偽膜性大腸炎 – 消化器の疾患

偽膜性大腸炎(Pseudomembranous colitis)とは、抗菌薬の使用が原因で腸内細菌叢のバランスが崩れてしまい、Clostridioides difficile(クロストリディオイデス・ディフィシル)という細菌が異常に増殖してしまう病気です。

C. difficileは毒素を産生する細菌で、その毒素によって大腸の粘膜に炎症が起こり、水様性の下痢、腹痛、発熱などが現れます。

炎症が起きた大腸の内壁には、白い偽膜(ぎまく)と呼ばれる膜状の物質が形成されるのが特徴的な所見となります。

重症化すると腸の拡張や穿孔などの合併症につながることもあるため、抗菌薬の使用歴がある方は注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

偽膜性大腸炎の主な症状

偽膜性大腸炎の主な症状は、抗生物質の使用後に起こる、頻度の高い水様便や粘液便を伴う下痢、腹痛、発熱などが挙げられます。

腹痛・下痢

偽膜性大腸炎の最も特徴的な症状は、激しい腹痛と頻回の水様性下痢です。腹痛は主に下腹部に生じ、痙攣性の強い痛みを伴うのが特徴です。

下痢は1日に10回以上と頻繁に起こるため、脱水や電解質異常を引き起こす危険性があります。

症状特徴
腹痛下腹部を中心とした痙攣性の痛み
下痢頻回の水様性下痢、粘液や血液を伴うこともある

大腸粘膜の炎症や潰瘍形成により、下痢便には粘液や血液が混じることもあります。

発熱・全身症状

偽膜性大腸炎では38℃前後の発熱を伴うことが多く、重症例では40℃以上の高熱を呈する場合もあります。

また、全身倦怠感や食欲不振、悪心・嘔吐などの全身症状も見られます。

症状特徴
発熱通常は38℃前後、重症例では40℃以上
全身症状倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐など

腹部膨満・腸蠕動音の低下

腸管の炎症や麻痺性イレウス(腸管の運動が停止する状態)により、腹部膨満が見られるケースもあります。

また、腸蠕動音の低下や消失を伴うことも特徴的な所見です。

所見特徴
腹部膨満鼓腸様の腹部膨隆、軟らかい腹部
腸蠕動音低下腸蠕動音の減弱や消失

重症例では、中毒性巨大結腸症(大腸が異常に拡張する状態)を合併し、腹部が著明に膨満することがあります。

この場合、腸管穿孔(腸に穴があく)のリスクが高くなるため注意が必要です。

その他の症状

  • 直腸出血、下血
  • 腹部の圧痛や反跳痛
  • 意識障害や見当識障害(重症例)
  • ショックや多臓器不全(重症例)

偽膜性大腸炎の原因

偽膜性大腸炎は、抗菌薬の使用によって腸内細菌叢のバランスが崩れ、クロストリジウム・ディフィシル(C. difficile)が異常増殖することで発症します。

抗菌薬の使用による腸内細菌叢の乱れ

通常、腸内には多種多様な細菌が存在し、お互いに拮抗しながら一定のバランスを保っているのですが、抗菌薬を使用することでバランスが崩れてしまい、C. difficileが異常増殖しやすくなります。

抗菌薬の種類偽膜性大腸炎の発症リスク
ペニシリン系高い
セファロスポリン系高い
クリンダマイシン非常に高い

C. difficileの異常増殖とトキシンの産生

C. difficileは、抗菌薬の使用によって腸内細菌叢のバランスが乱れた際に、異常増殖を起こす病原菌です。

このC. difficileが産生するトキシンA・Bが、偽膜性大腸炎の発症に関係していることが分かっています。

偽膜性大腸炎の原因物質作用
トキシンA腸管上皮細胞に作用し、炎症を引き起こす
トキシンB腸管上皮細胞に直接的な傷害を与える

これらのトキシンによって大腸粘膜に炎症や傷害が生じ、偽膜と呼ばれる白苔が形成されます。

抗菌薬関連下痢症とC. difficile感染症

抗菌薬の使用に伴って発症する下痢症を、抗菌薬関連下痢症(AAD: Antibiotic-Associated Diarrhea)と呼びます。

このAADの中でも、C. difficileが原因となるものをC. difficile感染症(CDI: C. difficile Infection)と呼び、偽膜性大腸炎はCDIの重症型となります。

疾患名概要
抗菌薬関連下痢症(AAD)抗菌薬の使用に伴って発症する下痢症の総称
C. difficile感染症(CDI)C. difficileが原因となるAADの一種

偽膜性大腸炎の発症リスクが高い方

特に高齢者は免疫力が低下している場合が多いため、C. difficileが増殖しやすく、偽膜性大腸炎のリスクが高くなると考えられています。

偽膜性大腸炎の発症リスク因子概要
高齢免疫力の低下により、C. difficileが増殖しやすい
長期の抗菌薬使用腸内細菌叢のバランスが乱れやすい
免疫抑制状態C. difficileの増殖を抑制できない
腸管手術の既往腸内環境の変化により、C. difficileが増殖しやすい

