急性肝不全 – 消化器の疾患

急性肝不全とは、それまで健康であった肝臓が突如として機能を喪失し、生命に関わる重篤な状態に陥る深刻な疾患であり、正常な肝機能が急激に低下することで、体内の様々な機能に重大な支障をきたす緊急性の高い病態です。

肝臓は私たちの体内で数多くの重要な役割を担う臓器であり、その機能が突然失われることは生命を直接的に脅かす危険性をはらんでいます。

また、発症から極めて短期間で症状が進行することが特徴的な疾患です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

目次[

急性肝不全の種類(病型)

急性肝不全の病型を、意識障害の有無と進行速度から非昏睡型急性肝不全と昏睡型急性肝不全に分類します。

両者の違いは、JCS(Japan Coma Scale:日本式昏睡尺度)やGCS(Glasgow Coma Scale:グラスゴー昏睡尺度)といった客観的指標によって判定され、各病型に特有の臨床経過を示します。

急性肝不全の基本分類

医学的な定義において、急性肝不全は意識状態の変化と肝機能低下の進行度によって、非昏睡型と昏睡型の2つの病型に区分されます。

この分類は1981年に確立され、40年以上にわたって臨床現場で活用されています。

両病型の判別には、JCSで100点以上、またはGCSで12点以下という明確な基準値が設定されており、医療機関ではこれらの指標を用いて迅速な判断を行います。

病型主な特徴意識障害の基準
非昏睡型意識障害なしJCS 0-3点
昏睡型意識障害ありJCS 100点以上

非昏睡型急性肝不全の特徴

非昏睡型急性肝不全は、発症から8週以内に肝機能の低下を認めるものの、意識障害を伴わない病型として定義されます。

肝機能の指標となるプロトロンビン時間は40%以下まで低下し、血清総ビリルビン値は5.0mg/dL以上の上昇を示します。

この病型では、肝機能の低下が比較的緩やかに進行するため、早期発見により適切な医療介入の機会が得られやすい特徴があります。

検査項目基準値非昏睡型での値
プロトロンビン時間80-100%40%以下
総ビリルビン0.4-1.5mg/dL5.0mg/dL以上

昏睡型急性肝不全の特徴

昏睡型急性肝不全は、発症から8週以内に明確な意識障害を伴う重篤な病態です。

JCSで100点以上、またはGCSで12点以下という明確な基準値によって判定されます。

肝機能の指標となるプロトロンビン時間は値は通常20%以下まで低下し、血清総ビリルビン値は15.0mg/dL以上の著明な上昇を示すことが特徴的です。

  • 意識レベルがJCS100以上に低下
  • プロトロンビン時間が20%以下に低下
  • 血清総ビリルビン値が15.0mg/dL以上に上昇

病型判別の基準

臨床現場における病型判別では、意識状態、肝機能検査値、発症からの経過時間という3つの要素を総合的に評価します。

意識状態の評価にはJCSとGCSという2つの国際的な指標を併用し、より正確な判定を行います。

肝機能検査では、プロトロンビン時間、血清総ビリルビン値、血中アンモニア値などの複数のパラメータを測定します。

評価項目非昏睡型昏睡型
JCS0-3点100点以上
GCS13-15点12点以下
発症経過8週以内8週以内

病型分類の臨床的意義

病型分類は、医療現場における診療方針の決定に大きな影響を与えます。

特に、発症から8週以内という時間的制約の中で、迅速かつ正確な判断が求められます。

非昏睡型では、約75%の症例で早期介入により予後の改善が期待できるとされています。

一方、昏睡型では、集中治療室での厳重な管理が必要となり、医療機関では24時間体制での監視態勢を整えています。

医療機関では、この分類システムを基盤として、各患者の状態に即した医療体制を構築していきます。

急性肝不全の主な症状

