大腸癌 – 消化器の疾患

大腸癌(Colorectal cancer)とは大腸の粘膜組織から発生する悪性腫瘍であり、日本人の罹患率が高く、近年著しい増加傾向を示している疾患です。

初期の段階ではほとんど自覚症状が見られないものの、徐々に進行するにつれて便通異常や持続的な腹痛、急激な体重減少といった特徴的な症状が現れてきます。

現代社会における代表的な生活習慣病の一つとして広く認識されており、特に食生活の欧米化や日常的な運動不足、継続的な喫煙習慣などが発症リスクを顕著に高める要因として指摘されています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

大腸癌の種類(病型)

大腸癌は、その多様性と複雑性から、様々な観点で分類されます。本稿では、大腸癌の主な分類方法と代表的な種類について解説します。

大腸癌の正確な分類や診断は専門医が行いますが、患者さんやご家族が大腸癌について理解を深める一助となれば幸いです。

発生部位による分類

大腸癌は発生する場所によって分類され、その特徴や治療方針が異なります。

大腸は解剖学的に結腸と直腸に分けられ、結腸癌は結腸の各部位(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)で発生し、直腸癌は直腸で発生します。

結腸と直腸の構造の違いにより、それぞれの部位で発生する癌の特徴や進展の仕方が異なります。

例えば、直腸癌は骨盤内の狭い空間で発生するため、周囲の臓器への浸潤や転移のリスクが結腸癌と比べて高くなります。

また、結腸癌の中でも、右側結腸(上行結腸、横行結腸の右半分)と左側結腸(横行結腸の左半分、下行結腸、S状結腸)では、発生する癌の性質や予後に違いがあるという研究結果が報告されています。

右側結腸癌は、左側結腸癌と比較して、より進行した状態で発見されることが多く、予後が悪い傾向にあります。これは、右側結腸が腹腔内で深い位置にあり、症状が現れにくいことが一因と考えられています。

右側結腸癌は粘液産生型の組織型が多く、マイクロサテライト不安定性(MSI)が高頻度に認められるなど、分子生物学的特徴も左側結腸癌とは異なります。

一方、左側結腸癌は、比較的早期に症状(便通異常や血便など)が現れやすく、早期発見につながる場合があります。染色体不安定性(CIN)が高頻度に認められ、EGFR阻害薬などの分子標的薬に対する感受性が高い傾向です。

大腸癌の発生部位による分類と特徴

発生部位解剖学的位置特徴
上行結腸癌右側結腸粘液産生型が多い、MSI高頻度
横行結腸癌右側/左側結腸部位により特徴が異なる
下行結腸癌左側結腸CIN高頻度、分子標的薬感受性高い
S状結腸癌左側結腸早期発見率が比較的高い
直腸癌骨盤内周囲臓器浸潤リスク高い

組織型による分類

大腸癌の組織型分類は、顕微鏡下での癌細胞の形態や構造に基づいて行われ、2019年のWHO分類第5版では、より詳細な分類基準が示されました。この分類は、癌の悪性度や予後の予測、適切な治療法の選択に重要な指標となります。

腺癌

大腸癌全体の約90%を占め、その中でも高分化型腺癌と中分化型腺癌が大多数を占めています。高分化型腺癌は、正常な腺管構造をよく保っており、比較的予後が良好とされます。

一方、中分化型腺癌は、腺管構造の乱れが見られますが、依然として腺管形成は認識可能です。

粘液癌

全大腸癌の約10%を占め、細胞外に多量の粘液を産生する特徴があります。この型の癌は、粘液によって周囲組織への浸潤が促進される傾向があり、リンパ節転移の頻度も高くなります。

また、若年者に比較的多く見られ、遺伝性大腸癌との関連も指摘されています。

印環細胞癌

全大腸癌の約1%と稀少ですが、細胞内に粘液を有する特徴的な形態を示し、予後不良因子として知られています。この型の癌は、早期に腹膜播種をきたしやすく、化学療法への反応性も一般的に低いとされています。

大腸癌の主な組織型と特徴

組織型頻度主な特徴
高分化型腺癌約50%腺管構造保持、予後良好
中分化型腺癌約35%中程度の分化度
低分化型腺癌約5%腺管構造不明瞭、予後不良
粘液癌約10%多量の粘液産生
印環細胞癌約1%細胞内粘液、予後不良

