心室中隔欠損症(VSD) – 循環器の疾患

心室中隔欠損症(Ventricular septal defect:VSD)とは、心臓の右心室と左心室の間にある心室中隔に穴が開いている状態を指します。

胎児の心臓が発達する過程において、心室中隔が完全に閉じないことが原因で発症します。

欠損孔のサイズや位置によって、無症状の場合から重篤な場合まで幅広い種類があるのが特徴です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

心室中隔欠損症(VSD)の種類(病型)

心室中隔欠損症には欠損孔の位置や大きさによって多様な種類が存在し、それぞれの症状や経過、予後が異なります。

Kirklinの分類

心室中隔欠損症の病型分類として、Kirklinの分類が一般的に用いられています。

この分類では、欠損孔の位置によって以下の4つのタイプに分けられます。

タイプ欠損部位
Ⅰ型漏斗部(Conoventricular defect)
Ⅱ型(最多)膜様部(Membranous defect)
Ⅲ型流入部(Inlet defect)
Ⅳ型筋性部(Muscular defect)

欠損孔の大きさによる分類

心室中隔欠損症は、欠損孔の大きさによっても以下のように分類されます。

  • 小欠損(Small defect)
  • 中欠損(Moderate defect)
  • 大欠損(Large defect)
  • アイゼンメンジャー化(Eisenmenger’s syndrome)

欠損孔が小さい場合は症状は軽微であり、自然閉鎖するものが多く予後は良好です。

反対に、欠損孔が大きい場合は、肺高血圧や心不全などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高くなります。

欠損孔の大きさ症状や経過
小欠損軽微な症状、自然閉鎖の可能性あり
中欠損中等度の症状、治療が必要で予後は様々
無症状の場合は自然閉鎖が期待できる
大欠損重篤な症状、合併症のリスクが高く、乳児期早期に死亡する場合もある
アイゼンメンジャー化非可逆的な肺高血圧、予後不良(平均生存年齢は40歳代)

心室中隔欠損症(VSD)の主な症状

心室中隔欠損症(VSD)の主な症状は、心雑音、呼吸困難、体重増加不良、頻回の呼吸器感染症などがあります。

無症状の場合

欠損孔が小さい場合、症状が現れないケースが多いです。

定期的な経過観察は必要ですが、日常生活に支障をきたすことはほとんどありません。

心雑音

心室中隔欠損症では、特徴的な心雑音が聴取されます。

これは欠損孔を血液が通過する際に発生する雑音で、収縮期雑音と呼ばれるものです。

聴診器を当てると、心臓の左下方で最も強く聞こえる場合が多いです。

呼吸困難や体重増加不良

欠損孔が中等度以上の大きさである場合、乳幼児期から呼吸困難や体重増加不良などの症状が現れます。

哺乳時の呼吸困難、多呼吸、発汗などが見られます。

  • 哺乳時の呼吸困難
  • 多呼吸
  • 発汗
中等度以上の欠損孔
乳幼児期の症状呼吸困難、体重増加不良など
成長・発達遅れの可能性あり

チアノーゼ

欠損孔が大きく、肺高血圧が進行した際には、チアノーゼが出現する可能性があります。

チアノーゼとは皮膚や粘膜が青みを帯びた状態で、重症の兆候です。

唇、爪、皮膚などが青紫色に見える際は、速やかな対応が求められます。

心室中隔欠損症(VSD)の原因

心室中隔欠損症(VSD)の原因は、胎児期の心臓の形成過程における異常であり、染色体異常や遺伝子異常、ウイルス感染、母体の疾患、薬剤の影響などが考えられます。

遺伝的要因の影響

特定の遺伝子の変異や染色体異常が心臓の発生過程に影響を与え、心室中隔欠損症を引き起こす可能性があります。

遺伝子関連する心疾患
TBX5ホルト・オーラム症候群
GATA4心室中隔欠損症(VSD)
NKX2-5心房中隔欠損症(ASD)

ただし、心室中隔欠損症の発症には、遺伝性はほとんどないと言われています。

両親に心室中隔欠損があったとしても、必ず子どもに心室中隔欠損が起きるわけではありません。

妊娠初期のビタミンAサプリメントの摂取は発症の可能性を高める

2011年1月から2014年3月にエコチル調査に参加した妊婦とその子ども、91,664ペアを対象に、子どもの先天性心疾患発症に関する母親のリスク因子を調査した結果が2023年8月に公表されました。

調査の結果では、子どもの先天性心疾患発症に母親の妊娠初期のビタミンAサプリメント摂取、バルプロ酸内服、降圧薬内服、先天性心疾患の既往、母親の年齢、妊娠中期のヘモグロビン血中濃度(貧血の指標)が関連することが明らかにされました。

この調査について、詳しくは下記をご覧ください。

子どもの先天性心疾患発症に関する母親のリスク因子が明らかに 妊娠初期のビタミンAサプリメントの摂取は発症の可能性を高める ~日本の約10万組の親子のエコチル調査より~ | 国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/press/2023/0905.html

