ダンピング症候群 – 消化器の疾患

ダンピング症候群(Dumping syndrome)とは、胃の手術後に食事をした際に発生する不快な症状の総称です。

胃切除術や胃バイパス術など、外科的処置を受けた患者さんに発症します。

症状は食後30分以内に出現する「早期ダンピング症候群」と、食後2〜3時間後に現れる「後期ダンピング症候群」の2つのタイプに分類されます。

早期ダンピング症候群では、腹部の痛みや吐き気、心拍数の増加、めまい感などの症状が突然現れます。

後期ダンピング症候群では、血糖値の急激な低下に伴う発汗、強い疲労感、意識レベルの変化などが代表的な症状です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ダンピング症候群の種類(病型)と症状

ダンピング症候群は早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群の2つに分類され、発症のタイミングや症状、原因が異なります。

早期ダンピング症候群は食事摂取後約30分以内に症状が出現し、後期ダンピング症候群は食後2〜3時間経過してから症状が現れるものを指します。

病型発症時間主な症状関連する体内の変化
早期症候群食後30分以内腹痛、吐き気、動悸消化管ホルモンの急激な分泌増加
後期症候群食後2〜3時間冷や汗、めまい、脱力感急激な血糖値の低下

二つの病型は、同一患者で併存することもあります。

早期ダンピング症候群

早期症候群は、食事摂取直後に大量の食物が小腸に急速に流れ込むことで起こります。

消化管ホルモンの分泌が急激に増加するため、吐き気や動悸などの症状のほか、食事の直後に激しい腹痛が症状として現れます。

「食事を終えてすぐに、お腹が風船のように膨らむ感覚があり、同時に心臓がバクバクと激しく鼓動する」というような症状が典型的な例です。

早期ダンピング症候群の症状

  • 腹部の痛み
  • 吐き気や嘔吐
  • 心臓がドキドキする感覚
  • ふらつきや目まい
  • 急に汗が出る
  • 顔が赤くなる
  • 体がだるくなる

特に、糖分を多く含む食べ物を摂取した際に症状が強く現れる傾向があります。

食事の種類症状の強さ
糖分の多い食事非常に強い
脂肪分の多い食事中程度
タンパク質中心の食事比較的弱い
食物繊維の多い食事弱い

後期ダンピング症候群

後期症候群は、食事摂取後2〜3時間経過してから症状が現れます。

後期ダンピング症候群の症状

  • 急に空腹感を感じる
  • 全身に冷や汗が出る
  • 体に力が入らなくなる
  • 物事に集中できなくなる

急激な血糖値の変動が主な原因となるため、糖分を摂取すると一時的に症状が和らぐことがあります。

ダンピング症候群の原因

ダンピング症候群は、主に胃切除術後に発生する消化器系の機能障害です。

手術による解剖学的変化が主要因

ダンピング症候群の主な原因は、胃の一部または全部を切除する手術による消化管の解剖学的変化にあります。

この変化により、食物が急速に小腸へ流入することで症状が起こります。

胃切除後は胃本来の貯留機能や調節機能が失われるため、食事内容が十分に消化されないまま小腸へ流れ込むことになり、体に負担をかけます。

手術の種類と発症リスク

手術の種類によって、ダンピング症候群の発症リスクは異なります。

手術の種類発症リスク特徴
胃全摘術高い胃を完全に摘出するため、最もリスクが高い
幽門側胃切除術中程度胃の下部を切除するため、リスクは中程度
噴門側胃切除術比較的低い胃の上部を切除するため、リスクは比較的低い

胃全摘術を受けた患者さんのうち、約75%が何らかの症状を経験するとされます。

一方、幽門側胃切除術後では約25%、噴門側胃切除術後では10%程度の方が症状を呈します。

このように、手術の範囲が広いほどダンピング症候群の発症リスクが高くなる傾向があります。

食事内容と摂取方法の影響

特に、以下の要因が症状を誘発しやすいことが知られています。

  • 高糖質食(甘いものや炭水化物が多い食事)
  • 高脂肪食(油っぽい食事)
  • 大量の食事摂取
  • 早食い

食事の内容や食べ方を工夫することで、症状の軽減が期待できます。

消化管ホルモンの変化とその影響

胃切除後は、消化管ホルモンのバランスが大きく変化します。

グレリンの減少やGLP-1やPYYの増加は、食欲調節や糖代謝に影響を与え、ダンピング症候群の症状形成に関与すると考えられています。

ホルモン変化主な影響
グレリン減少食欲低下、体重減少
GLP-1増加インスリン分泌促進、血糖値低下
PYY増加食欲抑制、消化管運動の抑制

診察(検査)と診断

ダンピング症候群の診察では、問診や血液検査、場合によっては内視鏡検査などを行い、症状や病歴、食後の血糖値の変化などを確認していきます。

問診と症状評価

問診では、食事歴、手術歴、症状の発現時期や持続時間について確認します。

この際、生活習慣や日常的な食事内容にも注目し、症状との関連性を探ります。

胃の手術歴ががあり、食後の動悸やめまい、腹痛などの症状が食後30分以内に現れる場合、早期ダンピング症候群の可能性が高くなります。

一方、食後2〜3時間後に低血糖症状が出現する場合は、後期ダンピング症候群を疑います。

症状早期ダンピング症候群後期ダンピング症候群
発症時間食後30分以内食後2〜3時間
主な症状動悸、めまい、冷や汗低血糖症状(脱力感、冷や汗、動悸)
持続時間30分〜1時間程度1〜2時間程度
関連要因高糖質食の摂取インスリン過剰分泌