遺伝子変異による分類

大腸癌における遺伝子変異の解析は、個別化医療の実現に向けて重要性を増しています。特に、KRAS遺伝子変異は大腸癌の約40%で認められ、この変異の有無は抗EGFR抗体薬の効果予測因子として確立されています。

BRAF遺伝子変異

大腸癌の約8-10%で認められ、特にV600E変異が代表的です。BRAF変異陽性の大腸癌は、右側結腸に多く、予後不良因子として知られています。最近では、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法など、新たな治療戦略が開発されています。

PIK3CA遺伝子変異

約15-20%の大腸癌で認められ、主にエクソン9とエクソン20に集中しています。この変異は、mTOR経路の活性化を介して癌の増殖を促進し、アスピリンの予防効果との関連も報告されています。

主要な遺伝子変異と治療選択への影響

遺伝子変異変異頻度臨床的意義治療への影響
KRAS変異40%抗EGFR抗体薬の効果予測変異陽性では抗EGFR抗体薬は無効
BRAF変異8-10%予後予測BRAF/MEK阻害薬の適応検討
PIK3CA変異15-20%アスピリン効果予測アスピリンの補助療法検討

病期(ステージ)による分類

大腸癌の病期分類は、国際的に統一されたTNM分類システムに基づいて行われ、2017年のUICC第8版では、より詳細な層別化が導入されました。

この分類システムは、原発腫瘍の深達度(T)、所属リンパ節転移の程度(N)、遠隔転移の有無(M)という3つの要素を組み合わせて評価します。

T因子

粘膜内にとどまるTisから、漿膜を超えて他臓器に浸潤するT4bまで、6段階に分類されます。

特に、T3(漿膜下層への浸潤)とT4(漿膜面への露出または他臓器浸潤)の鑑別は、手術方法の選択や予後予測において重要な意味を持ちます。

N因子

N因子は、転移リンパ節の個数に基づいて評価され、N0(転移なし)からN2(4個以上の転移)まで分類されます。

リンパ節転移の個数は、手術時に検索される必要があり、正確な病期診断のためには12個以上のリンパ節検索が推奨されています。

M因子

M因子については、遠隔転移の有無とその部位により分類され、M1aは1臓器のみの遠隔転移、M1bは2臓器以上の遠隔転移、M1cは腹膜播種を示します。

近年では、オリゴメタスターシス(限局した少数の遠隔転移)という概念も注目されています。

TNM分類の詳細

分類定義サブカテゴリー
T1粘膜下層までT1a:粘膜筋板まで、T1b:粘膜下層まで
T2固有筋層まで
T3漿膜下層までT3a:1mm未満、T3b:5mm未満、T3c:5mm以上
T4漿膜露出/他臓器浸潤T4a:漿膜露出、T4b:他臓器浸潤

分子サブタイプによる分類

分子サブタイプによる分類は、2015年に発表されたConsensus Molecular Subtypes (CMS)が国際的な標準となっています。

この分類システムは、遺伝子発現プロファイル、体細胞変異、コピー数変化、マイクロサテライト不安定性など、複数の分子マーカーを統合的に解析して確立されました。

CMS1(MSI免疫型)

全大腸癌の約14%を占め、マイクロサテライト不安定性が高く、免疫細胞の浸潤が顕著です。

このタイプは免疫チェックポイント阻害薬が有効である場合が多く、最近では一次治療としての使用も承認されています。

CMS2(古典型)

最も一般的なサブタイプで、約37%を占めます。WNTシグナルやMYC経路の活性化が特徴的で、染色体不安定性を示します。

従来の化学療法や分子標的薬への反応性が比較的良好であることが知られています。

CMSの各サブタイプとその特徴

サブタイプ頻度分子的特徴臨床的特徴
CMS114%MSI-H、免疫活性化免疫療法有効
CMS237%WNT/MYC活性化予後良好
CMS313%代謝異常KRAS変異多い
CMS423%間葉系特徴予後不良

大腸癌の主な症状

大腸癌は初期段階では無症状のことが多いものの、進行に伴い様々な症状が顕在化します。ここでは、大腸癌の主な症状について解説し、どのような身体の変化に注意を払うべきかを解説していきます。

便の性状の変化

大腸癌の初期症状として、多くの患者が最初に気づく兆候の一つが便の性状の変化です。便の形状、色、硬さなどに通常の便通とは異なる状態が持続する場合、医療機関での精査が推奨されます。

