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逆流性食道炎の症状と治療|消化器

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この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

逆流性食道炎とはどんな病気なのか

2021年に日本消化器病学会のガイドラインが改訂されまして、逆流性食道炎の診断や治療の考え方がかなり整理されました[1]。僕もこのガイドラインを読み直して、改めて「これは丁寧に患者さんへ説明しなければいけない病気だな」と感じたのです。

逆流性食道炎は、胃の中にある胃酸や消化液が食道へ逆流することで、食道の粘膜が傷つく病気です。2006年に国際的なコンセンサスとして発表された「モントリオール定義」では、胃内容物の逆流が「煩わしい症状」や「合併症」を引き起こす状態と定義されています[3]。ではなぜこの定義が重要なのか?それは、内視鏡で見える傷があるかどうかだけではなく、「患者さん自身が困っているかどうか」が診断の出発点になるという考え方だからです。

僕の外来にも「胸やけがつらくて眠れない」という方がよくいらっしゃいます。食道に目立った傷がなくても、症状があれば治療の対象になります。逆に、内視鏡をしてみたら食道にびらんがあるのに「全然症状ないんですけど」とおっしゃる方もいます。この病気は「目に見えるもの」と「感じるもの」が必ずしも一致しないところが厄介なわけです。

日本人に増え続けている理由

「先生、逆流性食道炎って昔からある病気ですか?」と患者さんに聞かれることがあります。もちろん昔からあった病気ですが、日本での有病率はここ30年で明らかに上昇しています。内視鏡検査での逆流性食道炎の有病率は現在14〜16%と報告されていまして[6]、これは10人に1人以上が内視鏡で何らかの食道粘膜の変化を指摘されるということです。

ではなぜ増えているのか?これには複数の要因が絡んでいます。①ピロリ菌の感染率が下がったこと、②食生活の欧米化で脂肪摂取量が増えたこと、③肥満の増加、この3つが大きいと考えられています[6]。ピロリ菌が減ったことが逆流性食道炎を増やすなんて不思議に聞こえるかもしれませんが、ピロリ菌が胃に住み着いていると胃粘膜が萎縮して胃酸の分泌が低下します。ピロリ菌の除菌が進んだ結果、胃酸がしっかり出る人が増えて、逆流のリスクが上がったというわけです。

世界的に見ると、欧米では有病率がもっと高く、アメリカで約28.8%、ヨーロッパで約23.7%というデータがあります[5]。日本はまだ欧米よりは低い水準ですが、確実にその差は縮まってきています。

胃酸が逆流するメカニズム

食道と胃の境目には「下部食道括約筋」という筋肉があります。この筋肉が普段はきゅっと締まっていて、胃酸が食道に上がってこないようにフタの役割を果たしているのです。逆流性食道炎は、このフタの機能が弱くなることで発症します。

ではどういう時にフタが緩むのか?一つは「一過性下部食道括約筋弛緩」と呼ばれる現象です。食事をした後にゲップが出ることがありますよね。あのとき実は一瞬フタが開いていて、そのタイミングで胃酸も一緒に上がってくることがあります。健常な方でもこの現象は起きるのですが、逆流性食道炎の患者さんではその頻度が高く、逆流する胃酸の量も多い傾向にあるのです。

もう一つは「食道裂孔ヘルニア」です。横隔膜にある食道の通り道が広がってしまい、胃の上部が胸のほうにせり上がってくる状態です。高齢の方や肥満の方に多く、これがあると下部食道括約筋のフタとしての機能がかなり落ちます。僕が内視鏡をしていて「食道裂孔ヘルニアがありますね」とお伝えすると、「何それ?」と驚かれる方がほとんどですが、逆流性食道炎の原因として非常に重要な所見です。

胸やけだけではない多彩な症状

逆流性食道炎の代表的な症状は「胸やけ」と「呑酸」です。呑酸というのは、酸っぱい液体が喉のあたりまで上がってくる感覚のことです。この2つが典型的な症状として知られていますが[3]、実はそれだけではありません。

僕が外来で経験する中で意外と多いのが「咳が止まらない」という訴えです。風邪でもない、喘息でもない、でも何週間も咳が続く。こういう方の一部に逆流性食道炎が隠れていることがあります。胃酸が食道を伝って喉のあたりまで上がってきて、気管を刺激して咳を引き起こすのです。「のどの違和感」や「声がかすれる」といった症状も同じメカニズムで起こります。

