大腸憩室出血 – 消化器の疾患

大腸憩室出血(Colonic diverticular hemorrhage)とは、大腸の内壁が外側に向かって袋状に膨らんでできた憩室から出血する症状です。

加齢や食生活の欧米化に伴い、近年日本でも患者数が増加傾向にあり、特に50歳以上の方々に多く見られます。

突然の下血や腹痛を伴い、命に関わる重篤な状態に発展する可能性もあるため、早期発見と医療機関への受診が重要となります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

大腸憩室出血の主な症状

大腸憩室出血の症状は、血便や腹痛などの典型的なものから、より稀な症状まで幅広いです。

血便

大腸憩室出血の最も顕著な症状は血便です。鮮血から暗赤色まで多岐にわたり、出血量は個人差が大きく、少量のものから大量出血まで様々です。

大腸憩室出血患者の約70%が100ml以上の出血を経験し、そのうち約30%が500ml以上の大量出血を呈することが報告されています。このような大量出血は緊急処置を要する場合があるため、速やかな医療機関への受診が必要です。

鮮紅色の血液は、下部消化管からの出血を示唆する場合が多いです。一方、暗赤色や黒色の血便は、上部消化管からの出血が疑われます。

血便の特徴可能性のある意味頻度
鮮红色下部消化管からの出血約60%
暗赤色・黒色上部消化管からの出血約30%
大量(500ml以上)重度の出血約30%
少量(100ml未満)軽度の出血約30%

血便は単発的に起こる場合もありますが、繰り返し発生する場合は、より深刻な状態を示している可能性があります。大腸憩室出血患者の約40%が再出血を経験し、そのうち約15%が3回以上の再出血を経験すると言われています。

また、血便に伴う他の症状、例えば腹痛や発熱なども、医師に伝えるべき大切な情報です。これらの随伴症状は、出血の原因や重症度を判断する上で重要な手がかりとなります。

血便を認めた場合、色、量、頻度、そして同時に生じた他の症状などを記録しておくと、医師の診断に役立つ情報となります。

血便を認めた場合は、速やかに医療機関を受診することが必要です。特に、高齢者や基礎疾患をお持ちの方は軽度の出血でも重症化する可能性があるため、より慎重な対応が求められます。

腹痛

大腸憩室出血において、腹痛は血便に次いで頻繁に見られる症状です。大腸憩室出血患者の約60-75%が何らかの腹痛を経験することが報告されています。

大腸憩室出血による腹痛は、通常、鈍痛や刺すような痛みとして感じられ、特に左下腹部(S状結腸部)に好発します。これは、大腸憩室が最も形成されやすい部位と関連しています。

腹痛の特徴発現頻度臨床的意義
左下腹部痛約45%S状結腸憩室の存在を示唆
右下腹部痛約25%上行結腸憩室の存在を示唆
びまん性腹痛約30%広範囲の憩室の存在を示唆

痛みのパターンは、持続的なものから間欠的なものまで様々です。研究によると、約40%が持続的な痛みを、約60%が間欠的な痛みを報告しています。

また、食事摂取や排便との関連性を示す場合もあり、これらの情報は診断の重要な手がかりとなります。

全身症状

  • めまい(約60%の患者さまが経験)
  • 立ちくらみ(約50%)
  • 冷や汗(約45%)
  • 著明な疲労感(約70%)
  • 脱力感(約65%)
  • 食欲不振(約55%)
全身症状発現頻度臨床的重要度
めまい・立ちくらみ60-70%循環動態の変化を示唆
疲労・脱力65-75%貧血の進行を示唆
食欲不振55-65%全身状態の悪化を示唆

これらの症状は、出血による貧血や循環血液量減少の結果として現れます。特に高齢者では、比較的軽度の出血でも顕著な全身症状が出現する場合があり、注意が必要です。

医学研究によると、全身症状の重症度は出血量と相関関係にあり、500ml以上の出血では、ほぼ全ての患者さまが何らかの全身症状を呈することが報告されています。

大腸憩室出血の原因

大腸憩室出血の原因は、近年の研究により、生活習慣病との関連性や遺伝的背景など、新たな発見が相次いでいます。

大腸憩室形成のメカニズム

大腸憩室の形成過程は、複数の生理学的要因が絡み合う複雑なメカニズムによって引き起こされます。特に注目すべきは、腸管内圧の上昇が大腸壁に及ぼす影響です。慢性的な便秘患者の約40%が大腸憩室を有しており、腸管内圧の上昇と憩室形成には強い相関関係が認められています。

