食道アカラシア – 消化器の疾患

食道アカラシア(Esophageal achalasia)とは、食道の動きに問題が生じる消化器の病気です。

通常、食道はリズミカルに収縮して食べ物を胃へ送り込みますが、この病気ではその動きがうまくいきません。

さらに食道と胃の境目にある筋肉(括約筋)が硬くなり、十分に開かなくなってしまうため、食べ物や飲み物が胃へ順調に進まず食道内に長く留まる状態となります。

この病気になると、食事中に胸に食べ物がつかえたような不快感や、飲み込みづらさを感じるようになります。

時には、むせたり胸が痛くなったり、食べたものを吐き出してしまうこともあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

食道アカラシアの種類(病型)

食道アカラシアは、食道X線造影像から直線型とシグモイド型の2つに分類され、通常は直線型からシグモイド型へと時間とともに変化していきます。

病型の進行段階観察される特徴と変化
初期段階直線型、軽度の食道拡張が見られる
中間段階軽度の蛇行が始まり、中等度の食道拡張が進行
進行期シグモイド型に移行、著明な拡張と蛇行が顕著

直線型アカラシア

直線型アカラシアはこの疾患の初期段階であり、食道が真っすぐな管状の形を保っているのが特徴です。

観察項目直線型アカラシアの特徴
食道の全体形状直線的で真っすぐ
食道壁の状態比較的なめらか
食道内腔の幅ほぼ均一で極端な拡張はない

直線型の場合は症状が比較的軽度で、早期発見できれば病気の進行を抑えられる可能性があります。

シグモイド型アカラシア

  • 食道の蛇行が顕著に見られ、S字状の湾曲が特徴
  • 食道壁の肥厚が観察され、壁の弾力性が低下
  • 食道内腔の不均一な拡張が生じ、部分的に著しく広がった領域が存在

シグモイド型アカラシアは、食道の機能障害が長期間続いた結果として現れる形態です。

食道がS字状に曲がっていることが大きな特徴となり、食物の通過障害がより顕著になるため、生活の質に影響が出てきます。

食道アカラシアの主な症状

食道アカラシアの主な症状は、飲み込みづらさ(嚥下障害)、胸の痛み、逆流、体重の減少などです。

嚥下障害

食道アカラシアでは、のどに食べ物が詰まったような感覚があり、食事にかかる時間が長くなります(少しずつゆっくりでないと食べられない)。

病気が進行すると、かたい食べ物だけでなく、水やお茶などの水分を飲み込むのも大変になります。

嚥下障害の特徴説明
症状の現れ方少しずつ悪化していく
影響を受ける食べ物かたい食べ物から液体まで幅広い
一緒に起こりやすい症状胸やけ、むせる

胸の痛み

食道アカラシアでは、食事中や食べ終わった後に、胸の真ん中あたりや喉の奥の方で痛みを感じる症状がよくみられます。

狭心症などの心臓の病気と間違えられることもあるので、注意が必要です。

逆流(食道の中身が口の中に戻ってくる)

飲み込んだ食べ物や唾液が、食道から口の中に戻ってくる「逆流」も多い症状です。

特に夜や横になった時に起こりやすいため、ぐっすり眠れなくなります。

逆流が何度も起こると肺に食道の中身が入ってしまう危険性があり、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん:食べ物などが間違って肺に入ることで起こる肺炎)のリスクが上昇します。

逆流の特徴

  • 消化されていない食べ物が口に戻ってくる
  • 夜や横になった時に悪化する
  • せきや息をするときにゼーゼーする音が出る
  • 口臭の原因になる可能性がある

体重が減る

食道アカラシアの症状が長い間続くと、飲み込みづらさのために十分な栄養を取れないために体重が減っていきます。

また、食事をすることに不安や恐れを感じて、食べる量が減ることも影響します。

栄養状態が悪くなると体全体の健康に影響するので、早めに対処することが望ましいです。

その他の症状

主な症状以外にも、せき、声がかすれる、胸やけなども見られることがあります。

食道アカラシアの原因

食道アカラシアの原因は、主に食道の神経系に異常が生じ、それに伴って筋肉機能が低下することです。

神経系の異常

食道アカラシアは、食道壁に存在する神経叢(しんけいそう:神経細胞の集まり)の変性や消失が原因です。

この病気になると、食道の蠕動運動(ぜんどううんどう:食べ物を送り込む波のような動き)や、下部食道括約筋(かつやくきん:食道と胃の境目にある筋肉)の弛緩(しかん:ゆるむこと)が正しく行われなります。

