痔核(内痔核・外痔核・嵌頓痔核) – 肛門の疾患

痔核とは、肛門周辺に存在する血管組織が慢性的な圧力や刺激によって瘤状に膨らみ、様々な不快な症状を引き起こす病気のことを指します。

この疾患は、年齢や性別を問わず発症する可能性があり、特に現代社会において座り仕事が多い方や、生活習慣の乱れによって便秘や下痢を繰り返す方に多く見られます。

肛門内の繊細な血管組織は、便通異常や過度の緊張によって徐々に変化し、出血や痛み、違和感といった症状を引き起こすことで、日常生活の質を著しく低下させる原因となることがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

痔核の種類(病型)

肛門疾患の一種である痔核は、発生部位や状態によって明確な病型分類がなされています。

内痔核、外痔核、嵌頓痔核という3つの主要な分類があり、この分類体系は世界的な診断基準として確立されています。

診療の現場では、各病型の特徴を正確に把握することで、患者様の状態を的確に評価することが重要です。

内痔核の基本的特徴

内痔核は歯状線(直腸と肛門管の境界線)より口側に発生する痔核の一つで、解剖学的に特徴的な構造を持っています。

この部位では、粘膜下層に存在する豊富な血管叢が徐々に拡張することで形成されます。

歯状線より上部に位置するため、痛覚を伝える知覚神経の分布が比較的少ないという特徴が見られます。

内痔核の発生位置には一定の規則性があり、肛門の形状を時計の文字盤に例えると、主に3時、7時、11時の位置に集中して現れます。

この分布は、上直腸動脈の3つの主要な分枝の走行と密接に関連しています。

発生位置関連する血管発生頻度
3時方向右後方枝約30%
7時方向左側枝約35%
11時方向右前方枝約35%

外痔核の形態と特徴

外痔核は歯状線より肛門側に形成される特徴的な病変で、皮膚に覆われた血管叢の異常拡張によって生じます。

内痔核とは異なり、この部位には豊富な体性神経が分布しているため、より鋭敏な症状を引き起こす傾向にあります。

外痔核の形成過程では、肛門周囲の静脈叢が関与し、肛門縁に沿って全周性に皮膚のひだを形成します。この特徴的な形態は、解剖学的な血管走行と密接に関連しています。

  • 皮膚で覆われた隆起性病変として視認が容易
  • 肛門縁に沿って同心円状に発生する特徴
  • 体性神経の豊富な分布による知覚過敏

嵌頓痔核の特殊性

嵌頓痔核は、内痔核が肛門管外に脱出した状態で、肛門括約筋により強く締め付けられることで発生する特殊な病態です。

この状況下では、組織の血行障害が急速に進行し、浮腫や炎症が顕著となります。

病態の進行組織変化特徴的な所見
初期段階軽度の浮腫還納可能
中期段階血流障害部分的な還納困難
末期段階組織変性完全還納不能

痔核の進行度分類

痔核の進行度は、国際的な基準に基づいて4段階に分類され、この分類システムは世界中の医療機関で採用されています。

各段階の特徴を正確に把握することで、より適切な対応が可能となります。

進行度臨床所見特徴的な状態
Ⅰ度軽度膨隆肛門管内に留まる
Ⅱ度脱出・自然還納排便時のみ脱出
Ⅲ度用手還納必要日常的に脱出
Ⅳ度還納不能常時脱出状態

痔核の病理学的分類

痔核の組織学的特徴は、発生部位や進行度によって異なる様相を示します。特に血管組織の変化と周囲組織の反応が顕著です。

病理学的観察により、以下のような特徴的な所見が確認されています。

  • 血管内皮細胞の増生と血管壁の肥厚化
  • 結合組織における弾性繊維の減少と線維化
  • 上皮組織の二次的変化と粘膜固有層の肥厚

痔核は、その発生機序や進行状況によって多様な病態を示す疾患です。各病型の特徴を理解し、適切な評価を行うことで、より効果的な対応が実現します。

痔核の主な症状

痔核の症状は、病型ごとに特徴的な様相を呈します。

内痔核、外痔核、嵌頓痔核では、それぞれ異なる症状パターンが観察され、その強さや性質は個々の状況により変化します。

症状の正確な把握は診断の重要な指標となり、患者様の生活の質に直接的な影響を与えます。

内痔核による基本的な症状

