WPW症候群 – 循環器の疾患

WPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)とは、心臓の通常の伝導路とは別に、余分な電気伝導路が存在する先天性の心疾患です。

この症候群では、心房と心室の間に正常な経路以外の電気的な橋がかかっているため、心臓の拍動リズムが乱れます。

多くの場合無症状ですが、動悸や息切れ、めまいなどの症状が現れるケースもあります。

重篤な不整脈を引き起こす可能性も稀にあるため、専門医による診断と経過観察が重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

WPW症候群の種類(病型)

WPW症候群は、Kent束の位置によって3つの病型に分類されます。

Kent束とは、心臓の心房と心室を直接つなぐ副伝導路の一つです。1893年にイギリスの医師A.A.Kentによって発見されました。

WPW症候群の3つの病型

WPW症候群の病型は、Kent束の位置に基づいてA型、B型、C型の3つに分類されます。

この分類は、心電図所見や電気生理学的検査の結果から判断され、各病型によって特徴的な所見が認められます。

病型Kent束の位置主な心電図所見
A型左側V1誘導でデルタ波陰性、左側胸部誘導でデルタ波陽性
B型右側V1誘導でデルタ波陽性、左側胸部誘導でデルタ波陰性
C型中隔A型・B型と異なる特徴的なデルタ波の形態

A型WPW症候群

A型は、Kent束が心臓の左側に位置する場合に診断されます。

心電図上ではV1誘導でデルタ波が陰性を示し、左側胸部誘導でデルタ波が陽性になるのが特徴です。

また、A型では左室側壁や左側後中隔にKent束が存在します。

B型WPW症候群

B型は、Kent束が心臓の右側に位置する病型です。

B型では、V1誘導でデルタ波が陽性を示し、左側胸部誘導でデルタ波が陰性になる傾向が見られます。

右室自由壁や右側後中隔にKent束が存在することが多いのがB型の特徴です。

C型WPW症候群

C型WPW症候群は、Kent束が心臓の中隔に位置する場合に診断されます。

A型やB型と比較すると稀な病型で、中隔領域にKent束が存在することから、心電図上でのデルタ波の形態が他の型とは異なります。

各病型における主な臨床的特徴

病型主な臨床的特徴
A型左室側壁や左側後中隔にKent束が存在する
B型右室自由壁や右側後中隔にKent束が存在する
C型比較的稀な病型、中隔領域にKent束が存在する

WPW症候群の主な症状

WPW症候群はの主な症状は、動悸や息切れ、めまいなどです。

最も一般的な症状は動悸で、突然心臓がドキドキと速く打ち始め、この状態が数分から数時間続きます。

息切れとめまい

動悸に次いで多い症状が、息切れとめまいです。

心臓の不規則な拍動によって引き起こり、特に運動時や階段の上り下りの際に感じやすく、日常生活に影響を与える場合もあります。

めまいは立ちくらみのような軽度のものから、失神に至るような重度のものまで幅広く現れる可能性があります。

その他の症状

WPW症候群では、上記の主要な症状以外にも様々な症状が現れます。

症状特徴
胸痛圧迫感や締め付けられる感覚
疲労感日常的な活動でも感じる強い疲れ
冷や汗突然の発汗、特に動悸時に顕著
不安感心臓の状態に対する心配や恐怖

症状の変動と注意点

WPW症候群の症状は常に一定ではなく、日によって変動したり、突然出現したりすることがあります。

  • 症状が全くない日もある
  • 突然症状が出現する
  • ストレスや疲労で症状が悪化する
  • 症状の重さは時間帯によって変わる

症状が悪化したり、新たな症状が現れたりした際は、速やかに医療機関を受診してください。

注意すべき状況対応
失神や意識消失即座に救急搬送
持続する胸痛早急に医療機関を受診
頻繁な動悸定期的な医療機関の受診
日常生活への支障症状の記録と医師への相談

WPW症候群の原因

WPW症候群は、心臓の電気伝導系の先天的な異常が原因で発症する不整脈の一種です。

心臓の電気伝導系における異常

WPW症候群の主な原因は、心臓の電気伝導系に存在する副伝導路にあります。

通常、心臓の電気信号は洞結節から心房を経て房室結節に伝わり、そこで一時的に減速したあと心室へと伝導されます。

しかし、WPW症候群では心房と心室の間に本来存在しない異常な伝導路(副伝導路)が形成されているため、電気信号が房室結節を迂回して直接心室に伝わり、心臓のリズムが乱れて不整脈が引き起こされます。

