過敏性腸症候群(IBS) – 消化器の疾患

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)とは、器質的な異常(腸の構造や組織に目に見える異常)がないにもかかわらず、腹痛や腹部不快感、便通の異常(下痢や便秘)などの症状が繰り返し現れる病気です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

過敏性腸症候群(IBS)の種類(病型)

過敏性腸症候群(IBS)は、ブリストル便形状尺度(便の形状を7段階で評価する指標)に基づき、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型の4つに分類されています。

病型主な特徴
便秘型硬い便や排便困難が主な症状
下痢型水様便や頻回の排便が主な症状
混合型便秘と下痢が交互に出現する
分類不能型上記3型に当てはまらないもの

ブリストル便形状尺度(Bristol Stool Form Scale)

ブリストル便形状尺度は、便の形状を7つのタイプに分類した指標です。

便形状ブリストル尺度関連するIBS病型
硬い便1型・2型便秘型
普通便3型・4型分類不能型
軟便・水様便5型・6型・7型下痢型

過敏性腸症候群(IBS)の主な症状

過敏性腸症候群(IBS)の症状は、腹痛や腹部不快感、便通異常(下痢や便秘)、腹部膨満感などが繰り返し現れることです。

腹痛・腹部不快感

過敏性腸症候群(IBS)で見られる腹痛や腹部不快感は、食事や排便によって症状が和らいだり、悪化したりすることが特徴です。

毎朝出勤前に激しい腹痛が起こりトイレに駆け込むような症状が典型例で、繰り返す症状により仕事に遅刻するなど、生活への影響が大きい方もいらっしゃいます。

症状の特徴
  • 食事後の腹痛
  • 毎朝の腹部不快感
  • 突発的な腹痛
  • 持続的に不快感がある

便通異常(下痢や便秘)

先述した通り、IBSにおける便通異常は下痢型、便秘型、混合型の3つのパターンに分類されます。

下痢型IBSでは、頻繁な排便や緩い便、時には水様便が特徴です。一方、便秘型IBSでは、排便回数の減少や硬い便、排便時の努責感(いきむ感じ)などが見られます。

混合型IBSは、下痢と便秘が交互に現れるタイプです。

このような症状が慢性的に続くため、外出先でのトイレの心配や、長時間の移動への不安など、生活の様々な場面で制限が出てきます。

IBSのタイプ主な症状
下痢型頻繁な排便、緩い便
便秘型排便困難、腹部膨満感
混合型下痢と便秘の交代

腹部膨満感

多くのIBS患者さんが経験する症状の一つに、お腹が膨らんで張ったような感覚や、ガスが溜まっているような不快感などの腹部膨満感があります。

実際に腹囲が増大する場合もありますが、患者さんの主観的な感覚のみの場合もあります。

腹部膨張感の特徴
  • 食後の憎悪
  • ガスの貯留感
  • 腹部の張り
  • 消化不良感

その他の随伴症状

IBSの主な症状以外にも、さまざまな随伴症状が報告されています。

  • 頭痛
  • 疲労感
  • 睡眠障害
  • 筋肉痛
  • 背部痛
  • 排尿障害

※症状の有無や程度は個人差が大きく、すべての患者さんに現れるわけではありません。

過敏性腸症候群(IBS)の原因

過敏性腸症候群(IBS)の原因は明確には分かっていませんが、腸の運動機能の異常や腸の感覚過敏、ストレスや不安などの心理的な要因などが複合的に関与していると考えられています。

腸と脳のつながり

腸と脳は体の中で密接につながっていて、この二つの器官は常に情報をやり取りしていて、これを「腸脳相関」と呼びます。

簡単に言えば、腸の調子が悪くなると脳に影響が出て、逆に脳の状態が悪いと腸にも影響が及ぶということです。

例えば、強いストレスを感じると、お腹が痛くなったり下痢になったりした経験がある人も多いでしょう。これは、脳の状態が腸に影響を与えた典型的な例です。

IBSの患者さんの多くは、このような腸と脳のバランスが崩れることで症状が起こっていると考えられています。

環境因子

環境因子IBSへの影響
食事特定の食品が症状を悪化
ストレス腸の過敏性を増加
感染症腸内細菌叢のバランスを崩す
薬物腸の機能に影響を与える

心理的要因

心理的要因、特にストレスや不安、うつ状態は、IBSの発症や症状の悪化に大きく関係しています。

IBSに関連する主な心理的要因

  • 慢性的なストレス
  • 不安障害
  • うつ病
  • トラウマ体験
  • パーソナリティ特性(完璧主義など)

診察(検査)と診断

過敏性腸症候群(IBS)の診断では、症状や病歴を詳しくお聞きし、身体診察を行い、必要に応じて各種検査を組み合わせて進めていきます。

IBSの特徴的な症状を確認しつつ、他の消化器疾患の可能性を除外していくことが大切です。

問診のポイント

  • 症状の特徴
  • どのくらい続いているか
  • どのくらいの頻度で起こるか
  • 何によって悪化するかなど
  • 普段の食事内容や生活習慣
  • ストレスの有無