内痔核における最も特徴的な症状は、排便時の出血です。この出血は鮮紅色を呈し、便の表面に付着するか、あるいは便器内の水面に滴下する形で認められます。

統計的には、内痔核患者の約80%が出血症状を経験するとされています。

痛みの知覚は比較的軽度ですが、サイズが2cm以上に増大すると、肛門部に持続的な違和感や重圧感として自覚されるようになります。

内痔核の主症状発現頻度特徴的な性質
出血約80%鮮紅色、便付着性
違和感約60%持続的な重圧感
脱出感約40%排便時に顕著化

外痔核に特有の症状

外痔核では、豊富な知覚神経の分布により、明確な痛みを伴う症状が前面に出ます。

この痛みは、座位をとる際に特に顕著となり、多くの場合、持続時間は15分から30分程度です。

肛門周囲の腫れは直径1cm前後から始まり、進行すると2〜3cmまで増大することもみられます。

  • 安静時でも自覚する鋭い痛みや灼熱感(持続時間:15〜30分)
  • 座位での不快感(特に硬い椅子での持続時間:2〜3時間)
  • 排便時の疼痛増強(痛みのピーク:排便後10〜15分)

嵌頓痔核における急性症状

嵌頓痔核では、内痔核が脱出した状態で還納不能となり、組織の循環障害により急激な症状悪化を引き起こします。

痛みのスケール(VASスケール:0-10)では、多くの患者様が7以上を示し、腫れは通常の2〜3倍にまで増大します。

症状の種類重症度持続時間
激痛VAS 7-924-48時間
著明な腫脹2-3倍3-5日
出血中等度間欠的

痔核の進行度による症状の変化

症状の進行は段階的であり、その変化は明確なパターンを示します。

初期では軽度の出血(5ml未満/回)や違和感程度ですが、進行に伴い症状は複雑化し、QOL(生活の質)への影響も顕著となります。

進行度出血量/回脱出の程度日常生活への影響
軽度5ml未満なし-軽度軽微
中等度5-15ml自然還納中程度
重度15ml以上還納困難著明

日常生活への影響

痔核の症状は、日常生活の様々な場面で支障を引き起こします。

就労時間中の座位保持が困難となり、平均して2-3時間ごとの休憩を要するケースも少なくありません。

運動時の不快感は、特に激しい運動で顕著となり、通常の3-4倍の痛みを感じる方も存在します。

  • 座位作業の持続時間が通常の50%程度に低下
  • 中等度以上の運動時に痛みが3-4倍に増強
  • 衣服の摩擦による症状悪化(特にジーンズなどの堅い素材で顕著)

痔核の症状は、その進行度や種類によって患者様の生活に深刻な影響を及ぼすことが明らかです。

症状の早期認識と対応が望ましい結果につながります。

痔核の原因

痔核発症の背景には、人体構造に関連する基本的要因から現代社会特有の生活習慣まで、多岐にわたる原因が存在します。

研究データによると、成人の約40%が生涯のうちに何らかの形で痔核を経験し、その発症リスクは年齢とともに上昇することが判明しています。

解剖学的要因による発症メカニズム

人類の直立二足歩行という特徴は、痔核発症における最も基本的な要因です。直立姿勢により、肛門部の静脈叢には1平方センチメートルあたり約30-40mmHgの圧力が持続的にかかります。

この圧力は座位でさらに上昇し、約50-60mmHgに達します。

肛門管内には直腸静脈叢(上痔静脈叢)と外痔静脈叢という特殊な血管構造が存在し、これらの血管は約15-20本の細かい分枝を持ちます。

この解剖学的特徴により、静脈血の還流に対して慢性的な負荷がかかります。

解剖学的特徴通常時の圧力座位時の圧力
直立姿勢30-40mmHg50-60mmHg
静脈叢圧20-25mmHg35-45mmHg
括約筋圧40-50mmHg60-70mmHg

生活習慣に起因する要因

現代のオフィスワーカーは1日平均7-8時間の座位時間を持ち、この姿勢保持が静脈うっ血を助長します。

また、食物繊維摂取量が推奨量(1日25g)の60%程度にとどまる現状も、便秘を介して発症リスクを高めています。

  • 1日の座位時間:平均7-8時間(理想は4-5時間以下)
  • 食物繊維平均摂取量:15-18g/日(推奨量の60-70%)
  • 週あたりの運動時間:2.5時間(推奨量の50%)

