胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE) – 消化器の疾患

胃前庭部毛細血管拡張症(Gastric Antral Vascular Ectasia:GAVE)とは、胃の出口付近にあたる前庭部に、特徴的な血管の異常拡張が見られる疾患です。

胃の内壁に存在する微小血管が異常に拡張し、内視鏡検査時に赤い斑点や縞模様のような特徴的な外観を呈することから、「watermelon stomach(スイカ胃)」とも呼ばれます。

GAVEは持続的な出血を引き起こすことから、貧血や鉄欠乏症などの二次的な健康問題につながる恐れがあります。

原因は現在も研究段階ですが、肝硬変や自己免疫疾患、慢性腎不全などの基礎疾患との関連性が指摘されています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の主な症状

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の主な症状は、長期にわたる貧血と消化管からの出血です。

胃の前庭部(胃の出口付近)の血管が異常に拡張することで起こります。

貧血の進行と関連症状

GAVEによる貧血はゆっくりと進行し、体力が徐々に低下していきます。日常生活に支障をきたすようになるまで、気づかないことも少なくありません。

貧血に伴う症状には、全身のだるさや疲れやすさ、息切れ、動悸、めまい、立ちくらみ、頭痛、集中力の低下などがあります。

貧血の程度主な症状
軽度疲れやすさ、軽い息切れ
中等度動悸、めまい、集中力低下
重度重度の息切れ、失神

消化管出血の特徴

GAVEにおける消化管出血も貧血と同様、慢性的かつゆっくりと進行します。

慢性的な出血では、便の色が黒くなる「メレナ」と呼ばれる症状が特徴的です。

まれに急に大量の出血が起こることがあり、口から血を吐く「吐血」や、赤い血液を含む便が出る「下血」が見られることがあります。

出血の種類特徴主な症状
慢性出血ゆっくりと進行、長期間持続メレナ(黒い便)、貧血の進行
急性出血突然の大量出血、緊急性が高い吐血、下血、ショック症状

非特異的な消化器症状

GAVEの患者さんの中には、腹痛(特に上腹部)、吐き気や嘔吐、食欲不振、体重減少、お腹が張る感じなどの消化器に関する症状がみられる方もいます。

GAVEに特有の症状というわけではありませんが、胃の機能が正常に働かなくなったり、長期間の出血による影響で起こります。

症状特徴
腹痛上腹部を中心とした痛み
吐き気・嘔吐食事摂取が困難になることも
食欲不振体重減少につながる可能性
腹部膨満感胃の機能障害による

症状の進行度

GAVEの症状は病状の進み具合によっても現れ方が変わってきます。

軽度の場合は無症状や軽い貧血症状のみのこともありますが、中等度になると明らかな貧血症状や軽い消化器症状が現れます。

重度の場合は、重い貧血や頻繁な消化管出血、顕著な消化器症状が見られます。

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の原因

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の原因は、複数の要因が複雑に絡み合う病態であり、単一の原因を特定することが困難です。

門脈圧亢進、蠕動運動亢進、血管拡張物質、自己免疫、代謝異常などが関与していると考えられていますが、未だ完全には解明されていません。

基礎疾患との関係

GAVEは特に肝硬変や自己免疫疾患との関連性が強く、このような疾患を抱える方は発症リスクが高まる傾向が見られます。

肝硬変患者の約30%にGAVEが確認されるという報告もあり、肝機能障害がGAVEの発症に深く関わっていると推測されます。

自己免疫疾患の中では、特に強皮症(皮膚や内臓の線維化が進行する疾患)や慢性関節リウマチとの関連が指摘されています。

基礎疾患GAVEとの関連性推定されるメカニズム
肝硬変強い門脈圧亢進、血管作動性物質の代謝異常
強皮症中程度血管構造の変化、自己抗体の影響
慢性関節リウマチ中程度慢性炎症、血管新生因子の過剰産生
慢性腎不全弱い尿毒症による血管障害

解剖学的特徴による機械的ストレス

胃前庭部は解剖学的に特殊な位置にあり、胃の収縮運動や蠕動運動(食物を送り出す波のような動き)の影響を強く受ける部位です。

繰り返される機械的刺激が血管壁の脆弱化や拡張を引き起こしやすく、胃酸による化学的刺激も加わることで粘膜下の血管に対する負荷が増大し、毛細血管の拡張につながると考えられています。

胃酸の分泌量が多い方や逆流性食道炎のある方では、この化学的刺激の影響がより顕著になります。

そのほか、長年の激しい運動習慣を持つアスリートの患者さんにGAVEが見つかるようなケースもあります。

この方の場合、激しい運動による腹部への物理的ストレスが胃前庭部の血管に影響を与えた可能性が考えられます。

神経内分泌系の乱れ

GAVEの患者さんでは血管拡張作用を持つ一酸化窒素(NO)やプロスタグランジンなどの物質の産生が局所的に増加していることから、神経内分泌系の乱れが持続的な血管拡張状態をもたらしているのではないかと考えられています。

神経内分泌因子主な作用GAVEにおける推定役割
一酸化窒素(NO)血管拡張過剰産生による持続的血管拡張
プロスタグランジン血管拡張、粘膜保護局所的な過剰産生、血管透過性亢進
セロトニン血小板凝集、血管収縮バランスの乱れによる血管調節障害
エンドセリン強力な血管収縮産生低下による血管拡張の持続

年齢と性別の影響

GAVEは高齢者や女性に多く見られる傾向があり、加齢に伴う血管壁の脆弱化や、女性ホルモンの影響が関与している可能性があります。

特に閉経後の女性で発症率が高いことから、エストロゲンの減少がGAVEの発症リスクを高めるとされています。

診察(検査)と診断

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の診断では、内視鏡検査によって胃前庭部の毛細血管拡張像を確認します。