副伝導路の形成過程

副伝導路の形成は、胎児期の心臓発生過程において生じます。

心臓が発生する際、心房と心室は一時的に電気的につながっていますが、通常は発生が進むにつれてこの接続は解消されます。

ところが、WPW症候群では何らかの理由でこの接続が完全に解消されず、副伝導路として残存してしまうのです。

発生段階正常な心臓WPW症候群の心臓
初期心房と心室が接続心房と心室が接続
中期接続が徐々に解消一部の接続が残存
後期接続が完全に解消副伝導路として残存

遺伝的要因の関与

研究により特定の遺伝子変異がWPW症候群のリスクを高めることが示されており、例えばPRKAG2遺伝子の変異は心臓の発生過程に影響を与え、副伝導路の形成を促進する可能性があります。

また、NKX2-5やTBX5といった遺伝子もWPW症候群の発症に関連していることが報告されています。

環境要因と遺伝的要因の相互作用

WPW症候群の発症には、遺伝的要因だけでなく環境要因も関与している可能性があります。

例えば、妊娠中の栄養状態や薬物曝露が遺伝子の発現に影響を与え、心臓の発生過程に変化をもたらす可能性が考えられます。

  • 遺伝子変異(PRKAG2、NKX2-5、TBX5など)
  • 胎児期の心臓発生異常
  • 環境要因(妊娠中の栄養状態、薬物曝露など)
  • 遺伝的素因と環境要因の相互作用
要因影響研究状況
遺伝子変異副伝導路の形成を促進複数の関連遺伝子が特定済み
胎児期の発生異常心房と心室の接続が残存メカニズムの詳細を研究中
環境要因遺伝子発現に影響さらなる研究が必要

WPW症候群の原因解明は、循環器学の分野で進行中の重要な研究課題であり、遺伝子解析技術の進歩により関連遺伝子の同定が進んでいますが、環境要因との相互作用などまだ解明されていない部分も多く存在します。

診察(検査)と診断

WPW症候群の診断には、臨床症状の評価、心電図検査、そして特殊な心臓検査が必要です。

心電図検査

標準的な12誘導心電図に加え、24時間ホルター心電図も有用で、日常生活における不整脈の発生頻度や持続時間を詳細に把握できます。

また、運動負荷心電図検査も実施される場合があります。

心電図検査の種類主な目的
12誘導心電図デルタ波の確認
ホルター心電図24時間の不整脈モニタリング
運動負荷心電図運動時の不整脈誘発

電気生理学的検査の役割

電気生理学的検査(EPS)では、カテーテルを用いて心臓内の電気的活動を直接測定し、副伝導路の正確な位置や特性を特定できます。

EPSの主な目的

  • 副伝導路の存在確認
  • 副伝導路の位置特定
  • 不整脈の誘発性評価
  • 突然死リスクの評価

EPSの結果は、今後の治療方針を決定する上で重要となります。

画像診断

心エコー検査やMRI検査により、心臓の形態や機能を詳細に観察します。

WPW症候群に関連する可能性がある、心臓の構造的異常を除外するために有効です。

画像検査の種類主な評価項目
心エコー検査心臓の形態と機能
心臓MRI検査心筋の詳細な構造

WPW症候群の治療法と処方薬、治療期間

WPW症候群の治療は症状の程度や頻度に応じて選択され、薬物療法やカテーテルアブレーション治療が主な選択肢となります。

治療法メリットデメリット
薬物療法非侵襲的、外来で管理可能長期服用、副作用の可能性
カテーテルアブレーション根治の可能性が高い、薬物療法不要侵襲的処置、合併症リスク

薬物療法による管理

WPW症候群の薬物療法は、症状が軽度から中等度の患者さんに対して行われる方法です。

薬物療法では、ベラパミル、プロパフェノン、フレカイニドなどの抗不整脈薬が使用されます。

抗不整脈薬には異常な電気伝導路を遮断し、発作を予防する働きがあります。

薬剤名主な作用
ベラパミルカルシウムチャネル遮断
プロパフェノンナトリウムチャネル遮断
フレカイニドナトリウムチャネル遮断

カテーテルアブレーション治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、重度の症状がある患者さんには、カテーテルアブレーション治療が検討されます。