便の性状の変化

変化の種類特徴考えられる原因
便の形状細い、リボン状腸管の狭窄
便の色黒色、血液の混入腫瘍からの出血
排便パターン便秘と下痢の繰り返し腸管機能の障害

このような症状が2週間以上持続する場合、医療機関での精密検査を検討することが望ましいでしょう。

ただし、これらの症状は他の消化器疾患でも見られることがあるため、必ずしも大腸癌を意味するわけではありません。しかし、早期発見・早期治療のためには、このような変化を見逃さないことが重要です。

特に、50歳以上の方や、大腸癌の家族歴がある方は、これらの症状により注意を払う必要があります。

また、定期的な便潜血検査や大腸内視鏡検査などのスクリーニング検査を受けることで、症状が現れる前に大腸癌を発見できる可能性が高まります。

腹部の違和感や痛み

大腸癌が進行すると、腹部に様々な違和感や痛みが生じることがあります。症状は腫瘍の大きさや位置、進行度によって異なり、個人差も大きいです。

多くの場合、初期段階では軽度の不快感や鈍痛として感じられますが、癌が進行するにつれて痛みが強くなったり、持続時間が長くなったりします。

腹部の違和感は、はっきりとした痛みではなく、むしろ何か異常を感じる程度のものかもしれません。例えば、お腹が張っている感覚や、腸の動きが普段と違うと感じる場合があります。

また、ガスがたまりやすくなり、腹部が膨満感を伴うこともあります。

腹部の違和感や痛みの特徴

症状特徴考えられる原因
違和感お腹の張り、腸の動きの異常腫瘍による腸管の圧迫
痛み鈍痛から鋭痛まで、場所は様々腫瘍の成長、炎症
タイミング食事前後や排便時に増強腸の活動増加による刺激

継続的な腹部の違和感や痛みがある場合は、医療機関を受診し検査を受けるようにしてください。特に、以下のような場合は注意が必要です。

  • 痛みが徐々に強くなる
  • 痛みの持続時間が長くなる
  • 痛みの頻度が増える
  • 日常生活に支障をきたすほどの痛みがある

体重減少と食欲不振

大腸癌が進行すると、体重減少や食欲不振といった全身症状が顕在化することがあります。

特に注目すべきは、意識的なダイエットをしていないにもかかわらず起こる「不慮の体重減少」です。この症状は大腸癌に限らず、多くのがん疾患で見られる特徴的な兆候です。

体重減少の程度には個人差がありますが、一般的に、3〜6ヶ月の間に体重の5%以上の減少がある場合に注意が必要とされます。例えば、体重60kgの人であれば、3〜6ヶ月で3kg以上の減少が見られる場合が該当します。

また、食欲不振は大腸癌患者の多くが経験する症状です。具体的には、以下のような状態が現れます。

  • 食べ物を見ても食欲が湧かない
  • 少量の食事でもすぐに満腹感を感じる
  • 以前は好きだった食べ物が食べられなくなる
  • 食事の回数や量が自然と減少する

体重減少と食欲不振に関連する症状

症状特徴考えられる原因
体重減少3〜6ヶ月で5%以上の減少エネルギー消費増加、栄養吸収障害
食欲不振食欲低下、早期満腹感腫瘍の代謝産物、炎症性物質の影響
食習慣の変化好みの変化、食事量の減少腸管機能の変化、心理的影響

貧血と疲労感

貧血は大腸癌からの持続的な出血によって引き起こされることが多く、特に右側結腸(上行結腸や横行結腸)に発生した癌で顕著です。

これは、右側結腸では便が液状であるため、少量の出血が便に混ざりやすく、長期間にわたって気づかれにくいためです。

貧血の主な症状

  • 顔色が悪い(蒼白)
  • めまいや立ちくらみ
  • 息切れや動悸
  • 疲れやすさ
  • 集中力の低下
  • 冷え症

症状は徐々に進行するため、患者さん自身ではなかなか気づきにくいです。特に高齢者の場合、貧血による症状を単なる加齢現象と誤解してしまう場合もあります。

貧血の程度と症状の関係

貧血の程度主な症状ヘモグロビン値(g/dL)
軽度軽い疲労感、わずかな息切れ10-12
中等度明らかな疲労感、動悸、めまい8-10
重度著しい疲労、息切れ、動悸、めまい、集中力低下8未満