身体的要因と体質

BMI25以上の肥満者では痔核発症リスクが約2.5倍に上昇します。

加齢による組織弾性の低下は50歳を境に加速し、結合組織の強度は10年ごとに約15%ずつ低下していきます。

要因リスク上昇率好発年齢
肥満2.5倍30-40代
加齢1.8倍/10年50代以降
妊娠3.2倍妊娠後期

環境因子と社会的要因

ストレス社会を反映し、自律神経バランスの乱れは痔核発症の重要な因子となっています。

交感神経優位の状態が持続すると、肛門括約筋の緊張が約1.5倍に上昇し、血流障害を引き起こします。

環境要因影響度持続時間
精神的ストレス中等度2-3時間
睡眠不足高度4-6時間
温度変化軽度1-2時間

遺伝的要因と家族歴

遺伝的要因の研究では、両親のいずれかが痔核を持つ場合、子供の発症リスクは約1.8倍に上昇することが示されています。

結合組織の脆弱性に関与する遺伝子変異は、約15-20%の患者で確認されています。

  • 家族歴あり:発症リスク1.8倍上昇(特に40歳未満での発症)
  • 結合組織関連遺伝子変異:15-20%の患者で確認
  • 血管壁弾性関連遺伝子異常:約10%の患者で検出

痔核の発症メカニズムは複雑な要因が絡み合って形成されます。各要因の理解を深めることで、より効果的な予防対策の実施につながることでしょう。

診察(検査)と診断

痔核診断において、医師は視診から始まり、指診、肛門鏡検査へと進む体系的な検査を実施し、各患者様の状態を詳細に把握していきます。

これらの診察により、内痔核・外痔核・嵌頓痔核の分類と進行度を判定し、的確な診断に結びつけます。

基本的な診察手順と検査方法

医師は患者様のプライバシーに十分な配慮を行いながら、肛門部の診察を段階的に実施していきます。診察室では、まず左側臥位(左横向き)もしくは膝肘位(うつ伏せで膝と肘をついた姿勢)での検査態勢をとっていただきます。

視診では、肛門周囲の状態を注意深く観察し、外痔核の有無や皮膚のただれ、出血の痕跡などを細かく確認していきます。

続く指診では、肛門管内の状態を確認し、括約筋の緊張度や内痔核の存在、硬さや大きさを評価します。

指診後、肛門鏡検査を用いて肛門管内をさらに詳しく観察し、粘膜の状態や血流の状態まで把握します。

検査手順診察内容所要時間
視診肛門周囲の観察、外痔核の確認2-3分
指診括約筋の緊張度、内痔核の触診3-5分
肛門鏡検査肛門管内の詳細観察5-10分
直腸鏡検査直腸粘膜の観察、他疾患の除外10-15分

内痔核の診断基準と評価方法

内痔核の診断においては、肛門鏡検査が診断の要となります。医師は肛門管内を十分に観察し、内痔核の発生部位や大きさ、数を詳細に確認していきます。

内痔核は主痔核として3時、7時、11時の位置(時計の文字盤に例えた位置表現)に好発する特徴があり、この分布パターンは診断における重要な判断材料となっています。

内痔核の重症度臨床所見肛門鏡所見
Goligher分類I度出血のみ肛門管内に限局
Goligher分類II度排便時脱出自然還納性あり
Goligher分類III度常時脱出用手還納可能
Goligher分類IV度脱出性出血還納不能

外痔核と嵌頓痔核の鑑別診断

外痔核と嵌頓痔核の鑑別には、視診と触診による綿密な観察が不可欠です。

外痔核は歯状線(肛門管と直腸の境界線)より外側に位置し、皮膚に覆われた柔らかい腫れとして認められます。

一方、嵌頓痔核は内痔核が脱出して還納できない状態を指し、その特徴的な所見から鑑別が可能です。

  • 外痔核の臨床所見:皮膚に覆われた柔らかい腫れ、圧痛、出血
  • 嵌頓痔核の臨床所見:浮腫を伴う暗赤色の腫れ、強い痛み、硬化
  • 鑑別時の確認項目:発生部位、性状、還納性、随伴症状