急性肝不全は、肝臓機能の急激な低下によって多彩な症状が出現する重篤な病態を指します。

初期から末期にかけて段階的に症状が進行し、その様相は非昏睡型と昏睡型で大きく異なります。

初期症状の特徴と発現時期

初期症状は一般的な体調不良と類似しているため、発症初期の段階で見過ごされることが多いのが現状です。

全身の倦怠感や食欲不振といった非特異的な症状から始まり、発症後24〜72時間以内に黄疸が出現することで、より明確な症状へと進行していきます。

黄疸は血中ビリルビン値が2.0mg/dL以上に上昇することで、皮膚や白目が黄色みを帯びる特徴的な症状として認識されます。

一般的に、初期症状の出現から医療機関の受診までに平均して3〜5日を要することが報告されており、この期間の短縮が診療上の課題となっています。

初期症状発現時期特徴的な数値
倦怠感発症直後体温37.2〜37.8℃
食欲不振12〜24時間以内食事摂取量が通常の30%以下
黄疸24〜72時間以内血中ビリルビン値2.0mg/dL以上
吐き気発症後48時間以内1日3回以上の嘔吐

非昏睡型急性肝不全の症状進行

非昏睡型急性肝不全では、意識障害を伴わない状態で多様な症状が出現します。

腹部の不快感や圧迫感は、肝臓の腫大により右季肋部(みぎきろくぶ:右上腹部)に違和感や鈍痛として自覚されます。

肝臓の腫大は、正常サイズと比較して20〜30%の増大が観察され、触診で確認できるようになります。

皮膚掻痒感の出現頻度は患者の約60〜70%に及び、血中胆汁酸値の上昇(基準値の10倍以上)と関連しています。

尿の色調変化は、尿中ビリルビン値が5mg/dL以上となることで濃褐色を呈します。

  • 腹部の張り感と右季肋部痛(発症後3〜5日目に顕在化)
  • 皮膚掻痒感(血中胆汁酸値が基準値の10倍以上で出現)
  • 尿の色調変化(尿中ビリルビン値5mg/dL以上で濃褐色化)
  • 微熱(37.2〜37.8℃)と寒気
  • 全身性浮腫(体重増加率5〜8%)

昏睡型急性肝不全の症状と進行段階

昏睡型急性肝不全における意識障害は、血中アンモニア値の上昇(正常値の5倍以上)に伴って出現する肝性脳症として特徴づけられます。

意識状態は、日本肝臓学会の肝性脳症昏睡度分類に基づいて評価され、第1度から第4度まで段階的に進行します。

初期の性格変化や不眠から始まり、血中アンモニア値が200μg/dL以上に上昇すると、羽ばたき振戦や言語障害などの神経症状が顕著となります。

意識障害の段階血中アンモニア値主要症状
第1度150〜200μg/dL性格変化、不眠、集中力低下
第2度200〜250μg/dL見当識障害、羽ばたき振戦
第3度250〜300μg/dL傾眠、言語障害、強度の錯乱
第4度300μg/dL以上深昏睡

出血傾向と血液凝固異常の詳細

出血傾向は肝臓における血液凝固因子の産生低下により引き起こされ、プロトロンビン時間(PT)の延長として数値化されます。

一般的に、PTが正常値の30%以下になると、様々な部位での出血症状が出現します。歯磨き時の歯肉出血や皮下出血は、血小板数が5万/μL以下に低下すると顕著となり、重症例では消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な合併症を引き起こします。

特に、血小板数が2万/μL未満の場合は、自然出血のリスクが著しく上昇します。

出血症状出現基準値臨床的意義
皮下出血血小板5万/μL以下早期発見の指標
粘膜出血PT活性30%以下重症度評価に有用
内部出血血小板2万/μL以下緊急対応が必要

循環動態の変化と全身症状

急性肝不全における循環動態の変化は、全身性炎症反応症候群(SIRS)の合併により複雑化します。

血圧低下は収縮期血圧が90mmHg以下となることが多く、心拍数は通常100回/分以上に上昇します。末梢循環不全による手足の冷感は、体表温と深部体温の較差が7℃以上開くことで診断されます。

