α-水酸化酵素(P450c17)欠損症 – 婦人科

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症(17α-hydroxylase deficiency)とは、体内のホルモン産生に重要な役割を果たす酵素が欠損している状態で、遺伝子の変異によって起こる疾患です。

この疾患、副腎や性腺でのステロイドホルモンの生成過程に影響を与え、体内のホルモンバランスを大きく崩します。

主な症状は、思春期の遅れや性的発達の異常、高血圧などです。

酵素欠損により、コルチゾールやアンドロゲンなどの重要なホルモンの産生が妨げられ、体のバランスに影響を及ぼすだけでなく、長期的には骨や代謝にも問題を引き起こすことがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の主な症状

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の主な症状には、性的発達の遅延、高血圧、電解質異常などがあります。

性的発達への影響

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症は性ホルモンの産生に影響を与えるため、思春期の発達に遅れが生じることがあります。

女性の場合の症状は、乳房の発達が遅れたり、月経が始まらないことです。

一方、遺伝子型が46,XYの人では外性器が女性化し、精巣の発達が不完全になる状況も起こり得ます。

高血圧と電解質異常

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症では副腎皮質ホルモンの一種であるアルドステロンの過剰産生が起こりやすくなります。

アルドステロンは体内の塩分と水分のバランスを調整する重要なホルモンです。

過剰生産により体内の塩分と水分のバランスが崩れ、高血圧や低カリウム血症などの電解質異常が引き起こされることがあります。

症状特徴潜在的な影響
高血圧血圧が正常値より高くなる心血管疾患のリスク増加
低カリウム血症血中のカリウム濃度が低下する筋力低下、不整脈のリスク

骨密度への影響

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症では性ホルモンの産生が低下するため、骨密度の減少が起こりやすくなります。

これは、特に女性において閉経後の骨粗鬆症のリスクを高める要因です。

定期的な骨密度の検査や、カルシウムやビタミンDの摂取などの骨の健康を維持するための生活習慣の見直しが大切になってきます。

その他の身体症状

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症に関連して、次のような症状が現れることもあります。

  • 疲労感や倦怠感 日常的な活動に支障をきたすことがある。
  • 筋力の低下 日常生活の動作に困難を感じる。
  • 体毛の減少 外見の変化により自己イメージに影響を与える。
  • 皮膚の乾燥 皮膚トラブルのリスクが高まる可能性。

これらの症状は、ホルモンバランスの乱れに起因するものです。

症状影響対応の例
疲労感・倦怠感日常生活の質の低下適度な休息と栄養管理
筋力低下身体活動の制限適切な運動療法
体毛減少外見の変化心理的サポート
皮膚の乾燥皮膚トラブルのリスク増加適切なスキンケア

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の原因

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症は、遺伝子変異に起因するまれな婦人科疾患です。

遺伝子変異による酵素異常

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の根本的な原因は、CYP17A1遺伝子の変異です。

この遺伝子は、ステロイドホルモン合成に不可欠な酵素であるP450c17の生成を指示しているため、遺伝子に変異が生じると正常な酵素が作られなくなり、ホルモンバランスに深刻な影響を及ぼします。

酵素活性の低下メカニズム

P450c17酵素の活性低下は、ステロイドホルモン合成経路に大きな支障をきたします。

正常な酵素活性と欠損症での活性の比較

酵素活性正常欠損症
17α-水酸化活性高い極めて低い
17,20-リアーゼ活性正常ほぼ消失

酵素活性の低下によりコルチゾールやアンドロゲンの産生が著しく減少する一方で、ミネラルコルチコイドの過剰産生が起こることがあります。

遺伝形式と発症リスク

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症は常染色体劣性遺伝の形式をとり、両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継いだ場合にのみ発症します。

キャリアの両親から生まれる子どもの遺伝形式

  • 25%の確率で発症
  • 50%の確率でキャリア
  • 25%の確率で正常

診察(検査)と診断

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の診断は、臨床症状の観察、血液検査、画像診断、遺伝子検査などを組み合わせて行われます。

