中咽頭癌 – 消化器の疾患

中咽頭癌(Oropharyngeal cancer)とは、口腔の奥深くにある中咽頭という部位に発生する悪性の腫瘍(体の中に異常に増殖した細胞の塊)を指します。

喉の奥に何か引っかかっているような不快感や、食べ物を飲み込む際の違和感といった症状から、初めて気づかれることが多いです。

中咽頭(ちゅういんとう)は、私たちが日々摂取する食事や飲料が通過する経路であるため、この部位にがんが発生すると、日常生活に支障が出てきます。

もし少しでも気になる症状を感じたら、躊躇せずに専門医に相談するようにしてください。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

中咽頭癌の種類(病型)

中咽頭癌の分類には、病理組織学的分類、HPV関連の有無、TNM分類、解剖学的部位による分類などがあります。

分類方法主な特徴
病理組織学的分類癌細胞の種類による分類
HPV関連の有無ウイルス感染の有無による分類
TNM分類癌の進行度による分類
解剖学的部位発生部位による分類

病理組織学的分類

病理組織学的分類頻度
扁平上皮癌90%
腺癌5%
未分化癌3%
その他2%

最も多く見られるのが扁平上皮癌で、全体の約90%を占めます。

腺癌は唾液腺(だえきせん)から発生する珍しい種類で、未分化癌は悪性度が高く、病気の進行が早い点が特徴です。

HPV関連の有無による分類

最近では、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染があるかどうかによって、病気の発生の仕組みや将来の見通しが異なることが分かってきました。

HPV関連中咽頭癌は比較的若い世代に多く見られ、治療後の経過は良好とされています。

一方、HPV非関連中咽頭癌は従来から知られている中咽頭癌の形で、喫煙や飲酒が主な危険因子です。

TNM分類による病期分類

TNM分類は、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節転移の程度(N)、遠隔転移の有無(M)を評価する世界共通の分類方法です。

T分類腫瘍の大きさと周囲への広がり
T12cm以下
T22cm超4cm以下
T34cm超
T4周囲の組織に広がっている

解剖学的部位による分類

中咽頭は体の構造上、いくつかの部位に分けることができます。

  • 軟口蓋(なんこうがい):口の中の奥、上の方にある柔らかい部分
  • 口蓋扁桃(こうがいへんとう):いわゆる「扁桃腺」のこと
  • 舌根部(ぜっこんぶ):舌の一番奥の部分
  • 中咽頭後壁(ちゅういんとうこうへき):のどの奥の壁の部分

癌が発生する部位によって、症状の現れ方や治療の方法が変わってきます。

中咽頭癌の主な症状

中咽頭癌は初期の段階では症状が現れにくく、進行するまで気付かれないことが多い病気です。

のどの違和感・長く続く痛み

  • 喉の奥に何かが引っかかっているような感じ
  • 物を飲み込む時に不快に感じる

最初のうちは症状が軽い場合が多く、ただの風邪や喉の炎症と勘違いしやすいものです。

こういった症状が2週間以上続いたり、少しずつひどくなっていくような場合は注意しましょう。

特に片側だけの痛みや、耳にまで痛みが広がる場合は、中咽頭癌の可能性を考えて医療機関を受診した方が良いでしょう。

以前50歳代の男性の患者さんが「3ヶ月前から右側の喉の違和感が続いているけど、薬局で買った薬で様子を見ていた」と来院されたことがありましたが、詳しい検査をした結果、進行した中咽頭癌が見つかりました。