体内の水分バランスの破綻により、体重の5%以上の浮腫や、腹水貯留(腹囲増加が通常の10%以上)が認められます。

  • 血圧低下(収縮期血圧90mmHg以下)と頻脈(心拍数100回/分以上)
  • 末梢循環不全(体表温と深部体温の較差7℃以上)
  • 浮腫(体重増加率5%以上)
  • 呼吸数増加(20回/分以上)
  • 腹水貯留(腹囲増加率10%以上)
循環動態指標異常値基準臨床的重要性
血圧収縮期90mmHg以下ショックの予測
心拍数100回/分以上循環不全の指標
呼吸数20回/分以上呼吸不全の評価

急性肝不全の症状は個々の患者によって発現パターンや進行速度が異なりますが、いずれの場合も早期発見が重要となります。

症状の進行は、肝臓の予備能力が20%を下回ると急速に加速することが知られており、医療機関での適切な評価と管理が不可欠です。

数値データに基づいた症状の評価は、病態の進行度を客観的に把握する上で重要な指標となります。

急性肝不全の原因

急性肝不全の原因は多岐にわたり、ウイルス性肝炎から薬物性肝障害まで、様々な要因が複雑に関与する病態として知られています。

日本における年間発症数は人口100万人あたり約4〜5例と報告されており、非昏睡型と昏睡型の両病型において、早期発見と原因特定が予後を左右する重要な要素となっています。

ウイルス性肝炎による急性肝不全の実態

ウイルス性肝炎は急性肝不全の主要な原因として、全症例の約30〜40%を占めています。

A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルスなどが代表的な起因ウイルスであり、特にB型肝炎ウイルスによる急性肝不全は、肝細胞の90%以上が破壊される激烈な免疫応答を特徴としています。

B型肝炎ウイルスキャリアにおける急性増悪では、血中HBV-DNA量が1.0×108 IU/mL以上に上昇することで、劇症化のリスクが著しく高まることが判明しています。

ウイルスの種類感染経路急性肝不全への進展率
A型肝炎ウイルス経口感染0.1〜0.3%
B型肝炎ウイルス血液・体液感染1〜2%
E型肝炎ウイルス経口感染0.5〜4%

薬物性肝障害の実態と発生頻度

医薬品や健康食品による肝障害は、急性肝不全全体の約20〜25%を占める大切な原因です。

解熱鎮痛薬の過剰摂取では、血中薬物濃度が150μg/mL以上になると肝障害のリスクが急激に上昇します。

抗生物質による肝障害は投与開始から平均14日前後で発症し、投与患者の約0.1〜0.01%に認められます。

健康食品や漢方薬による肝障害も年々増加傾向にあり、複数薬剤の併用によって肝障害のリスクは最大で2〜3倍に上昇するとされています。

薬物の種類発症までの期間肝障害発生率
解熱鎮痛薬24〜72時間0.01〜0.1%
抗生物質7〜21日0.01〜0.1%
漢方薬30〜90日0.1〜1%

自己免疫性肝炎の急性発症パターン

自己免疫性肝炎が急性肝不全として発症するケースは、全急性肝不全症例の約8〜12%を占めています。

免疫系が自己の肝細胞を攻撃する過程で、血清トランスアミナーゼ値が正常上限の50倍以上(AST/ALT >2000 IU/L)まで上昇し、発症から2週間以内に急激な肝機能低下を引き起こします。

女性の発症率は男性の約6〜7倍高く、特に30〜50歳代での発症が顕著です。

遺伝的要因としてHLA-DR4陽性者が約60%を占め、環境因子との相互作用により発症リスクが決定されます。

自己免疫性肝炎の特徴発症要因頻度・数値
性別による差異女性優位女性:男性 = 6.5:1
遺伝的背景HLA-DR4陽性陽性率約60%
自己抗体価抗核抗体上昇320倍以上が80%

代謝性疾患と中毒性因子による発症機序

代謝性疾患や中毒性因子による急性肝不全は全体の約15〜20%を占めており、アセトアミノフェンの過剰摂取では24時間以内の総摂取量が10g以上になると重篤な肝障害を引き起こします。

