クローン病 – 消化器の疾患

クローン病(Crohn’s disease)とは、消化管に慢性的な炎症を引き起こす原因不明の難治性疾患です。

口から肛門までの消化管のどの部位にも炎症が生じますが、特に小腸と大腸に多くみられます。

症状としては、激しい腹痛や下痢、高熱、著しい体重減少などがあり、重症化すると腸閉塞や瘻孔など、深刻な合併症を引き起こします。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

クローン病の種類(病型)と主な症状

クローン病は、病変が生じる部位や広がりの程度によって、小腸型、大腸型、小腸大腸型、上部病変の2つに分類されます。

小腸型クローン病

小腸型は小腸のみに炎症性の病変が認められる病型で、主に下痢や腹痛、体重減少などの症状が現れます。

炎症が進行すると狭窄や瘻孔などの合併症を引き起こす可能性があります。

小腸型クローン病の主な症状説明
下痢小腸の炎症により頻回の下痢が生じる
腹痛炎症や狭窄に伴う腹部の痛み
体重減少栄養吸収障害によって体重が減少する

小腸型クローン病では、炎症が小腸に限局しているため、大腸型と比べると下血や粘血便などの症状は少ない傾向にあります。

しかし、炎症によって吸収障害が生じると、体重減少や栄養不良などの全身性の問題につながっていきます。

大腸型クローン病

大腸型クローン病は、大腸にのみ炎症性の病変が認められる病型です。

下血や粘血便、腹痛などの症状が現れることが多く、炎症が直腸や肛門周囲に及ぶと、肛門周囲膿瘍や痔瘻などの合併症を起こす危険性があります。

大腸型クローン病の主な症状説明
下血・粘血便大腸の炎症により、血液や粘液が混じった便が出る
腹痛炎症や狭窄に伴う腹部の痛み
体重減少栄養吸収障害による体重減少
発熱炎症に伴う発熱

大腸型クローン病では、特に直腸や肛門周囲の炎症が問題となります。

早期から治療を行い、炎症のコントロールと合併症の予防に努めることが重要です。

小腸大腸型クローン病

小腸大腸型は、小腸と大腸の両方に炎症性の病変が認められる病型であり、クローン病の中で最も多く見られます。

小腸型と大腸型の症状が組み合わさって現れ、重症化すると広範囲な炎症や複雑な合併症を引き起こすことがあります。

小腸大腸型クローン病の主な症状説明
下痢・腹痛小腸と大腸の炎症により、頻回の下痢と腹痛が生じる
下血・粘血便大腸の炎症により、血液や粘液が混じった便が出る
体重減少・発熱広範な炎症によって全身性の症状が現れる
肛門周囲の合併症痔瘻や肛門周囲膿瘍などの合併症が生じる可能性があります

小腸大腸型クローン病は、小腸と大腸の両方に炎症が及ぶため、症状が多岐にわたり、重症度も高くなりやすい病型です。

広範囲な炎症によって栄養吸収障害が生じると、体重減少や成長障害などの問題も起こります。

複雑な合併症を引き起こすリスクも高いため、経過観察と治療介入が必要です。

上部病変を伴うクローン病

小腸や大腸だけでなく、上部消化管(食道、胃、十二指腸)にも炎症性の病変が認められるまれな病型です。

上腹部痛や嘔吐、食欲不振などの特有の症状がみられます。

上部病変を伴うクローン病の主な症状説明
上腹部痛胃や十二指腸の炎症によって起こる痛み
嘔吐炎症や狭窄に伴い、嘔吐が起こる
食欲不振炎症による食欲低下

上部消化管の炎症は、小腸や大腸の炎症と比べると頻度がは低いため、見逃されないように注意が必要です。

上腹部痛や嘔吐などの症状が継続する場合には、上部消化管の精査を行い、炎症の有無や範囲を評価することが重要となります。

その他の症状

  • 関節の痛み
  • 皮膚の症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)
  • 目の症状(ぶどう膜炎、上強膜炎など)