大腸壁の構造変化については、加齢に伴うコラーゲン線維の質的変化が重要な役割を果たします。65歳以上の高齢者では、大腸壁のエラスチン含有量が若年者と比較して約30%減少することが報告されており、この変化が憩室形成の素地となります。

年齢層大腸憩室保有率エラスチン含有量減少率
40歳未満10%以下基準値
40-64歳約30%15-20%
65歳以上約50%25-35%

遺伝的要因に関する最新の研究では、LAMB4遺伝子やCOL3A1遺伝子の変異が大腸憩室症のリスクを約2.5倍高めることが判明しています。これらの遺伝子は結合組織の形成に関与しており、その変異は大腸壁の脆弱性を増加させます。

大腸憩室出血の直接的原因

大腸憩室出血の発症メカニズムは、近年の内視鏡技術の進歩により、より詳細に解明されつつあります。特に重要なのは、憩室壁における血管構造の特徴的な変化です。通常の大腸壁と比較して、憩室壁では血管の走行が不規則となり、血管壁の肥厚や脆弱化が顕著に認められます。

微小循環障害については、最新の血流動態研究により、憩室内部での血流速度が正常部位と比較して約40%低下していることが判明しています。この血流低下は、局所的な低酸素状態を引き起こし、血管内皮細胞の障害を促進します。

血管状態の比較正常部位憩室部位
血流速度100%約60%
血管壁厚基準値1.5-2倍
内皮細胞障害minimal顕著

物理的刺激による出血のメカニズムについては、便塊の硬度と憩室出血の関連性が指摘されています。便秘患者の糞便硬度スコア(Bristol Stool Scale)が1-2の場合、憩室出血のリスクが約3倍上昇するというデータが報告されています。

生活習慣と食事の影響

最新の疫学研究により、食事と生活習慣が大腸憩室出血に及ぼす影響が明確になってきています。特に注目すべきは、食物繊維摂取量と憩室出血リスクの逆相関関係です。

1日あたりの食物繊維摂取量が25g未満の場合、25g以上摂取している群と比較して憩室出血のリスクが約2.5倍上昇します。

運動習慣については、週150分以上の中等度の有酸素運動を行う群では、運動習慣のない群と比較して憩室出血のリスクが約40%低下することが報告されています。これは腸管の血流改善と腸管運動の活性化によるものと考えられています。

生活習慣要因リスク低減効果推奨される目標値
食物繊維摂取60%25g/日以上
運動習慣40%150分/週以上
水分摂取30%2L/日以上

喫煙とアルコール摂取に関する最新の研究では、20年以上の喫煙歴を持つ患者群では、非喫煙者と比較して憩室出血のリスクが約1.8倍上昇することが判明しています。また、1日あたりのアルコール摂取量が純アルコール換算で60g以上の場合、憩室出血のリスクが約2.2倍上昇します。

加齢と遺伝的要因の影響

加齢による大腸憩室出血リスクの上昇については、大規模コホート研究により詳細なデータが蓄積されています。

70歳以上の高齢者では、50歳未満と比較して憩室出血の発症率が約4.5倍高くなることが報告されており、加齢に伴う血管壁のコラーゲン構造の変化や、血管弾性の低下が主な要因とされています。

年齢層相対リスク年間発症率(/10万人)
50歳未満1.0(基準)15-20
50-69歳2.842-56
70歳以上4.568-90

遺伝的要因については、最新のゲノムワイド関連解析(GWAS)により、複数の関連遺伝子が同定されています。特にCOL3A1遺伝子の特定のバリアントを持つ個人では、憩室出血のリスクが約3.2倍上昇することが明らかになっています。

