劇症肝炎 – 消化器の疾患

劇症肝炎とは、通常の肝炎とは異なり、極めて短期間のうちに肝臓の機能が急激に低下して重篤な状態に陥る疾患であり、早期発見が生命予後を大きく左右する重要な因子となります。

肝臓の細胞が急速に壊死することで、私たちの生命維持に不可欠である解毒作用や栄養素の代謝などの重要な機能が著しく損なわれ、深刻な事態を引き起こします。

このような病態は意識障害や出血傾向などの重大な合併症につながる可能性が高く、緊急の医療対応を必要とする非常に危険な状態として認識されています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

劇症肝炎の主な症状

劇症肝炎は急激な症状の進行を特徴とする深刻な肝疾患であり、発症から約1週間で重篤な状態に進展することがあります。

早期発見と迅速な対応によって予後が大きく変わるため、症状の理解と早期の医療機関受診が生命予後に深く関わります。

初期症状と全身状態の変化

劇症肝炎の初期症状は、一般的な感染症に類似した症状から始まることが多く、体のだるさや食欲不振、38.5度前後の発熱などが特徴的な徴候として現れます。

全身倦怠感は通常の感染症よりも強く、日常生活に支障をきたすほどの強さで出現し、多くの患者さんは横になって休息を取る必要性を感じます。

黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)は発症後24〜72時間以内に出現することが多く、肝機能の急激な低下を示す重要なサインとなります。

初期の段階で食欲は通常の50%以下まで低下し、体重減少は1週間で平均2〜3kg程度認められます。

初期症状発現時期特徴的な身体変化
全身倦怠感発症直後持続的な疲労感
食欲不振24時間以内急激な体重減少
発熱48時間以内38.5度前後の熱発

消化器系の具体的な症状

消化器系の症状として、右上腹部を中心とした持続的な痛みや不快感が顕著です。腹部の圧痛は肋骨弓下(みぞおちの下)で特に強く、深い呼吸時に増強します。

肝臓の腫大により、腹囲は通常3〜5cm程度増加し、ウエストサイズの急激な変化として自覚されます。嘔吐は1日に3〜4回程度発生し、食事摂取量は通常の20%程度まで減少することもあります。

症状発現頻度特徴
腹痛85%右上腹部優位
嘔吐70%1日3〜4回
腹部膨満60%腹囲3〜5cm増加

神経系の症状と意識状態の変化

肝性脳症(肝機能低下による意識障害)は発症後72時間から1週間以内に出現します。

初期には軽度の見当識障害や集中力低下として現れ、会話の内容が徐々にちぐはぐになっていきます。睡眠覚醒リズムの乱れは約80%の患者さんで認められ、昼夜が逆転する症状として現れます。

出血傾向と皮膚症状

出血傾向は肝機能低下の進行に伴い出現し、血小板数が通常の50%以下(5万/μL未満)に低下すると顕著になります。皮下出血は直径2cm以上の大きさで出現することが多く、特に下肢に好発します。

出血症状出現率特徴的な所見
歯肉出血65%自然発生性
皮下出血55%直径2cm以上
鼻出血45%止血困難

全身症状の進行と緊急性

全身症状は24〜48時間単位で進行し、複数の症状が重なり合って出現します。黄疸指数(総ビリルビン値)は通常の15〜20倍(15mg/dL以上)まで上昇し、皮膚の黄染が明確になります。

劇症肝炎の症状は多岐にわたり、発症から約1週間という短期間で重篤化します。早期の気づきと医療機関受診が予後改善の要となります。

劇症肝炎の原因

劇症肝炎は複数の要因が複雑に絡み合って発症する深刻な肝疾患です。

全体の約40%がウイルス性、約20%が薬物性、残りの40%が自己免疫性や代謝性など、様々な原因によって引き起こされます。

医学的な解明が進む一方で、まだ原因不明の症例も約15%存在します。

ウイルス感染による発症機序

ウイルス性の劇症肝炎では、A型肝炎ウイルスが全体の約15%、B型肝炎ウイルスが約20%を占めています。

これらのウイルスが肝細胞に感染すると、免疫システムが通常の10倍以上の強さで反応し、48時間以内に約80%の肝細胞が破壊されることもあります。

特に、B型肝炎ウイルスキャリア(無症候性感染者)からの急性増悪では、肝細胞の破壊速度が通常の2〜3倍に加速され、発症から72時間以内に重篤な状態に陥ることがあります。