臨床症状の観察

診断ではまず性的発達の遅れや高血圧などの典型的な症状が見られるかどうかを確認し、患者さんの生活の質にどのような影響があるかも考慮します。

また、家族歴の聴取も重要な情報源です。遺伝性疾患の特性上、家族内での類似症状の有無や遺伝パターンの把握が診断の手がかりとなることがあります。

血液検査

血液検査ではホルモン値を測ることが大切です。

測定するホルモン値

  • コルチゾール 副腎皮質から分泌されるストレスホルモン
  • アルドステロン 塩分と水分のバランスを調整するホルモン
  • ACTH(副腎皮質刺激ホルモン) 副腎皮質の機能を刺激するホルモン
  • 性ホルモン(テストステロン、エストラジオールなど) 性的特徴の発現に関与するホルモン
検査項目典型的な結果臨床的意義
コルチゾール低値副腎皮質機能の低下を示唆
アルドステロン高値水分・電解質バランスの乱れを示唆
ACTH高値副腎皮質機能の代償性亢進を示唆
性ホルモン低値性腺機能の低下を示唆

画像診断

画像診断は、副腎や性腺の状態を確認するために行われます。

主に用いられる検査

検査方法目的特徴
超音波検査副腎や性腺の大きさや形状の確認非侵襲的で繰り返し実施可能
CT検査副腎の詳細な構造の観察高解像度で副腎の形態異常を詳細に把握可能
MRI検査軟部組織の詳細な観察放射線被曝なしで軟部組織の詳細な評価が可能

画像検査により副腎の肥大や性腺の発達不全などの特徴的な所見を確認でき、他の内分泌疾患との鑑別にも役立つ情報を得ることが可能です。

遺伝子検査

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の確定診断には、遺伝子検査が不可欠です。

遺伝子検査は、血液サンプルや口腔粘膜のスワブから得られたDNAを用いて行われます。

検査手法特徴利点
PCR法特定の遺伝子領域を増幅高感度で迅速な検出が可能
シークエンシング遺伝子の塩基配列を決定未知の変異も検出可能
MLPA法大規模な欠失や重複を検出複雑な遺伝子変異の同定に有用

負荷試験

場合によってはホルモン分泌の動態を詳しく調べるために負荷試験が行われることがあります。

ACTH負荷試験やhCG負荷試験などが代表的です。

これらの試験では特定のホルモンを投与し、その後の体内のホルモン変動を観察し、ホルモン産生能力や反応性を評価できます。

負荷試験目的評価項目
ACTH負荷試験副腎皮質の反応性を評価コルチゾール、17-OHプロゲステロンの変動
hCG負荷試験性腺の機能を評価テストステロン、エストラジオールの変動

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療法と処方薬、治療期間

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療は、ホルモン補充療法を中心に行われます。

ホルモン補充療法の基本

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療において、ホルモン補充療法が重要な役割を果たします。

欠乏しているホルモンを外部から補充することで、体内のホルモンバランスを正常に近づけることが目的です。

主にグルココルチコイドと性ホルモンの補充が行われます。

グルココルチコイド補充

グルココルチコイド補充は副腎皮質機能を正常化し、過剰なACTH分泌を抑制するために行われ、患者の状態や年齢に応じて薬剤が選択されます。

使用されるグルココルチコイド製剤

薬剤名特徴
ヒドロコルチゾン生理的な分泌パターンに近い
プレドニゾロン作用時間が長い
デキサメタゾン強力な抗炎症作用を持つ

性ホルモン補充

性ホルモン補充は性的発達を促進し二次性徴を誘導するために不可欠で、女性患者さんにはエストロゲンとプロゲステロンが、男性患者さんにはテストステロンが投与されます。

使用されるホルモン

  • エストラジオール(経口または経皮投与)
  • プロゲステロン(経口または経腟投与)
  • テストステロン(注射または経皮ゲル)

ミネラルコルチコイド過剰への対応

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症では、ミネラルコルチコイドの過剰産生が見られることがあり、この状態に対してはスピロノラクトンなどの抗アルドステロン薬が使用されます。

ミネラルコルチコイド過剰に対する治療薬

薬剤名主な作用
スピロノラクトンアルドステロン拮抗作用
エプレレノン選択的アルドステロン拮抗作用

治療のモニタリングと調整

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療では、定期的なモニタリングと薬剤調整が大切です。

モニタリングの項目と頻度

モニタリング項目頻度
血中コルチゾール3-6ヶ月ごと
電解質1-3ヶ月ごと
骨密度年1回
性ホルモン3-6ヶ月ごと

治療期間と長期的な管理

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療は、基本的に生涯にわたって継続される必要がありますが、治療の強度や方法は患者さんの年齢や状態によって変化することがあります。

予後と再発可能性および予防

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の予後は、早期診断と継続的な管理によって大きく改善されます。