貧血は血液検査で容易に診断できますが、その原因を特定するためには更なる検査が必要です。大腸癌による貧血は通常、鉄欠乏性貧血の形をとります。これは、持続的な出血により体内の鉄分が失われるためです。

鉄欠乏性貧血の特徴として、血清フェリチン値の低下や、小球性低色素性貧血の所見が見られます。

また、がん細胞は正常細胞よりも多くのエネルギーを消費するため、全身の疲労感につながる可能性があります。

大腸癌による貧血の特徴

項目内容
貧血の種類主に鉄欠乏性貧血
主な症状疲労感、息切れ、めまい、顔色不良
診断方法血液検査、便潜血検査、大腸内視鏡検査
治療法原因治療(大腸癌の治療)、鉄剤投与、必要に応じて輸血

排便習慣の変化

大腸癌の進行に伴い、腫瘍が腸管内の正常な便の通過を妨げることにより排便習慣に顕著な変化が現れてきます。

具体的な便の変化

  • 便秘の悪化や慢性化
  • 下痢の頻発
  • 便秘と下痢の交互発生
  • 便意はあるが排便できない感覚(偽便意)
  • 排便後の残便感
  • 排便時の違和感や痛み

日本消化器病学会の調査によると、大腸癌患者の約60%が排便習慣の何らかの変化を経験しています。特に、50歳以上の年齢層でこの割合が高くなる傾向があります。

腫瘍の位置と主な排便症状の関係

腫瘍の位置主な排便症状特徴的な変化
直腸便秘、残便感排便時の違和感、狭窄感
S状結腸便秘、排便困難便の形状変化、細い便
横行結腸便秘と下痢の交互発生不規則な排便パターン
上行結腸下痢傾向水様性の便、頻回の排便

特に、以下のような症状に特に注意が必要です。

  • 2週間以上続く排便習慣の変化
  • 便の色や形状の顕著な変化
  • 排便時の痛みや出血
  • 突然の排便パターンの変化

大腸癌の原因

大腸癌の発症には多岐にわたる要因が関与しており、遺伝子の変異から環境因子まで、様々な要素が複雑に絡み合って発症に影響を及ぼします。

遺伝的要因と家族歴

遺伝子の変異は大腸癌発症の主要な原因の一つとして知られており、特にリンチ症候群や家族性大腸腺腫症などの遺伝性症候群では、特定の遺伝子異常により発症リスクが著しく上昇します。