画像診断の役割と補助診断

画像診断は特に他の直腸肛門疾患との鑑別が必要な場合に実施し、診断精度の向上に寄与します。

肛門部超音波検査や肛門管圧検査などにより、より客観的なデータを収集することが可能です。

画像検査法評価対象診断的意義
超音波検査血流評価、組織性状痔核の血流動態把握
肛門管圧検査括約筋機能排便機能の評価
MRI検査周囲組織との関係複雑例での精密評価

確定診断に向けた総合評価

確定診断に際しては、これまでの一連の検査結果を総合的に分析することが求められます。

医師は視診、触診、各種検査の結果を慎重に検討し、痔核の種類と重症度を判定します。

同時に、裂肛や痔瘻といった他の肛門疾患との鑑別も重要な判断項目となります。

痔核の正確な診断には、系統的な診察アプローチと詳細な評価が必須であり、医師の臨床経験と専門的知識に基づいた総合的な判断力が問われます。

痔核の治療法と処方薬、治療期間

痔核治療において、内科的治療から外科的治療まで、様々な選択肢が存在します。

治療法の選択は、内痔核、外痔核、嵌頓痔核といった病態とその進行度によって判断し、各患者様の生活様式や全身状態を考慮しながら治療期間を設定していきます。

内科的治療の基本と処方薬

内科的治療は痔核治療の根幹をなすものであり、軽症から中等症の多くの症例で有効性を発揮します。

医師は痔核の状態を詳しく診察したうえで、軟膏剤や坐剤などの外用薬を処方し、局所の炎症や疼痛をコントロールしていきます。

外用薬に配合される有効成分には、ステロイド(抗炎症作用のある薬剤)や局所麻酔薬が含まれており、これらが相乗的に作用することで症状の緩和をもたらします。

治療薬の種類主な有効成分標準的な使用期間期待される効果発現時期
外用軟膏ステロイド系成分10-14日3-5日目から
坐剤消炎鎮痛成分5-7日1-2日目から
内服薬静脈瘤治療成分14-28日7-10日目から

外科的治療の種類と特徴

外科的治療は、保存的治療で十分な改善が得られない症例や、重症度の高い症例に対して実施します。

手術方法には、従来からの結紮切除術(痔核組織を直接切除する手術)、PPH(痔核組織を一括して切除・縫合する術式)、ジオン注射(硬化剤注入療法)などがあり、それぞれに固有の利点と適応があります。

  • 結紮切除術:直視下での確実な切除が実現、手術時間60-90分程度
  • PPH法:術後疼痛が比較的軽度、手術時間30-45分程度
  • ジオン注射:日帰り治療が実現、処置時間15-20分程度、局所麻酔で実施

治療期間と回復過程

治療期間は選択される治療法によって大きく異なりますが、いずれの方法でも確実な効果を得るために一定の期間が必要となります。

内科的治療では、通常2週間から1ヶ月程度の継続的な治療を要し、症状の推移を見ながら投薬内容を調整していきます。

治療方法通院必要期間日常生活制限期間完治までの目安
保存療法2-4週間特になし3-6週間
結紮切除術2-3週間1-2週間4-6週間
PPH手術1-2週間3-7日間3-4週間

病型別の治療戦略

各病型に応じた治療方針の立案が極めて重要です。内痔核では、まず保存的治療から開始し、症状の程度に応じて段階的に治療強度を上げていきます。

外痔核では、局所治療を中心とした対応を行い、必要に応じて切除術を検討します。

病型推奨される治療法治療期間の目安期待される改善時期
内痔核段階的治療4-8週間2週間前後から
外痔核局所治療中心2-4週間1週間前後から
嵌頓痔核緊急対応3-6週間数日以内から

治療効果の判定と経過観察

治療効果の判定には、客観的な所見の改善度と患者様の自覚症状の変化を総合的に評価することが必須となります。

内科的治療では、投薬開始から2週間程度で初期効果を判定し、必要に応じて治療内容の微調整を行います。

外科的治療後は、術後1週間、2週間、1ヶ月、3ヶ月といった具合に定期的な経過観察を実施し、創部の治癒状況を確認していきます。

痔核治療においては、個々の患者様の状態や生活環境に即した治療法の選択と、十分な治療期間の確保が肝要となります。

痔核の治療における副作用やリスク

痔核治療には、内服薬や外用薬による保存的治療から手術療法まで、多岐にわたる選択肢が存在します。それぞれの治療法には固有の副作用やリスクが伴い、医師と患者様の双方がこれらを十分に理解することが求められます。本稿では、内痔核、外痔核、嵌頓痔核の各治療法における副作用とリスクについて、最新の医学的知見に基づいて詳しく説明していきます。

保存的治療における副作用とその対策

保存的治療で使用する薬剤には、それぞれ特徴的な副作用プロファイルが存在します。外用薬の主成分であるステロイド(副腎皮質ホルモン)では、4週間以上の継続使用により局所の皮膚萎縮や細菌感染のリスクが高まることが臨床研究で明らかになっています。