この治療法は心臓に細い管(カテーテル)を挿入し、異常な電気伝導路を高周波エネルギーで焼灼する方法で、一回の処置で根治が期待できる利点があります。

治療の流れ

  1. 局所麻酔下で大腿部の血管からカテーテルを挿入
  2. X線透視下で心臓内の異常伝導路を特定
  3. 高周波エネルギーを用いて異常伝導路を焼灼
  4. 処置後の経過観察

処置時間は通常2〜4時間程度で、入院期間は3〜5日程度が一般的です。

予後と再発可能性および予防

WPW症候群の治療後は良好な予後が期待できますが、再発のリスクも存在するため、継続的な管理が必要です。

治療後の予後

WPW症候群に対するカテーテルアブレーション治療は多くの場合で高い成功率を示し、治療直後から症状の改善が見られます。

ただし、個々の症例によって予後が異なる点に留意が必要です。

再発の可能性と要因

カテーテルアブレーション後の再発率は一般的に5〜10%程度とされており、再発のリスク因子としては、副伝導路の位置や数、心臓の構造的特徴などが挙げられます。

再発リスクに影響を与える要因

リスク因子影響
副伝導路の位置特定の位置で再発リスクが上昇
副伝導路の数複数存在する場合、再発率が高くなる
心臓の構造異常合併症がある場合、再発のリスクが増加
患者の年齢若年層でやや再発率が高い傾向

再発予防の取り組み

再発予防には、医療機関での定期的な経過観察と患者様自身による生活管理が重要です。

具体的な予防策として、以下のような取り組みが効果的とされています。

  • 定期的な心電図検査の受診
  • 適度な運動の継続
  • ストレス管理
  • 十分な睡眠の確保
  • アルコールや刺激物の過剰摂取を避ける

長期的な管理について

WPW症候群の治療後は通常の日常生活を送ることができますが、長期的な管理の視点から、定期的な医療機関の受診が推奨されます。

治療後の経過期間に応じた経過観察の目安

経過期間通院の頻度
治療後1年目3〜6ヶ月ごと
治療後2〜5年目6〜12ヶ月ごと
治療後5年以降12〜24ヶ月ごと

WPW症候群の治療における副作用やリスク

WPW症候群の治療には様々な副作用やリスクが伴います。

カテーテルアブレーションや抗不整脈薬による治療が一般的ですが、それぞれに特有の注意点があり、患者さんの状態に応じた十分な経過観察が必要です。

カテーテルアブレーションのリスク

カテーテルアブレーション手術に伴う合併症として、出血や感染のリスクがあり、カテーテル操作による血管や心臓の損傷が起こる可能性もあります。

また、稀ではありますが、心タンポナーデや脳梗塞といった重篤な合併症が生じる場合もあります。

抗不整脈薬による治療のリスク

抗不整脈薬を用いた薬物療法にも、副作用やリスクが伴います。

薬剤クラス主な副作用
Ia群薬消化器症状、めまい
Ic群薬頭痛、めまい、視覚障害
III群薬QT延長、徐脈

薬物療法を行う際は定期的な心電図検査や血液検査によるモニタリングが重要であり、薬剤の効果が不十分な場合や副作用が強く出る場合は、別の治療法への変更を検討する必要があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

WPW症候群の治療費は、症状や選択する治療法によって異なります。

内服薬による治療の場合は数千円~数万円程度ですが、カテーテルアブレーションの場合は高額になる傾向です。

薬物療法の費用

抗不整脈薬を使用する場合、月々の薬剤費は数千円から1万円程度が一般的です。

ただし、長期的な服用が必要となる可能性があるため、総費用は累積していくことになります。

カテーテルアブレーションの費用

カテーテルアブレーションは高度な医療技術を要するため、費用も高くなります。

項目概算費用
手術費50万円〜80万円
入院費10万円〜20万円
術前検査5万円〜10万円

健康保険が適用される場合、患者さんの自己負担額は通常3割です。

その他の関連費用

項目概算の金額
定期的な心電図検査3,000円〜5,000円
血液検査5,000円〜10,000円
心臓超音波検査10,000円〜20,000円
ホルター心電図検査15,000円〜25,000円

検査の頻度は患者さんの状態によって異なりますが、年に複数回必要になる場合もあります。

以上

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