アルコールの大量摂取による急性肝不全では、血中アルコール濃度が400mg/dL以上に達すると肝細胞壊死が急激に進行します。

ウィルソン病などの先天性代謝異常では、血清セルロプラスミン値が10mg/dL未満まで低下することで診断が確定します。

  • アセトアミノフェン過剰摂取(24時間総摂取量10g以上)
  • アルコール多量摂取(血中濃度400mg/dL以上)
  • 工業用溶剤暴露(トルエン濃度50ppm以上)
  • 銅代謝異常(血清銅100μg/dL以上)
  • ミトコンドリア機能障害(乳酸値10mmol/L以上)

循環障害による肝不全の発症メカニズム

循環障害による急性肝不全は、全症例の約10〜15%を占めており、心拍出量が正常の50%以下に低下することで発症します。

肝臓への血流が通常の70%以下まで減少すると、肝細胞は急速に壊死に陥ります。

門脈血流が90%以上閉塞された場合、24時間以内に広範な肝細胞壊死が生じ、血清トランスアミナーゼ値は正常上限の100倍以上まで上昇します。

循環障害の種類重症度指標臨界値
心原性ショック心拍出量正常の50%以下
門脈血流障害門脈圧25mmHg以上
肝静脈閉塞肝静脈圧勾配10mmHg以上

急性肝不全の原因は多岐にわたり、それぞれの要因に特徴的な臨床検査値の変動パターンを示します。

原因の早期特定と適切な対応が、予後の改善につながる鍵となります。数値データに基づいた原因究明は、診断精度の向上に寄与しています。

診察(検査)と診断

急性肝不全の診断プロセスには、詳細な問診から高度な画像診断まで、複数の医学的評価が組み込まれています。

非昏睡型と昏睡型の鑑別において、肝機能の低下度を定量的に評価することが重要です。

診断の確実性を高めるため、複数の検査データを組み合わせた総合的な判断が必要となります。

基本的な診察と問診の進め方

問診では、発症から診察までの経過時間と既往歴の確認を徹底的に行い、血液検査結果と併せて非昏睡型急性肝不全・昏睡型急性肝不全の判定に必要なデータを収集します。

身体診察における意識状態の評価では、Japan Coma Scale(JCS)やGlasgow Coma Scale(GCS)を用いて、意識レベルを0(清明)から300(深昏睡)まで15段階で評価します。

肝性脳症の早期発見には、Number Connection Test(NCT)を実施し、健常者の平均所要時間30秒に対して45秒以上かかる場合を異常とします。

診察項目評価指標異常判定基準
意識状態JCS/GCSJCS 1桁以上
神経学的所見NCT45秒以上
羽ばたき振戦持続時間30秒以上

血液検査による生化学的評価

血液検査では、肝機能の指標となるAST(GOT)とALT(GPT)の測定を最優先で実施し、通常の基準値(AST 13-30 IU/L、ALT 7-23 IU/L)から著しい逸脱がないかを確認します。

プロトロンビン時間は、40%以下になると重症と判定されます。血中アンモニア値は、正常値(30-80 μg/dL)を大きく超えて200 μg/dL以上になると、重度の肝性脳症を示唆します。

血小板数が5万/μL未満まで低下すると、出血リスクが著しく上昇するため、厳重な観察が必要となります。

検査項目正常値範囲重症判定基準
AST/ALT30/23 IU/L以下1000 IU/L以上
PT活性値70-130%40%以下
アンモニア30-80 μg/dL200 μg/dL以上

画像診断の実施手順と評価基準

画像診断では、まず腹部超音波検査で肝臓のサイズと実質エコーパターンを評価します。

正常肝の前後径が通常10cm前後であるのに対し、急性肝不全では12cm以上に腫大、もしくは8cm以下に萎縮します。

CT検査では肝容積を定量的に評価し、標準肝容積(体重×21.4+404.3ml)との比較により萎縮度を判定します。

MRI検査ではT1強調像での信号低下とT2強調像での信号上昇が特徴的であり、拡散強調像でのADC値が1.0×10^-3 mm2/s以下になると予後不良とされます。