E型肝炎ウイルスによる発症は全体の約5%と比較的少数ですが、妊婦では重症化率が約25%に上昇します。

ウイルスの種類発症頻度重症化までの期間
A型肝炎ウイルス15%5-7日
B型肝炎ウイルス20%3-5日
E型肝炎ウイルス5%7-10日

自己免疫反応による発症

自己免疫性の劇症肝炎は全症例の約15%を占め、その90%以上が20〜50歳の年齢層で発症します。

通常の自己免疫性肝炎との大きな違いは、抗核抗体価が1,280倍以上の高値を示す割合が約60%に達することです。

肝生検では、CD8陽性T細胞が通常の5〜10倍に増加し、炎症性サイトカインのTNF-αやIL-6が健常者の約20倍まで上昇します。

自己抗体の種類陽性率抗体価上昇倍率
抗核抗体60%1,280倍以上
抗平滑筋抗体40%640倍以上
抗LKM-1抗体20%320倍以上

薬物性肝障害からの進展

薬物性の劇症肝炎は全体の約20%を占め、その内訳は解熱鎮痛薬が約40%、抗生物質が約25%、漢方薬が約15%となっています。

特に、アセトアミノフェン系解熱鎮痛薬による過量摂取では、24時間以内に血中濃度が通常の5倍以上に上昇し、48時間以内に肝逸脱酵素が1,000IU/L以上まで急上昇します。

原因薬物発症率血中濃度上昇
解熱鎮痛薬40%5倍以上
抗生物質25%3倍以上
漢方薬15%測定困難

代謝性要因と環境因子

代謝性の劇症肝炎は全体の約10%を占め、アルコール多飲者では発症リスクが通常の3倍に上昇します。

ミトコンドリアDNA変異を持つ患者では、エネルギー代謝効率が健常者の約50%まで低下し、通常の2倍以上の代謝ストレスがかかります。

劇症肝炎の原因は多岐にわたり、それぞれの要因が複雑に関連しあって発症に至ります。早期の原因特定が予後改善の鍵となります。

診察(検査)と診断

劇症肝炎の診断プロセスは、問診から始まる初期評価、各種血液検査、画像検査、そして必要に応じた肝生検まで、複数の段階を経て進められます。

初期診察と基本的検査

初期診察における問診では、発症から受診までの期間を明確にし、既往歴や服薬歴を詳細に確認します。

身体診察では、黄疸の程度を客観的に評価し、腹部の状態を丁寧に診察します。

基本的な血液検査では、AST(GOT)とALT(GPT)が正常値の10倍以上(300 IU/L以上)に上昇し、総ビリルビン値は5.0 mg/dL以上となることが特徴的です。

肝機能の指標となるアルブミン値は通常の3.8-5.3 g/dLから2.8 g/dL未満まで低下し、血小板数も正常値(15-35万/μL)から10万/μL未満まで減少します。

検査項目正常値劇症肝炎時の値重症度判定
AST(GOT)10-40 IU/L300以上中等度
ALT(GPT)5-45 IU/L300以上中等度
総ビリルビン0.2-1.2 mg/dL5.0以上重度
アルブミン3.8-5.3 g/dL2.8未満重度

血液凝固系検査と意識レベル評価

血液凝固能の評価では、プロトロンビン時間(PT)が正常の40%以下に低下し、国際標準比(INR)が1.5以上に延長します。

意識レベルは日本式昏睡尺度(JCS)やグラスゴー昏睡尺度(GCS)を用いて評価し、血中アンモニア値は正常値(30-80 μg/dL)の2-3倍(150-200 μg/dL以上)まで上昇します。