長く続く症状を軽く考えずに、早めに専門医の診察を受けることが大切です。

飲み込みにくさ・声の変化

中咽頭癌が進行するにつれて、飲み込みにくさや声の変化が現れてきます。

症状どんな感じか
飲み込みにくさ食事の時に食べ物が喉につかえる感じがする
声の変化声がかすれたり、鼻にかかったような声になったりする

特に、固形物を飲み込む時、飲み込みにくさがはっきりと分かるようになります。

その他、食事の時間が長くなったり、水分と一緒でないと食べ物を飲み込めなくなったりもします。

声の変化については、がんが声帯やその周りの組織に影響を与えることで起こります。

首のリンパ節の腫れ

中咽頭癌が進行すると、首のリンパ節が腫れることがあります。腫れたリンパ節は、痛みがなく動かしにくいのが特徴です。

以下の表は、良性の原因でリンパ節が腫れた場合と、中咽頭癌でリンパ節が腫れた場合の違いをまとめたものです。

特徴良性の原因での腫れ中咽頭癌での腫れ
硬さ柔らかい硬い
痛みあるない
動き動かしやすい動かしにくい
大きさ1cm未満が多い1cm以上の場合が多い

首のリンパ節の腫れを感じたら、自己判断せずに専門医の診察を受けるようにしましょう。

その他の気をつけるべき症状

  • 口臭
  • 原因が分からないのに体重が減る
  • 耳が痛む(特に片側だけ)
  • 痰に血が混じる

症状が長い間続いたり、だんだんひどくなっていくような場合は、様子を見たりせずに医療機関を受診してください。

中咽頭癌の原因

中咽頭癌の原因は、主にヒトパピローマウイルス(HPV)感染、喫煙・飲酒習慣です。

HPV感染

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性行為によって感染するウイルスで、子宮頸がんの原因としても知られています。

近年、口腔内のHPV感染が中咽頭がんの発症と深く関わっていることが明らかになってきました。

特に16型や18型などの高リスク型HPVが関与し、ウイルスが長期間にわたり持続感染することで正常細胞のDNAに変異を起こし、がん化を促進すると考えられています。

また、HPV関連の中咽頭癌は、非喫煙者や若年層でも発症します。

HPV型リスクレベル特徴
16型高リスク中咽頭癌との関連性が最も高い
18型高リスク子宮頸癌にも関与
31型中リスク時に中咽頭癌を引き起こす
6型低リスク主に良性腫瘍を形成

喫煙・飲酒

長年にわたる喫煙と飲酒の習慣があると、粘膜の慢性的な炎症状態を起こし、がん化のリスクが上昇します。

タバコタバコの煙に含まれる多数の発がん物質が中咽頭の粘膜に直接接触することで、細胞のDNA損傷を起こします。
アルコール発がん物質の代謝を促進し、その作用を増強させる働きがあります。

その他の関連要因

  • 栄養不足(特にビタミンA、C、Eなどの抗酸化ビタミン)
  • 職業的な有害物質(アスベストや化学物質など)への長期的な曝露
  • 特定の遺伝子変異や家族歴などの遺伝的要因
  • 慢性的な口腔衛生の不良状態

複合的な要因の相互作用

HPV感染者が喫煙習慣を持っていた場合、そのリスクは単純な足し算ではなく、相乗的に高まることが研究により明らかになっています。

要因リスク増加率備考
HPV感染約3倍特に高リスク型HPVの場合
喫煙約2-3倍喫煙量・期間に比例してリスク上昇
過度の飲酒約2倍アルコール摂取量に応じて変動
複合要因約5-7倍個人差や他の要因により変動

診察(検査)と診断

中咽頭癌の診察では、まず視診や触診、内視鏡検査などにより咽頭を調べます。必要に応じて生検を行い、がん細胞の有無を確認することで診断が確定します。

問診・身体診察のポイント

  • 症状
  • 症状に気付いた時期
  • たばこやお酒を飲む習慣
  • 過去にかかった病気
  • 家族の病歴 など

次に、中咽頭(のどの奥)を直接目で見て、普通とは違う盛り上がりや粘膜の変化がないかを確認します。

触診・内視鏡検査

触診のポイント確認すること
リンパ節の大きさ1cm以上に大きくなっているか
硬さ石のように硬くなっているか
動くかどうか周りの組織とくっついているか
押したときの痛み押すと痛みがあるか

また、喉頭ファイバースコープという細い管のような器具を使った内視鏡検査を行います。

この検査では、のどの奥の粘膜の表面がどんな性質や色をしているか、盛り上がりがあればその形や広がりなどを調べることができます。

画像検査(CT・MRI)

がんがどのくらい進んでいるか(T分類)や、リンパ節への転移の状況(N分類)るために、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)といった画像検査を行います。