画像検査評価項目異常判定基準
超音波肝臓サイズ前後径12cm以上/8cm以下
CT肝容積標準容積の70%以下
MRIADC値1.0×10^-3 mm2/s以下

肝生検による組織学的評価

肝生検は、凝固能が保たれている場合(PT活性値30%以上、血小板数5万/μL以上)にのみ実施します。

16-18ゲージの生検針を用いて、長さ15-20mmの組織片を採取し、肝細胞壊死の程度を評価します。

広範性壊死が全体の60%以上を占める場合、予後不良因子として判定されます。

生検部位からの出血リスクを考慮し、超音波ガイド下で実施することが標準となっています。

  • 凝固能パラメーター(PT活性値30%以上)の確認
  • 血小板数(5万/μL以上)の確保
  • 壊死範囲の定量評価(60%以上で重症)
  • 炎症細胞浸潤度の評価
  • 線維化進展度の判定

脳症の段階的評価システム

脳症の評価では、意識レベルをWest-Haven基準に基づいて5段階(Grade 0-4)で判定します。

Grade 1(軽度の意識障害)からGrade 4(昏睡)まで、客観的な指標を用いて評価を行います。

脳波検査では、基礎波活動の徐波化(δ波優位)を定量的に評価し、周波数解析で3Hz以下の徐波が優位となる場合を重症と判定します。

脳症グレード意識レベル脳波所見
Grade 1軽度混乱8-12Hz優位
Grade 2傾眠傾向5-7Hz優位
Grade 3昏迷3-5Hz優位
Grade 4昏睡3Hz以下

急性肝不全の診断精度は、これらの検査データを総合的に判断することで向上します。

数値基準に基づいた客観的評価により、病態の進行度を正確に把握することが可能となります。

診断基準値の継続的なモニタリングは、予後予測の精度向上に寄与します。

急性肝不全の治療法と処方薬、治療期間

急性肝不全の治療では、内科的治療と外科的治療を組み合わせた包括的な医療介入を実施します。

非昏睡型と昏睡型の両病型において、肝機能の回復を目指した集中治療を行い、各種治療法の有効性は客観的な数値指標で評価します。

内科的治療の基本方針と投薬プロトコル

内科的治療では、肝臓の再生促進と全身状態の安定化を同時に図ります。

抗凝固療法としてヘパリン(初回投与量5,000単位、維持量10,000~15,000単位/日)を投与し、アンチトロンビンIII活性を70%以上に維持します。

肝細胞保護薬の投与により、血清トランスアミナーゼ値を正常上限の2倍以下まで低下させることを目標とします。

高アンモニア血症に対しては、分岐鎖アミノ酸製剤(体重あたり0.5~1.0g/日)を投与し、血中アンモニア値を150μg/dL未満に制御します。

治療薬剤投与量目標値
ヘパリン10,000-15,000単位/日APTT 1.5-2.0倍
アンチトロンビンIII1,500-3,000単位/日活性70%以上
分岐鎖アミノ酸0.5-1.0g/kg/日アンモニア150μg/dL未満

人工肝補助療法の実施基準と効果判定

人工肝補助療法は、血液浄化による代替療法として実施します。血漿交換療法では新鮮凍結血漿40-50mL/kgを1回の治療量とし、開始時は連日、その後は隔日で実施します。

血液濾過透析は24時間持続的に行い、濾過量は20-25mL/kg/時を確保します。

体内に蓄積した有害物質の除去効率は、血中ビリルビン値の低下率(1回の治療で25-30%の低下を目標)で評価します。

治療法実施量施行頻度
血漿交換40-50mL/kg/回連日→隔日
血液濾過透析20-25mL/kg/時24時間持続
直接血液灌流3-4時間/回1日1-2回

肝移植の適応判断と移植後管理

肝移植の実施判断には、厳密な基準値が設定されています。

プロトロンビン時間が正常の10%以下、総ビリルビン値が20mg/dL以上、血中アンモニア値が200μg/dL以上の状態が3日以上継続する場合、移植適応として検討します。