内視鏡検査

内視鏡検査では、胃前庭部のGAVEに特有の所見を確認していきます。

所見特徴
赤色縦縞模様胃前庭部に放射状に広がる赤い線状病変
血管拡張粘膜表面の毛細血管の拡張
粘膜の浮腫胃前庭部粘膜の腫れ
易出血性内視鏡接触による容易な出血

生検・病理学的検査

内視鏡検査時に病変部位から組織を採取し、病理学的検査を実施します。

病理検査で確認する所見

  • 毛細血管の拡張と増生
  • 粘膜固有層の線維化
  • 血栓形成
  • 粘膜上皮の過形成

鑑別診断

GAVEの診断では、類似した症状や内視鏡所見を呈する他の疾患との鑑別が必要です。

鑑別が必要な疾患

疾患名鑑別のポイント
門脈圧亢進症性胃症胃底部や胃体部に好発
放射線性胃炎放射線治療の既往
慢性胃炎びまん性の粘膜変化
血管形成異常単発性の病変

補助的検査

GAVEの診断精度を高めるために、以下のような補助的検査を行う場合もあります。

検査名目的
血液検査貧血の程度や鉄欠乏の状態を評価
凝固機能検査出血傾向の有無を確認
腹部超音波検査他の消化器疾患の除外や合併症の評価
CT検査他の消化器疾患の除外や合併症の評価

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の治療法と処方薬、治療期間

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の治療では、内視鏡的治療や薬物療法、重症例では外科的介入を検討します。

内視鏡的治療

内視鏡的治療はGAVEに対する最も一般的な治療法で、内視鏡(胃カメラ)を用いて、直接病変部位の異常な血管を焼灼または凝固させることで症状の改善を図ります。

主な内視鏡的治療法

  • アルゴンプラズマ凝固療法(APC)
  • 内視鏡的バンド結紮術(EBL)
  • 高周波凝固療法

内視鏡的治療法は出血を止め、異常な血管を縮小させる効果があります。

通常は複数回の施術が必要となり、治療期間は通常2〜3か月程度が目安となります。

薬物療法

薬物療法では、出血のリスクを低減し、症状を管理する目的で以下の薬剤を主に使用します。

薬剤名主な作用使用目的
トラネキサム酸抗線溶作用血液凝固の促進
オクトレオチド血管収縮作用出血の抑制
エストロゲン-プロゲステロン配合剤血管新生抑制異常血管の形成を抑える

薬物療法の効果は個人差が大きいため、定期的な経過観察と必要に応じた投薬調整が必要です。

外科的治療

内視鏡的治療や薬物療法が効果を示さない重症例では、外科的治療を検討します。

主な外科的治療法

手術名手術内容適応
胃前庭部切除術胃の下部(前庭部)を切除病変が前庭部に限局している場合
胃全摘術胃全体を摘出広範囲に病変が及ぶ場合

外科的治療後の回復期間は個人差がありますが、通常1〜2か月程度です。

その後も定期的な経過観察が必要となり、栄養管理や合併症の予防にも注意が必要です。

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の治療における副作用やリスク

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の治療には、出血のリスクや再発など、様々な副作用やリスクが伴います。

内視鏡的治療に伴うリスク

アルゴンプラズマ凝固療法(APC)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)などの処置では、胃壁に穴が開く穿孔や、予期せぬ出血が起こる可能性があります。

内視鏡的治療主なリスク
アルゴンプラズマ凝固療法(APC)穿孔、出血
内視鏡的粘膜切除術(EMR)穿孔、出血、狭窄

薬物療法に関連する副作用

胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤は、長期使用により骨折のリスクが高まったり、ビタミンB12が不足したりする可能性があります。

また、血管を収縮させる作用のあるオクトレオチドには、下痢や腹痛、胆石の形成などの副作用が報告されています。

長期的に薬を使用することで副作用が発生するリスクが高まるため、定期的に検査を受けることが大切です。

手術療法のリスクと合併症

手術療法のリスク具体的な症状や影響
麻酔関連の合併症呼吸困難、アレルギー反応
感染症発熱、創部の腫れや痛み
消化管機能障害食事の消化不良、下痢や便秘
栄養吸収の問題体重減少、貧血

再発のリスクと長期的な影響

GAVEの治療を受けた後も、再発のリスクは常に存在します。特に高齢の方や、肝硬変、自己免疫疾患などの基礎疾患をお持ちの方は、再発のリスクが高くなります。

再発を防ぐためには、定期的に内視鏡検査を受け、適切な生活習慣を維持することが大切です。

再発リスク因子影響
高齢治療効果の低下、回復の遅れ
肝硬変出血リスクの増加、治療の複雑化
自己免疫疾患病態の複雑化、治療反応性の低下

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)の治療費は、症状の程度や選択する治療法によって大きく異なります。一般的に内視鏡的治療が主な選択肢となり、費用は数万円から数十万円程度が目安です。

治療法による費用の違い

治療法概算費用
アルゴンプラズマ凝固法(APC)3-8万円
内視鏡的粘膜切除術(EMR)8-15万円

治療回数と総費用

GAVEの治療は複数回必要になることが多く、総費用は治療回数に応じて増加します。

  • 初回治療費用 8-15万円
  • 追加治療(1回あたり) 3-8万円
  • 平均的な総治療費用 25-40万円

入院費用の目安

項目費用(1日あたり)
入院基本料0.8-1.5万円
食事代0.4-0.8万円

以上

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