「食事の後に必ず腹痛が起こる」とおっしゃっていた方が、詳しくお聞きしてみると、特定の食品を食べた後にのみ症状が出現していたことがわかるようなケースもあります。

細かな情報をお聞きすることでより正確な診断につながるため、できる限り詳しい症状をまとめていただき、医師に伝えるようにしてください。

身体診察・基本的な検査

問診に続く身体診察では、腹痛の部位や腸音の異常などを確認します。

基本的な検査としては血液検査や便検査があり、IBSの診断というよりも、他の消化器疾患がないかを確認するために実施します。

検査項目目的
血液検査炎症マーカーの確認、貧血の有無
便検査潜血、寄生虫、細菌感染の有無

画像診断・内視鏡検査

画像診断や内視鏡検査も、主に他の消化器疾患がないかを確認するために行います。

  • 腹部エコー検査
  • CT検査
  • 大腸内視鏡検査

特に大腸内視鏡検査は、炎症性腸疾患や大腸がんなどの器質的疾患がないかを確認するために有効です。

※検査はすべての患者さんに必要というわけではありません。症状や年齢、リスク因子などを考慮し、個別に実施を判断します。

確定診断

国際的に広く用いられているローマIV基準では、以下の条件を満たす場合にIBSと診断します。

診断基準内容
症状の持続期間過去3ヶ月以上
症状の頻度週1回以上
主な症状腹痛と排便習慣の変化

確定診断には、他の消化器疾患がないことが確認されている必要があります。

過敏性腸症候群(IBS)の治療法と処方薬、治療期間

過敏性腸症候群(IBS)の治療は、食事療法、薬物療法(腸の運動を調整する薬、プロバイオティクスなど)、ストレス管理など、患者さんの症状や状態に合わせて実施していきます。

薬物療法

薬物療法は症状の緩和を目的として実施します。

薬剤の種類主な効果使用上の注意点
抗コリン薬腹痛や腹部不快感の軽減口渇や便秘に注意
下痢止め薬下痢症状の改善過度の使用は避ける
緩下剤便秘症状の改善腹痛や下痢に注意
抗うつ薬腹痛の軽減、腸管運動の調整眠気や食欲変化に注意

症状の程度や頻度に応じて使用量や使用期間を調整し、必要に応じて薬剤の変更や追加を行います。

生活習慣の改善

薬物療法と並行して、以下のような生活習慣の改善も重要となります。

  • 食物繊維の摂取(野菜や果物を積極的に取り入れる)
  • 刺激物(カフェイン、アルコール、辛い食べ物など)を制限する
  • 規則正しい食事と排便習慣をつける(毎日同じ時間に食事をとり、トイレに行く習慣をつける)
  • 適度な運動の実施(ウォーキングやヨガなど、自分に合った運動を選ぶ)

生活スタイルに合わせて、無理のない範囲で少しずつ改善していくことが大切です。

治療期間と経過観察

IBSの治療期間は個人差が大きく、数か月から数年にわたることもあります。

症状の改善が見られても再発のリスクがあるため、長期的な経過観察が必要です。

過敏性腸症候群(IBS)の治療における副作用やリスク

過敏性腸症候群(IBS)の治療で用いられる薬の中には、下痢、便秘、吐き気、眠気などの副作用が生じる可能性が考えられるものがあります。

また、長期的な服用による影響や、他の薬との相互作用についても注意が必要です。

薬物療法に伴う副作用

下痢型IBSに処方されることの多い止痢薬では、便秘や腹部膨満感が起こる場合があります。

また、便秘型IBSに使用される緩下剤では、腹痛や下痢といった副作用が報告されています。

抗うつ薬や抗不安薬を使用する際には、眠気や口渇、体重増加などの副作用に注意が必要です。

薬剤の種類主な副作用注意点
止痢薬便秘、腹部膨満感過度な使用を避ける
緩下剤腹痛、下痢適切な用量を守る
抗うつ薬眠気、口渇、体重増加長期使用に注意

腸内細菌叢を標的とした治療のリスク

プロバイオティクス(善玉菌)や抗生物質療法など、腸内細菌叢を標的とした治療法がありますが、これらの治療には以下のようなリスクが存在します。

  • 腸内細菌叢のさらなる乱れ
  • 抗生物質耐性菌の出現
  • アレルギー反応の誘発
  • 予期せぬ副作用の発現

リスクを最小限に抑えるためには、医師の指示に従い、適切な用法・用量を守ることが大切です。

漢方薬使用時の注意点

IBSの症状緩和に漢方薬を用いることがありますが、副作用や相互作用に注意が必要です。

西洋薬と漢方薬を併用する際には予期せぬ相互作用が起こる場合があるため、漢方薬を使用する際は、必ず医師や薬剤師に相談するようにしてください。

漢方薬の成分潜在的リスク注意事項
甘草低カリウム血症、高血圧長期使用を避ける
麻黄動悸、不眠心臓病患者は使用に注意

治療中断のリスク

IBSの治療は長期にわたることが多く、症状の改善が見られても突然治療を中断すると、症状が再燃します。

特に、抗うつ薬や抗不安薬を急に中止すると、離脱症状(めまい、吐き気、不安感など)が現れることがあります。

治療の中断や変更を考えている場合は、必ず担当医と相談し、慎重に進めることが大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

過敏性腸症候群(IBS)では薬物療法や生活習慣の改善を中心とした治療が基本となるため、高額な医療費がかかることは少ないですが、長期的な管理が必要となることから継続的な費用がかかります。

IBSの診断にかかる費用の目安

検査項目費用(円)
血液検査3,000-5,000
便検査2,000-4,000
腹部エコー5,000-10,000
大腸内視鏡検査20,000-40,000

薬物療法にかかる費用の目安

  • 整腸剤 1,000-3,000円/月
  • 抗痙攣薬 2,000-5,000円/月
  • 抗うつ薬 3,000-8,000円/月
  • 下痢止め薬 1,500-4,000円/月

非薬物療法にかかる費用の目安

治療法費用(円)
食事指導5,000-10,000/回
心理療法8,000-15,000/回
ストレス管理プログラム10,000-20,000/月

以上

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