予後の見通し

本疾患の予後は、診断時期と管理の質に大きく左右されます。

早期に対応が行われた場合多くの患者さんは良好な生活の質を維持できますが、遅れて診断された場合や管理が不十分な場合には、合併症のリスクが高まる可能性があります。

予後に影響する要因影響の度合い具体的な影響
診断時期早期診断で合併症リスクを低減
管理の質適切な管理で症状を安定化
患者の理解度自己管理能力の向上に寄与
家族のサポート心理的支援と生活管理の助けに

再発のリスクと対策

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症は遺伝性疾患であるため、従来の意味での「再発」はありません。

しかし、管理が不十分な場合症状が悪化するリスクがあります。

症状悪化を予防するための対策

対策目的具体的な方法
定期的な医療チェック早期の問題発見予定された受診の徹底、異常時の速やかな相談
生活習慣の維持全身状態の安定化バランスの取れた食事、適度な運動の継続
ストレス管理ホルモンバランスの維持リラックス法の習得、趣味や余暇活動の充実
感染症予防全身状態の悪化防止手洗い・うがいの徹底、予防接種の検討

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療における副作用やリスク

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療にはホルモン補充療法が主に用いられますが、副作用やリスクが伴います。

ステロイドホルモン補充療法の副作用

ステロイドホルモン補充療法は長期使用に伴う副作用が懸念されます。

グルココルチコイドの過剰投与は、骨密度の低下や筋力の減少を引き起こす可能性があり、また、免疫機能の低下により感染症のリスクが高まる場合もあります。

グルココルチコイド療法の主な副作用

副作用症状や影響
骨粗鬆症骨折リスクの上昇
筋力低下日常生活動作の制限
免疫抑制感染症罹患リスクの増加
皮膚の菲薄化皮膚損傷のリスク上昇

性ホルモン補充療法のリスク

性ホルモン補充療法もα-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療に重要ですが、特有のリスクがあります。

エストロゲン補充療法を受ける女性患者さんでは、血栓症のリスクが若干上昇する可能性があり、一方、テストステロン補充療法を受ける男性患者さんでは、前立腺肥大や多血症のリスクに注意が必要です。

性ホルモン補充療法に関連する主なリスク

  • 血栓症(特に喫煙者や肥満の方)
  • 乳癌リスクの微増(長期のエストロゲン使用)
  • 前立腺肥大(テストステロン補充)
  • 多血症(テストステロン補充)

電解質バランスの乱れ

α-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療過程で、電解質バランスの乱れが生じることがあります。

特に、ミネラルコルチコイドの過剰産生に対する治療では低カリウム血症や高ナトリウム血症のリスクがあり、電解質異常を防ぐために定期的な血液検査によるモニタリングが大切です。

電解質異常に関連する症状

電解質異常関連症状
低カリウム血症筋力低下、不整脈
高ナトリウム血症口渇、浮腫

成長と発達への影響

小児期からα-水酸化酵素(P450c17)欠損症の治療を受ける患者さんでは、成長と発達に影響が出る可能性があります。

ステロイドホルモンの過剰投与は成長抑制を引き起こしたり、性ホルモンの補充が不適切な場合は二次性徴の遅延や骨年齢の異常が生じることがあるため、成長期の患者さんでは特に慎重な投薬管理が重要です。

成長期の治療における主な注意点

注意点潜在的リスク
ステロイド投与量成長抑制、骨密度低下
性ホルモン補充時期二次性徴の遅延または早発
骨年齢の管理最終身長への影響

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

診断時の費用

遺伝子検査は約15万円から20万円程度かかることがあります。

血液検査やホルモン検査は、1回あたり8,000円から1万5,000円程度です。

画像診断(MRIやCTなど)は、1回あたり3万円から7万円程度かかります。

定期的な管理費用

定期的な管理には、以下のような費用が発生します。

  • 血液検査:5,000円〜1万円(3〜6ヶ月ごと)
  • ホルモン補充療法:月額8,000円〜3万円
  • 骨密度検査:8,000円〜1万5,000円(年1回)
  • 心臓超音波検査:1万5,000円〜2万5,000円(年1回)
項目頻度概算費用
血液検査3〜6ヶ月ごと5,000円〜1万円
ホルモン補充療法毎月8,000円〜3万円
骨密度検査年1回8,000円〜1万5,000円
心臓超音波検査年1回1万5,000円〜2万5,000円

合併症対策の費用

高血圧や骨粗鬆症などの合併症対策にも費用がかかることがあり、月額2万円から5万円程度です。

合併症月額概算費用
高血圧治療5,000円〜1万5,000円
骨粗鬆症対策8,000円〜2万円

以上

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