遺伝性大腸癌症候群主な遺伝子異常特徴的な所見
リンチ症候群ミスマッチ修復遺伝子若年発症、他臓器癌の合併
家族性大腸腺腫症APC遺伝子多発性ポリープ形成

第一度近親者に大腸癌の罹患歴がある方は、一般的な発症リスクの約2倍となることが研究により示されています。

環境要因と生活習慣

食生活の欧米化や運動不足といった現代的な生活様式は、大腸癌発症の危険因子となります。

特に、国際がん研究機関(IARC)により、赤身肉や加工肉の過剰摂取は発癌リスクを高めることが指摘されています。

生活習慣要因リスク評価推奨される対策
食事内容高リスク食物繊維を意識的に摂取
運動習慣中程度定期的な有酸素運動
喫煙・飲酒高リスク禁煙と適度な飲酒

炎症性腸疾患との関連

潰瘍性大腸炎クローン病などの炎症性腸疾患(IBD)は、長期間の粘膜障害により細胞の異常増殖を引き起こす可能性があります。

炎症性疾患大腸癌発症リスク罹患期間による影響
潰瘍性大腸炎2〜3倍増加罹患期間に比例して上昇
クローン病1.5〜2倍増加病変範囲に依存

特に10年以上罹患している患者では、大腸癌発症リスクが顕著に上昇することが分かっています。

年齢と性差の影響

大腸癌の発症リスクは、加齢とともに急激に上昇します。50歳を超えると発症率が跳ね上がり、70歳以上では最も高いリスク層となります。

年齢層発症リスク特徴
40歳未満低リスクまれな発症
50-69歳中〜高リスクリスク上昇期
70歳以上最高リスク最も発症率が高い

男性は女性よりも大腸癌発症率が約20〜30%高く、ホルモンバランスや生活習慣の違いが関係していると考えられています。

他疾患との関連性

糖尿病や肥満、特に内臓脂肪型肥満は大腸癌発症と密接に関連していることが分かってきています。

関連疾患リスク増加率機序
2型糖尿病1.3倍インスリン抵抗性
内臓脂肪型肥満約1.5倍炎症性サイトカイン

診察(検査)と診断

大腸癌の診察では、大腸内視鏡検査による生検と病理組織学的検査を実施し、大腸がんの診断と病期分類を行います。

問診

まずは問診において、家族歴、生活習慣、既往歴などの情報を聴取します。

問診項目具体的な確認内容
家族歴大腸癌の遺伝的背景、血縁者の疾患歴
生活習慣食事内容、運動頻度、喫煙・飲酒歴
既往歴過去の消化器系疾患、手術歴

内視鏡検査

大腸内視鏡検査は、大腸癌診断における最も信頼性の高い検査方法となります。

内視鏡を用いて大腸の内部を観察し、微細な病変や異常組織を検査します。

検査種類特徴と利点
全大腸内視鏡検査大腸全体の包括的な精密検査
下部消化管内視鏡検査直腸、S状結腸の詳細な観察

画像診断

CT、MRI、超音波検査などの画像診断では、腫瘍の正確な位置、大きさ、周囲組織との関係性を三次元的に可視化していきます。

  • CT検査:高精細な断層画像を取得
  • MRI検査:軟部組織の詳細な構造を描出
  • 超音波検査:リアルタイムでの動的画像観察

生検による確定診断

内視鏡検査中に発見された異常部位から組織検体を採取し、細胞レベルでの詳細な分析を行い、癌細胞の有無を判断します。

生検方法専門的特徴
内視鏡下生検即時性が高く、侵襲性が低い
超音波ガイド生検深部病変の正確な検体採取に有効

追加的な診断検査

血液検査や腫瘍マーカー検査は、大腸癌の診断を補完する検査手法となります。体内の生化学的変化や特異的な分子マーカーを分析し、診断の精度を向上させます。

大腸癌の治療法と処方薬、治療期間

大腸癌の治療には、手術療法、化学療法、放射線療法などがあります。癌の進行度や全身状態を評価した上で方針を決定します。

手術療法

手術療法では、通常、癌とその周囲のリンパ節を含めて切除する方法が取られますが、近年では腹腔鏡手術やロボット支援手術といった、患者さんの負担を軽減する低侵襲な手術方法も進歩しています。

腹腔鏡手術を受けた患者さんの平均入院期間は、開腹手術の場合と比べて2〜3日短縮されるというデータもあります。

手術の種類は癌の位置や進行度によって異なり、結腸癌の場合は結腸切除術、直腸癌の場合は直腸切除術が主に行われます。

早期の大腸癌では、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの内視鏡手術が選択される場合もあり、これらの方法では開腹せずに治療を行うことが可能です。

手術後の回復期間には個人差がありますが、一般的に1〜2週間程度の入院が必要となります。その後、自宅での療養を経て、通常の生活に戻るまでには1〜2か月程度かかることが多いです。

代表的な大腸癌手術の種類

  • 結腸切除術:結腸の一部を切除し、残った腸管を吻合する手術。手術時間は約2〜4時間。
  • 直腸切除術:直腸を切除し、場合によっては人工肛門を造設する手術。手術時間は約3〜6時間。
  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR):早期癌に対して内視鏡を用いて粘膜層を切除する手術。所要時間は約30分〜1時間。
  • 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD):EMRよりも大きな病変に対応可能な内視鏡手術。所要時間は約1〜3時間程度です。

手術療法の具体的な成績については医療機関によって異なりますが、早期大腸癌の5年生存率は90%以上とされています。

また、腹腔鏡手術の普及により、術後の痛みが軽減され、入院期間も短縮される傾向にあります。

手術方法平均手術時間一般的な入院期間
開腹手術3-5時間10-14日
腹腔鏡手術4-6時間7-10日
EMR30分-1時間2-3日
ESD1-3時間4-5日

手術療法は癌を物理的に取り除くことで高い治療効果が期待できますが、状態や癌の進行度によっては、化学療法や放射線療法と組み合わせて行うことで、より確実な治療効果を目指します。

化学療法

化学療法は、抗がん剤を用いて癌細胞の増殖を抑制、または殺傷する治療法です。大腸癌の化学療法は、手術前後の補助療法や、転移・再発癌の治療において重要となります。

抗がん剤は単剤での使用よりも、複数の薬剤の組み合わせるとより効果が期待できる場合が多いです。

例えば、FOLFOX療法(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)では、StageⅢ大腸癌の術後補助化学療法において約20%の再発リスク低減効果が報告されています。

