咽頭後壁癌(Posterior pharyngeal wall cancer, Posterior pharyngeal wall carcinoma)とは、のどの奥の壁に発生する悪性腫瘍を指します。
初期段階ではほとんど自覚症状がないため、早期発見は困難な場合が多いです。
病状が進行すると、食べ物を飲み込む際の違和感や声質の変化、さらには耳への痛みなどの症状が顕在化します。
咽頭後壁癌の主な症状
咽頭後壁癌(いんとうこうへきがん)は、初期段階では自覚症状に乏しいものの、進行するにつれて嚥下困難や咽頭痛などの症状が出てきます。
病期 | 主な症状 |
初期 | 軽度の違和感、のどの痛み |
進行期 | 嚥下困難、持続的な咽頭痛、声の変化 |
末期 | 呼吸困難、全身症状(体重減少、倦怠感など) |
初期症状の特徴
- のどに軽度の違和感がある
- のどの痛み
咽頭後壁癌の初期症状は、多くの方が風邪や季節の変わり目による一時的な症状だと誤解してしまいがちです。
そのため早期発見が難しく、病気が進行してから診断されるケースが少なくありません。
症状が軽い場合でも、長引くときは早めに専門医を受診するようにしてください。
進行に伴う主要症状
病変が拡大するにつれ、飲み込みにくさや強い咽頭痛など、より明確な症状が現れてきます。
症状 | 特徴 |
嚥下困難 | 食事の際に食べ物が飲み込みづらくなる |
咽頭痛 | 持続的な痛みや飲食時に強くなる痛み |
咽頭痛は単なる喉の痛みとは異なり、長期間続くことが特徴です。
耳への影響と関連症状
咽頭後壁癌は耳にも影響を及ぼすことがあり、耳痛や耳鳴りの症状が出る方もいます。
これは、咽頭と耳が解剖学的に近い位置にあるために起こる現象です。普段は気にならない程度の音が、異常に大きく聞こえることもあります。
この他、片側だけの難聴がみられる場合もあり、突然の聴力低下を感じたときは咽頭の精密検査も視野に入れ、専門医に相談することが大切です。
声の変化と呼吸への影響
症状 | 説明 |
嗄声 | 声がかすれる、声質の変化が起こる |
呼吸困難 | 気道狭窄により息苦しさを感じる |
嗄声(かすれ声)や発声時の違和感は、腫瘍が声帯周辺の神経や筋肉に影響を与えることで起こります。
また、病気が進行すると、気道狭窄(きょうさく)による呼吸困難や、睡眠時の無呼吸などが生じる可能性があります。
全身症状と生活への影響
- 体重減少:食事摂取量の減少や代謝の変化により、急激な体重減少が起こる
- 倦怠感:全身のだるさや疲れやすさ
- 食欲不振:痛みや嚥下困難により、食事が苦痛になる
- 発熱:腫瘍による炎症反応で、微熱が続くことがあります
特に、栄養状態の悪化は免疫機能の低下につながり、治療の妨げになることもあるため、注意が必要です。
咽頭後壁癌の原因
咽頭後壁癌(いんとうこうへきがん)の主な発症要因は、長年にわたる喫煙や過度の飲酒、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染、遺伝などです。
タバコとお酒による影響
喫煙や過度の飲酒習慣がある方は、発がんリスクが上昇します。
生活習慣 | 癌発症リスクの上昇 |
タバコを吸う | 約10倍 |
お酒の飲みすぎ | 約5倍 |
HPV感染
最近の研究では、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が咽頭後壁癌の発症に関連があることが分かってきています。
HPVは主に性行為を通じて感染するウイルスで、のどの細胞に感染すると細胞の増え方が異常になり、がん化を引き起こす可能性があります。
特に、HPV16型というタイプのウイルスに長期間感染していた場合、のどの癌になるリスクが高くなると言われています。
HPVの種類 | のどの癌との関係 |
HPV16型 | とても強い |
HPV18型 | やや強い |
HPVが原因でできた咽頭癌は、タバコやお酒が原因の癌とは性質が少し違うことが多く、治療に対する反応の仕方も異なります。
遺伝子の影響
特定の遺伝子に変化があったり、家族の中に同じような癌になった人がいたりする場合は、癌になるリスクが高くなります。
咽頭後壁癌になりやすくする遺伝的な要因の例
環境・職業の影響
アスベストやホルムアルデヒドといった物質に、仕事上で触れる機会が多い職業の方は、注意が必要です。
仕事の種類 | 気をつけるべき有害物質 |
建設業 | アスベスト |
家具製造業 | ホルムアルデヒド |
診察(検査)と診断
咽頭後壁癌の診察では、問診や視診、触診に加え、内視鏡検査や画像診断、組織生検などを行っていきます。
診察の基本手順
- 症状
- いつ頃から気になり始めたか
- たばこやお酒を飲む習慣
- どのようなお仕事をされているか
- ご家族にがんになった方はいらっしゃるか など
- 咽頭後壁の腫れ・色の変化
- 潰瘍の有無
- 硬結や痛みの有無
また、転移の可能性を考慮し、頸部リンパ節の触診も行います。
内視鏡検査の実施
内視鏡検査では、細い管状のカメラを使って咽頭後壁を調べます。
観察項目 | チェックポイント |
粘膜の様子 | 赤くなっている、白い斑点がある、表面がただれている |
腫瘍の特徴 | 大きさ、形、表面の状態 |
周りの組織との関係 | 浸潤の有無、可動性 |
画像診断
咽頭後壁癌がどのくらい広がっているか、周りの組織に入り込んでいないかを調べるために、以下のような画像検査を行います。