神経系の異常の要因

  • 自己免疫疾患(からだの免疫システムが自分の組織を攻撃してしまう病気)
  • ウイルス感染
  • 遺伝的要因
  • 環境因子

筋肉機能の低下

神経系の異常に伴い、食道の筋肉機能も低下していきます。特に、下部食道括約筋の弛緩障害が大きな要因となります。

食物を飲み込む際には下部食道括約筋がゆるんで開くのですが、この機能が失われると、食物の通過が妨げられてしまいます。

正常な食道の特徴食道アカラシアの食道の特徴
蠕動運動が円滑に行われる蠕動運動が不規則になる
括約筋が適切にゆるんで開く括約筋がうまくゆるまず開きにくい
食べ物がスムーズに胃に送られる食べ物が食道内にとどまりやすい
神経伝達が正常に機能する神経伝達に障害が生じる

神経伝達物質の影響

食道アカラシアの発症には、特に一酸化窒素(NO)やバソアクティブ・インテスティナル・ペプチド(VIP)などの神経伝達物質が減少していることが分かっています。

炎症と線維化の影響

食道アカラシアでは、長期にわたる炎症反応によって食道壁の線維化(組織が硬くなること)が起こり、食道の柔軟性が失われていきます。

その結果、食道の機能がさらに悪化するという悪循環に陥ってしまうのです。

炎症が食道に与える影響線維化によって生じる結果
食道の組織が腫れる食道の組織が硬くなる
食道の細胞が傷つく食道の弾力性が失われる
痛みや不快感が生じる食道の動きが制限される
免疫細胞が集まる治療が難しくなる

診察(検査)と診断

食道アカラシアの診断では、食道運動機能検査(食道内圧検査)によって食道の異常な動きを調べます。通常は、バリウム検査や内視鏡検査で初期的な診断を行います。

画像検査

バリウム造影検査では、造影剤を飲み込んでいただきX線撮影を行うことで、食道の形態や動きを調べることができます。

特徴的所見調べること
鳥嘴状狭窄食道末端部の先細り
食道拡張上部食道の拡張
蠕動欠如食道壁の動きの消失
造影剤停滞バリウムの通過遅延

内視鏡検査では、食道壁の肥厚や液体貯留、食物残渣の有無を確認します。また、粘膜の状態もチェックし他の疾患の可能性も検討していきます。

機能検査

食道内圧検査は、細いカテーテルを鼻から挿入して食道の圧力や動きを測定するものです。

確認する所見

  • LES弛緩不全(食道括約筋の開きにくさ)
  • 食道体部蠕動消失
  • 食道内圧上昇
  • 異常な収縮波形(食道運動の乱れ)

鑑別診断

食道アカラシアと症状が類似している疾患との鑑別が必要です。特に、悪性腫瘍による偽アカラシアの見逃しには注意が必要です。

  • 偽アカラシア(食道や胃噴門部の悪性腫瘍)
  • びまん性食道痙攣
  • 好酸球性食道炎
  • 強皮症による食道機能障害
  • 食道裂孔ヘルニア

確定診断

臨床症状、画像所見、機能検査結果に基づき確定診断を行い、シカゴ分類に基づいて、アカラシアのサブタイプを判定します。

サブタイプ特徴
タイプI食道体部の収縮完全消失
タイプII加圧による食道体部の膨張
タイプIII痙攣性収縮を伴う
タイプIV機能的閉塞を伴う

食道アカラシアの治療法と処方薬、治療期間

食道アカラシアの治療は、薬による治療、内視鏡を使った治療、手術による治療を組み合わせて行っていきます。

治療にかかる時間は状態によって異なりますが、数週間から数か月程度が目安となります。

治療法の選択

治療法どんな時に選ばれるか
薬による治療症状が軽い〜中くらいの時
内視鏡を使った治療症状が中くらい〜重い時
手術による治療症状がとても重い時や他の治療法が効かなかった時