「胸が痛い」という訴えで来院される方もいます。もちろん心臓の病気を除外することが最優先ですが、心臓に異常がないとわかった後に逆流性食道炎が原因だったというケースは珍しくありません。食道の痛みは心臓の痛みと非常に似た場所に感じられるので、患者さんが「心臓が悪いのでは」と心配されるのも無理はないのです。

診断の進め方と内視鏡検査

逆流性食道炎の診断で最も確実なのは上部消化管内視鏡検査、いわゆる胃カメラです。食道の粘膜を直接観察して、びらんや発赤がないかを確認します。内視鏡所見の重症度はロサンゼルス分類(LA分類)でグレードAからDに分けられます。日本のGERD患者さんの87%以上がグレードAまたはBの軽症型です[6]。

ただ、ここで一つ大事なことがあります。「内視鏡で異常がなかったから逆流性食道炎ではない」とは言い切れないのです。2018年に発表されたLyon Consensusでは、食道の酸曝露時間(AET)が6%を超える場合にGERDと確定診断できるとされています[4]。つまり、内視鏡だけでは捉えきれない逆流もあるということです。

とはいえ、すべての患者さんに24時間pHモニタリングを行うわけにはいきません。僕の外来では、典型的な胸やけと呑酸の症状があれば、まずPPIを試験的に投与する「PPI test」を行うことが多いです。PPIを飲んで症状が改善すれば、逆流性食道炎の可能性が高いと判断できます。内視鏡はその後、症状が改善しない場合や、食道がんなどの他の病気を除外する必要がある場合に行います。

非びらん性逆流症(NERD)という見えにくいタイプ

逆流性食道炎の患者さんの中で、実は半数以上を占めるのが「非びらん性逆流症」、英語の略語でNERDと呼ばれるタイプです[6]。これは胸やけなどの逆流症状があるのに、内視鏡では食道粘膜に目立った傷が見つからない状態です。

ではNERDはびらん性の逆流性食道炎より軽いのかと言えば、そう単純な話ではありません。症状の強さは粘膜の傷の有無と比例しないことが多いのです。内視鏡できれいな食道なのに「毎晩胸やけで目が覚める」という方もいれば、食道にしっかりびらんがあるのに「全然つらくない」という方もいます。

NERDの患者さんはPPIへの反応がびらん性のタイプに比べてやや弱い傾向があります。これは酸逆流だけでなく、食道の知覚過敏や心理的な要因が症状に関与している可能性があるからです。だからこそ、薬だけに頼るのではなく、ストレス管理や睡眠の質の改善といったアプローチも組み合わせることが大切になってきます。

PPI治療の基本と効果

逆流性食道炎の治療の中心はPPI(プロトンポンプ阻害薬)です。胃酸を分泌する胃壁細胞のプロトンポンプという酵素を阻害して、胃酸の量を強力に抑える薬です。日本で使えるPPIにはオメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールなどがあります。

PPIの効果は確かなもので、びらん性食道炎の場合、8週間の投与で80〜90%の方で食道粘膜のびらんが治癒するというデータがあります[2]。胸やけの症状も多くの方で1〜2週間以内に改善してきます。

ただ、PPIにも気をつけるべき点があります。長期間服用した場合のリスクとして、骨折のリスク上昇、腸管感染症、低マグネシウム血症などが報告されています[2]。これを聞くと不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、ACGガイドラインでは「適切な適応がある場合にはPPIの使用を躊躇すべきではない」としています[2]。大事なのは漫然と飲み続けるのではなく、定期的に主治医と「本当にまだPPIが必要か?」を確認することです。

ボノプラザン(P-CAB)という新しい選択肢

2015年に日本で世界に先駆けて登場したのがボノプラザン(商品名タケキャブ)です。P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)という新しいカテゴリーの薬で、従来のPPIとは作用の仕組みが異なります[1]。

PPIは効果が出るまでに数日かかることがありますが、ボノプラザンは服用したその日からしっかりと胃酸を抑えてくれます。ではなぜそんなに速く効くのか?PPIは酸性環境下で活性化される薬なのに対して、ボノプラザンは酸性環境を必要とせず、直接プロトンポンプに結合して胃酸分泌を抑制するからです。食事のタイミングを気にしなくてよいのも患者さんにとっては大きなメリットです。

僕の外来でも、PPIで十分な効果が得られなかった方にボノプラザンを使って改善するケースを経験しています。ただ、効果が強力な分、長期使用に関してはまだデータの蓄積途上の部分もあります。PPIでコントロールできる方は無理にボノプラザンに切り替える必要はなく、症状や重症度に応じて使い分けることが大切です。