クローン病の原因

クローン病の原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的な要因や環境因子(腸内細菌、食事、喫煙など)が影響し、免疫システムが過剰に反応することで腸管に慢性的な炎症を起こすと考えられています。

遺伝的要因

クローン病の発症には、遺伝的な素因が深く関与していると考えられています。

実際に、クローン病患者のご家族における発症率は一般の方々と比較して高く、一卵性双生児(遺伝的に同一の双子)での発症一致率は約50%にも達するとのデータがあります。

研究によりクローン病の発症に関連する複数の遺伝子変異が同定されてきましたが、多くは腸管の免疫応答や粘膜バリア機能に関与する遺伝子であることが分かっています。

特に、NOD2遺伝子の変異を持つ方は、クローン病を発症するリスクが大幅に上昇するとされています。

関連遺伝子遺伝子の機能
NOD2細胞内でのパターン認識受容体
IL23Rインターロイキン23(炎症性サイトカインの一種)の受容体
IRGMオートファジー(細胞内の不要物を分解する機構)に関連する遺伝子

環境要因の影響

  • 喫煙習慣
  • 高脂肪・低食物繊維の食事
  • 腸内細菌叢のバランスの変化
  • ストレス
  • 感染症の既往歴

喫煙されている方では、クローン病の発症リスクが非喫煙者の方の約2倍に上昇します。

また、食生活の欧米化に伴う高脂肪・低食物繊維の食事の摂取増加や、過度に清潔な環境による腸内細菌叢の変化なども、クローン病の発症に関与している可能性が指摘されています。

この他、ストレスや感染症の既往歴もクローン病の発症や再燃のきっかけになり得ると考えられています。

腸管免疫の異常

クローン病を発症された方の腸管では、免疫応答の異常が認められます。

健康な方の場合、腸管免疫系は食事由来の抗原(異物)や常在菌に対して過剰に反応することなく、適度な免疫寛容を維持しています。

一方、クローン病の方は、この免疫寛容のバランスが崩れ、食事由来の抗原や腸内常在菌に対して過剰な免疫応答が起こっていると考えられます。

腸管免疫の状態健康な方クローン病の方
食事由来の抗原への反応適度な免疫寛容により抑制過剰な免疫応答が起こる
腸内常在菌への反応適度な免疫寛容により抑制過剰な免疫応答が起こる

診察(検査)と診断

クローン病の診察では、問診や血液検査、内視鏡検査などの結果から、腸管に特徴的な炎症が見られるかを判断します。

血液検査・便検査

クローン病の診断には、血液検査と便検査が広く用いられています。

血液検査では、炎症マーカーであるCRPや赤沈値の上昇、貧血の有無などを確認します。

便検査では、潜血の有無や病原菌の有無を調べ、炎症の程度を評価します。

検査項目目的
CRP炎症の有無と程度を評価するために測定
赤沈値炎症の有無と程度を評価するために測定
便潜血腸管出血の有無を確認するために検査
便培養病原菌の有無を確認するために検査

内視鏡検査

クローン病の確定診断を行うためには、内視鏡検査が必要です。

内視鏡検査の種類観察部位
大腸内視鏡検査大腸粘膜の炎症や潰瘍の有無、範囲
小腸内視鏡検査小腸粘膜の炎症や狭窄の有無
カプセル内視鏡検査小腸

内視鏡検査では、炎症部位の生検(組織の一部を採取すること)を行い、病理学的な評価も行います。

画像検査

画像検査は、内視鏡検査では観察できない部位の評価のために有用です。

画像検査の種類評価内容
CT検査腸管壁の肥厚や膿瘍の有無
MRI検査腸管壁の炎症や瘻孔の有無
小腸造影検査小腸の狭窄や瘻孔の有無

クローン病の治療法と処方薬、治療期間

クローン病の治療法には、炎症を抑える薬(5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤など)の使用や、栄養療法、手術などがあります。