これらの値は6-12時間ごとに再評価し、経時的な変化を追跡することで、病態の進行速度を判断します。

  • 血液凝固能検査:PT活性値 40%以下、INR 1.5以上
  • 意識レベル評価:JCS 2桁以上、GCS 12点以下
  • アンモニア値:150-200 μg/dL以上
  • 血中ケトン体比:0.4以下

画像診断による肝臓評価

画像診断では、腹部超音波検査、造影CT検査、MRI検査を組み合わせて実施します。

超音波検査では肝臓の輝度が上昇し、実質エコーパターンの粗雑化を認めます。CT検査では肝容積が5-7日で通常の70%以下まで急速に縮小し、MRIのT1強調像では肝実質の信号強度が低下します。

造影検査による門脈血流速度は通常の12-18 cm/秒から8 cm/秒以下まで低下します。

検査方法主な所見診断的意義所要時間
超音波実質エコー上昇肝実質評価15-20分
造影CT肝容積70%以下壊死範囲測定10-15分
MRIT1信号低下組織性状評価30-40分

劇症肝炎の診断には、複数の検査結果を総合的に評価することが必要です。

各検査値の変動を継時的に追跡し、早期の確定診断につなげることが予後改善の鍵となります。

劇症肝炎の治療法と処方薬、治療期間

劇症肝炎の治療は、内科的治療、血液浄化療法、人工肝補助療法など、複数の治療法を組み合わせて実施します。

発症から肝移植までの平均期間は10-14日間であり、集中治療室での厳密な全身管理が予後改善に直結します。

初期治療と全身管理

急性期の治療では、肝庇護薬の投与と全身状態の管理を並行して行います。

グリチルリチン製剤を1日40-100mL投与し、血中アンモニア値を150μg/dL以下に維持します。また、ビタミンK製剤10-20mg/日の投与により、プロトロンビン時間を40%以上に保つことを目指します。

栄養管理では、分岐鎖アミノ酸製剤を1日500-1000mL投与し、総カロリー摂取量を基礎代謝の1.3-1.5倍(通常25-35kcal/kg/日)に設定します。

輸液療法では、肝代謝を考慮した製剤を選択し、1日2000-3000mLの投与量で血糖値を120-180mg/dLに維持します。

治療薬投与量投与期間目標値
グリチルリチン製剤40-100mL/日2-4週間NH3 150μg/dL以下
ビタミンK製剤10-20mg/日1-2週間PT 40%以上
分岐鎖アミノ酸製剤500-1000mL/日継続アルブミン3.0g/dL以上

血液浄化療法と人工肝補助

血漿交換は1日1回、3-4時間かけて実施し、40-50単位の新鮮凍結血漿を用います。

血液濾過透析は24時間持続的に行い、濾過量は体重1kgあたり20-25mL/時に設定します。

アルブミン透析では、6-8時間の治療を1日1-2回実施し、血中ビリルビン値を20mg/dL以下に維持することを目標とします。

浄化療法治療時間置換液量頻度
血漿交換3-4時間/回40-50単位1回/日
血液濾過透析24時間20-25mL/kg/時持続的
アルブミン透析6-8時間/回4000mL/回1-2回/日

集中治療管理

循環動態の維持には、平均動脈圧65mmHg以上、中心静脈圧8-12mmHg、尿量0.5mL/kg/時以上を目標とします。

人工呼吸器管理下では、一回換気量6-8mL/kg、PEEP 5-10cmH2O、動脈血酸素飽和度95%以上を維持します。頭蓋内圧は持続モニタリングを行い、20mmHg以下に管理します。