薬剤分類主な副作用発現頻度症状出現時期
ステロイド軟膏皮膚萎縮、感染症1-5%4週間以降
局所麻酔剤含有軟膏アレルギー反応、接触性皮膚炎0.1-1%使用直後~2日以内
消炎鎮痛剤胃腸障害、腎機能障害2-3%1-2週間以内

手術療法に伴うリスクと合併症

手術療法では、一般的な手術に伴うリスクに加え、肛門部特有の合併症に注意を要します。結紮切除術(従来の手術方法)では、術後の痛みや出血が5-10%程度で発生し、稀に(0.1-0.5%)括約筋(肛門を締める筋肉)の損傷による排便障害を引き起こすことがあります。

  • 術中合併症:大量出血(1%未満)、周囲臓器損傷(0.1%未満)、麻酔関連合併症(0.5%未満)
  • 術後早期合併症:創部感染(3-5%)、後出血(2-4%)、尿閉(一時的な排尿障害、5-8%)
  • 術後晩期合併症:肛門狭窄(1-2%)、再発(5年以内で15-20%)、便失禁(0.5%未満)

病型別の特有リスク

各病型によって、合併症の種類や頻度が異なることが判明しています。内痔核の治療では、再発率が比較的高く(5年以内で20%程度)、外痔核では局所の皮膚トラブルが問題となります。

病型短期合併症長期合併症年間再発率
内痔核出血(5-8%)再発(15-20%)3-4%
外痔核皮膚炎(3-7%)色素沈着(5-10%)2-3%
嵌頓痔核感染(8-12%)肛門狭窄(2-3%)4-5%

術後管理におけるリスク要因

術後管理では、患者様の基礎疾患や生活習慣がリスク因子となります。特に糖尿病患者では創傷治癒遅延のリスクが2-3倍に上昇し、免疫抑制剤使用患者では感染リスクが5倍程度増加することが報告されています。

リスク要因合併症発生率標準的な予防対策リスク上昇倍率
糖尿病15-20%血糖コントロール2-3倍
免疫抑制状態25-30%感染予防措置4-5倍
高齢(75歳以上)18-22%術後早期離床1.5-2倍

長期的な経過観察におけるリスク管理

長期的な経過観察では、手術後の瘢痕形成や新たな痔核の発生など、時間経過に伴う変化への注意が重要です。手術後5年以内の再発率は術式によって異なり、結紮切除術で15-20%、PPH法で20-25%と報告されています。

痔核治療における副作用やリスクは完全には避けられませんが、適切な予防策と早期発見・対応により、その影響を最小限に抑えることが可能です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

処方薬の薬価

医療用の痔核治療薬は、その剤型や有効成分の種類によって価格が異なり、外用薬では軟膏剤が1,500円から3,000円、坐剤が1,000円から2,500円の範囲で処方されることが一般的となっています。

内服薬(経口投与する薬)を組み合わせると、2,000円から5,000円ほどの追加費用が生じます。

処方薬の種類標準的な薬価1週間あたりの使用量
外用軟膏剤1,500-3,000円1-2本
肛門坐剤1,000-2,500円7-14個
経口内服薬2,000-5,000円14-21錠

1週間の治療費

外来診療における初診時には、基本診察料3,000円程度に加えて、処方箋料1,500円前後が必要となります。

医療機関の規模や所在地によって診療費用に若干の違いが生じますが、薬剤費を含めた1週間の一般的な治療費用は8,000円から12,000円の範囲内に収まるのが通常です。

  • 基本診察料(初診):3,000円から3,500円
  • 処方箋料:1,500円から2,000円
  • 薬剤費(1週間分):3,500円から7,500円
  • 再診料(2回目以降):1,000円から1,500円

1か月の治療費

保存的治療を継続する場合、4回程度の通院を想定すると、1か月あたりの総額は20,000円から30,000円程度となります。

一方で、手術療法を選択する際には、術式や入院期間によって費用が大きく変動し、日帰り手術で10万円前後、入院を要する手術では30万円程度までの費用を見込む必要があります。

治療形態総費用(概算)治療期間
外来保存療法20,000-30,000円4週間程度
日帰り手術療法100,000-150,000円当日のみ
入院手術療法200,000-300,000円3-7日間

痔核の治療費用は、症状の程度と治療方法の選択により大きな幅がありますが、早期発見・早期治療により、医療費の抑制も期待できるといえるでしょう。

以上

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