また、家族歴の影響も無視できません。第一度近親者に大腸憩室症がある場合、憩室出血のリスクが約2.5倍上昇するというデータが報告されています。これは、結合組織の特性や腸管壁の構造に関与する遺伝子が世代間で受け継がれることを示唆しています。

薬剤と外的要因の関与

薬剤による憩室出血リスクについては、特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の影響が顕著です。長期的なNSAIDs使用者では、非使用者と比較して憩室出血のリスクが約3.4倍上昇します。また、低用量アスピリンの継続使用でも、リスクが約1.9倍上昇することが報告されています。

抗凝固薬については、ワルファリン使用者での憩室出血リスクが非使用者の約2.8倍、直接経口抗凝固薬(DOAC)使用者では約2.2倍となることが、最新の多施設共同研究で明らかになっています。

薬剤種別出血リスク上昇率相対リスク
NSAIDs240%3.4
低用量アスピリン90%1.9
ワルファリン180%2.8
DOAC120%2.2

外的要因としては、気圧変動の影響も注目されています。気圧が24時間以内に15hPa以上変動する場合、憩室出血のリスクが約1.6倍上昇するというデータが報告されています。

また、精神的ストレスと憩室出血の関連性も指摘されており、慢性的なストレス状態にある患者では、腸管の微小循環が障害され、出血リスクが約1.7倍上昇することが明らかになっています。

大腸憩室出血の原因は、これらの要因が複雑に絡み合って発症に至ります。個々の患者の状況に応じた適切なリスク評価と管理が求められます。

診察(検査)と診断

大腸憩室出血の診断では、内視鏡検査を主軸とした画像診断と血液検査を組み合わせた総合的な評価を行います。

初診時の診察と問診のポイント

初診時の診察において、全身状態を詳細に評価するため、血圧や脈拍などのバイタルサインの測定から開始します。特に、収縮期血圧が90mmHg未満の場合やショック指数(脈拍数÷収縮期血圧)が1以上の場合は、重症度の高い出血を示唆する重要な指標となります。

腹部の視診・触診では、腹部の膨満感や圧痛の有無、腸蠕動音の聴取など、系統的な身体診察を実施します。

問診では、出血の性状(鮮血か暗赤色か)、出血量(ティッシュ何枚分か具体的に)、既往歴(特に消化器疾患や手術歴)について詳しく確認を行います。

重症度評価項目軽症中等症重症
収縮期血圧120mmHg以上90-120mmHg90mmHg未満
脈拍数100回/分未満100-120回/分120回/分以上
ショック指数0.7未満0.7-1.01.0以上

血液検査による全身状態の評価

血液検査では、まず貧血の程度を評価するためのヘモグロビン値(基準値:男性13.0-16.6g/dL、女性11.6-14.8g/dL)を測定します。急性出血の場合、実際のヘモグロビン値は6-8時間後に低下することを考慮に入れる必要があります。

凝固機能検査では、PT-INR(基準値:0.85-1.15)やAPTT(基準値:25-40秒)を測定し、出血傾向の有無を評価します。特に抗凝固薬服用中の患者さんでは、これらの値が延長している場合が多く、慎重な評価が求められます。

検査項目基準値臨床的意義
ヘモグロビン男性13.0-16.6g/dL
女性11.6-14.8g/dL
貧血の評価
PT-INR0.85-1.15凝固能の評価
APTT25-40秒凝固能の評価

画像診断による出血部位の特定

造影CT検査は、造影剤の血管外漏出像(extravasation)を確認することで、活動性出血の有無や出血部位を同定します。造影CTの感度は85%、特異度は96%と高く、緊急時の第一選択となる検査です。

大腸内視鏡検査では、直接的な観察により出血部位を特定し、同時に止血処置も可能です。内視鏡検査の診断率は約60%であり、活動性出血を認めた場合の止血成功率は90%以上となっています。

画像検査感度特異度所要時間
造影CT85%96%15-20分
大腸内視鏡60%100%30-60分
血管造影70%100%45-60分

内視鏡検査の実施手順と詳細な観察ポイント

内視鏡検査の前処置は、腸管洗浄液(ニフレック、モビプレップなど)を用いて行います。検査前日の夕方から当日の朝にかけて、2-3リットルの洗浄液を服用し、腸管を完全に洗浄します。