劇症肝炎の治療では、複数の治療法を組み合わせた集学的治療を行い、全身状態を厳密に管理します。

各治療の効果判定を継続的に行いながら、最適な治療方針を選択していきます。

劇症肝炎の治療における副作用やリスク

劇症肝炎の治療過程では、様々な副作用や合併症への対策が必要となります。

治療開始から2週間以内に約35%の患者さんが何らかの合併症を経験し、特に血液浄化療法と免疫抑制療法に関連する合併症が多くみられます。

血液浄化療法に関連するリスク

血漿交換や血液濾過透析などの血液浄化療法では、治療開始後30分以内に血圧低下が20-25%の患者さんで発生し、収縮期血圧が80mmHg以下まで低下するケースもみられます。

アレルギー反応は新鮮凍結血漿の投与開始から15-30分以内に15-20%の頻度で出現し、重症例では血圧低下や呼吸困難を伴います。

出血傾向は抗凝固薬の使用により25-30%で増強し、血小板数が3万/μL以下に低下すると、自然出血のリスクが著しく上昇します。

合併症発生頻度発症時期重症度指標
血圧低下20-25%30分以内収縮期血圧<80mmHg
アレルギー15-20%15-30分以内酸素飽和度<90%
出血傾向25-30%持続的血小板<3万/μL

免疫抑制療法による感染症リスク

ステロイド療法開始後1週間以内に約40%の患者さんで白血球数が4,000/μL以下に低下し、重症感染症の発症リスクが通常の3-4倍に上昇します。

肺炎は最も頻度の高い合併症で、治療開始から10日以内に約20%で発症し、起炎菌の特定が困難な例が多くみられます。

カテーテル関連血流感染症は、中心静脈カテーテル留置7日目以降に約15%で発生し、カンジダ属による感染が30-40%を占めます。

感染症発生頻度好発時期主な起炎菌
肺炎20%10日以内緑膿菌/MRSA
血流感染15%7日以降カンジダ属
尿路感染10%14日以降大腸菌

人工呼吸器管理に伴う合併症

人工呼吸器関連肺炎は、挿管後48-72時間以降に約30%で発症し、一回換気量が8mL/kgを超える設定では、肺損傷のリスクが2倍に増加します。

気道内圧が30cmH2O以上になると、循環抑制が顕著となり、心拍出量が20-30%低下します。

気管チューブのカフ圧が25cmH2O以上の状態が24時間以上継続すると、気道粘膜損傷のリスクが急上昇します。

劇症肝炎の治療における副作用やリスクは、発症時期や重症度に特徴的なパターンを示します。

医療スタッフによる24時間体制の観察と、早期の対応が合併症の予防と軽減に直結します。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

劇症肝炎の診療には、肝庇護薬(かんひごやく:肝臓を保護する薬)や免疫抑制剤などの薬剤費をはじめ、高度な医療設備を必要とする入院費、血液浄化療法など、複数の医療費用が必要となります。

処方薬の薬価

主な治療薬の薬価は、肝庇護薬が1日あたり2,500-4,000円、免疫抑制剤が3,000-6,000円、抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)が1,500-3,000円程度となります。

これらの薬剤を組み合わせて使用するため、1日の薬剤費総額は7,000-13,000円ほどになるのが一般的です。

薬剤分類1日薬価(税込)主な使用期間
肝庇護薬2,500-4,000円2-4週間
免疫抑制剤3,000-6,000円状態により調整
抗凝固薬1,500-3,000円1-2週間

1週間の治療費

急性期の治療では集中治療室での管理が基本となり、1週間あたり15-20万円の室料が発生します。

特に高度な医療処置である血液浄化療法には週30-40万円程度の費用を要し、さらに各種検査費用や投薬料を合わせると、1週間の総額はおよそ70-100万円に達します。

  • 集中治療室管理料:15-20万円/週(個室料金を含む)
  • 血液浄化療法費:30-40万円/週(材料費込み)
  • 薬剤費総額:15-20万円/週(検査用薬剤を含む)
  • 各種検査費:10-20万円/週(画像診断料を含む)

1か月の治療費

標準的な治療期間である1か月の総額は、人工肝補助療法や血漿交換療法などの特殊治療を含めると、約250-350万円となります。

ただし、個々の病状や必要となる医療処置により、この金額は上下することをご理解ください。

以上

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