治療期間は目的によって異なり、術後補助化学療法の場合は通常6か月間、転移・再発癌の場合は効果が維持される限り継続されます。

基本的には、2〜3週間を1サイクルとして繰り返し治療を行い、定期的な効果判定を行います。

治療レジメン投与間隔主な適応治療期間
FOLFOX2週間毎StageⅢ/Ⅳ6-12ヶ月
CAPOX3週間毎StageⅢ/Ⅳ6-8ヶ月
FOLFIRI2週間毎進行再発効果持続中

化学療法の副作用管理も進歩しており、制吐剤や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの支持療法により、生活の質を維持しながら治療を継続することが可能となってきています。

副作用の種類発現時期対策
骨髄抑制投与後7-14日G-CSF投与
悪心・嘔吐投与直後-数日制吐剤投与
末梢神経障害累積投与後投与量調整

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーの放射線を用いて癌細胞を破壊する治療法であり、特に直腸癌の治療において重要な役割を果たしています。

放射線治療の方法は外部照射と内部照射に大別されますが、大腸癌では主に外部照射が用いられます。

強度変調放射線治療(IMRT)や画像誘導放射線治療(IGRT)といった照射技術により、従来よりも高い精度で治療を行うことが可能です。

照射方法特徴1回あたりの治療時間総治療期間
通常分割照射1日1回、週5回15-20分5-6週間
短期照射1日1回、週5回15-20分1週間
IMRT強度変調あり20-30分5-6週間

直腸癌における術前放射線療法では、化学療法との併用(化学放射線療法)が標準的に行われています。これにより、腫瘍の縮小効果が高まり、手術の成功率向上につながります。

実際に、術前化学放射線療法を実施した患者さんでは、局所再発率が約50%低下したという報告もあります。

大腸癌の治療における副作用やリスク

大腸癌の治療過程において、手術療法、化学療法、放射線療法などそれぞれの治療法には固有の課題が存在します。最後に、各治療法に伴う副作用とリスクについて解説します。

手術療法に伴う副作用とリスク

手術後の回復過程では創部の痛みや違和感がありますが、多くの場合、時間の経過とともに徐々に軽減していきます。

腹腔鏡手術や開腹手術のいずれにおいても、手術部位の感染や縫合不全などの合併症が発生する可能性があります。

術後の腸閉塞は、腹部の手術では比較的よく見られる合併症の一つです。腸管の癒着や浮腫によって起こるもので、重症化すると再手術が必要となる場合もあるため、早期発見・早期管理が不可欠です。

手術合併症発生頻度主な症状
創部感染5-10%発熱、創部の発赤・腫脹
縫合不全3-7%腹痛、発熱、腹部膨満
腸閉塞10-15%腹痛、嘔吐、便秘
出血2-5%貧血、腹部膨満感

化学療法による副作用

抗がん剤治療はがん細胞の増殖を抑制する効果的な治療法ですが、同時に正常な細胞にも影響を与えることから、様々な副作用が出現します。

骨髄抑制による血液系の副作用は、化学療法において最も注意すべき点の一つです。白血球減少は感染リスクを高め、重篤な感染症を引き起こす可能性があります。

また、血小板減少は出血傾向を引き起こし、軽微な外傷でも止血が困難になることがあります。

消化器症状として、吐き気や食欲不振、下痢などが高頻度で見られます。制吐剤の予防的投与や症状に応じた食事の工夫など、きめ細かな対応が重要となります。

その他、皮膚症状や神経症状も、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を与えます。手足症候群と呼ばれる皮膚症状は、手のひらや足の裏の痛みや腫れ、皮膚の剥離を引き起こします。

末梢神経障害によるしびれや感覚異常は長期間持続することもあるため、患者さんの生活に大きな負担となる場合があります。

副作用の種類主な症状発現時期対処法
急性副作用悪心・嘔吐投与直後〜数日制吐剤の予防投与、食事の工夫
遅発性副作用骨髄抑制7-14日後G-CSF製剤の投与、感染予防
晩期副作用末梢神経障害数ヶ月後薬剤の減量、支持療法