血糖値モニタリング

診断の一環として、食後の血糖値の変動を観察することが大切です。

早期ダンピング症候群では食後急激な血糖上昇が見られ、後期では低血糖が観察されます。

負荷試験による評価

確定診断のために、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT:Oral Glucose Tolerance Test)を実施することもあります。

この検査では、患者さんに一定量のブドウ糖溶液を飲んでもらい、その後の血糖値と症状の変化を観察します。

時間血糖値症状医師の観察ポイント
0分基準値なし空腹時の状態を確認
30分上昇動悸、発汗急激な血糖上昇と初期症状の関連
60分急落めまい、脱力感血糖値の急激な低下と症状の変化
120分低下空腹感、不安低血糖状態の持続と関連症状

この試験でダンピング症候群特有の血糖変動と症状が再現されれば、診断の確実性が高まります。

画像診断・消化管機能検査

胃排出シンチグラフィーは、放射性同位元素で標識した食事を摂取後、その移動を追跡する検査です。

また、上部消化管造影検査では、バリウム(X線造影剤)を飲んでX線撮影を行い、胃や十二指腸の形態や機能を評価します。

検査名目的特徴
胃排出シンチグラフィー胃排出速度の測定放射性物質を使用
上部消化管造影検査消化管の形態観察バリウムを使用
経口ブドウ糖負荷試験血糖変動の評価高濃度ブドウ糖を摂取
血糖値モニタリング日常的な血糖変動の観察自宅で実施可能

診断過程では、他の消化器疾患や内分泌疾患との鑑別も必要です。

過敏性腸症候群(IBS)や甲状腺機能亢進症など、症状が類似する疾患を除外していきます。

ダンピング症候群の治療法と処方薬、治療期間

ダンピング症候群の治療は食事療法を基本とし、必要に応じて薬物療法を実施します。

食事療法

食事の内容や摂取方法を変更し、症状の軽減を目指します。具体的には、以下のような食事の工夫が効果的です。

  • 少量頻回食(1回の食事量を減らし、回数を増やす)
  • 食後30分程度の横臥(横になること)
  • 糖質の摂取制限
  • 食事と水分摂取のタイミングを分ける

薬物療法

食事療法だけでは十分な効果が得られない場合、薬物療法を併用することもあります。

主な使用薬剤

薬剤名主な効果
アカルボース糖質の吸収を遅らせる
オクトレオチド消化管ホルモンの分泌を抑制
制酸剤胃酸の分泌を抑える
整腸剤腸内環境を整える

治療期間

ダンピング症候群の治療期間は、軽度の症例では数週間から数か月程度で改善が見られることが多いですが、重度の症例や手術後の解剖学的変化が大きい場合、長期的な管理が必要です。

ダンピング症候群の治療における副作用やリスク

ダンピング症候群の治療は食事療法が中心ですが、薬物療法や手術などの治療法によっては、それぞれに副作用やリスク(例えば、薬剤によるアレルギー反応、手術に伴う感染症など)が生じる可能性があります。

薬物療法のリスクと副作用

ダンピング症候群の症状緩和に用いられる薬物には、それぞれ固有の副作用があります。

オクトレオチド(消化管ホルモンの分泌を抑制する薬)は、症状を軽減しますが、注射部位の痛みや腹痛、下痢などの副作用が報告されています。

また、アカルボース(炭水化物の吸収を遅らせる薬)は腹部膨満感や放屁の増加といった不快な症状が起こる場合があります。

手術療法に伴うリスク

重症例では手術療法が検討されますが、再建手術は消化管の構造を変更するため、術後合併症のリスクがあります。

合併症説明
縫合不全手術で縫い合わせた部分がうまくくっつかない
腸閉塞腸が詰まる状態
感染症手術部位や体内で細菌が増殖する
出血手術部位からの異常な出血

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ダンピング症候群の治療は食事療法や生活習慣の改善が基本となるため、治療費の負担は比較的抑えられます。

ただし、症状が重度の場合や薬物療法が必要な際は、費用が上がります。

食事療法・生活習慣改善の費用

栄養指導の費用は医療機関によって異なりますが、おおよそ以下の範囲となります。

項目費用
初回栄養指導5,000円〜8,000円
継続栄養指導3,000円〜5,000円

薬物療法にかかる費用

薬剤名1ヶ月あたりの費用
消化酵素薬3,000円〜5,000円
制酸剤2,000円〜4,000円
胃腸機能調整薬4,000円〜6,000円

検査費用

ダンピング症候群の診断や経過観察における、主な検査とその費用は以下の通りです。

  • 血糖値検査:1,500円〜2,500円
  • 胃排出シンチグラフィー:20,000円〜30,000円
  • 上部消化管内視鏡検査:10,000円〜15,000円
  • 腹部超音波検査:5,000円〜8,000円

以上

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