症状や病状に合わせて、長期にわたる治療が必要です。

薬物療法

クローン病の薬物療法では、炎症を抑える作用のある5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)、ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤などを使用します。

薬剤名作用
5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)腸の炎症を抑制する
ステロイド強力な抗炎症作用を持つ
免疫抑制剤免疫反応を抑制する
生物学的製剤炎症を引き起こす特定のタンパク質の働きを阻害する

治療の初期段階では、ステロイドを用いて速やかに症状を改善させることを目指します。

寛解導入後は、5-ASAやアザチオプリンなどの免疫抑制剤を継続的に使用し、再燃を予防します。

難治性の場合や、ステロイドを減量・中止すると症状が再燃する状態の場合は、インフリキシマブやアダリムマブなどの生物学的製剤の使用を検討します。

病期主な治療薬
初期段階ステロイド
寛解導入後5-ASA、免疫抑制剤
難治性の場合生物学的製剤
ステロイド依存性の場合生物学的製剤

栄養療法

栄養療法の主な目的
  • 腸管を安静にし、炎症を鎮静化させる
  • 必要な栄養素を十分に補給する
  • 腸管の修復と機能回復を促進する

特に活動期(症状が活発な時期)には、低残渣食や消化態栄養剤による経腸栄養療法を行うことで、腸管の炎症を抑え、症状を改善させることができます。

寛解期(症状が落ち着いている時期)には、食事療法を継続することで栄養状態を維持し、再燃を防止することが大切です。

外科手術

内科的治療で十分な効果が得られない場合や、狭窄、瘻孔、膿瘍などの合併症が生じた場合は、外科手術が必要となる場合があります。

手術では、病変部位を切除し、健常な腸管どうしを吻合(つなぎ合わせること)します。

治療期間

クローン病は慢性の経過をたどる疾患であり、完治させることは難しい病気です。そのため、治療は長期にわたって継続する必要があります。

症状が安定している寛解期においても、再燃を防ぐために薬物療法や栄養療法を継続することが重要とされています。

クローン病の治療における副作用やリスク

クローン病の治療薬は、感染症のリスク増加や、薬剤によって異なる副作用(例:ステロイドによる骨粗鬆症、生物学的製剤による感染症など)があります。

薬物療法に伴う副作用

クローン病の治療に用いられる薬剤には、以下のような副作用が報告されています。

薬剤の種類主な副作用の例
5-アミノサリチル酸製剤頭痛、吐き気、下痢、発疹などの症状
ステロイド骨粗鬆症、感染症リスクの上昇、糖尿病の発症
免疫抑制剤感染症リスクの上昇、肝機能障害、腎機能障害
生物学的製剤アレルギー反応、感染症リスクの上昇

外科手術に伴うリスク

  • 手術中や術後の出血
  • 手術部位の感染
  • 縫合部の離開(縫合不全)
  • イレウス(腸閉塞)の発症
  • 術後の再発リスク

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

クローン病は指定難病に認定されており、医療費助成や各種支援制度を利用できます。

指定難病の認定を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 診断基準に基づいて、クローン病と確定診断されている
  2. 病状や治療の状況によって、長期の治療が必要と判断される

指定難病の申請は、主治医が作成した診断書と申請書を、患者さんの住所地を管轄する保健所に提出することで行います。

詳しくは難病情報センターのホームページをご確認ください。

クローン病の治療費の概要

項目内容費用
検査費血液検査、内視鏡検査、画像検査など10,000円~50,000円
投薬費抗炎症薬、免疫抑制剤、生物学的製剤など30,000円~100,000円
入院費病室料、食事療養費、手術費用など100,000円~500,000円

治療費用は病状や治療方針によって大きく異なります。重症のクローン病で生物学的製剤を使用する場合、月額の治療費が100万円を超えることもあります。

以上

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