検査時には、患者さんの苦痛を最小限に抑えるため、必要に応じて鎮静剤(ミダゾラムやプロポフォール)を使用します。内視鏡挿入時は、S状結腸から盲腸まで慎重に観察し、憩室の存在や出血源を詳細に確認します。

観察のポイント

  • 憩室の数と大きさの評価
  • 出血部位の特定
  • 活動性出血の有無
  • 血管性病変の確認
  • 憩室周囲の炎症所見

確定診断のための総合的評価基準

確定診断には、複数の検査結果を総合的に評価する必要があります。診断基準には、以下のような要素を考慮します。

  1. 臨床症状の詳細な分析
  2. 血液検査結果の包括的評価
  3. 画像診断所見の統合
  4. 内視鏡検査結果の詳細な解析
診断評価項目評価基準診断的意義
出血量軽度:<500mL
中等度:500-1000mL
重度:>1000mL
重症度判定
血行動態安定:収縮期血圧>90mmHg
不安定:収縮期血圧<90mmHg
ショック評価
内視鏡所見Forrest分類出血リスク評価

大腸憩室出血の治療法と処方薬、治療期間

大腸憩室出血は、早期発見と段階的な治療により、良好な治療成績が得られる疾患です。治療の選択肢として、保存的治療、内視鏡的治療、手術療法があり、症例に応じて使い分けます。

保存的治療の概要と適応

保存的治療は、大腸憩室出血の第一選択として推奨される治療法です。日本消化器病学会のガイドラインによると、80%以上の症例で自然止血が得られると報告されています。

絶食管理下での輸液療法を基本とし、バイタルサインの安定化と全身状態の改善を図ります。

具体的な治療内容として、入院後直ちに末梢静脈路を確保し、細胞外液を1日2000-3000ml投与します。血圧が90/60mmHg以下の場合や、ヘモグロビン値が8g/dL未満の場合には、輸血療法を考慮します。

保存的治療における輸液・輸血の基準

臨床指標治療対応投与量の目安
血圧>90/60mmHg細胞外液2000-3000ml/日
血圧≤90/60mmHg輸血考慮適宜
Hb>8g/dL経過観察
Hb≤8g/dL輸血検討2単位から開始

絶食期間は通常48-72時間とし、その後の食事再開は、まず水分摂取から開始し、清流食、三分粥と段階的に進めていきます。

この際、急激な腸管蠕動の亢進を避けるため、1日ごとに食事形態をステップアップしていくことが推奨されています。

保存的治療中は、以下の項目を定期的にモニタリングします。

  • 血圧、脈拍、体温などのバイタルサイン(4-6時間ごと)
  • 血液検査(1日1-2回)
  • 便性状の観察(毎回)
  • 腹部症状の変化(随時)

保存的治療で止血が得られた患者の約15-20%に再出血がみられるため、止血後も最低5日間は入院観察が必要とされています。

内視鏡的治療の方法と効果

内視鏡的治療は、保存的治療で止血が得られない場合や、24時間以内に3単位以上の輸血を要する場合に考慮されます。日本消化器内視鏡学会の集計によると、内視鏡的止血術の成功率は初回治療で85%以上に達します。

クリップ法による止血術は、現在最も広く用いられている手技です。出血点を確実に把持できる利点があり、技術的な標準化も進んでいます。クリップの選択には、通常、回転クリップ(HX-610-090L)や、長期留置型クリップ(Resolution Clip)などが用いられ、症例に応じて使い分けます。

主な内視鏡的止血法の特徴と成功率

止血法即時止血率再出血率合併症率
クリップ法90-95%10-15%1-2%
局注法85-90%15-20%2-3%
熱凝固法80-85%20-25%3-4%

局注法では、エピネフリン生理食塩水(1:10,000希釈)を用い、出血点の周囲4か所に0.5-1.0mlずつ注入します。この方法は、視野確保が困難な場合でも施行可能という利点があります。