生体肝移植では、ドナーの肝臓容積が recipient体重あたり0.8%以上必要となり、手術時間は平均8-12時間を要します。

術後の免疫抑制療法では、タクロリムスの血中トラフ濃度を10-15ng/mLに維持します。

移植適応基準判定値観察期間
PT活性値10%以下3日以上
総ビリルビン20mg/dL以上3日以上
肝容積比0.8%以上術前評価

全身管理の具体的指標と目標値

全身管理における循環動態の安定化では、平均血圧65mmHg以上、中心静脈圧8-12mmHg、尿量0.5mL/kg/時以上を維持します。

栄養管理では、エネルギー投与量を基礎代謝量の1.2-1.3倍(25-35kcal/kg/日)、タンパク質投与量を1.0-1.2g/kg/日に設定します。

感染予防として、血中プロカルシトニン値0.5ng/mL以上で抗生剤投与を開始します。

  • 循環動態指標(平均血圧65mmHg以上維持)
  • 呼吸管理目標(SpO2 95%以上)
  • 栄養投与量(25-35kcal/kg/日)
  • 血糖管理(140-180mg/dL)
  • 体温管理(36-37℃)

治療期間と経過観察の具体的スケジュール

治療期間は重症度によって異なりますが、集中治療室での治療期間は一般的に14-28日間を要します。

この間、血液検査を1日2-3回実施し、肝機能の回復を継続的に評価します。退院後は、最初の1か月は週1回、その後3か月は2週間に1回、6か月以降は月1回の外来診察を実施します。

肝機能検査値が基準値の1.5倍以下に安定するまで、平均6-12か月の経過観察を継続します。

経過観察期間検査頻度目標値
初回1か月週1回AST/ALT 100IU/L以下
1-3か月2週に1回T-Bil 2.0mg/dL以下
3-6か月月1回PT活性70%以上

急性肝不全の治療では、数値目標を明確に設定し、客観的な評価に基づいて治療方針を決定します。

治療効果の判定には、複数の検査データを総合的に分析し、個々の患者の回復度合いに応じた治療期間の調整を行うことが必要となります。

急性肝不全の治療における副作用やリスク

急性肝不全の治療には多岐にわたる医療介入が必要であり、それぞれの治療法に特有の副作用やリスクが伴います。

非昏睡型と昏睡型の両病型において、これらの副作用の発生率は統計的に把握されており、早期発見と対応が予後を左右する重要な要素となります。

薬物療法における副作用とその発生頻度

薬物療法では、複数の薬剤を併用することによる副作用の管理が課題となります。

抗凝固薬であるヘパリンの投与では、約15-20%の患者で出血傾向が増悪し、血小板数が5万/μL以下に低下すると重篤な出血合併症のリスクが10倍以上に上昇します。

高用量の抗生物質投与では、約25-30%の患者で腎機能障害(血清クレアチニン値が基準値の1.5倍以上)が出現し、免疫抑制薬の使用により日和見感染症の発症リスクは通常の3-5倍に増加します。

薬剤群主な副作用発生頻度
抗凝固薬出血傾向15-20%
抗生物質腎機能障害25-30%
免疫抑制薬日和見感染30-40%

人工肝補助療法実施中のリスク管理

人工肝補助療法の実施中は、血圧低下や不整脈などの循環動態の変化が高頻度に出現します。

血漿交換療法では、約5-10%の症例でアレルギー反応が発生し、血圧が20%以上低下する循環不全は全体の15-20%に認められます。

血液濾過透析による電解質異常は約30%の症例で発生し、特にカリウム値が3.0mEq/L未満の低カリウム血症は重篤な不整脈を引き起こす要因となります。

合併症発生率重症度判定基準
血圧低下15-20%収縮期血圧20%以上低下
アレルギー反応5-10%グレード2以上
電解質異常約30%基準値の30%以上の逸脱

肝移植に関連する合併症の発生状況

肝移植における合併症は、術中・術後早期・術後晩期に分けて評価されます。

術中の主要な合併症である出血は約30-40%の症例で発生し、出血量が体重の10%を超えると予後不良因子となります。

術後早期の拒絶反応は20-25%の症例で認められ、その半数は血中タクロリムス濃度が4ng/mL以下の症例です。

感染症は術後1か月以内に40-50%の症例で発生し、サイトメガロウイルス感染が最多(15-20%)を占めます。

  • 術中出血(推定出血量が予測血液量の30%以上):30-40%
  • 血管吻合部合併症(血栓形成、狭窄):8-12%
  • 胆管合併症(胆汁漏出、狭窄):15-20%
  • 急性拒絶反応:20-25%
  • 日和見感染症:40-50%

