狭窄が認められる

不安定狭心症の治療法と処方薬、治療期間

不安定狭心症の治療は、抗血小板薬や抗凝固薬、硝酸薬などの薬物療法を中心に行います。

通常は、1〜2週間の入院管理が必要です。

薬物治療の詳細

不安定狭心症の治療では、抗血小板薬(アスピリンなど)、抗凝固薬(ヘパリンなど)、硝酸薬(ニトログリセリンなど)、β遮断薬、カルシウム拮抗薬などを使います。

血栓形成の抑制や心臓への負担軽減などの効果があり、症状や全身状態を確認しながら薬剤を組み合わせていきます。

即効性があり多くの場合で症状の改善が見られますが、効果や副作用には個人差があるため、経過観察しながら治療を進めていきます。

入院期間と治療の流れ

不安定狭心症と診断された場合、通常1〜2週間の入院管理が必要です。

入院中は、心電図モニタリングによって心臓の状態を常時監視します。

治療・検査項目目的と内容
心電図モニタリング心臓の異常リズムや虚血性変化を24時間体制で監視します。
血液検査心筋逸脱酵素や炎症マーカーの測定により、心筋梗塞の有無や炎症の程度を評価します。
冠動脈造影検査造影剤を用いて冠動脈の狭窄部位や程度を確認します。
薬物療法抗血小板薬、抗凝固薬、硝酸薬などを使用し、症状改善と再発予防を図る

24時間体制で状態を観察し、症状が安定し再発リスクが低下したと判断されれば退院となります。

症状改善が見られない場合や、冠動脈狭窄が重度の場合は、カテーテル治療や冠動脈バイパス手術などの追加治療を検討します。

退院後の継続治療と生活管理

退院後も薬物療法の継続が必要です。医師の指示に従い、処方された薬を正しく服用することが大切です。

また、定期的な通院と検査により、症状の再発がないか確認していきます。

予後と再発可能性および予防

不安定狭心症の予後は早期に治療を受けることで大きく改善しますが、再発のリスクは依然として存在します。

不安定狭心症患者の約20%が5年以内に再発を起こすとされているため、継続的な管理や再発予防が重要となります。

再発予防のポイント

再発を防ぐためには、定期的に通院し検査を受け、処方された薬を確実に服用することが大切です。

また、禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事に気をつけるなど、生活習慣の改善も再発予防に大きな効果があります。

退院後の注意点
  • 禁煙
  • 適度な有酸素運動(医師の指導のもと)
  • バランスの取れた食事(減塩、低脂肪)
  • ストレス管理

不安定狭心症の治療における副作用やリスク

不安定狭心症の治療では、薬物療法は胃腸障害や頭痛などの副作用が、手術に伴うリスクには出血や感染症などがあります。

治療に伴うリスク

抗血小板薬や抗凝固薬を使用すると、出血のリスクが高くなります。特に高齢の方や、他の病気をお持ちの方は注意が必要です。

また、カテーテル検査や治療を行う際には、血管の損傷や感染症のリスクがあります。

薬物療法の副作用

不安定狭心症の治療で使われる薬には、様々な副作用の報告があります。

主な副作用

副作用特徴
胃腸障害吐き気、胸焼け、下痢などの症状が出ます
頭痛薬の影響で頭痛が起こります
めまい血圧が下がることで、めまいを感じます
疲労感薬の影響で体がだるく感じます

副作用は個人差が大きくすべての方に現れるわけではありませんが、気になる症状がある場合は担当医に相談しましょう。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

不安定狭心症の治療では、診察料、検査費用、薬剤費、入院費用(必要な場合)、処置や手術の費用などがかかります。

治療費の目安

治療項目概算費用備考
冠動脈造影検査約15万円冠動脈の状態を調べる
経皮的冠動脈形成術(PCI)約150万円狭窄した冠動脈を広げる治療
入院費用(1日あたり)約3万円個室利用の場合は追加料金が発生

治療費は医療保険の適用となるため、自己負担額は医療費の10~30%となります。

以上

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