熱凝固法においては、軟性凝固モード(Effect 3、40W)を用いることで、組織損傷を最小限に抑えながら効果的な止血が得られます。特に、oozing(にじみ出る)タイプの出血に対して有効です。

手術療法の適応と手技

手術療法は、他の治療法で止血が得られない場合や、48時間以内に6単位以上の輸血を要する重症例に対して実施されます。日本消化器外科学会のデータベースによると、大腸憩室出血に対する手術症例の5年生存率は90%以上と良好な成績が報告されています。

腹腔鏡下手術の場合、通常5つのポート(術口)を使用します。カメラポートは臍部に12mm、操作用ポートは両側腹部に各12mm、助手用ポートは両側季肋部に各5mmを配置します。手術時間は平均180分(範囲:120-240分)で、出血量は通常100ml未満です。

手術方法による違い

手術方法平均手術時間平均在院日数術後合併症率
腹腔鏡下手術180分10日8-12%
開腹手術150分14日15-20%
緊急手術210分21日25-30%

手術後の回復過程

  • 術後1日目:離床開始
  • 術後2-3日目:飲水開始
  • 術後4-5日目:食事開始
  • 術後7-10日目:退院検討

術後の管理においては、創部感染の予防が特に重要です。予防的抗菌薬は、通常セファゾリン1g×3回/日を術後48時間まで投与します。

手術療法の成功率は95%以上ですが、術後合併症のリスクも考慮する必要があります。手術関連死亡率は1%未満ですが、高齢者や併存疾患を有する患者では、より慎重な周術期管理が求められます。

処方薬の種類と使用方法

大腸憩室出血における薬物療法は、止血、感染予防、疼痛管理の3つの観点から総合的に行われます。

止血剤としては、トラネキサム酸が第一選択となります。静脈内投与の場合、通常1回500mgを15分かけて投与し、1日2-3回の使用が推奨されます。添付文書によると、腎機能に応じて減量が必要で、クレアチニンクリアランスが50mL/min未満の患者では投与量を調整します。

抗生物質の選択は、患者の全身状態と想定される起炎菌によって異なります。セフトリアキソン1gを1日1-2回静脈内投与するプロトコルが多く採用されています。複雑な症例では、メロペネム0.5gを1日3回投与することもあります。

主要な処方薬の詳細

薬剤分類代表的薬剤標準用量投与経路
止血剤トラネキサム酸500mg × 3回/日静脈内
抗生物質セフトリアキソン1g × 1-2回/日静脈内
鎮痛剤アセトアミノフェン200-300mg × 4回/日経口
制酸剤ファモチジン20mg × 2回/日経口/静脈内

鎮痛管理においては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用を避け、アセトアミノフェンを推奨します。出血リスクを考慮し、1日総量が1000mg以下となるよう慎重に投与します。

緩下剤は便秘予防のため、ラクツロースシロップ10-15mLを1日1-2回経口投与します。腸管蠕動を改善し、過度な腸管内圧上昇を防ぎます。

薬剤使用における注意点

  • トラネキサム酸は腎機能障害時に減量
  • 抗生物質は腸内細菌叢への影響を考慮
  • 鎮痛剤は肝機能に注意
  • 緩下剤は水分摂取と併用

治療期間と経過観察の重要性

治療期間は、患者の重症度と治療法によって大きく異なります。

  • 保存的治療:7-10日
  • 内視鏡的治療:10-14日
  • 手術療法:14-21日

経過観察においては、退院後3-6か月間は定期的な外来受診が推奨されます。具体的には、以下のスケジュールが標準的です。

  • 退院1週間後:初回フォローアップ
  • 1か月後:血液検査と症状確認
  • 3か月後:総合的な経過評価

経過観察項目

観察時期検査項目目的
退院直後バイタルサイン全身状態の安定確認
1週間後血液生化学検査炎症反応の評価
1か月後便潜血検査再出血の有無
3か月後下部消化管内視鏡憩室の状態確認