- CT検査:腫瘍の深達度、頸部リンパ節に転移していないかどうかを調べます。
- MRI検査:軟部組織の評価、腫瘍と周囲組織の関係を調べます。
- PET-CT:体の他の場所にがんが広がっていないか、がんがどのくらい活発に活動しているかを調べます。
組織生検による確定診断
咽頭後壁癌かどうかを確実に診断するには、組織生検が必要です。
内視鏡を使ってがんの疑いがある部分から小さな組織を取り、がんの種類や悪性度について確実な診断を行います。
生検の種類 | どんな特徴があるか |
鉗子生検 | 外来で実施可能、表層組織の採取 |
切除生検 | 全身麻酔下で実施、深部組織の採取 |
病期分類
検査結果をふまえ、TNM分類に基づいて病期を決定し、治療方針の決定に活用します。
T分類 | 原発巣(最初にがんができた場所)の進展度 |
T1 | 咽頭後壁に限局 |
T2 | 隣接部位に進展 |
T3 | 喉頭、食道入口部に進展 |
T4 | 広範囲に進展 |
この他、N分類(リンパ節転移)とM分類(遠隔転移)も合わせて評価します。
咽頭後壁癌の治療法と処方薬、治療期間
咽頭後壁癌の治療は、手術療法、放射線療法、化学療法を組み合わせて進めていきます。
治療期間は3〜6ヶ月程度が目安となりますが、個々の患者さんの状況により変動します。
治療法の選択
初期のがんの場合、手術だけ、または放射線治療だけで治療する場合が多いです。
一方、進行したがんの場合は、手術と放射線治療、抗がん剤治療を組み合わせた総合的な治療を行います。
治療法 | どんな時に使うか |
手術 | 初期のがん、一部の進行がん |
放射線治療 | 初期のがん、進行がん |
抗がん剤治療 | 主に進行がん |
手術療法の特徴
手術療法は、がん組織を直接切除する方法です。
初期のがんでは内視鏡を使った手術を行いますが、進行したがんの場合、開放手術が必要になることがあります。
また、手術後の機能障害を最小限に抑えるため、再建術を同時に行うこともあります。
手術の方法 | 特徴 |
内視鏡的切除術 | 体への負担が少なく、初期のがんに適している |
開放手術 | 進行したがんに対応でき、再建術も考慮する |
放射線療法と化学療法
- 放射線療法:高エネルギーのX線などを使ってがん細胞を破壊します。
- 化学療法:抗がん剤を使ってがん細胞の増殖を抑えます。
両者を併用する化学放射線療法は進行がんに対して効果的で、この方法によって臓器温存が可能になる場合があります。
- 外部照射(体の外から放射線を当てる方法)
- 小線源治療(がんの近くに放射線源を置く方法)
- 強度変調放射線治療(IMRT)(放射線の強さを細かく調整する方法)
薬物療法
咽頭後壁癌の治療では、抗がん剤や痛み止め、副作用を軽くするための吐き気止めなどを使います。
薬の種類 | 何のために使うか |
抗がん剤 | がん細胞が増えるのを抑える |
鎮痛剤 | 痛みを和らげる |
制吐剤 | 吐き気や嘔吐(おうと)を減らす |
治療期間・経過観察期間
咽頭後壁癌の治療にかかる期間は、通常3〜6ヶ月程度です。ただし、患者さんによって治療期間は異なります。
また、治療が終わった後も、再発や転移の早期発見のため、5年以上は経過を見守ります。
経過を見る項目 | どのくらいの間隔で行うか |
問診・診察 | 1〜3ヶ月ごと |
画像検査(レントゲンやCTなど) | 3〜6ヶ月ごと |
血液検査 | 3〜6ヶ月ごと |
咽頭後壁癌の治療における副作用やリスク
咽頭後壁癌(いんとうこうへきがん)の治療には、日常生活に影響を与える可能性のある副作用やリスクが伴います。
治療法ごとの副作用
- 術後の痛み
- 出血、感染のリスク
- 顔面の外見の変化
- 発声機能への影響
- 嚥下(えんげ:飲み込む)機能への影響
- 口腔内の乾燥
- 粘膜炎
- 味覚障害 など
症状は治療中だけでなく、治療後しばらく続くことがあります。
- 吐き気
- 食欲不振
- 脱毛
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
咽頭後壁癌の治療費は、治療方法や期間、個々の状況によって異なりますが、数十万円から数百万円程度が目安となります。
治療方法による費用の違い
治療方法 | 概算費用 |
手術療法 | 150万円〜350万円 |
放射線療法 | 80万円〜200万円 |
化学療法 | 100万円〜250万円 |
保険適用と自己負担額
咽頭後壁癌の治療は健康保険が適用されます。保険適用後の自己負担額は年齢や所得によって異なります。
70歳未満の場合、医療費の3割が自己負担となりますが、高額療養費制度を利用することで負担を軽減できます。
70歳未満の自己負担上限額(月額)
- 年収約370万円〜約770万円未満90,000円+(医療費-300,000円)×1%
- 年収約770万円〜約1,160万円未満180,000円+(医療費-600,000円)×1%
- 年収約1,160万円以上270,000円+(医療費-900,000円)×1%
追加的な費用考慮事項
追加費用項目 | 概算費用(月額) |
定期検査 | 2万円〜5万円 |
リハビリテーション | 5万円〜10万円 |
補助具 | 1万円〜3万円 |
以上
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