生活習慣の改善はどこまで効くか

「食事を変えれば治りますか?」とよく聞かれます。正直に言うと、生活習慣の改善だけで逆流性食道炎が完治するかというと、それはかなり難しいです。でも、薬の効果を高めたり、再発を予防したりする上では生活習慣の見直しは間違いなく重要です。

2006年に発表された系統的レビューでは、生活習慣介入のエビデンスを徹底的に検討しています[7]。その結果、科学的に有効性が確認できたのは①体重を減らすことと②就寝時に上半身を挙上すること、この2つだけでした[7]。禁煙、禁酒、食事内容の制限(チョコレートやカフェインを避けるなど)については、意外なことに症状改善のエビデンスは十分ではなかったのです。

とはいえ、僕は患者さんに「お酒は好きなだけ飲んでいい」とは言いません。エビデンスが不十分というのは「効果がない」という意味ではなく、「効果を証明できるほどの質の高い研究が少ない」という意味です。実際に、寝る直前の食事を控えたり、脂っこいものを減らしたりすることで「楽になった」という方はたくさんいます。体重に関して言えば、BMI25以上の方が3〜5kg減量すると、症状がかなり改善することが多いです。

再発を繰り返す方への対応

逆流性食道炎はとにかく再発率が高い病気です。PPIを中止すると半年以内に50〜80%の方が再発するという報告もあります。だからこそ「薬をやめたらまた症状が出た」と落ち込む必要はありません。それは治療の失敗ではなく、この病気の性質そのものなのです。

再発を繰り返す方への対応としては、①維持療法としてPPIを低用量で継続する方法、②症状が出たときだけ薬を飲むオンデマンド療法、この2つのアプローチがあります[1]。どちらが適しているかは、症状の頻度や重症度、患者さんの生活スタイルによって異なります。

僕が外来で心がけているのは、「薬を飲み続けることへの罪悪感」を取り除くことです。高血圧や糖尿病で薬を飲み続けることに抵抗がない方でも、逆流性食道炎の薬については「一生飲むんですか?」と不安そうな顔をされることがあります。でも、必要なら飲み続けていいのです。もちろん定期的に内視鏡検査を受けて、食道の状態を確認しながら治療方針を見直していくことは大切ですが。

バレット食道と食道がんのリスク

逆流性食道炎を放置すると怖いのは、「バレット食道」への進展です。バレット食道とは、長期間の胃酸逆流によって食道の下端の粘膜が、本来の扁平上皮から胃の粘膜に似た円柱上皮に置き換わってしまう状態です[8]。

ではバレット食道はなぜ問題なのか?それは食道腺がんの前段階になりうるからです。バレット食道から食道腺がんへの年間進展率は0.5〜1%とされています[8]。「0.5%」と聞くと低い数字に感じるかもしれませんが、10年、20年という長い時間で考えると決して無視できるリスクではありません。

ただ、過度に不安になる必要もありません。日本では欧米に比べてバレット食道からの食道腺がんの発生率が低い傾向にあります。日本と欧米ではバレット食道の内視鏡診断基準自体が異なっていて、日本のほうがより厳密な基準を採用しています[1]。大切なのは、逆流性食道炎と診断された方は定期的に内視鏡検査を受けて、バレット食道への進展がないかどうかを経過観察することです。

僕が外来で大切にしていること

逆流性食道炎は命に直結する病気ではないことが多いのですが、生活の質を大きく下げる病気です。夜中に胸やけで目が覚める、食後に横になれない、好きなものが食べられない。こういった日常のつらさは、数値では測りきれないものです。

僕が外来で大切にしているのは、「困っていることを全部話してもらう」ことです。胸やけだけでなく、咳が出る、のどが気になる、眠れない、食事が楽しくないなど、患者さんが感じている不調を丁寧に聞くことで、適切な治療方針が見えてきます。

そしてもう一つ、「治療のゴールを一緒に決める」ことも大事にしています。完全に症状をゼロにすることが目標なのか、日常生活に支障がない程度まで改善できればよいのか。それは患者さんによって違います。薬の量や種類、生活習慣の改善の優先順位も、その方の生活スタイルに合わせて一緒に考えていきたいのです。

逆流性食道炎は「付き合っていく病気」になることも多いですが、適切な治療と生活の工夫で、十分にコントロールできる病気です。気になる症状がある方は、遠慮なく相談してください。みなさんが毎日の食事を楽しめるよう、僕も全力でサポートさせていただきます。

よくある質問

Q1. 逆流性食道炎は自然に治りますか?