再発予防のためには、食生活の改善、適度な運動、禁煙などのライフスタイル修正が重要となります。

特に食物繊維の摂取を増やし、水分の十分な摂取が推奨されます。

大腸憩室出血の治療における副作用やリスク

大腸憩室出血の治療法は、患者の症状や全身状態に応じて慎重に選択されますが、どの治療法にも副作用やリスクが存在します。

保存的治療に伴うリスク

保存的治療は、大腸憩室出血の初期段階で頻繁に用いられる方法です。主に安静、食事制限、輸液などを行いますが、一見安全に思えるこの治療法にもリスクが存在します。

長期の安静は筋力低下を引き起こし、特に高齢者では著しい筋力低下が見られることがあります。実際、65歳以上の入院患者では、1週間の安静で最大20%の筋力低下が報告されています。

また、深部静脈血栓症(DVT)の発症リスクも高まります。DVTは入院患者の約10%に発生するとされ、肺塞栓症などの重篤な合併症につながる可能性があります。

長期の食事制限は栄養状態の悪化を招く可能性があり、これは免疫機能の低下や創傷治癒の遅延につながります。特に、タンパク質やビタミンCの不足は創傷治癒に大きな影響を与えます。

タンパク質摂取量が推奨量の60%以下になると、創傷治癒が約30%遅延するというデータもあります。

輸液療法に関しては、過剰投与による心負荷の増大や、電解質バランスの乱れに注意が必要です。特に腎機能が低下している患者では、慎重な管理が求められます。

過剰な輸液は、体重の5%以上の増加や末梢浮腫、肺水腫などを引き起こす可能性があります。

リスク発生率対策
筋力低下65歳以上で最大20%早期離床、適度な運動療法
深部静脈血栓症入院患者の約10%圧迫ストッキングの着用、抗凝固療法
栄養状態の悪化タンパク質不足で創傷治癒30%遅延栄養士による適切な食事指導、必要に応じて経腸栄養
心負荷の増大過剰輸液で体重5%以上増加慎重な輸液管理、心機能のモニタリング

筋力低下に対しては、理学療法士による早期離床の支援が行われます。具体的には、ベッドサイドでの関節可動域訓練から始め、徐々に座位、立位、歩行へと進めていきます。

栄養管理については、栄養士による詳細な評価と指導が行われ、必要に応じて経腸栄養や静脈栄養が検討されます。

内視鏡的治療の副作用とリスク

内視鏡的治療の一般的な副作用は、処置後の腹痛や腹部膨満感です。通常一時的なもので、約20-30%の患者で経験されると報告されています。

内視鏡挿入時の腸管穿孔リスクについては、頻度は低いものの、発生した場合は緊急手術が必要となる重大な合併症です。大腸内視鏡検査における穿孔の発生率は約0.05-0.1%とされていますが、治療を伴う場合はこの率が上昇する可能性があります。

止血処置に関連するリスクとしては、再出血、粘膜損傷、憩室炎の悪化、敗血症などが挙げられます。特に、クリップ法や熱凝固法を用いた止血処置では、周囲の正常粘膜を損傷するリスクがあります。

処置主なリスク発生率
クリップ法粘膜損傷、再出血粘膜損傷:約1-3%、再出血:約10-15%
熱凝固法周囲組織の熱損傷、穿孔熱損傷:約2-5%、穿孔:0.1-0.3%
局注法局所の浮腫、一時的な痛み浮腫:約5-10%、痛み:約20-30%

高齢者や基礎疾患がある場合は、鎮静剤使用に伴う呼吸抑制や循環動態の変化にも注意が必要です。米国消化器内視鏡学会のガイドラインでは、75歳以上の高齢者や心肺機能に問題がある患者では、鎮静剤の減量や慎重な投与が推奨されています。

血管内治療(IVR)のリスクと注意点

血管内治療(IVR)は、カテーテルを用いて出血部位を特定し、塞栓術などを行う治療法です。この方法は低侵襲であり、外科手術に比べて身体への負担が少ないとされていますが、いくつかの重要なリスクと注意点があります。