多因子疾患としての性質

心室中隔欠損症(VSD)は単一の原因ではなく、遺伝的要因と環境要因の複雑な相互作用によって発症する多因子疾患です。

遺伝的素因を持つ個人が特定の環境要因に曝露されると、心室中隔欠損症(VSD)を発症するリスクが高まると考えられています。

診察(検査)と診断

心室中隔欠損症の診断は、聴診器による心雑音の確認、胸部X線検査、心電図検査などの後、心臓超音波検査(心エコー)で確定診断を行います。

身体診察

VSDでは、左右シャントに伴う収縮期雑音が特徴的です。また、重症例では、チアノーゼや呼吸困難などの症状を認める場合があります。

心電図検査

心電図は心臓の電気的活動を記録し、心室肥大や不整脈の有無を評価します。

VSDでは、左室肥大や右室肥大を認めるケースが多いです。

胸部X線検査

胸部X線は、心拡大や肺うっ血の有無を評価します。重症例では心拡大や肺血管陰影の増強が認められます。

心エコー検査

心エコー検査では以下の所見を評価します。

  • 欠損孔の部位と大きさ
  • 左右シャント量
  • 心室の大きさと機能
  • 肺高血圧の有無

心室中隔欠損症(VSD)の治療法と処方薬、治療期間

心室中隔欠損症(VSD)は自然閉鎖を待つ経過観察、カテーテルによる閉鎖術、外科的手術による閉鎖術があります。

利尿剤や強心剤などの薬物療法を併用する場合もありますが、治療期間はVSDの大きさや症状によって異なります。

治療方針の決定

VSDの治療方針は、欠損孔のサイズや位置、合併症の有無、症状の重症度などを総合的に評価して決定されます。

欠損孔が小さく無症状であれば、定期的な経過観察だけで良いケースもあります。

自然閉鎖するかどうかはVSDの大きさや場所によって異なり、多くの場合は乳児期に閉鎖しますが、数年かかることもあります。

欠損孔が中等度以上あるいは症状があるときは、手術による治療が検討されます。

手術療法

VSDの手術は、人工心肺を使用して心臓を停止させた状態で行われます。 欠損孔を直接縫合閉鎖するか、パッチを用いて閉鎖します。

手術の成功率は高く、合併症のリスクも低いです。

術後管理

手術後は、感染予防のために抗菌薬が投与される場合があります。また、血栓予防のために抗凝固薬や抗血小板薬が処方されることもあります。

薬剤目的
抗菌薬感染予防
抗凝固薬血栓予防
抗血小板薬血栓予防

治療期間

手術後の入院期間は通常1~2週間程度です。その後は定期的な外来通院が必要ですが、多くの場合は正常な生活を送れます。

予後と再発可能性および予防

心室中隔欠損症は、小さなVSDは自然閉鎖しやすく予後は良好ですが、大きなVSDや合併症がある場合は注意が必要です。

再発は稀ですが、手術後の合併症として不整脈や心ブロックが起こる可能性があります。

治療後の予後

心室中隔欠損症の治療後の予後は、全体的に非常に良好です。治療により、多くのケースで健康的な生活を送れるようになります。

再発の可能性

心室中隔欠損症の再発の可能性は非常に低いと考えられています。しかし、まれに再発する可能性もあるため、定期的な検査が必要です。

心室中隔欠損症(VSD)の治療における副作用やリスク

心室中隔欠損症(VSD)の治療における副作用やリスクは、薬物療法では心不全の悪化や不整脈、カテーテル治療では感染症や不整脈があります。

また、外科的手術では出血や感染症、不整脈、心ブロックなどが考えられます。

手術の副作用とリスク

心室中隔欠損症の治療で主に選択される手術は、体への負担が大きい治療法であるため、感染症や出血などの合併症が起こるリスクがあります。

手術後に、不整脈や心機能低下などの心臓に関連する合併症が生じる可能性もあります。

合併症発生率
感染症1-5%
出血1-3%
不整脈5-10%
心機能低下1-5%

カテーテル治療の副作用とリスク

カテーテル治療は、手術と比べると体への負担は少ないですが、血管へのダメージや塞栓症などの合併症が起こる危険性があります。

カテーテル治療後に短絡が残ったり、再発したりする問題が生じる可能性もあります。

合併症発生率
血管損傷1-3%
塞栓症1-2%
残存短絡5-20%
再発1-5%

薬物療法の副作用とリスク

心室中隔欠損症の治療に使われる薬では、以下のような副作用が報告されています。

  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
  • 血液障害(貧血、白血球減少、血小板減少など)
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害
  • アレルギー反応

これらの副作用の現れ方や重症度は、薬の種類や量など個人差によって異なります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

心室中隔欠損症(VSD)の治療費は、治療法(経過観察、薬物療法、カテーテル治療、外科的手術)、医療機関、合併症の有無、公的医療保険制度の適用などによって異なります。

高額療養費制度や小児慢性特定疾病医療費助成制度などの公的支援制度を利用できる場合があります。

経過観察の場合

定期的な診察や検査が必要ですが、治療費は比較的安価です。

検査費と処置費の目安

  • 心エコー検査の費用:10,000円から20,000円程度
  • 心臓カテーテル検査:50,000円から100,000円程度
  • 外科的処置が必要とされる場合の手術料:100万円以上となるケースもあります。

入院費

入院費は、一日あたり5,000円から10,000円程度が一般的な金額です。

項目金額
入院費(1日あたり)5,000円〜10,000円
入院期間1週間〜1ヶ月程度

その他の費用

入院が必要な場合は、食事療養費、差額ベッド代などの費用が別途かかります。

以上

References

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