軽症の場合は生活習慣の見直しで症状が軽減することもありますが、びらんを伴う場合は薬物治療が必要です。自己判断で放置すると食道の傷が深くなる可能性があるので、症状が続く場合は受診をおすすめします。

Q2. 市販の胃薬でも効果はありますか?

市販のH2ブロッカー(ガスターなど)は軽い症状には一定の効果があります。ただ、PPIやボノプラザンのような処方薬と比べると胃酸を抑える力は弱いです。市販薬で2週間以上改善しない場合は、病院で相談してください。

Q3. ピロリ菌を除菌すると逆流性食道炎になりやすいのですか?

ピロリ菌の除菌後に一時的に逆流症状が出ることはありますが[6]、長期的には除菌による胃がんリスクの低下のメリットのほうがはるかに大きいです。除菌は推奨されるべき治療であり、逆流性食道炎を心配して除菌を避ける必要はありません。

Q4. 食べてはいけないものはありますか?

厳密な「禁止食品リスト」は科学的には確立されていません[7]。ただ、脂肪の多い食事、大量のアルコール、寝る直前の食事は避けたほうがよいでしょう。個人差が大きいので、「自分はこれを食べると調子が悪い」と感じるものを把握しておくのが実用的です。

Q5. PPIは一生飲み続けなければいけませんか?

必ずしもそうではありません。軽症の方は一定期間の治療後に薬を減量したり中止したりできます。再発した場合はオンデマンド療法(症状が出たときだけ服用する方法)も選択肢です[1]。主治医と相談しながら、必要最小限の治療を続けるのがよいでしょう。

Q6. 逆流性食道炎と食道がんは関係がありますか?

長期間にわたる胃酸の逆流はバレット食道を引き起こし、そこから食道腺がんが発生するリスクがあります[8]。ただ、バレット食道からがんに進展する年間確率は0.5〜1%ですので、定期的な内視鏡検査で早期発見することが大切です。

Q7. 寝るときの姿勢で気をつけることはありますか?

上半身を少し高くして寝ることが有効です[7]。枕を高くするのではなく、ベッドの頭側全体を15〜20cm程度挙上するのが理想です。左側を下にして寝ることも胃酸逆流を減らす効果があるとされています。

Q8. ストレスは逆流性食道炎に影響しますか?

ストレスそのものが胃酸の分泌量を増やすかどうかは議論がありますが、ストレスが食道の知覚過敏を引き起こし、症状を強く感じさせることはわかっています。特に非びらん性逆流症(NERD)の方ではストレスの影響が大きい傾向があります。睡眠の質を上げたり、自分なりのリラックス法を見つけたりすることも治療の一環です。

参考文献

[1] Iwakiri K, Fujiwara Y, Manabe N, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for gastroesophageal reflux disease 2021. J Gastroenterol. 2022;57(4):267-285.

[2] Katz PO, Dunbar KB, Schnoll-Sussman FH, et al. ACG Clinical Guideline for the Diagnosis and Management of Gastroesophageal Reflux Disease. Am J Gastroenterol. 2022;117(1):27-56.

[3] Vakil N, van Zanten SV, Kahrilas P, et al. The Montreal Definition and Classification of Gastroesophageal Reflux Disease: A Global Evidence-Based Consensus. Am J Gastroenterol. 2006;101(8):1900-1920.

[4] Gyawali CP, Kahrilas PJ, Savarino E, et al. Modern diagnosis of GERD: the Lyon Consensus. Gut. 2018;67(7):1351-1362.

[5] Dent J, El-Serag HB, Wallander MA, et al. Epidemiology of gastro-oesophageal reflux disease: a systematic review. Gut. 2005;54(5):710-717.

[6] Fujiwara Y, Arakawa T. Epidemiology and clinical characteristics of GERD in the Japanese population. J Gastroenterol. 2009;44(6):518-534.

[7] Kaltenbach T, Crockett S, Gerson LB. Are lifestyle measures effective in patients with gastroesophageal reflux disease? An evidence-based approach. Arch Intern Med. 2006;166(9):965-971.

[8] Shaheen NJ, Richter JE. Barrett’s oesophagus. Lancet. 2009;373(9666):850-861.

丸岡悠医師

監修医師

丸岡 悠

庄内プライベートクリニック 院長 / 医療法人丸岡医院 医師

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学にて医師免許を取得。沖縄県立北部病院、日本海総合病院を経て現職。庄内プライベートクリニック院長として美容医療を担当し、丸岡医院では一般診療・施設診療・訪問診療にも携わっています。