診察(検査)と診断

偽膜性大腸炎の診察では、内視鏡検査で腸管に特徴的な偽膜形成を認め、便検査でClostridium difficile毒素が検出されることで確定診断となります。

問診・身体診察

問診では、下痢の回数や便の性状、お腹の痛みの有無とその程度、熱が出ているかどうかなどを確認します。

また、抗菌薬の使用歴や入院歴の有無、基礎疾患についても確認が必要です。

身体診察では、お腹の圧痛や膨満感の有無、腸の動きを聴診器で聞き、異常な音がないかなどをチェックします。

病歴聴取で確認すること身体診察で確認すること
下痢の回数と便の性状お腹の圧痛と膨満感の有無
お腹の痛みの有無と程度腸の動きの異常な音の有無
熱が出ているかどうかその他の全身状態の異常

検査所見の評価

偽膜性大腸炎の診断を確定するためには、以下のような検査を実施します。

検査の種類検査の目的
血液検査炎症反応の上昇と電解質異常の有無を確認します。
便検査クロストリジウム・ディフィシル毒素(CD毒素)の有無を調べます。
大腸内視鏡検査大腸の内側を観察し、偽膜(炎症により形成される膜状の物質)の有無と範囲を確認します。
腹部CT検査腸管壁の肥厚や腹水の有無を調べます。

便検査でCD毒素が検出された場合や、大腸内視鏡検査で偽膜が確認された場合には、偽膜性大腸炎であると確定診断することができます。

診断における注意点

抗菌薬の使用歴がない患者さんでも、偽膜性大腸炎を発症する可能性があります。

また、高齢の方や基礎疾患をお持ちの患者さんでは、典型的な症状とは異なる症状が現れることがあります。

大腸内視鏡検査で偽膜が確認されなかった場合でも、偽膜性大腸炎の可能性を完全に否定することはできません。

偽膜性大腸炎の治療法と処方薬、治療期間

偽膜性大腸炎の治療は、抗菌薬の投与と支持療法(対症療法)が中心となります。

抗菌薬療法

偽膜性大腸炎の第一選択薬は、メトロニダゾール(商品名:フラジール)またはバンコマイシン(商品名:塩酸バンコマイシン)の経口投与となります。

薬剤名投与量投与期間
メトロニダゾール1回250〜500mg、1日3回10〜14日間
バンコマイシン1回125〜500mg、1日4回10〜14日間
重症度治療法
軽症メトロニダゾールの経口投与
中等症バンコマイシンの経口投与
重症バンコマイシンの高用量経口投与

重症例や再発例においては、バンコマイシンの高用量投与(1回500mg、1日4回)を行うことが検討されます。

支持療法

支持療法目的
輸液脱水の補正
電解質補正電解質異常の是正
経静脈・経腸栄養栄養状態の維持

重症例の場合は、集中治療室での管理が必要となる場合もあります。

外科的治療

内科的治療に反応しない重篤な偽膜性大腸炎の場合は、外科的治療を検討します。

手術適応手術方法
中毒性巨大結腸症大腸亜全摘術
大腸穿孔大腸亜全摘術 + 回腸瘻造設術

治療期間

偽膜性大腸炎の治療期間は、通常10〜14日間ですが、症状や重症度によって異なります。

  • 軽症例は、抗菌薬投与のみで改善する場合が多いです。
  • 中等症例は、抗菌薬投与と支持療法を実施します。
  • 重症例は、集中治療や外科的治療が必要となる場合があります。

治療により多く場合で完治を目指すことができますが、再発率は20〜30%とやや高くなります。

偽膜性大腸炎の治療における副作用やリスク

偽膜性大腸炎の治療薬であるバンコマイシンやメトロニダゾールは、下痢や悪心、嘔吐などの消化器症状や、発疹などのアレルギー反応を引き起こす可能性があります。

抗菌薬治療の副作用

偽膜性大腸炎の治療で使用される抗菌薬は、消化器症状や皮膚症状などの副作用が報告されています。

抗菌薬の種類主な副作用の内容
バンコマイシン吐き気、腹痛、下痢などの消化器症状
メトロニダゾール吐き気、味覚異常、末梢神経障害などの神経系の症状

再発リスク

偽膜性大腸炎は、治療を行った後も再発するリスクがあります。再発率は10〜20%程度とされており、特に高齢者や基礎疾患のある場合は注意が必要です。

再発リスクが高い患者の特徴再発率の目安
高齢者の場合20〜30%程度
基礎疾患がある場合15〜25%程度

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

偽膜性大腸炎の治療費は、入院期間、使用薬剤の種類や量、合併症の有無などによって異なりますが、高額になる可能性もあります。

高額療養費制度の利用や医療保険の内容によって自己負担額は変わりますので、具体的な金額については、担当医または医療機関にご確認ください。

治療費の目安

項目費用
検査費用(便培養検査、内視鏡検査、CT検査など)10,000円~50,000円
投薬費用(抗菌薬や整腸剤など)5,000円~30,000円
入院費用30,000円~50,000円/日
手術費用100万円~300万円

以上

References

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