まず、造影剤アレルギーのリスクが挙げられます。造影剤を使用する際は、事前に患者の既往歴を確認し、必要に応じてアレルギー検査を行います。造影剤アレルギーの発生率は約0.6-3%とされており、そのうち重度のアレルギー反応は0.01-0.04%程度です。

重度のアレルギー反応が起こった場合、アナフィラキシーショックに至る可能性があるため、緊急時の対応準備が必要不可欠です。

カテーテル操作に伴うリスクも看過できません。血管損傷や血栓形成、塞栓症などが起こる可能性があります。特に、高齢者や動脈硬化のある患者では、これらのリスクが高まります。血管損傷の発生率は約0.5-1%、血栓塞栓症は0.1-0.5%程度とされています。

塞栓術自体にも細心の注意が必要です。目的以外の血管を塞栓してしまうと、腸管虚血や壊死といった重大な合併症を引き起こす可能性があります。非標的塞栓の発生率は約1-3%とされており、その中でも腸管虚血は0.5-1%程度で発生します。

合併症発生率症状対応
造影剤アレルギー0.6-3%蕁麻疹、呼吸困難抗ヒスタミン薬、ステロイド投与
血管損傷0.5-1%穿刺部の腫脹、痛み圧迫止血、場合により外科的処置
腸管虚血0.5-1%強い腹痛、血便緊急手術の検討

IVR後には、発熱、腹痛、吐き気、血尿などの症状が現れることがあります。これらの症状の多くは一過性ですが、症状が持続したり重症化したりする場合は、速やかな対応が必要です。

特に、38.5度以上の発熱が続く場合や、持続的な強い腹痛がある場合は、重大な合併症の可能性を考慮する必要があります。

外科的治療に伴う合併症とその管理

術後の主な合併症には、創部感染、縫合不全、腸閉塞、深部静脈血栓症、肺塞栓症などがあります。特に高齢者や糖尿病、心疾患、呼吸器疾患などの基礎疾患がある患者では、これらの合併症のリスクが上昇します。

縫合不全は最も重大な合併症の一つで、発生率は約1-3%ですが、一度発生すると重症化しやすく、死亡率は最大20%に達することもあります。

合併症発生率リスク因子主な対策
創部感染5-10%肥満、糖尿病、手術時間延長適切な抗菌薬投与、創部管理
縫合不全1-3%低栄養、ステロイド使用、喫煙術中の慎重な操作、術後の厳重な観察
腸閉塞3-5%過去の腹部手術歴、術後の癒着早期離床、適切な食事指導

術後の腸閉塞も比較的頻度の高い合併症です。腸管の癒着や浮腫により、腸管内容物の通過が妨げられ発生します。術後早期の腸閉塞の発生率は約3-5%とされています。多くの場合は保存的治療で改善しますが、約20%の症例では再手術が必要となります。

また、手術を受ける患者の平均年齢が上昇していることから、術前の心肺機能評価も重要性を増しています。米国麻酔科学会のガイドラインでは、75歳以上の高齢者に対しては、特に慎重な術前評価と周術期管理が推奨されています。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

大腸憩室出血の治療費は、症状の程度や治療期間によって変動します。

処方薬の薬価

止血剤や抗生物質など、大腸憩室出血の治療に使用される薬剤費は、1日あたり3,000円から8,000円程度となっています。患者さんの症状の重症度に応じて使用する薬剤が異なるため、医師の判断により費用が変動することがあります。

薬剤種類1日あたりの薬価
止血剤3,000円~5,000円
抗生物質2,000円~3,000円
消炎剤1,000円~2,000円

1週間の治療費

入院治療を要する場合、以下のような費用が発生します。

  • 入院基本料:35,000円~45,000円
  • 食事療養費:10,500円(1日3食で計算)
  • 投薬・処置費:25,000円~35,000円
  • 検査費用:15,000円~25,000円

1か月の治療費

治療内容概算費用
外来治療80,000円~120,000円
入院治療350,000円~450,000円
緊急処置150,000円~200,000円

症状が安定している場合は外来での治療が可能ですが、出血が持続する場合には入院加療が必要となります。内視鏡的止血術を実施する場合、手術料として約15万円の費用が追加されます。

以上

References

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