全身管理における問題点と発生頻度

全身管理における合併症は、長期臥床による影響が顕著です。

人工呼吸器関連肺炎は7日以上の人工呼吸管理症例の25-30%で発生し、カテーテル関連血流感染症は中心静脈カテーテル留置14日以降に10-15%の頻度で認められます。

栄養管理における代謝異常は全体の35-40%に出現し、特に血糖値が200mg/dL以上の高血糖は感染リスクを2-3倍に増加させます。

管理項目合併症発生率
呼吸管理人工呼吸器関連肺炎25-30%
カテーテル管理血流感染症10-15%
栄養管理代謝異常35-40%

長期予後に影響を与える合併症

長期的な経過観察において、免疫抑制療法に関連する合併症は累積的に増加します。

悪性腫瘍の発生リスクは移植後10年で8-10%に達し、骨粗鬆症の発生率は5年で約30%に上ります。腎機能障害は移植後5年で約25%の患者に認められ、そのうち約5%は透析導入を必要とします。

心血管系合併症は10年以内に15-20%の患者で発生し、高血圧症は最も頻度が高く(40-50%)、次いで糖尿病(20-25%)となります。

長期合併症5年発生率10年発生率
悪性腫瘍3-5%8-10%
骨粗鬆症約30%40-45%
腎機能障害約25%35-40%

各種治療に伴う副作用やリスクは、発生時期や頻度に一定のパターンがみられます。

これらの数値データを参考に、早期発見と予防的介入を行うことで、合併症の重症化を防ぐことが求められます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

急性肝不全の治療は、高度な医療介入を必要とすることから、相応の医療費が発生します。

疾患の進行度や合併症の有無によって費用は大きく変動し、特に集中治療室での管理を要する場合は、高額な医療費を見込む必要があります。

処方薬の薬価と薬剤費

各種治療薬の薬価は、使用する薬剤の種類と投与量によって大きく異なります。

肝機能改善薬(肝細胞の保護や再生を促進する薬剤)の薬価は1日あたり2,000円から5,000円の範囲です。

一方、免疫抑制剤(肝移植後の拒絶反応を防ぐ薬剤)は1日あたり8,000円から15,000円と高額な薬価設定となっており、これらを組み合わせて使用することで、月額の薬剤費総額は30万円を超えることもあります。

薬剤種類1日あたりの薬価月額概算
肝機能改善薬2,000-5,000円6-15万円
免疫抑制剤8,000-15,000円24-45万円

1週間の治療費

集中治療室での管理では、1日あたりの基本入院料が7万円から10万円となり、これに検査費用(3-5万円/日)や処置料(5-8万円/日)、薬剤費(2-5万円/日)が加算されます。

人工肝補助療法などの特殊治療を実施する場合、1日の総額は20万円を超える場合もあり、週単位では100万円規模の医療費となります。

  • 基本入院料:7-10万円/日(集中治療室管理加算を含む)
  • 検査費用:3-5万円/日(血液検査、画像診断等)
  • 処置料:5-8万円/日(人工肝補助療法等)
  • 薬剤費:2-5万円/日(各種治療薬)

1か月の治療費

症状の安定に伴い一般病棟での治療に移行した場合でも、前半2週間は200-250万円、後半2週間は50-150万円程度の費用が発生し、1か月の総額としては250万円から400万円程度を想定する必要があります。

これらの費用は、個々の患者の状態や必要な医療介入の内容によって変動します。

期間概算費用主な費用内訳
前半2週間200-250万円集中治療関連
後半2週間50-150万円一般病棟管理

以上

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