放射線療法に関連する副作用

放射線治療は照射部位周辺の正常組織にも影響が及ぶため、様々な副作用が生じます。

急性期の副作用として、最も一般的なのは皮膚炎です。照射部位の皮膚が赤くなり、乾燥や痒みを伴うことがあります。重症の場合、湿性皮膚炎に進展し、痛みや出血を伴うこともあります。

また、粘膜炎による口内炎や咽頭痛、食道炎による嚥下困難なども生じる可能性があります。

骨盤部への照射では、下痢や頻尿といった症状が高頻度で見られます。これは、腸管や膀胱の粘膜が放射線の影響を受けることによって起こるものです。

晩期副作用としては、腸管の癒着や線維化による腸閉塞、排尿障害などが報告されています。治療終了後数ヶ月から数年経過してから出現することがあり、長期的な経過観察が必要です。

照射部位主な副作用発現時期対処法
骨盤部下痢、頻尿治療中〜数週間後食事指導、薬物療法
会陰部皮膚炎、痛み治療中〜数週間後皮膚ケア、疼痛管理
腹部悪心、腸閉塞治療中〜数年後制吐剤、外科的処置

免疫療法における副作用

免疫チェックポイント阻害薬による治療では、従来の抗がん剤とは異なる特有の副作用が発生する可能性があります。

自己免疫反応に関連するものが多く、その管理には特別な注意が必要です。

皮膚関連の副作用としては発疹、掻痒感、皮膚乾燥などが高頻度で見られ、免疫系の活性化によって引き起こされる自己免疫反応の一種と考えられています。

重症の場合、スティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome)のような重篤な皮膚障害に進展する可能性があるため、早期の発見と対応が重要です。

内分泌系の副作用も特徴的です。甲状腺機能障害(甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症)は、免疫チェックポイント阻害薬による治療で比較的高頻度に認められます。

また、免疫療法に関連する大腸炎は通常の抗がん剤による下痢とは異なり、免疫系の過剰な反応によって引き起こされるため、ステロイド治療が必要となることがあります。

副作用の種類主な症状発現頻度対処法
皮膚関連発疹、掻痒感20-30%ステロイド外用薬、抗ヒスタミン薬
内分泌系甲状腺機能異常10-15%内分泌専門医との連携、ホルモン補充
消化器系大腸炎、下痢5-10%ステロイド治療、電解質管理

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

大腸癌治療における費用は、症状や進行度に応じて手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法など複数の治療法を組み合わせることから、総額が個々により大きく変動します。

処方薬の薬価

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は従来の抗がん剤と比べて高額となり、1回の処方で10万円から30万円の費用負担が目安となります。

薬剤種類1回あたりの薬価
分子標的薬15-30万円
従来型抗がん剤5-15万円
支持療法薬1-3万円

1か月の治療費の目安

治療内容概算費用
手術療法80-150万円
化学療法50-100万円/月
放射線療法30-60万円/コース

以上

References

KUIPERS, Ernst J., et al. Colorectal cancer. Nature reviews. Disease primers, 2015, 1: 15065.

DEKKER, Evelien, et al. Colorectal cancer. The Lancet, 2019, 394.10207: 1467-1480.

MÁRMOL, Inés, et al. Colorectal carcinoma: a general overview and future perspectives in colorectal cancer. International journal of molecular sciences, 2017, 18.1: 197.

CENTER, Melissa M., et al. Worldwide variations in colorectal cancer. CA: a cancer journal for clinicians, 2009, 59.6: 366-378.

IACOPETTA, Barry. Are there two sides to colorectal cancer?. International journal of cancer, 2002, 101.5: 403-408.

POTTER, John D. Colorectal cancer: molecules and populations. Journal of the National Cancer Institute, 1999, 91.11: 916-932.

FEARON, Eric R. Molecular genetics of colorectal cancer. Annual Review of Pathology: Mechanisms of Disease, 2011, 6.1: 479-507.

HARALDSDOTTIR, Sigurdis, et al. Colorectal cancer-review. Laeknabladid, 2014, 100.2: 75-82.

SIEGEL, Rebecca; DESANTIS, Carol; JEMAL, Ahmedin. Colorectal cancer statistics, 2014. CA: a cancer journal for clinicians, 2014, 64.2: 104-117.

MARKOWITZ, Sanford D.; BERTAGNOLLI, Monica M. Molecular basis of colorectal cancer. New England journal of medicine, 2009, 361.25: 2449-2460.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。