食道アカラシアの治療法は、症状や重症度、症状、年齢などを考慮して選んでいきます。多くの場合、まずは薬による治療を試みます。

薬による治療で十分な効果が得られない場合は、内視鏡を使った治療や手術による治療を検討します。

薬による治療

薬物治療では、カルシウムチャネル遮断薬や硝酸薬などを使い、食道の筋肉をゆるめ、食べ物が通りやすくすることを目指します。

薬による治療の効果は人それぞれで、症状が良くなるまでに数週間から数か月かかります。

薬の名前どのように働くか
ニフェジピンカルシウムの通り道をふさいで筋肉をゆるめる
イソソルビド一酸化窒素という物質を介して筋肉をゆるめる

内視鏡を使った治療

内視鏡を使った治療は、薬による治療であまり効果が得られなかった場合や、もっと早く症状を良くしたい場合に検討していきます。

代表的な内視鏡治療には、バルーン拡張術とボツリヌス毒素注入療法があります。

内視鏡を使った治療法特徴
バルーン拡張術すぐに効果が出るが、症状が戻ってくる可能性がある
ボツリヌス毒素注入一時的に効くが、定期的に治療を繰り返す必要がある

バルーン拡張術は、内視鏡を使って食道の出口付近に入れた風船を膨らませ、筋肉を強制的に広げる方法です。

ボツリヌス毒素注入療法は、食道の出口付近の筋肉にボツリヌス毒素(筋肉の動きを止める薬)を直接注射して、筋肉を一時的に動かなくする治療法です。

内視鏡を使った治療の効果は比較的早く現れますが、長く効果を保つためには、治療を繰り返す必要が出てくることがあります。

手術による治療

手術による治療は、他の治療法であまり効果が得られなかった場合や、重症の患者さんが適応となります。

最もよく行われる手術方法は、腹腔鏡下筋層切開術(POEMと呼ばれる方法)です。

POEMは、内視鏡を使って食道の筋肉の層を切開し、食道の出口付近の筋肉の力を弱める方法です。

この手術は、お腹を大きく切り開く従来の手術に比べて体への負担が少なく、回復が早い方法です。

手術後の回復期間は通常1〜2週間程度ですが、完全に回復して症状が良くなるまでには数か月かかります。

手術による治療のメリット

  • 長い期間症状が良くなる
  • 1回の治療で持続的な効果が得られる
  • 薬による治療や内視鏡を使った治療に比べて、症状が再び現れる可能性が低い

食道アカラシアの治療における副作用やリスク

食道アカラシアの治療では、薬物療法では眠気や口渇などが、内視鏡治療では出血や感染症のリスクがあり、手術では他の外科手術と同様に合併症のリスクが伴います。

治療法ごとの副作用とリスク

治療法主な副作用とリスク
バルーン拡張術食道穿孔、出血
腹腔鏡下筋層切開術逆流性食道炎、感染

バルーン拡張術では、食道穿孔(食道に穴が開くこと)が最も重大な合併症となります。穿孔が発生した場合には、緊急手術が必要です。

薬物療法のリスクと注意点

カルシウム拮抗薬(血管を広げる薬)や硝酸薬(血管を拡張させる薬)などの薬剤を使用しますが、血圧低下や頭痛などの副作用が生じる可能性があります。

特に高齢の方や他の病気をお持ちの患者さんでは、薬物相互作用にも気をつける必要があります。

手術療法のリスクと合併症

  • 手術中や手術後の出血
  • 感染症
  • 縫合不全
  • 気胸(肺を取り巻く膜の中に空気がたまる状態)
合併症発生頻度対処法
出血1-3%止血処置、輸血
感染症2-5%抗生物質の投与

治療後の長期的なリスク

食道アカラシアの治療後、長期的なリスクとして最も代表的なものは、胃食道逆流症(GERD:胃の内容物が食道に逆流する病気)の発症です。

下部食道括約筋の機能が低下することで胃酸が食道に逆流しやすくなり、新たな症状や合併症が起こる可能性があります。

また、治療後も飲み込みづらさ(嚥下困難)が完全に解消されない場合もあり、食べ物や飲み物が気管に入ってしまう誤嚥性肺炎のリスクが残る場合があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

食道アカラシアの治療費は、治療法(薬物療法、内視鏡治療、手術など)、入院期間、使用する医療機器などによって異なります。

保存的治療の費用

治療法概算費用(月額)
薬物療法5,000円〜15,000円
食事指導3,000円〜8,000円

内視鏡的治療の費用

  • バルーン拡張術 10万円〜20万円
  • Botulinum toxin 注入療法 15万円〜25万円
  • 経口内視鏡的筋層切開術 (POEM) 50万円〜80万円

外科的治療の費用

手術法概算費用
腹腔鏡下筋層切開術80万円〜150万円
開腹手術100万円〜200万円

以上

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