検査方法主な長所
CT骨浸潤の評価に優れる
MRI軟部組織の評価に適している
PET-CT体の離れた場所への転移を探すのに役立つ

HPV(ヒトパピローマウイルス)検査

HPV(ヒトパピローマウイルス)が関係する中咽頭癌が増えてきているため、HPVに感染しているかどうかも調べます。

生検について

中咽頭癌の確定診断には、組織の一部を採取して調べる検査(生検)が必要です。

生検では局所麻酔をして痛みを抑えた上で、がんの疑いがある部分の組織を少し採取し、がん細胞の形や性質などを調べていきます。

中咽頭癌の治療法と処方薬、治療期間

中咽頭癌の治療は、手術、放射線療法、化学療法を組み合わせて行う方法があります。

治療法の選び方

どの治療法を選ぶかは、がんの進み具合や患者さんの体の状態を考えながら決めていきます。

がんの進み具合主に行う治療
早期のがん手術または放射線療法
進行がん化学放射線療法

がんが早い段階で見つかった場合は、手術や放射線を使う治療が主な選択肢になります。

手術では、がんの部分を全て取り除くことを目指します。

がんが進行している場合は、放射線と抗がん剤を同時に使う治療(化学放射線療法)を行っていきます。

手術による治療

中咽頭癌の手術では、口から行う方法や首の部分から行う方法など、様々なアプローチがあります。

最近では、ロボット支援手術も行われるようになり、より精密な操作ができるようになりました。

手術後は、発声や嚥下機能の回復に向けたリハビリテーションが必要です。

放射線を使った治療

放射線療法は、がん細胞に強いエネルギーの放射線を当てて、がんを小さくしたり消したりする治療法です。

中咽頭癌の放射線療法は、通常5週間から7週間にわたって、毎日治療を続けます。

化学療法

化学療法は、抗がん剤という薬を使ってがん細胞の増えるのを抑える治療法です。

中咽頭癌の化学療法では、シスプラチンやフルオロウラシルという薬をよく使います。

薬の名前主な働き
シスプラチンDNA合成阻害
フルオロウラシルがん細胞の増殖を妨げる(代謝拮抗作用)

治療期間

手術の場合、入院期間は2週間から3週間程度ですが、その後リハビリを行います。放射線療法は普通5週間~7週間続けます。

放射線療法と化学療法を一緒に行う場合は、およそ2ヶ月から3ヶ月くらいの治療期間が必要です。

がんが再び現れるリスクは治療後2年以内が最も高いので、この期間はより頻繁に検査を行います。

その後も、がんが再発していないか、または別の場所に広がっていないかを早く見つけるため、5年間は定期的な検査を続けていきます。

中咽頭癌の治療における副作用やリスク

中咽頭癌の治療では、手術では発声や嚥下機能の低下、放射線療法では口内炎や粘膜炎、化学療法では吐き気や脱毛などがみられることがあります。

放射線療法に伴う副作用

放射線療法においては、短期的には口内炎や咽頭痛、皮膚炎などが生じます。

長期的には唾液の分泌が減ったり、飲み込みづらくなったり、味覚が変化したりする場合もあります。

短期的副作用長期的副作用
口内炎唾液分泌減少
咽頭痛嚥下障害(えんげしょうがい:飲み込みの障害)
皮膚炎味覚変化

化学療法に関連するリスク

  • 吐き気・嘔吐
  • 食欲不振
  • 脱毛
  • 倦怠感(けんたいかん:体がだるく感じること)
  • 免疫力低下

特に免疫力が低下すると感染症にかかりやすくなるため、十分な注意が必要です。

手術療法後の機能障害

手術療法を選んだ場合、手術後に機能障害が起こる可能性があります。

影響を受ける機能考えられる障害
発声機能声の変化
嚥下機能(えんげきのう:飲み込む機能)飲み込みにくさ
咀嚼機能(そしゃくきのう:かむ機能)かみ合わせの変化

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

中咽頭がんの治療は、一般的に手術、放射線療法、化学療法などを組み合わせた集学的治療を行うため、高額になります。

治療法別の費用概算

治療法概算費用
手術療法50万円〜300万円以上
放射線療法150万円〜200万円
化学療法(1クール)50万円〜100万円

手術療法の場合、腫瘍の位置や大きさによって手術の複雑さが異なるため、費用も変わってきます。

経口的切除術であれば50万円程度からですが、頸部郭清術を伴う広範囲切除では200万円を超えます。

化学療法については、使用する薬剤や治療期間によっても費用が変わります。

以上

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